第8話

 俺は子供たちのスリリングショットの練習を近くで見ながら、座ってステータス画面とにらめっこをしていた。するとなぜか、ただ座ってじっとしているだけなのにスキルポイントが僅かではあるが増えていくではないか!



これは何故なんだ?

俺は気になり、様々な仮説を立てていった。



パーティーを組んだ状態であれば訓練の経験値も仲間に入るのか?

しかしこれは違った。パーティーを一度解散した状態で訓練を再開してもらっても俺のスキルポイントは変わらず少しずつ増えていった。



では何故なんだ?家族だから特別な繋がりがある?

それはおそらく違うだろう…俺が最初に1人で狩りをしていたが、家族のスキルポイントは初期値のままだった。


試しに子供たちに休憩させて、代わりに俺が訓練をしてみたが、ひかりのスキルポイントは増えなかったそうだ。やはり違う。




それでは…まさか俺の玩具メーカーに隠し要素が隠されている?



それから俺は気になったので、細かく実験をしていった。

俺が立てた仮説は、玩具メーカーで作ったものを誰かが使って遊んだら俺にスキルポイントが入ってくるのではないかというものだ。



 試しに玩具メーカーで水鉄砲を作り、子供たちに遊んでもらった。最初は子供同士で遊んでいたのだが、いつの間にか標的がパパに代わっており、俺は逃げ回る羽目になってしまった。


その間もスキルポイントの変動は横目でチェックしていたが、思った通りスキルポイントは増えていっていた。玩具メーカーで作ったものを使ってもらえば俺にスキルポイントが入ってくるのは間違いないようだ!



濡れた服を全員着替えた後、さらに実験を続ける。

武器の要素のないおもちゃを使ってもらってもスキルポイントは増えるのかということだ。


試しに玩具メーカーでカスタネットを作った。子供たちは歌いながら「カチッカチッタンタン」と音を鳴らして遊んでいる。歌はカエルの歌だ。いつの間にか、あかりもずいぶんと上手くなったものだ。言葉遅れを心配していたことがアホらしくなるくらい上手に歌っている。


子供の成長を微笑ましく眺めていたが、俺は思い出したようにスキルポイントをチェックした。やはり少しずつだが増えてるようだ。



 俺のユニークスキルの玩具メーカー。最初はかなり微妙だと正直がっかりしていたけど、これはようやく異世界チートの要素を見つけたのではないか!?


大きな街で俺の玩具メーカーで作ったおもちゃを大量に投入したら、スキルポイントが勝手にどんどん増えていくのではないか?そうすればステータスは上げ放題!スキルも上げ放題だ!!



過去に夢見た、異世界で無双している自分の姿が現実に目の前に見えて俺は興奮していた。



しかし、しばらくして我に返った。



ここではそんな状況はあり得ない。ここには、俺たち家族しかいない。そして、この世界が実際どんな世界なのか俺たちは知らない。


俺たちの他に人は本当にいるのだろうか?


いるとして、文明はどの程度発達しているのだろうか?


あるとして、ここから近くの街までどれだけの距離を移動しなければならないのか…


その方角は?



魔物もゴブリンだけとは限らない。そこに至る迄、無事に移動できるだけの力が今の俺たちにあるのか?



分からない…分からないことだらけだ!


できないことで夢見てはしゃいでる場合ではない!!今は現実、日々の安全の確保と、俺たち家族の成長の方がよっぽど大事なことだ!



そうならないよう頑張ってはいるが、いつゴブリンたちからこの家が発見され、襲撃を受けるかも分からないのだ。今の俺たちでは5、6匹のゴブリンなら恐れることはないが、何十匹、何百匹のゴブリンに襲撃されたら…



俺はそんな事態になっても家族を守れるように、もっと強くなることを改めて心に誓ったのだった。




「パパ?大丈夫?」



ひかりがぼーっとしている俺に心配して声を掛けてくれたようだ。



「あー、大丈夫だよ!2人の歌もカスタネットもとっても上手だったよ!少しの間このまま2人だけで遊んでてもらえるかな?


パパは1度ママの様子を見に行ってみようかと思ってるんだ。」



「えー!ひかりもママのとこ行くー!」


「あかりも~!」



「もしかしたらママ寝てるかもしれないから、1人の方がいいんだ。今回はパパに任せてくれるかな?」



「「分かったー!」」



「いい子たちだ、じゃーちょっと上に行ってくるね。」





.....

....

...

..






 寝室に行くと浩美は布団の中に潜り込んでいた。寝てるのかな?と思ったが、布団が小刻みに揺れてる。



「ママ?もしかして泣いてるのか!?」



俺の声に気付き、浩美は布団から顔を出した。



「パパ…パパー!」



浩美は起き上がり、近づいた俺の胸に抱きついてきた。




「ママ?どうしたんだ!?何かあったのか?」



「私…情けないの…弱いの…こんな弱かったらパパや子供たちに顔向けできないの!」



「どういうことだ?お願いだ。俺にも分かるように説明してくれないか?」




俺は返事をしてくれるまで、浩美を抱きしめたまま宥めることしかできなかった。




しばらくすると、少しは落ち着いたのかゆっくりと話始めた。



「私、看護師をしていたでしょ?だから、血や死体を見ることは結構平気なの。だから、魔物を殺すのも平気だと思っていたの。



でも…駄目だった。


今朝ゴブリンに何度も何度も攻撃してる時、あいつは私を鬼気迫る表情で見ていた…死ぬ直前のあの怨嗟の顔を忘れられないの!


私は昨日自分から戦うことを宣言したのに、たった2匹殺しただけでこんな風になっちゃうような弱い女なの!


殺らなければ殺られる世界なのも、昨日パパが刺されたことで理解していた筈なのに、口だけで私には命を背負う覚悟がなかったのよ…」



「そうか…そんなに辛かったんだな…


ごめん!!そんなママの気持ちに全然気付いてやれてなかった!それならママは無理して魔物を殺す必要はないよ!」



「パパ!!その優しさは、逆に突き放されてるようにしか感じない…私は頑張るから、たった1回駄目だっただけで見捨てようとしないで!


私は守られてるだけの女なんて嫌なの…」



「ママ違うんだ!俺は突き放したり、見捨てようなんてしない!俺はママも子供たちも頼りにしていくつもりだ!!


でもな、人には何にでも向き不向きってものがあるんだ!!

何も苦手なことを無理やり頑張ることが正解だなんてことはない筈だ!


ママにはママの得意なことを伸ばしてもらって、家族の力になってもらいたいんだ!!」


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