第8話 スキル『みんななかよく』
「……なんだよこれ!どういうことだよ!?」
「リッツ、落ち着けって。」
「んだよシエル!お前だって同じこと思ってんだろ!?」
「ま、まぁ……そうだね。」
「俺はもう我慢ならねぇ……!言わせてもらうぜ!」
ゴツゴツした無機質な岩だらけの薄暗い洞窟の中を歩いていたリッツは立ち止まり、体を震わせながらユグリシアをビシィッと指さした。
「何でお前まだいるんだよおぉぉぉぉっ!!」
よおぉぉ!
よおぉ……!
まるで迷路のように入り組んだ洞窟中にリッツの叫び声がむなしくこだました。
「…………」
指をさされた本人は素知らぬ顔で朝食に出されていたパンを食べている。
「あはは。なんか前にも似たようなことあったよね。」
「つい昨日の話だよバカタレ。」
「……ねぇ、その事なんだけど、ちょっと聞いてくれる?」
ユグリシアの隣にいるリケアが話しかけるが、ヒートアップするリッツとそれをなだめるシエルには聞こえていないようだ。
「どーすんだよ!クエストにまでついてきちまって!今さら戻るワケにもいかねぇじゃねぇか!」
「そんな怒るなって。ここら辺は危険がないから大丈夫だよ。」
「ねえ。聞いてってば。」
「あのなシエル。そういう問題じゃねぇんだよ。結局コイツが何モンかも分かってねぇのに何でこんな自然に俺たちと打ち解けてんだ?」
「きっと友達作るのが上手いんだよ。」
「そんな軽いノリでお前……」
「ねえ!聞いて!お願い!」
らちが明かないのでシエルとリッツの耳を引っ張ってリケアが大声を浴びせる。
「んなー!うるせぇななんだよ!」
「ユグリシアは、迷子なんだって。」
「……なに?迷子だと?」
片耳を押さえながらリッツはしかめ面でユグリシアを見る。
「……そうだよ。」
小さく頷くユグリシアは相変わらずの無表情でパンを食べ続けていた。
これは街から遺跡に向かう道中、リケアが必死に会話を試みて得られた情報だった。
「えっ!?何て言ったの!?耳がキーンってなって聞こえない!」
耳を押さえ呻き声をあげるシエルは何故かリッツとリケアにどつかれた。
「な、なんでだよ!?理不尽すぎるうぅぅぅ!!」
うぅぅ!
うぅ……。
今度はシエルの悲痛な叫び声が洞窟にこだました……。
────────────────
「うおぉーい!!テメーら!聞こえっっっかあぁぁ!?アァん!?」
「…………」
「アニキ、ダメみたいですぜ?」
「チィッ!なんてこった!遺跡に来て早々にハグレちまうとはよ!おいブルーリー!魔法通信まだ繋がんねーのか!?アァん!?」
「……ダメだ。どうやら地下は空洞か洞窟のようだ。」
────ここはガルトリー公国から南へ半日程歩いた距離にある古い遺跡。元は教会か神殿だったらしいが、数百年前から使われなくなっていた。
金目になりそうな物はとっくの昔に盗り尽くされており、今や完全にただの廃墟となった建物だ。
ギルドからこの遺跡に【ヴェルーンガウスの秘宝】がある可能性あり、との有力情報を聞いた【ウアルガリマ】と【カーバンクル】の面々。
早速遺跡を訪れたのだが、老朽化のためか中に入ってすぐに床が抜け落ち、シエルたち四人が地下へと落ちていったのだった。
「……ん~となりゃーアイツら先に進んだのかもしれねーな。んじゃオレたちも進むぞコラ。一通り調べてから合流だ!アァん?」
「了解したぜアニキ!」
「……承知。」
「いよし!遺跡はそんなにデカくねーって話だからとっとと探すか!アァん!?」
ドォンッ!!
地上の遺跡に残ったレッドスたちが歩きだそうとした時、突然大きな音とともに地面が一瞬ではあるが大きく揺れた。
「アァん!?何の音だぁ!?」
「ア、アニキ!奥の聖堂から煙が出てますぜ!?」
「……魔物か。」
奥の扉から煙が漏れだし、隙間から赤い光がチラついて見えている。
「へへっ!お宝を護る魔物ってか!?それっぽくなってきたじゃねーかよアァん!?行くぞテメーら!」
「了解したぜアニキ!」
「……承知!」
【ウアルガリマ】は戦闘態勢をとり、奥の聖堂へと走って行った。
────────────────
「────あ?今なんか揺れたか?」
「いや?気のせいじゃないかな?」
一方の【カーバンクル】は地下に落ちたものの、幸い全員無事だった。
しかし【ウアルガリマ】と連絡が取れなくなったため、先に洞窟内を探索しようとしていた。
「……それにしても、今時迷子なんて珍しいよな?」
「だよねぇ。魔力紋は登録されてなかったのかな。」
洞窟内を慎重に歩きながらシエルとリッツは不思議そうにユグリシアを見る。
魔力紋とは体の中に流れる魔力を形で表したもので、人の指紋のように同じ形が全く存在しない。
人は種族問わずこの世に生を受けた時点でこの魔力紋を誰もが持つ。
魔力紋には個人のステータス、住所などといった個人情報が詳細に記録されており、よほどの理由がない限り魔力紋は役所などですぐに登録される。
そして魔法ギルドの『マジッククラウド』と呼ばれる魔法管理システムにより管理され、全世界共通で照会、開示が可能となる。
「……ま、とりあえず今はクエスト中だからどうすることもできないね。」
「だな。帰ってからギルドで魔力紋照会してもらおうぜ。」
状況が状況なだけにユグリシアの話はひとまず置いておくこととなった。
「……うーん……。」
「どうだ?リケア。連絡取れそうか?」
「やっぱり岩がジャマで魔力波がうまく通らないよ。さっきから繋がったり途切れたりの繰り返し。」
「チッ。面倒だな。探索は続けてぇが思ったよりも広いなこりゃ。下手に動いて迷子なんてゴメンだぜ。」
「……わたしはもう迷子だよ?」
「やかましい。」
先程からリケアが魔法通信で【ウアルガリマ】との連絡を試みているが、地下深く広域な洞窟の中では上手く通信できないようだ。
「はぁーあー。まったく幸先悪いぜ。いきなりアイツらともハグレちまうしよー。」
「でも、まさか地下にこんな洞窟があったんてなー。」
今のところ魔物には遭遇していないが、前後左右を岩に囲まれたこの空間は不気味さを一層際立たせていた。
「でもさ!これぞ冒険って感じだよなー!」
「浮かれてんじゃねぇよ。こんな狭いところで魔物に会えばとても戦えねぇぞ。どっか広い場所がありゃいいんだが……。」
「……もう少しすすんだら、広い場所あるよ。」
「……なんだって?」
ユグリシアの思わぬ発言にシエルたちは驚きの表情を見せる。
「お前もちったぁ役に立つじゃねぇかよ!」
「よく知ってるね……って、もしかして来たことあるの!?」
「……うん。雨の日とかさむい日とか、あつい日とか。ここでよく休んでたの。」
「…………っ!」
ユグリシアの言葉を聞いたリケアは息が詰まる思いだった。
彼女との会話で少なくともガルトリー周辺の出身ではない事までは判明している。
ではもし自分が同じ立場だったならどうしただろうか?
帰る場所も分からず、見知らぬ土地でただ一人。食べ物も手に入るかも定かでなく、薄暗い廃墟で寝泊まりする日々。
そんな絶望的な状況で、自分ならどんな気持ちだろうか?
なんか呑気そうにパン食べてるけど、彼女みたいに落ち着いてられるだろうか?パン美味しそう。
(……あれれ?)
何故か体に力が入らない。これはもしかしたら……。
「……おいリケア。さっきからなに一人でブツブツ言ってんだ?ヨダレ出てっぞ?」
リケアの視線はユグリシアのパンに一点集中していた。
「あーお腹すいたんだね?。そういえばお昼まだだったもんねー。」
クウゥゥゥゥッ
シエルの問いにお腹の音で返事をするリケア。恥ずかしすぎてその場にうずくまる。
「ともかく、ここからはユグリシアに案内してもらおう。よく来てたってことはもちろん出口も知ってるよね?」
一つ残っていたパンをリケアにあげたユグリシアは小さく頷く。そして恥ずかしそうにパンを隠れて食べるリケア。
「まぁ、しゃあねぇか。とりあえずその広い場所まで行って昼メシにすっか!」
腹をすかせた【カーバンクル】一行はユグリシアの案内で洞窟を進む。
途中いくつもの別れ道があったものの、ユグリシアは迷いなく歩いていく。
「…………あ。」
しばらくしたところでユグリシアがふと足を止めた。
「あ?どうした?」
「迷った。」
「お約束は外しませんねぇ!ユグリシアさん!」
リッツのツッコミと同時に三人が一斉にその場に倒れこむ。
「マジかよおい!一体いつから迷ってたんだ!?」
「……最初の別れ道のとこ。」
「歩き出してすぐじゃねぇか!早く言わんかい!」
リッツはユグリシアに詰め寄る。彼女は少し沈黙した後、片手を頭の上にちょこんと乗せ、軽く舌を出した。
「……ユグリシア。無表情のてへぺろは可愛く見えないからちょっと笑ったらいいと思うよ?」
「そういう問題じゃねぇ。」
妙なアドバイスをするシエルの頭をすかさずリッツが叩く。
「……あ。松明が消えちまった。シエル、明かりつけてくれよ」
「わかった。ちょっと待って。」
シエルは全身に力を込め、大きく深呼吸をして呪文を唱える。
「ハアァァァ……![
するとシエルの手のひらにホタルのような淡い光の玉が小さく灯る。
「えぇ……?ただの[
「バッカなにしてんだ!?予備の松明に火ぃ点けろって言ってんだよ!誰もお前の魔法に期待してねぇって!」
「……うっ!」
突然シエルが弱々しく地面に膝をつく。同時にホタルの光も消えてしまった。
「シ、シエルどうかした?お腹すいたの?」
「仲間を増やそうとすんな。」
「……魔力が……なくなった。」
「早っ!5秒くらいしか経ってねぇぞ!」
やれやれといった様子でリッツは鞄から松明に使用する布を取り出す。
「ったく。はじめから俺がやりゃよかったぜ。」
「……じゃあ、わたしが点けてあげる。」
お詫びのつもりなのか、ユグリシアがリッツの袖をクイッと引っ張る。
「あぁそうかい。ありがとよ。」
「……[ライティル]」
ユグリシアそう呟くと、指先から大人の顔と同じくらいの大きさの光の玉が浮かび上がり、辺りを照らしだしたのだが、
「でえぇぇ!?」
「うぅっ!ま、眩しい!」
その光の玉は目を開けてられないほどの輝きを放つ。
「……アホか!目が潰れるわ!!」
リッツは目を閉じながらも正確にユグリシアの頭をペシンと叩く。
「誰が攻撃魔法出せって言ったよ!?」
「……ちがうよ。明かりだよ。」
ユグリシアは手を少し下げると眩しすぎる光は和らぎ、松明程度の明るさになった。
「なんだよ。調節できんのか。」
「……ごめんね。びっくりした?」
「はぁー、いや、構わねぇよ……」
やっと目が慣れてきたリッツは、勢いでユグリシアを叩いてしまった事を少し反省しつつ彼女を見たが、いつの間にかサングラスをかけているユグリシアと目が合った。
「用意周到かっ!」
再びユグリシアの頭をペシンと叩く。
「おい。待てよリッツ。」
突然シエルが話しかけてきた。
「んだよ?別にやり過ぎじゃ……」
「お前ら、面白いな!」
目が見えていないシエルは反対側の岩に向かってとびきりの笑顔を見せた。
「お前にゃ負けるけどな!」
────────────────
やがて【カーバンクル】一行は目的地の広い場所まで辿り着いた。
「────いやぁ、まさかあそこに抜け道があったなんてなー。おかげで早く着けたよ。」
「ったく。思い出すのが遅ぇよ。」
文句を言いながら先を歩くリッツは、何かを踏んづけたのに気づいていなかった。
「ガル!ガルル!」
「ほれ、コイツもそう言ってんじゃねぇか。」
「……ねぇリッツ。それ魔物だよ?」
リッツの足に小ぶりな狼が噛みついていた。どうやら彼は尻尾を踏んでしまっていたようだ。
「はあ!?いって!!んだコイツはっ!」
「あぁー、こいつは『ガルウルフ』だね。確かDランクの魔物で、臆病な性格だからあんまり姿は見せないハズなんだけどな?」
「さすがシエル。魔物には詳しいよね。」
「イテテテ。学校の授業全然聞かねぇでそういう調べモンばっかしてるしなぁ。」
そう言いながらリッツはガルウルフを振り払う。低ランクの魔物なのでさほどダメージはないようだ。
「……あ、もしかして。」
何かを思い出したシエルは洞窟の奥にある窪みに入っていく。
「……シエル?」
「……やっぱりそうだ。ここはガルウルフの巣だよ。リッツに噛みついたのは親だったんだ。」
窪みから戻ってきたシエルの頭と両肩に子供のガルウルフがしっかりと噛みついている。
「おい。すっげぇ噛まれてっけど大丈夫かよ?」
「ハハハ、大丈夫。痛みはないさ。でも……」
シエルは笑いながらその場で倒れ込む。
「シエル!?」
「……子供のガルウルフは攻撃力が無い代わりに敵から身を守るために麻痺性の毒を持っれるんら……。」
体を痙攣させながら話すシエルはろれつが回らなくなってきていた。
「豆知識はいいから早く回復しろ……あれ?」
リッツが鞄の中をゴソゴソと調べていたが、
「あ、やべ。麻痺薬切らしてたんだった。わりぃ、リケア一つくれるか?」
「あー、私も持ってないよ。シエルは?」
「あい。」
「……え?」
「あい。」
「……あ、愛?ちょっ、シエル?なに言って……」
「無いって言ってんだろ?」
「うん。」
「……あ、あはは!もうシエルってば紛らわしいよー!」
リケアこそなに言ってんだ?という二人の視線を向けられ、恥ずかしさで耳まで赤くなったリケアは笑いながらシエルの顔を地面に打ち沈める。
「
「今のはお前が悪ぃよ。」
三人のやりとりを眺めていたユグリシアは、その無表情さからは読み取りにくいが微かに楽しそうにしているようにも見えた。
すると突然ガルウルフの親子が急に怯えだした。そして次の瞬間。
グオォォォッ!!
それは獣の咆哮と表現するには脆弱すぎる。あまりに異質なその鳴き声のような音は地鳴りとともに洞窟全体を地震でも起きたかと思わせる程揺らせている。
「な、何今の!?魔物!?」
「おい魔物王子!どうなんだよ!?」
「
「あ……。こりゃダメなやつだな。」
「でも、明らかにヤバイよこれ。」
自然に近しい者ほど危険を察知しやすく、危険の度合いも測りやすい。今のリケアの顔を見ればいかに危険かが良く分かる。ガルウルフ親子は既に窪みの巣へと避難を終えていた。
「リケアがそう言うんなら間違いねぇな。だがこの辺はそんなに危険な魔物はいないんじゃなかったのかよ?」
「私に聞かれても……」
「……ねえ。こっち来てるよ?」
「んだと!?」
ユグリシアの言葉にリッツは表情を強ばらせてリケアを見る。彼女は無言でユグリシアに同意する頷きをした。
「マジかよ!?一旦隠れんぞ!」
リッツは素早く岩陰に身を潜め、リケアはユグリシアの手を引きそれに続く。
「ちょっと待って。シエルは?」
「やっべぇ!!置きっぱなしだ!」
地面の揺れが少しずつ大きくなってきている。そんな中、身動きがとれない麻痺王子はこの揺れを面白がっていた。
「おぉ~。
「相変わらず度胸だけはあんなアイツは。なんで楽しそうなんだよ……!」
舌打ち混じりにシエルの元へ駆け寄るリッツ。と、そこへ先程シエルたちが歩いてきた方向から人影が飛び出しきた。
「……うおぉっ!?」
「おっとっとぉ。」
お互いに正面からぶつかったのだが、リッツだけが大きく後ろへ弾き飛ばされた。
「おやおや。大丈夫かいボウヤ?」
ぶつかった相手はなんと女性だった。魔道士が主流のこの世界には珍しい剣士のようで、背中に長身の剣を背負っており、体の装備も黒い服の上に動きやすさを重視した軽備な鎧だけ。
しかし驚くべきはその体格だ。セルイレフに負けず劣らずな大柄で、全く無駄のないしなやかな筋肉をしている。相当鍛え上げいるのが装備の、上からでも一目で分かる程だ。これではリッツが飛ばされるのも頷ける。
「ぶつかっちまって悪かったね。怪我はないかい?」
「あ、あぁ……。」
見たところ30代前半くらいの年齢だろうか。言葉遣いは見た目どおり豪快だが、明るい茶色の長い髪と優しく微笑みながら手を差しのべる姿はとても剣士とは思えぬ美しさだ。
「……急いでるからって前方不注意はダメですよザジェさん?」
するとザジェという名の女性剣士の後ろから男性がゆっくり歩いてきた。
「アッハッハ!こりゃ失敬。でも見なよルアギス。あたしの言った通り誰かいただろ?賭けはあたしの勝ちのようだね?」
「はいはい。その話は後にしましょう。とりあえず彼らの手当てを。」
豪快に笑うザジェとは対象的に物腰穏やかなルアギスという男性。年齢は20代後半ぐらいだろうか。ザジェの容姿が印象深いせいか、彼はあまりこれといった特徴が見当たらない。
少し薄めの黒髪と黒い魔道士ローブを身につけており、どちらかといえば地味な印象だ。
「……イテテ。これくらい何ともねぇ。気遣いならいらねぇよ。それよりてめぇらは何モン……」
差しのべられた手を握り体を起こすリッツは途中で言葉が詰まらせる。
「……マ、マジかよ。てめぇら知ってるぜ?『不動』のAランクチーム【イクシオン】……!」
その名を知らぬ者などいないと言った方が正しいだろう。
今や星の数ほどあるといわれる冒険者チーム。獲得賞金や実績などでランクの入れ替わりも激しく、上位ランクともなれば条件もより厳しくなる。
難易度の高いクエストは報酬も多くなる反面、危険も多い。未達成なら降格もあり、最悪の場合クエスト中に命を落とすこともある。
そんな中賞金ランキングは変動するものの、長い間Aランクをキープし続ける【イクシオン】は『不動』という異名がつくようになった。
「こんなスター級なヤツらまで出てきてるなんてな。さすが【ヴェルーンガウスの秘宝】ってところか?」
「……ふむ。そういうお前さんたちも見たところ冒険者のようだねぇ?若いのに中々いい面構えじゃないか。」
「コイツ見てもそう思うか?」
「あ、
リッツに上半身だけ起こされたシエルは呑気な面構えをAランクチームに見せつける。
「……おや?どこかで見た顔だねぇ?」
「
「もうお前黙ってろ。」
「アッハッハ!面白いねアンタたち。そっちのボウヤは麻痺で口が回らないのかい。どれ、あたしに任せな。」
ザジェが手当ての準備をしているところへリケアとユグリシアが駆け寄ってきた。
「二人とも大丈夫……って、うわわ!【イクシオン】!?ほ、本物!?」
「……こんにちは。」
「おや、ボウヤたちのお仲間かい?可愛いお嬢ちゃんたちじゃないか。待ってな。今このボウヤを治してあげるからさ。」
「……大丈夫。お薬あるから。」
ユグリシアが片手を前にスッと出すが、そこには何もなかった。
「……『マジックウォーター』」
しかしユグリシアがボソッと呟いた瞬間、彼女の手から青く丸い泡のような光がプクッと浮かび上がり、泡が割れるとそこから小瓶が手の中に収まった。
「な、なに今の?魔法……?」
「違うよお嬢ちゃん。今のは『錬成』スキルさ。見るのは初めてかい?魔力を消費してアイテムを作り出したんだよ。……だが少し妙だねぇ。」
不思議そうな顔をするザジェの後ろでルアギスがユグリシアをじーっと見つめていた。
「……これ飲んで。」
「
リッツが小瓶を受け取り、そのままシエルにグイッと飲ませる。
「……どう?」
「……ま!……あれ?美味しい?」
想像していた味と違ったらしく、目を瞑っていたシエルは驚きの表情とともにやっとマトモな言葉を出した。
「これはこれは……。中々興味深いですね。」
「なんだいルアギス。お前さんの眼で何か見えたのかい?」
「ご存知の通り状態異常の回復アイテムは本来どれも味は不味いです。ですが彼女が錬成したアイテムは遥かに上質の物ですね。効果も通常より良いみたいです。」
よほど美味しかったのか、シエルはおかわりを要求し、ユグリシアももう一個作ろうとしたが「もういらねぇだろ」とリッツにツッコミを受ける。
「それに、『錬成』は元となる原材料があって初めて作れるハズなんですが、何もないところからアイテムを生成した……。これは『万物錬成』の特徴でもあります。」
「おやおや。レアスキルじゃないか。」
「そうですね。僕の『鑑定神眼』もレアスキルなんですが、まだ若いお嬢さんがレアスキル持ちとは、正直驚きです。」
ルアギスの黒い瞳が白色に変化しており、鋭い視線を今もユグリシアに向けている。
「……いいから飲んでみろって!美味いんだから!」
「どうせ苦いだけだろうが……。おっ?美味ぇ!」
「ホント?私も一個ちょうだい!」
結局【カーバンクル】はルアギスの話を誰一人聞いておらず、試飲コーナーに夢中だ。
「おや?もうひとつスキルがありますね。『みんななかよく』……?これは一体……。」
「なんだいそりゃ?聞いたことない名前だねぇ?」
「一応固有スキル名みたいですが、僕も知らないものですね。」
全てを見透かすルアギスの眼が鋭さを増して改めてユグリシアを見ようとした時、その視界にリッツが入り込む。
「……おいおい。そんな真顔で女をジロジロ見んのは、あんまりいい趣味とは言えねぇな?」
「…………!」
「急にスカしたこと言ってどうしたリッツ?なんかカッコいいじゃん?」
「お前はちったぁ空気読め。」
ルアギスのスキル能力を活用すればユグリシアの身元も判明するかもしれないのだが、リッツの勘が何故かそれを拒否していた。
「野暮なことしちまったねぇ。あたしからも謝るよ。」
「……いやはや僕としたことが。これはとんだ失礼をしました。確かにあなたの言う通りです。」
リッツの表情を見たザジェがすぐに二人の間に入る。ルアギスも身を引き、肩をすくめる。白く変化した瞳は元の黒色に戻っていた。
「んな事よりヤバそうな魔物がコッチ来てんだろ?」
「……いや、今は気配が遠い。魔物は一旦離れたみたいだねぇ。安心していいみたいだよ。」
「分かるの?お姉さんスゴイね。」
「嬉しいコト言ってくれるじゃないかボウヤ。だが油断は禁物だ。魔物はすぐに戻ってくるかもしれないから、お前さんたち帰るんなら今のうちだよ?」
気がつくといつの間にか地鳴りと揺れは収まっていた。
「いやー俺ら来たばっかだし、これからお宝探しが待ってるからね。まだ帰れないよ。」
「だな。そうなりゃアンタらとは争奪戦だ。Aランクだろうが負けねぇぞ?」
シエルたちの身を案じるザジェの言葉も本心なのかどうか。お宝争奪の駆け引きがあるのかもしれない。
ランク上では実力差がかなりあるが、【カーバンクル】は一歩も引く気はなかった。
「何とも勇ましいですね。ですが残念ながら今回のクエストはもう終わっているようですよ。」
「えっ!?どういうこと!?」
「お宝は
「……!?」
お宝はもう奪われてしまっている……?その言葉の真意とはなんなのか。
【イクシオン】の予想外の発言に【カーバンクル】は驚きを隠せなかった──。
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