07.わたし色々分かった
イレーネは朝から街の中を歩き回っていた。
昨日の勇者ウルリヒの行動に辟易していたからだ。自分以外にも同様な嫌がらせを受けている人物はいないのかと考えたのだ。
知っている限りでは”輝く黒”のメンバーである次代の聖女と呼ばれるカリーナ。”輝く黒”のメンバーになってからウルリヒは勧誘を諦めたようだ。
他にも同じ経験をしている人がいるだろう。あのしつこい性格ならばあり得る事だ。
同じパーティー内にいた時はこんなに歪んだしつこい性格だとは知らなかった。そもそも一緒に行動していたのは迷宮内だけで街ではイレーネは宿屋に籠っていたのだ。食事も一緒になる事は殆どなかった。
強引な性格は迷宮攻略時には頼りになると考えていた。それが間違いだと今頃になって気づいたのだ。
ウルリヒは”輝く黒”のレオンハルトに強気に出れないという事も分かった。理由は不明。少なくてもレオンハルトはウルリヒの剣を捌く技術がある事は確実だ。この二人は過去にも何かあった。
イレーネは何も知らなかった。知ろうとしなかった。自分がのし上がろうと必死だったのだ。他人を気にする余裕はなかったのだ。
まずは”輝く黒”のメンバーから知ろうとしたのだが彼らのホームを知らないイレーネだった。その意味でも街を歩いて話を聞けないかと歩いていたのだった。
話を聞くとはいえ実際に会話が成立する人は少なかった。イレーネが話下手というのもあるが勇者パーティに所属していたというのが枷になっているのだ。
勇者ウルリヒは街の人々からの評判は良くなかったようだ。迷宮攻略後は宿に止まらず日帰りで街を過ごしていたのは知っている。その際に相当騒いでいたようだ。
騒ぐだけでなく破壊や脅し等かなりの事をしていたようだった。大多数の街の住人から毛嫌いされていたようなのだ。
尤も迷宮攻略者は総じて乱暴者が多い。他のパーティでも嫌われている者は多かったのだ。お金を使ってくれるから応対しているだけなのであった。
意外だったのは”輝く黒”のメンバーの評判だった。マスクをしているからだろう。レオンハルトを知っている住人は多かった。一緒に行動しているエルフと獣人の女性も目立つかららしい。またアネタを知っている住人は多かった。
だからイレーネの宿泊先もすぐに手配でき且つ宿屋の主人は好意的な対応をしてくれたのだろう。
「だから俺達は勇者パーティ直で武器は売らんよ。まぁヤツらの気に入る武器が無いというのもあるがね」
「そうなの?ではどこから武器を入手していたのか知っているの?」
今は武器屋の主人に話をイレーネは聞いていた。
「知らんな。連中は国からの支援を受けている。国庫から諸々支援を受けていると思うぜ。あんただって一時は一緒に行動していたんだろ?」
「知らなかった。所属はしていたけど迷宮攻略以外は一緒に行動していなかった。武器や装備は所定の場所にいつもあったから」
「流石国の支援を受けたパーティだな。そりゃ傲慢になるわけだよな。ま、俺の店は連中は来ないから被害は出ないからいいけどさ。だけどよ酒場やレストランとかは大迷惑らしいぞ。今度ガツーンと言ってくれよ、元メンバー殿」
「それは無理。私はあのパーティから追放された。寧ろ面倒に巻き込まれるから近づきたくない」
「なんだそれ?何をやらかしたんだ?いや、違うのか?やらかさないから追放されたのか?」
「知らない。戻る気もない。近づく気もない。この街の領主に言えばいいのでは?」
「領主様なんかあてにならん。組合の代表が嘆願しに言った事があったが全く相手にされなかったそうだ。国に睨まれたくないらしいぞ」
「なら我慢するしかないじゃない。それかさっさと迷宮攻略をしてもらうしかないね」
「そうそう。攻略は進んでいないのか?噂じゃ最深階層まで到達していないとか。暴れるだけで実力はからっきしなのか?」
「最近は知らないけど確かに最深階層には到達していない。思ったより高難度な迷宮なのよ。魔王へと続く途なのだから簡単な筈がない」
「そりゃそうか。・・・お、アネタか今日はなんかあるのか?」
会話の途中でアネタが武器屋に入ってきた。武器屋の主人は接客を始める。
「いや今日は掘り出し物がないか来ただけだよ。・・・おや?あんたなんでここにいるのさ?剣が破損したのかい?」
アネタはイレーネに気づく。意外そうな顔をしていた。
「色々知りたいと思ってお店を回っていたの」
「そうかい。ま、知る事は良い事だよ。それで何かわかったかい?」
「そんな簡単には分からないわよ。話したい事があるのだけどこれから時間いいかしら?」
「ふん。いいよ。ここもそうだけど用事が済んだらね。しばらく付き合ってもらおうか」
「問題無し。わたしは予定が無いようなものだから」
アネタの用事に付き合ってからイレーネは広場に連れていかれた。そこには屋台が多くあり住人で賑わっていた。ここで簡単な食事をしながら話をするらしいのだ。
屋台がある事をイレーネは知っていたが食事をする事を考えた事はなかった。
簡易なテーブルと椅子を確保してアネタがスープをイレーネに渡す。アネタのオゴリである。礼を述べてからイレーネはスープに手を付ける。具材が沢山のスープであった。小腹を満たすどころかかなりの量であった。
「あんたはこんな場所では食事取らないと思うけどアタシはこんな所の食事が好きでね。結構来るんだよ」
「”輝く黒”の皆も来るんですか?」
「ああ、来るよ。尤もマスクや顔隠して歩いている連中が多いからひっそりと食べる事になるけどね」
「やっぱり顔見られたくないからマスクとかしているのです?」
「趣味でない事は確かだね。知りたきゃ本人達に聞く事だ。カリーナについては知ってるだろ?あの勇者がいなきゃ顔を隠しやしないさ」
「やっぱりまだ仲間にしようと考えているんですか?」
「それこそアイツに聞きなよ。尤もあんたも狙われているから無理か」
「・・・はい。本当にしつこくてあやうく”黄金の鍵”の人達を全滅させるところでした。その際は助けて貰ってありがとうございます」
「礼を言われることはしていないよ。決めたのはアタシじゃないし。ユウ坊の決めたことさね」
「?・・・ユウ坊とは誰です?」
「おっと、・・・レオンハルトだよ。一応リーダーだからね」
「レオンハルトがリーダーなのですか?わたしはあなたがリーダーだと思ってました」
「外から見たらそうなるかね。日常の対外的なものはアタシが殆どやっているからね。誤解する人も多いから」
「・・・わたしやっぱり何も分かってないですね」
「突然、どうしたんだい?」
食事の手を止め俯くイレーネ。今日も街を回って分かった事。そして今アネタから言われた事。自分があまりにも人を見ていなかった事に気づいたのだ。小さな溜息をはく。
アネタは食事の手を休めず返事を待っているようだ。
「今までのわたしは勇者の行動が全てでした。強引な所があるのは知っていましたが魔王を倒すためには必要なのだろうと理解していました。弱い人は必要ないのです。強ければ許されるものだと。実際に国に支援を受けて何不自由なく迷宮攻略を進められています」
「そうだね。あれだけ強くて勇者と認定されているんだ。どんな贅沢をしても許されると本人も周りも思うだろうね」
「わたしはまだ認められないですが、その勇者から必要ないと言われました。そこからいかに優遇されているかを知りました。また勇者パーティ特にウルリヒの評判が良くない事をこの頃やっと知りました」
「良かったじゃないか。良くないという事がわかったんだろ?でもこのままじゃあんたの望みは叶わないんだっけか?」
「はい。わたしは魔王を倒したパーティに参加して実績を上げたいのです。それで爵位を得たいのです」
「目的がある事は良い事だ。だけどね魔王を倒せば貰えるとは限らないんじゃないかい?国の誰かに約束してもらったのかい?」
「きちんとした契約はないです。魔王を倒したパーティにいれば望むものは与えると王から言われたとウルリヒに言われました」
「あんた本気で信じているのかい?ウルリヒの性格は前から知っていたんだろ?そして最近より強く分かったんだろ?悪い意味でさ」
「そうですね。口だけの約束かもしれませんね。それでもわたしには頼りたい約束だったのです」
「ま、人それぞれた。否定も肯定もしないよ。爵位を得なくてもあんたの望みが叶う方法は別にあるかもしれないよ」
「どういう事です?」
「そりゃ、あんたの望み次第だね。アタシはあんたの望みを知らない。でも知ればなんとかなるかもしれない。ま、アタシ達が信じられればだけどね」
「確かに」
「アタシ達を信じる気になってくれるならウチのパーティに来ないかい?ウチの連中もそろそろ戻ってくる頃だ。どうする?」
アネタはイレーネを誘ってくる。一度レオンハルトからも勧誘を受けたが保留していたのだ。勧誘を諦めたと思っていたのだが有効のようである。
”輝く黒”のパーティの実力は確認済みだ。前衛の二人と斥候の獣人しか知らない。それでも優れた能力を持っているのは間違いないだろう。ウルリヒと違い皆人格者のような気もしている。
ただしこのような実力を持っていながら高ランクになっていないのは何か理由があるのだ。その理由は何かイレーネは分からなかった。
しかし、このままでは他のパーティに参加してもウルリヒの嫌がらせが続くかもしれないのだ。
(どうしょう。良い人達だとは思うのだけど裏では何かやっているのかもしれない。入ってからウルリヒのような性格と分かると最悪よ。そこが分からない。何より素性が何も分からない人達だよ)
情報があまりにも少なくイレーネは判断に迷っていた。
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