第13話 魔法と歴史の守護者 神殿騎士団【オーディン】
「────ミオ姉!二匹そっち行ったぜ!」
「オッケー!任せて!」
シエルたちがデュロシス王国を訪れていた頃。
少し離れた場所に位置する森の中に、リケアのきょうだいたちが派手に轟音を響かせていた。
「グアオオォォォッ!!」
「ハッ、なにそれ。威嚇のつもり?」
漆黒の巨大な熊のような魔物が咆哮をあげるも、身の丈程の大剣を軽々と振るう紺色髪の女性──ミオネイルには、子犬が鳴くのと大して変わりはなかった。
「そんなんでビビる奴なんていない、よ!」
ミオネイルが片手で大剣を横に振り抜くと、自分の何倍もある巨大な魔物の体が一撃で真っ二つに斬り裂かれた。
その圧倒的なパワーは、女剣士のザジェを凌ぐかもしれない。
「……つ、強ぇなぁ……!これが神殿騎士様か~。」
「んだな。戦う姿は滅多に見ねぇけんども、たった四人であの【ホーリーレイズ】とも互角っていう噂は本当だだなー。」
後方の安全な場所から様子を見ていた男性二人が驚嘆の声で話していた。彼らは近くにある村の住人だ。
魔物が巣くうこの森に近い村は、頻度は少ないが昔から魔物の被害に遭う事がある。
そのため、魔物退治のクエスト依頼は日常的に出されていた。
「……よっし。こっちも片付いたぜ。」
残った二匹の魔物は、槍を使う短髪の男性──トールーテに頭を一突きにされていた。
「お疲れトール。まぁ仕事は楽勝なんだけど……問題はフェリ兄だよね。」
魔物を倒した二人が森の奥へ目をやる。
そこからは激しい爆発音がまだ続いており、衝撃がここまで届いてきていた。
「ひえぇ!あ、あっちさ居るのは団長様と副団長様だか?」
「んだな。おっかねえだ~」
「…………あー。やっぱり怒ってるね。」
「確かにおっかねェから、しばらくは近寄れねェな……。」
ため息をもらす二人の後ろからは
村人の震える声が聞こえてきた。
「……グルルルル……!」
一方森の奥では、黒い長髪の男性がひとり、魔物の大群に取り囲まれていた。その数およそ30匹程。
〝荒くる獅子は問う 汝の在り方とは何か その答を導け〟
[
男性はその場から動かず、何か動作をするもなく、呪文だけを静かに唱える。
次の瞬間、男性を取り囲んでいた魔物全てが一斉に炎に包まれ、激しい音とともに爆発した。
「……あらあら。やり過ぎじゃない?」
爆煙と土煙が辺りを包む中、後ろから女性の声が聞こえた。
するといきなり突風が吹き、煙を全て巻き上げて空へ舞っていった。
「寝言を言っているのかナッキ?こんな仕事さっさと終わらせて帰るぞ。」
突風は女性の魔法によるもので、魔物の大群は跡形もなく消え去っていた。
その場には黒い長髪の男性──フェリネスと、声をかけてきたにこやかな顔の女性──ナッキの姿しか残っていない。
「……まったく。一体どこの馬鹿だ?クエストを受けるだけ受けて放棄するとは……。」
「さあ?聖王都から新人の冒険者が派遣されるって話だったけど、誰が来るかまでは聞いてないわね。」
この森の魔物ランクは平均がB以上になっており、経験値とお金が程よく得られる。そのためクエストとして人気が高く、他国から冒険者が来ることはよくある。
しかし今回のように新人の冒険者が旅の途中で挫折し辞めてしまう、または魔物に倒されてしまうなど、トラブルも多いようだ。
「リケアのために今日は休日にしておいたのに……。急に呼び出される我々の身も考えて欲しいものだな。」
「文句言わないの。今日は代わりの冒険者が見つからなかったんだから仕方ないわよ。」
他国の騎士団とは違い、彼ら神殿騎士団はクエストに介入する事がほとんどない。
非常時はやむを得ないが、普段の仕事は日々進化する魔法の研究と、聖女ガルト以来紡がれてきた歴史の守護。
これはかつて聖女ガルトの良き仲間であり、フェンリルロード領の統治を任されたウォレシュ家代々の家業なのだ。
「……ふん。まあいい。部屋の飾り付けがまだ途中なんだ。リケアが帰って来るまでに終わらせるぞ!」
「はいはい。分かったわよ。」
愛しい妹の事となれば周りが見えなくなる長男は足早に森を歩いていく。
するとフェリネスの前方にある木の陰から、青年がヒョコっと顔を出す。
「……あ、いたいた!皆さんお疲れ様ッスー!」
「…………」
陽気そうな青年はニコニコしながらフェリネスに向かって手をふる。しかしそれを無視してフェリネスは青年を通り越して行った。
「あ、あれ?聞こえてないんスかね?フェリネスさーん!」
「…………」
青年がフェリネスを追いかけるが、計ったかのようにフェリネスが歩く速度を上げた。
「ちょ、ちょっと!?今の絶対聞こえてるやつッスよね!?フェリネスさんってばー!」
青年の叫びも虚しく、フェリネスは更に足を速めそのまま走り去ってしまった。
「……ナッキさーん……。」
「あらあら。相変わらず声をかけるタイミングが下手ねガルフィド。彼は今それどころじゃないのよ。何かご用かしら?」
半泣き状態で助けを求めてきた青年──ガルフィドに、ナッキは困り顔をしながらも優しく答える。
彼は神殿騎士団の一員ではない。
黒を基調とした白い刺繍が施された神官衣を着ているので、カルプシス大神殿の関係者ではあるようだ。
「さっき魔法ギルドに新しく仕事の依頼がきたんスけど、依頼人がレズィアム魔法学園なんスよ。」
ガルフィドの言葉にナッキはピクッと反応した。
「あら、リケアがいる学校じゃない。」
「ウッス。少し急ぎの様子だったんで早めにお伝えしようと思ったんス。まぁリケアさんとは直接関係はないみたいスけど。」
「あらそうなの?リケアに関係ないなら私もパスするわ。」
「え!?ちょっとそれは困るッス!」
「ふふっ、冗談よ。でも忙しいのは本当だから、話だけ聞いといてあげるわ──……。」
────────────────
『祝!リケア・ウォレシュ帰郷!』
「……んぶふっ!」
「バカ、笑うなって。」
「シエル……?何かおかしな事でもあった?」
「いででで!な、なんでもありません!」
壁と天井に貼り出されている横断幕を見ていたシエルが、我慢できずに吹き出してしまう。すかさずリケアに凄い力で頭を掴まれた。
「はしゃぐなよお前ら。もうすぐ順番くっから大人しく座ってろって。」
────ここはデュロシス王国の魔法ギルド本局【
1000年前のヴェルーンガウス王国が滅亡した後の時代に建てられたとされるカルプシス大神殿の中に本局がある。聖王都の王宮をも凌ぐ巨大な神殿の一区画を、このギルドは利用しているのだ。
世界各地に魔法ギルドの支局が存在するが、魔法に関する事の大元は全て本局が管理している。
「初めて来たけど、ウワサ通りでっかいねー。……でもまさかこんな所にまで横断幕貼ってあるとは。」
「ヘタすりゃ国中貼り出してんじゃねぇか?」
中のロビーにいくつか置かれている長椅子に並んで座っているシエルたちは、初めて訪れたギルド内を興味津々に見回していた。
人気の高い冒険者ギルドとはうってかわって人はまばらだ。
しかしそれがかえってシエルたち、特にリケアの変装が目立つ形となり、遠巻きながら人々の注目を集めている。
「……あぁ、早く帰りたい。帰りたい……。」
「おい、あの珍妙なカッコした不気味なヤツどうにかしろ。」
「えー無理だよ。あーあ。せっかくだからいろいろ案内してもらおうと思ったのに……。」
長椅子の周りをぐるぐると歩きながらリケアが独り言を呟いている。落ち着かない様子を通り越して不審者にしか見えない。
「……残念だが今回はのんびりとしてらんねぇな。サクッと用事だけ済ますか。」
「そうしようか。……それにしても……」
残念そうなシエルは受付カウンターの奥を見る。そこではギルドの職員たちが事務作業を行っていた。
「おーい。この書類向こうの部署に回しといてー。」
「はーい。」
「課長ー。ヴァルシード国の支局から通信でーす。」
「あー今手が離せないから後でかけ直すって言っといてー。」
忙しそうな様子ではあるが、冒険者ギルドのような喧騒さは全くない。
「……なんか、地味だね。」
「まあ、本局っつってもやる事は役所と変わらねぇか。」
想像していたのとは違う光景に、少し期待が外れた感じで二人はため息をもらす。
「番号札、12番のお客様ー?こちらの窓口へどうぞー!」
すると受付カウンターから元気のいい声が聞こえた。
「お、俺たちだ。行こうぜ?」
「はーい。お待たせいたしましたー。本日はどういったご用件でしょ……ヒッ!」
「フシュー……!」
呼び出されたシエルたちはカウンターへ移動したが、何故か先頭にお面を着けたリケアが息を荒げて立っている。
それを見た受付の職員が思わず悲鳴をあげた。
「無駄に怖がらすんじゃねぇよ魔王モドキ。話進めらんねぇだろ。」
リケアは早く終わらせて帰りたいのだろう。無言の圧力を職員にかけるが、リッツにマントを引っ張られ「ぐえ!」と言いながら後ろへと下げられた。
「えっと、あの……」
「あーごめんなさい。気にしなくて大丈夫だから。えーと、実はこの子が……。」
気を取り直し、シエルは引き気味の職員の前にユグリシアを見せる。
「……はじめまして。迷子です。」
「迷子……?」
「そう、迷子なんだ。それで身元照会をお願いしたくて。」
出会った経緯など詳しい事を話せば時間がかかるし、事情を知らない相手はすぐには理解できないだろう。
シエルたちは、ギルドや魔法学園でユグリシアの身元照会ができなかった事だけを簡潔に説明した。
「……なるほど。それでしたら、こちらで一度試してみましょう!」
「大丈夫かよ?」
「お任せください!当局の魔導書は他のレプリカと違ってオリジナルの逸品ですので!」
意気揚々と職員が少し古びた魔導書を出してきた。この本局にしかないレアものだと、職員は得意気に話す。
『エラー 身元を認証できません』
「……あっれー!?」
「あっれー!?じゃねぇよ。全然ダメじゃねぇか。」
しかし全然ダメだった。ユグリシアの魔力紋は認識するものの、それ以外は全てエラー表示が出てしまう。
今までと同じ結果に、シエルたちもさすがにうなだれた。
「そ、そんなハズは……。この魔導書は魔力紋を登録していない人まで認識できるのに……。」
職員からしてみても予想外の事に自信満々だったのが一変して困惑している。
「ここでもダメなら……やっぱ魔法書庫で調べなきゃいけねぇか……?」
「フシュー!!」
「ええい、言葉を喋らんか三流魔王。」
言葉をもらすリッツにリケアが声を荒げた。おそらく否定していると思われる。
「……あ、申し訳ございません。魔法書庫は本日入館禁止になっておりまして……。」
「え!?そうなの!?なんで!?」
こちらも予想外な事を言われ、シエルの大きな声がギルド内に響く。
「えっと……。なんでも、魔法書庫の責任者のご家族様が来られるとのことで、本日は貸し切りになっているのです。」
「フシュッ……!」
職員の説明に、興奮気味のリケアの体が凍りつく。
「へえー。貸し切り。」
「……だとよ。せっかくだから行ってこいよ?俺ら待ってっから。」
それを聞いた悪ノリコンビの顔がニヤつく。
危険を察知したリケアは全速力で逃げ出そうとする。
「フシュ!フシュシュー!!」
しかしリケアの行動パターンはお見通しだったようで、二人に押さえ込まれてしまった。
「駄々をこねんな怪力魔王。他に方法がねぇんだからしょうがねぇだろ?」
三人がわちゃついていると、受付の奥からひとりの青年が騒ぎの様子を見にやってきた。
「どうしたんスか?何かお困りッスかね?」
「あ!ガルフィド神官長!」
「フシュ……うっ!」
現れたのは神官衣を着た陽気な青年、ガルフィドだった。
それを見たリケアは息を詰まらせ、再び凍りつく。
「神官長、実はお客様が魔法書庫をご利用したいと……。」
「あー、なるほど。いいッスよ!良ければ皆さんもご一緒にどうぞ?」
「軽っ!」
「いいのかよ!?」
いとも簡単に返答する陽気なガルフィドに、二人はリケアを巻き込んでズッコケる。
「そりゃもう。ご案内しないワケにはいかないッスよ。ね、リケアさん?」
そう言いながらガルフィドは人懐っこい笑顔をリケアに向ける。
「……うぅ……。な、なんでこうなるの……。」
「もうバレてたってワケね。」
「んだよ。そういうコトか。じゃあ行くしかねぇよなあ?」
観念したのか、抜け殻のようになったリケアを二人がそのまま引っ張り、ガルフィドの後に続いて連行していった。
────────────────
「────うおぉ!なんだこりゃ!?」
「スゴい量だねー!」
シエルとリッツが驚きの声ではしゃいでいる。
カルプシス大神殿の神官長ガルフィドに案内されたのは、世界中の魔導書や魔法に関する文献などが保存されている神殿の中枢、魔法書庫。
「ここが魔法書庫ッス!どうスか?スゴイッスよね!?」
「確かにスゲェ!この料理の数!」
「家でたまにやる晩餐会より豪華かも……!」
広い部屋の中に無数にある魔導書などには目もくれず、中央に用意された料理に夢中だ。
「……いやー、やっぱりそっちに目がいっちゃうッスよねー。」
当然といえば当然な反応に、神官長であるガルフィドは苦笑いするしかなかった。
「あーもう……。ハリキリすぎでしょ……。誰がこんなに食べるの?」
「まあまあリケアさん。皆さん一生懸命作ってくれたんスから。」
「そうよー?あなたのために頑張ったんだから。」
呆れ顔でため息をつくリケアをガルフィドがなだめていると、薄めの金髪の長女ナッキが、いつの間にかにこやかな顔で後ろに立っていた。
「ナッキ姉!」
「久しぶりねリケア。おかえりなさい。」
つい先程まで絶望的な表情をしていたリケアだが、姉の姿を見るや意外にも表情が明るくなった。
「……ん?ナッキ……?」
ふとリッツが首をかしげる。何か心当たりがあるのだろうか。
「だーかーらー!リケアにはもっと甘いスイーツが合うんだって!」
「何言ってんの!?リケアはもう子供じゃないんだから、ビターにするべきでしょ!?」
すると今度は部屋の奥から明るめの茶色い短髪の次男トールーテと、紺色のセミロングの髪をした次女ミオネイルが、自作したデザートを持って言い争いをしながらやってきた。
「トール兄!ミオ姉!」
「おあ!リケアじゃねェか!」
「リケア!久しぶり~!」
こちらも明るい表情で再会を喜んでいるように見える。
「……トール……?ミオ……?」
う~んと唸るリッツは何か確信めいたものを得つつあった。
「んっ、んん!」
そして最後に長い黒髪の長男フェリネスが、わざとらしく咳払いをしながら部屋に入ってきた。
「……フェリ兄。」
「……ひしゃひ……。久しぶりだな、リケア。」
(あ、噛んだ……。)
全員が同じ事を思ったが、彼が言葉を噛んだことについては誰も触れない。
フェリネスの姿を見たリケアは、ものすごく不味い料理を食べたような苦い表情へと変わった。
「フェリ……?ってことはフェリネス……。」
「リッツ、さっきから何ブツブツ言ってんだ?」
ツッコミ案件には必ず反応するリッツが何も言ってこないので、シエルは不思議そうに顔を覗き込む。
「フェリネス、ナッキ、ミオネイル、トールーテ……!全員【オーディン】のメンバーじゃねぇか!みんなリケアのきょうだいだってのか!?」
「え!【オーディン】って、あの神殿騎士団の?……すげー初めて見た。」
二人が驚くのも無理はない。世界各地の王国に属する騎士団で最も有名なのは【ホーリーレイズ】だが、【オーディン】はその次に名が挙がる程知られている。
「……みんな……。」
そんな偉大なきょうだいが揃ったところで、リケアはニコリと笑い大きく息を吸った。
「全員そこに座れえぇぇぇ!!」
そして、神殿中に聞こえたのではないかというくらいの大声を張り上げた……。
────────────────
「……まったく!一体どういうつもり!?あんな目立つような事しないでって昔から散々言ってるよね!?恥ずかしいからやめてよもう!」
リケアは仁王立ちで怒りを爆発させていた。
フェリネスをはじめ、きょうだい全員とガルフィドが横一列に並び、正座をしている。
「す、すげぇ……。あの【オーディン】がみんなシュンとしてるぜ。」
「面白い光景だけど、今は笑わないでおこう……。」
リケアが怒った時の怖さは二人もよーく知っているので、だいぶ距離を取って様子を見ていた。
「……だからオレはやり過ぎじゃねェかって言ったんだよ。」
「トール、アンタだってノリノリだったでしょ?」
「あらあら。困ったわねー。」
「えーと、何でおれまで座らせられてんスかね?」
反省組がヒソヒソと話している中、リケアへの想いが一際強いフェリネスが立ち上がり反論する。
「馬鹿なことを言うなリケア。お前が帰ってくるというのに何もしない訳がないだろう。三日前から準備をしていたんだぞ?我々きょうだいを甘く見ないことだな。」
「なにカッコつけてんの。私はやめてって言ってるんだけど。」
「…………はい。」
きょうだい愛とは何たるかを見せつけたフェリネスだったが、今のリケアには全く通用しなかった。
逆に睨まれ、大人しく座り戻す始末となる。
「フェリネスっつったら【オーディン】の団長だぞ。なのに一番怒られてんな。」
「リケアの怖さは……俺の姉さんといい勝負かもしれない。」
「あーまぁセティール様も怒ると怖ぇもんなぁ。……つーかよ、さっき三日前から準備してたって言ったよな?」
「うん。三日前って俺たちが出発した頃だね。」
「え、じゃあなんだ?その時からリケアが来るって分かってたってのか?」
「なにそれ。こわっ……。」
さすがの悪ノリコンビも、巻き添えを食らわないように声をひそめる。
リケアはひとまず怒りが収まったのか、用意されていた豪勢な料理を一人でがっつき始めた。怒ったせいでお腹が減ったのだろう。
「……それで、あなたたちは?学校のお友達かしら?」
理由はどうであれ、自分たちが作った料理をリケアが食べてくれている。その姿を見たナッキはご満悦の表情で、シエルとリッツに暖かいお茶を出してくれた。
「そうだよ。俺はシエル。で、こっちがリッツ。俺たちリケアと同じクラスで、ギルドチーム組んでるんだ。」
「なにィ!?ギルドチームだと!?」
何事もなかったかのようにリケアの隣に座ろうとしたトールーテが、驚きの声を出す。
「そりゃねェよリケア!オレたちと一緒に冒険しようぜって約束してたじゃねェかよー!」
「そうだよ!ズルいよリケアー!」
リケアを挟んで反対側にいたミオネイルも、トールーテと共に両サイドからリケアに詰め寄った。
リケアは「あーもー近いったら!」と、勢いよく引っ付いてくる兄と姉を鬱陶しそうに手で払う。
「あら?今シエルって言ったかしら?もしかしてガルトリー公国のシエル王子?」
「王子!?おめェ王子なのか!?」
「ええー!スゴイじゃん!王子様とチームだなんてズルいよリケア!」
さっきまでお通夜のように静かだったきょうだいたちが、途端にお祭り騒ぎとなった。
「もー!!うるっさい!!」
そう叫ぶも、リケアには分かっていた。大声で騒ぐのはフェイントで、混乱に乗じてべったり引っ付きたいだけだと。
「……おいどうすんだよシエル。お前の一言でえらい騒ぎになっちまったぞ?」
「えぇ……?これ俺のせいなの?」
シエルの発言に落ち度はなかったが、結果的に巻き添えを食らう羽目になってしまった。
「余計な事を言うな」というリケアの痛い視線を受け、シエルもシュンとする。横にいたユグリシアはそんなシエルを慰めてあげていた。
「……ふん。ギルドチームか。面白い。」
そんな中、シエルたちにフェリネスが近づいてきた。その表情はかなり険しい。
「貴様たちがリケアに相応しいかどうか、私が実力を試してやる……。」
「……!!」
フェリネスが深く息を吐くと、シエルとリッツの周辺の空気が一気に重くなり、二人は金縛りにあったように身動きが取れなくなってしまった。
「……マ、マジかよ!?こんなところで戦ろうってのか!?」
「ちょ、ちょっと……待って……」
気がつけばフェリネスの姿は目の前まで来ていた。予想外の展開に二人の顔が青ざめる。
「……フェリ兄。そういうのいらないからやめて。」
フェリネスの後ろから声がする。その一言は、どこの馬の骨かも知れない輩を懲らしめようとした彼を止めるには、十分すぎる効果があった。
「……え、リケ……」
「私の友達を貴様とか言うの、ホントやめて。そんな事するんだったら、もう口きかないから。」
「…………はい。」
フェリネスは凄いスピードで後ろへと下がり、姿勢よく正座した。
「やめんのかよ!」
身動きが取れない状態から解放された二人は、その勢いのままズッコケるように倒れた。
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