05.わたし嫌なヤツと再会

 イレーネは別のパーティで現在行動していた。

 ”輝く黒”でない別のパーティに参加しているのだ。勿論勇者のパーティでも無い。

 ”輝く黒”とは数回の迷宮攻略をしていた。このパーティーが最近優れた実績を上げているのが知れわたったのだ。これは冒険者ギルド経由で分かる事なので隠しても仕方ない事であった。

 迷宮から素材を持ち帰った内容が高評価を受けたための実績上昇であった。


 勇者パーティから追放されたと噂されているイレーネは当初中堅以上の迷宮攻略組からは遠慮されていた。

 自分達が勇者に目を付けられるのが困るからだ。皆勇者から理不尽な嫌がらせを大なり小なり受けているのである。そのため当初イレーネを誘う事はなかったのだ。

 しかし中堅以下の”輝く黒”で行動する事になり相当の報酬を得ている事が迷宮攻略組の知るところになった。

 中堅以下で目立つことがなかった”輝く黒”。このパーティーがイレーネの加入で上位ランキングに食い込む実績をあげて来たのだ。事情を知らない面々はイレーネの加入で実績が上がったと思ったようだ。

 事実は異なるのはイレーネ自身が認識している。事情を知らない外のパーティーは知る由もなかった。

 加えて勇者パーティが”輝く黒”やイレーネに特段圧力をかけてこないように彼らには見えたようである。実際に勇者は”輝く黒”に何の興味を示していなかった。


 もともとイレーネの実力は誰しも認めている所だった。勇者ウルリヒに悪い意味で目をつけられるのが怖かったので避けていただけなのであった

 その圧力もなさそうだと考えた中堅以上のパーティ。こぞってイレーネをパーティに参加するようにと勧誘してきたのだ。

 当初は”輝く黒”に参加していたので断っていた。しかし、あまりにもしつこい勧誘が続くため”輝く黒”のメンバーに現状を相談したのだった。できれば勧誘を断って欲しかったのだ。

 おそらくリーダーと思われるレオンハルトの回答はあっさりしたものだった。

 「イレーネさんのお好きなように。上位ランクのパーティに参加すれば何か得る事もあるかもしれませんよ」と、素気なかった。

 特に引き留める等は無かったのだ。他のメンバーに関しても同様であった。

 引き留められると思っていたイレーネは内心失望していた。そんな気持ちもあり当面他のパーティに参加すると”輝く黒”のメンバーに告げたのであった。


 勧誘をしてきたパーティは多かった。ひとまず様子を見るという事でどのパーティにも一度は参加してみる事にしたのだった。

 これらの上位ランクのパーティに数回参加して分かった事がいくつかあった。


 参加したパーティはランクでいうと2位、4位、5位の上位ランクのパーティだった。

 メンバー構成は”輝く黒”や勇者のパーティとそれ程差はなかった。むしろ人数では多かったのだ。

 しかしイレーネにマッチするようなパーティではなかった。

 集団行動については”輝く黒”に参加して色々教えてもらった。それを自分なりに理解できているとイレーネは思っている。

 実際の行動も今参加しているパーティーメンバーに合わせて行動するようにしていた。以前のようにイレーネが加入した事で行動が乱れるという事はなかったのだ。

 迷宮攻略も問題なく進める事もできたのだ。しかし、何か窮屈な印象を受けてしまうのであった。

 それが何かはイレーネには分からなかった。以前言われたレオンハルトの言葉を思い出し暫く参加を続けてみようと考えるだけだった。



 信じられない事件は唐突に起きた。

 ”黄金の鍵”というランキング4位のパーティに参加して迷宮攻略をしていた時だった。突然オークの集団と遭遇したのだ。”黄金の鍵”が同時に攻略している階層には勇者ウルリヒのパーティーがいるのみだった。

 この階層はオークが集団で周回している。それでも四体が最大グループであった。今回遭遇した数はなんと十体は超えていたと思われる。

 ”黄金の鍵”は二十人を超える大所帯である。迷宮攻略時もいくつかのグループに別れて均等な距離を保って攻略するのだ。今回の攻略は半分に分けて攻略しているのである。

 グループに分かれているが密に連絡を取り合いながら行動している。その連絡が途絶えたのだ。なんらかの問題が発生した可能性が高い。

 イレーネは連絡が途絶えていない本隊ともいえるグループに入っていた。このグループにはリーダーのボドワンがいる。イレーネを熱心に誘っていた人物でもある。別の意味でも熱心であったようだが男女の機微についてはイレーネの関心外である。

 このグループが連絡が無くなったグループに向けて移動する。

 移動中に異変が起きた。

 様子を詳細に確認するために斥候を先行して行かせたのか結果として良くなかった。残ったメンバーで注意しながら進んでいったのだが進路の左右から突然オークが現れたのだ。

 移動を主として隊列で進んでいたため縦長で進んでいたのだ。隊列の中団あたりに向けてオークが突進してきたのだ。不意を突かれた形になりグループは寸断された。

 そこにオークの集団が流れ込むように入ってきたのだ。後方には戦士が一名しかいなかった。他は後衛向けの弓使い、魔法使い、僧侶等であった。

 グループ後方の狼狽した声をオークの雄たけび。静寂を破る音声にパニックになった。

 イレーネは先頭から二番目にいたため不意を突かれることはなかったが乱れた隊列で後方に移動できない状態であった。

 オークの近くにいた戦士もパニックになっているようで何も行動できず首を千切られていった。こうなると秩序だった行動はもうできない。

 リーダーのボドワンは後方の混乱に巻き込まれており指示を仰ぐことができない。前列で指揮ができる者はいないようだ。

 とにかくオークの数が多いのは遠くでもイレーネには分かった。まずは後方の乱れを収拾しないといけないと引き返そうとしたときに絶望的な声が前方からした。


「まずい!向こうのグループは全滅している。何人かは既に死んでいる。オークに襲われたようだ。早く助けに・・・な、なんだ?こっちにもオーク!?」

 他のグループの様子を見に行った斥候が戻ってきたのだ。その報告は絶望的なものだった。既にオークに襲われ全滅に近い被害を受けているようである。


「なんだと!くそ!リーダーはあのオークの向こうだ!よくわからんが横の通路から突然現れた!こっちも混乱している。向こうで何があった!なぜこんなにオークの大集団がいるんだ!」

「分からん!オークがいたから近くにいって確認ができなかった!俺も聞きたいくらいだ!なんでこんな大集団なんだ!これは不味いぜ。一度撤退したほうが」

「馬鹿言うなあっちのグループの救出も必要だ!こっちの襲撃も沈静させないといかん!とにかくリーダーはあの向こうだ!なんとか連絡を取ってくれ!」

「マジかよ。くそ、遠回りになるぞ。しかもオークがどこかで潜伏しているかもしれない。時間はかかる!」


 斥候の男は通路を戻り別の道から後方に迂回すべく移動を始める。


「わたし達はどうするのだ?後方もオークがいると聞く。このまま後方の救出にいったら背後ががら空きになる」


 イレーネは斥候とやりとりをしていた戦士に確認する。この混乱の中ではまともに思考ができている人物だ。戦士は分かり切った事とばかり返事をする。


「俺達がリーダーを救出に行く。イレーネ、あんたは背後の警戒をしてくれ。オークがきたら済まんが対処を頼む」

「問題無い。この階層のオークなら一対一でも対処できる。背後は気にせずリーダーを助けにいってくれ」

「頼んだぞ!」


 戦士は素早く周囲の者に指示をして後方のオークを討つべく移動をしていく。彼らの実力は分からないが通路は比較的狭い。オークの体格では横に広がれない。なんとか対処できるのではないかとイレーネは予測する。

 

(しかしこの階層でこの集団はあり得ない。理由が分からないが一か所に集まっていた感じか。それにしても数が多すぎる)

 

 イレーネは全方位に警戒をする。他のグループを助けに進みたいがまずは自分達の集団の混乱を収めるのが先である。そもそもオークの集団を全て倒せるかも微妙な所なのだ。

 警戒しつつも混乱の先に目を向ける。オークの向こうには何名かのメンバーが倒れているようだ。救援に向かった戦士達も苦戦をしている。そう簡単にオークは倒せないようだ。

 イレーネはじれったい気持ちになるが自分が救援に向かっても邪魔になるだけだと自重する。

 その間にも悲鳴は聞こえてくる。下手をすると後方のメンバーは全滅するかもしれないとイレーネは心配する。

 ふと背後から何者かの気配を感じたイレーネは視線をその方向に向ける。別のグループが壊滅している方向だ。動けるものが逃げてきたのかもしれないと考えたのだ。

 しかし現れたのはもう会いたくない面々であった。

 何故か勇者ウルリヒのパーティーがいたのであった。

 ウルリヒとレリアの二人であった。残りのメンバーは向こうでオークを倒しているのかもしれない。


「よう。久しぶりだな。こんな所で面白い事してるじゃねぇか。見た感じ苦戦してそうだな。じきじきに俺が助けてやってもいいんだが、どうする?」

「わたしはこのパーティーに参加しているだけ。リーダーはあの向こうにいる。交渉するならあっちと交渉して」

「つれないな。一時とはいえ同じパーティーにいた仲間だろ?イレーネ、お前の態度次第じゃ助けてやっても良いって言ってんだぜ」

「わたしの態度とは?」

「とぼけんなよ。お前が俺のモノになるというヤツだよ。もう忘れちまったのか?」


 変わらず歪んだ顔のままウルリヒはイレーネの全身を嘗め回すように見る。未だにイレーネを諦めていなかったようだ。

 隣のレリアも余裕の表情でイレーネの決断を急かす。


「さっさと決めちゃいな。早くしないとあんたのお仲間全滅しちまうよ?」

「卑怯な・・・。迷宮を攻略する同志でもあるだろ?なぜ条件を付ける。つけるなら”黄金の鍵”と交渉しなよ」

「肝心のリーダーが乱戦中なんだろ?生きているかもわからん。一応、今のお前はやつらの仲間だ。お前の決断だけでヤツらは助かるんだ。安いもんだろ?」


(あり得ない。こんな状況で卑劣すぎる。・・・もしかしてオーク達の襲撃もウルリヒ達の企み?)


 進退窮まったイレーネであった。

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