第21話 朔夜の精神状態はもう・・・





 今、俺のクラスでは・・・


 空前のあるブームが来ている・・・


 それは・・・


「好きです!!付き合って下さい!!」


 そう、告白ブームである。


 なぜこんな事になったのかというと・・・


 俺の(嘘)告白が100発100中で成功してしまっているからなのだ!


 朔夜程度が成功しているのだから、俺達 (イケメソ)がいけないわけがないだろ!

 と、男子クソ共が意気込んでしまったのである。


 ・・・・・


 違う!違うんだよ!!

 そうじゃないんだよ!!


 俺の場合は成功じゃなくて、失敗なんだって!!


 ごめんなさいをもらう事が成功なんだっての!!

 告白が受け入れられる事なんて望んじゃいねえんだって!!


 実際さぁ・・・

 ごめんなさいが失敗して、告白として成功ってなんだよ!!


 意味わかんなすぎだろが!!


 そんな俺の心境など露知らず、奴らの告白した結果は・・・


 例にももれず全て・・・


「ごめんなさい!」


 である・・・


 ・・・・・


 ふざけんなああああああ!!

 ごめんなさいを言われるのは、俺の役目のはずだろがあああああ!!


 奴らに対して、俺の心が嫉妬に狂いまみれる。


 ・・・・・


 くくくっ!


 しかし・・・

 しかしだ!!


 ある意味、この流れは良いのではないか!?


 と、考えている。


 なぜならば・・・


 この流れに乗じて・・・


 俺も念願のごめんなさいを貰うのだ!!


 うひゃひゃひゃひゃ!!


 俺は喜びに打ち震える。


 これで俺の念願が叶うのだ!

 喜ばずにはいられないだろう!


 この機会を逃すわけにはいかない!!


 唯には、俺が告白するのはバカだと言われたが・・・


 そんなの関係ない!!


 そもそも意味わかんねえし?

 俺が告白した所で、成功することがおかしいんだし?


 俺はモテるはずがないのだ!!


 一度“ごめんなさい”をもらえさえすれば、俺は”ごめんなさい“を貰える自信が付くというものだ!!


 ごめんなさいを貰うためには、臆病になってはいけないのだ!!


 自信を取り戻せ朔夜!!


 お前は絶対にごめんなさいを貰える!

 むしろ、ごめんなさいしか貰えないのだ!!


 お前はモテるわけがないのだ!!


 お前はちゃんと出来る男だ!

 誰からも“ごめんなさい”と崇め奉られるのだ!!


 ・・・・・

 もう俺、何を言ってんだろうな・・・


 わけわかんなくなってきましたよ・・・


 ま、まあいい・・・


 そんな事よりも・・・

 そんな事よりもだ!!


「好きです!付き合ってください!」

「ごめんなさい!」


「好きです!付き合って「ごめんなさい!!」」


 くくくっ・・・


 良い流れだ・・・

 確実に良い流れがきているぞ!!


 今もこうしてクラスの女子にフラれまくっている男共に乗じて、俺もごめんなさいを貰うとしよう。


 そしてターゲットは・・・


「好きです!付き合ってください!」

「ご、ごめんなさい・・・」


 と、今まさに他の男共にもターゲットにされた女子。


 目元を隠した前髪パッツンのボブカット、クラスでもかなり大人しめの鳴海雫なるみしずくだ。


 前髪で目を隠すという事は、注目を浴びるのが苦手なタイプだろう。


 って事は、最近は意図せず注目を浴びている俺の事も苦手だろう!

 普段、俺と普通に話をしてくれているのもフェイクに決まっている!!


 むしろ、俺みたいな奴が嫌いに決まっている!!

 間違いない!!


 俺みたいな奴の告白を受けるわけがないのである!!


 俺がそんな事を考えているその間も、男子共が次々と彼女に告白をしている。


 男子A「好きです!付き合って下さい!」

「ご、ごめんなさい」


 男子B「好きです!俺と付き合って下さい!」

「ごめんなさい・・・」


 ・・・よしよし、いいぞぉ!

 お前らもっとだ!もっとやれ!!


 良い流れなんだ!

 確実に流れがきているぞ!


 この流れに、俺は身を委ねるのだ!


 男子C「好きです!付き合って下さい!」

「ごめんなさい」


 男子D「好きです!是非とも付き合って下さい!」

「ご、ごめんなさい・・・」


 俺「好きです!付き合って下さい!」

「・・・はい」


 男子E「前から好きでした!付き合って下さい!」

「ごめんなさい・・・む、無理です・・・」


 いよっしゃああああああああ!!


 やった!やったぞぉ!!


 俺も流れに乗じて、念願のごめんなさいが・・・って・・・ん?


 俺含む男子一同は、しばし考え込む・・・


『・・・・・・・・』


 そして、我に返る。


『っはああああああああああああ!!??』


 ・・・え~と。


 ・・・


 ちょ、ちょちょちょ!

 ちょっと待って!?


 俺だけ状況について行けない!


 だから、マジで!マジでちょっと待って!!


 ちょっと整理させて!!


 今、この子なんて言ったの!?


 男子A・B・C・Dには間違いなくごめんなさいと言ったよね!?

 そして俺を飛ばして男子Eにも間違いなく言ったよね!?


 その流れで、さりげなく間に紛れ込んだはずなのに・・・


 ・・・はい・・・はい・・・はい~↗!?


 え!?何で!?どうして!?

 何がどうなってこうなった!?


 ・・・

 もう、最近ずっと同じ事叫んでいる気がするんだけど・・・


 ま、まあそんな事よりも!


「ちょちょ、ちょっと!鳴海ちゃん!きっと俺の聞き間違いだと思うんだけど、今なんて言った!?」

「え~と、“はい”です」


 聞き間違いじゃなかったああああああ!!


 いやいや、だったら・・・


「じゃあ、じゃあさ!絶対、絶対に言い間違いだよね!?本当はごめんなさいというつもりだったんだよね!?」


 よし、これ確定!!

 言い間違いに決まってる!!


 むしろ言い間違いであってくれえええええ!!


 そう、一縷の望みをかけて、俺は鳴海ちゃんの肩を揺さぶる。


「う~、あ~、い、言い間違いじゃ、な、ないです~。そ、それよりも、か、肩を、ゆ、揺さぶらないで~」

「あ、ご、ごめん」


 俺が鳴海ちゃんの肩を揺さぶっていた事で、声がブレブレになってしまっていた。

 俺はすぐに謝って肩から手を離す。


 いや、そんな事よりも!!


「そ、そんな事じゃないですよ・・・もう・・・」


 鳴海ちゃんまで俺の思考に声を挟まないで!!


 てか、言い間違いじゃないだと!?


 じゃあ、どういう事だ!?

 一体どういうつもりなんだよ!!


 ・・・そうか!

 これは現実じゃないんだな!?


 鳴海ちゃんが俺の告白を受けるわけがないからな!!


「え、え~?ちゃ、ちゃんと現実を見てください・・・」


 ・・・え?

 これは現実!?現実なのか!?


「はい、げ、現実です」


 ・・・マジかよ!!

 てか、なんで!?なんで鳴海ちゃんは受け入れてんの!?


「え~と、い、いつも朔夜ちゃんを見てると、な、なんか楽しそうだなぁって・・・それで、いつかあの輪の中に入りたいなぁって、ずっと思ってたから」


 ・・・・・俺は楽しそうにしてるんじゃねえんだよ!!

 困ってんだよ!!


 い、いや、確かに楽しんでいる部分はあるかもしれない・・・


 しかしだな!


 それは友達として!

 友達としての付き合いなら、素直に楽しいと思えるんだよ!


 俺には異性として複数人と付き合えるほどの甲斐性はねえの!

 俺のキャパシティはすでに崩壊してるって言ってんだろ!?


「う、ううん、大丈夫だと思う・・・さ、朔夜ちゃんにはまだ余裕がありそうですから」


 おおい!!

 何をもって、俺に余裕があると思ってんだよ!!


 しかも何の余裕だよ!?

 そんなものは全くねえよ!!


 今すぐにでも精神崩壊してやんぜ!?

 いいのか?ああん!?


「ふふっ・・・そ、そういう所がです。そ、そんな朔夜ちゃんが、す、素敵だと思う」


 ・・・・・


 もうやめて!

 これ以上、俺を辱めるのはやめて!!


 素敵要素を持ち合わせていない俺に、素敵とか言うのやめて!!

 ハズすぎるんですけどぉ!!


 もう、何なのこの子達は!?

 何で俺の評価がこんなに高いの!?


 それともあれか!?

 俺を褒めることで、俺を恥ずか死させたいの!?


 おう!いいぜ!やってみろよ!

 今すぐ恥ずか死してやんぜ!


「う、うん・・・さ、朔夜ちゃんは素敵だし、な、何よりも、か、かわいい・・・」


 ・・・・・


 ごめんなさい・・・

 やっぱりやめてください・・・


 本当に恥ずか死出来るわけもなく、ただただ恥ずかしい思いをするだけでした・・・


 てか、気が付けば・・・

 鳴海ちゃんまで、俺の思考をクリアに読めるようになってやがるし・・・


 もう本当に・・・

 色んな意味でやめて!!


「ふふっ、そ、そうやって困ってる朔夜ちゃんも、か、かわいい・・・」


 だから!!

 もうやめてっての!!


 俺は可愛くもねえし、褒めるのやめてくれ!!


 むしろ、ゴミ虫野郎と罵ってくれよ!

 そして、俺のケツをヒールで踏んでくれよ!!


 ・・・いや、罵倒されて踏まれて喜ぶ趣味はないよ?

 俺はドMじゃないよ?本当だよ?


 ・・・やばい。

 本格的に精神がおかしくなってきた・・・


 俺は心の中でシクシクと泣くしかなかったのである・・・


 そんな中で・・・


「ふふっ・・・こ、これから、よろしくお願いします」


 と言いながら鳴海ちゃんが深々と頭を下げる。

 そして、頭を上げている途中で垣間見えた目は可愛らしく、満面の素敵な笑みを俺に向けていたのである・・・



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



「っはあ!?また増やしたんですかぁ!?」

「増やしたくて増やしたんじゃないっての・・・」


 昼休み。

 徐々に俺の周りの女性陣が増えてきた(俺は望んでない!!)ため、教室での昼食は不可能となっている。


 いや、確かに教室では手狭になっている、というのも理由の1つだが・・・

 それよりも・・・


 俺がいたたまれない!!

 男子クソ共の視線が痛すぎる!!


 だから金輪際は教室での昼食はしない!

 いや、出来ない!!


 という事で、瑞穂・みなも・千里・美鈴、そして追加された鳴海ちゃんを連れ立ち、途中で琴音を拾い、どこからか現れた唯と合流して屋上に来たのである。


 ・・・・・いや!

 俺の意図した所ではないんだよ!?


 俺が席を立つと、気がついたらRPGの様に全員後ろに付いてきていただけだからな!!


 まあ、それはそれとして・・・

 今は追加された鳴海ちゃんを見た唯が、俺に非難を浴びせているのである・・・


「じゃあ、どういうつもりだったんですかぁ!?」

「俺はごめんなさいが欲しかっただけなんだよぉ・・・」


 唯の問い詰めに、俺は項垂れる・・・


「もう、本当に先輩はおバカですねぇ!・・・だから言ったじゃないですかぁ!先輩の心は自由だから告白するなとまでは言うつもりはありませんが、先輩が告白するなんてバカな事だって」


 確かにバカだった・・・

 でも、俺がモテるわけないのだから、振られて終りはなずなのに!!


 俺が傷心すればいいだけだったはずなのに!!


「そんな事になるわけがないでしょう・・・」


 なんでだよ!!


「はあ・・・まあ、仕方がないですけどねぇ。中学の時も、先輩は無自覚で色んな女の子をたらし込んでましたからねぇ」


 ・・・・・はあ!?

 この子、何言ってんの!?


「いや、俺がいつそんな事したよ!?てか、俺を好きになる女子なんていたためしがねえだろ!?」

「え~?先輩、まだそんな事言ってるんですかぁ?」


「いや、だってそもそも・・・お前に散々モテないだの、俺を好きになる女子なんていないだの言われてきただろうが」

「はあ・・・まあ、確かにそうなんですけど・・・本当に気付いてなかったんですねぇ・・・まあ、そのおかげで中学時代の先輩は彼女を作ろうとしなくて良かったんですけどねぇ」


 いや、だってモテたためしないし・・・

 女子に見向きもされてないと思ってたし・・・


 今だって、これは何かの間違いだと思ってるし・・・


「まあ、それはそれとして・・・鳴海先輩、これから宜しくお願いしますねぇ♪」

「あ、う、うん。よ、よろしくお願いします」


 俺が1人苦悩している間にも、唯は鳴海ちゃんに笑顔で挨拶をしている。


「それにしても、雫ちゃんも朔夜くんの事を思ってたんだね」

「う、うん。朔夜ちゃんは私みたいな子にも、き、気軽に話しかけてきてくれたから嬉しくて」


「うん、ホント朔ちゃんはそういう所あるよねぇ♪誰にでも分け隔てないもんねぇ♪」

「う、うん。そのおかげで色々と救われました」


「鳴海さんのその気持ちわかるわ。私も朔夜君には救われたもの」

「ち、千里さんも、そうだったんですね!そ、それは知りませんでした」


「朔たんは良い意味でバカだけど、バカだからこそ朔たんに助けられるんだよねっ♪」

「ほ、本当にそうですね。わ、私も大分助けられました」


「うんうん、朔君って自分では大した事じゃないつもりで、ナチュラルに私達の心を撃ち抜いてくるもんね♪そのくせ、そのくせ、その事に全く気付かないニブチンなんだもん」

「ま、正に、そ、その通りだと思います」


 ・・・・・


 たまにディスられたような気もするが・・・

 何この褒め殺し・・・


 もうやめて!

 俺が何したってんだよぉ!!


 俺は俺が思った通りの事しかしてねえっての!!

 そんなに良く言われる程の事はしてねえっての!!


「だからですよぉ。先輩は、無自覚たらしの素質が十分ありますからねぇ」


 そんなもんはねえ!

 俺なんて、ゴミクズを見るような目で見られるのがお似合いなんだ!!


 だからそうしてくれ!


 はあ・・・はあ・・・

 さあほら、今すぐ!!


 ・・・・・違う!!

 俺はドMになんてなりたくねえの!!


 やべえ・・・

 この現状やら、彼女達からの俺に対する辱めで・・・


 俺の精神がもう滅茶苦茶だ・・・


 もうホントに・・・

 助けてええええええ!!


 と心の中で叫んだ所に・・・


「ふふふっ、朔夜!そう嘆くことはない」


 はっ!?

 いつの間に、隣に真白ちゃんが!?


 しかも、いつもの登場の仕方と違うじゃねえか!!


「お前には私がいるぞ!」


 いや、むしろ真白ちゃんまでいてもらっちゃダメでしょうが!!


「何を言うのだ朔夜。私にはお前がわかっている。だからお前の心を癒すものを持ってきてやったのだぞ?」


 は?

 俺の心を癒すもの?


 なんじゃそりゃ?


「ほら、これで慰めるがいい!」


 そういって、真白ちゃんは俺の胸に強引に押しつけてきた物・・・


 それは・・・


「女教師ランデブー2じゃねえかああああああ!!」


 何を慰めろっちゅうんじゃい!?


 いや、何じゃなくてナニか?


 って、ちげえよ!!

 そんなのはどうでもいいんだよ!!


 教師がそんな物を学校にもってくんじゃねえよ!!

 そんな物を男子生徒にもたせてんじゃねえよ!!


「ふふっ。ほらっ、私はお前の事が・・・お前の必要な物がわかっているだろう?」


 全然わかってねえじゃねえかああああああ!!


 と、俺は心の中で叫びながら、恥ずかしさに耐えきれず逃げ出したのである。


 ・・・もちろん!

 雑誌はちゃんと懐にしまいこんだまま・・・



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