第6話 わたしは、ユグリシア

「……さあさあ!二人とも、チーム【カーバンクル】の初クエスト成功を祝してえぇぇ……?」


「…………」


「ハァ……」


「……カンパーイ!!」


 シエルの上機嫌な声が店内に響き渡る。

 空は雲に覆われ、雪が静かに降り始めた。雪は街の明かりに照らされて、道行く人々の足を止めてしまう程の壮美な夜景を演出している。

 ガルトリーの街は夜になっても賑わっていた。【竜の梯子酒】も酒場としての本領を発揮していた。


「ワハハハ!いいぞー!」

「よかったなー!王子!」

「カンパーイ!」


 満員の店内でシエルの乾杯の声に酒が回り酔った客たちが呼応する。

 しかしカウンターの奥、いつもの席にいるリッツとリケアはノリが悪い。


「……あれ?二人ともどうした?」


「呑気だよなお前は。」


「見て分かんないの?私たちヘコんでるの。」


「なんでだ?」


「ハァ……。サイネス先生の話、もう忘れたの?」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 チーム【カーバンクル】は結果的に依頼を達成できた形となり、ミケを無事に依頼主のサンディ婆ちゃんの元へ帰せることとなった。

 彼女は半ば諦めかけていたところだったので、大いに喜んでくれた。


「……よかったなー。お前たちのおかげで助かったよ。んじゃ、私はこの辺で。」


 その後ギルドへ戻りクエストの達成報告をし、報酬を受け取った帰り道のこと、突然サイネスがそう言い出した。


「え!?先生いきなりどうしたの?これから打ち上げ行くんだよ?先生も行こうよ!」


「誘いは嬉しいが、やらなきゃいけない事ができたんでな。それに今回私は何もしてないし、お前たちで楽しんでこい。」


 空から雪が降りはじめ、夜の街は一層冷え込みを増す。サイネスは雪用の厚いマントを羽織った。


「なんだよ、やらなきゃいけない事って?」


「ん?一度学園に戻るのさ。」


「え?今からですか?」


「まあな。新学期の授業内容を組み直さなきゃならん。特にお前たちのな。」


「俺たちの?」


 三人は不思議そうな顔をサイネスに向ける。


「そうだ。お前たちは通常の授業プラス特別補習だな。基礎からやり直しだ。」


 空を見上げながらサイネスは白い息を一つフーッと吐く。


「あぁ!?なんでだよ?」


「Eランクのクエストで、しかも三人もいてあの様子じゃなぁ。」


「今回は調子が悪かっただけだぜ。それに俺とリケアは個人じゃCランクまでいってんだし、基礎なんていらねぇよ。」


「ハハハ。リッツはどうせ魔法を必要としないクエストばっかりやってたんだろ?魔法の実習もサボってるしな。」


「……うっ!」


「リケアは誰とも関わらない一人でやれるクエストばっかり選んでた。」


「あ、当たりです……。」


「そしてシエルは……。分かるよな?」


「フッ、まぁね。」


「イバってんじゃねぇ。」


「……とまぁ、チームになったらそう都合よくはいかん。今回のクエストがいい例だ。それぞれの克服すべき課題が見えただろう?それをクリアしないことにはとてもこの先チームでやっていけないぞ?」


 さすが教師というべきか。サイネスの的確な指摘に三人は言い返す言葉もなかった。


「ま、冬休みはあと二週間ある。クエストをやるのも結構だが、その辺の事もよく話し合っておくんだな。」


 そう言いながらサイネスは懐から巾着袋を出してそれをシエルに渡した。


「それは私からの祝い金だ。チーム結成と初クエスト達成のな。ハデに使い過ぎるなよー?」


 サイネスはニカッと笑うと、そのまま夜の街の人混みに溶け込んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「────では第57回チーム【カーバンクル】作戦会議を始めます。」


「そんなにやってねぇだろ。」


 再び酒場の席。真顔のシエルにすかさずツッコミが入る。


「……で、これからどうする?このままじゃ間違いなく補習だぜ?」


 今回のクエストで自分たちが苦手にしていた部分が浮き彫りになった。それに直面したリッツとリケアはさすがに堪えたのか、真剣な眼差しでチームのリーダーを見る。


「うーん。とりあえず学校が始まるまでこのままクエストを続けようか。」


 意外にもシエルは迷いなくスパッと答えを出した。


「だよな。数こなしていきゃ何とかなるだろ。」


「えーそうかなぁ?それで私たちの欠点が治るとは思えないけど。」


「んなもんやってみねぇと分かんねぇさ。面倒くせぇ補習受けるよかマシだぜ。な、シエル?」


「そうさ。何事も経験だよ、経験。」


 シエルとリッツは顔を見合せて「ねー?」と可愛らしく頭を傾ける。


「ちょっと。もう少し真面目にやってよ。」


「俺たちはいつでもマジメさ。」


「おうよ。授業を聞いてるフリして窓の外をボーッと眺めてる誰かさんとは違うんだよ。」


「なっ……!職員室の常連な二人ほどじゃありませんけど!?」


 二人にからかわれ顔を真っ赤にして応戦するリケアだったが、二対一では分が悪い。


「おいおいリケアっち。何で怒ってっか知んねーが、イライラしてっと美人が台無しだぜ?」


 そこへ美味しそうな香りとともにウェイトレスの女性が料理を運んできた。


「あ、アイナさん!」


「よぉシエルっち。聞いたぜ?チーム作ったんだってな。やるじゃんか。」


 荒い口調とは裏腹にアイナは繊細な動きで音もなく料理をテーブルへと置く。


「おいリッち。あんま女の子をイジメてっとアイナさんが許さねーぞ?」


「なんで俺だけ金持ちみてぇな呼び方になってんだよ。」


 独特な名前の呼び方をするアイナはロワナより一つ下の妹だ。【竜の梯子酒】の朝と昼をロワナが、夜の営業をアイナが担当している。顔は良く似ているが性格は真反対のようだ。


「アイナちゃーん!エールおかわり!」


「あいよ!ちょっと待ってな!」


「アイナ!こっちまだメシ来てねーぞー!」


「るっせーや!今持ってってやっから座ってろ!」


 いわゆる姐御肌というやつか。普段から地元の冒険者や仕事帰りの酒呑みが多い夜の酒場で、そういった者たちの相手を難なくできる彼女はここが天職なのかもしれない。


「んじゃな。また今度ズッコケ話を聞かせろよ!」


 シエルとリッツの頭を両手でわしゃわしゃと掻き乱し、イヒヒと笑いながらアイナは去っていった。


「……聞いたか?ズッコケ話だってよ。」


「未来のSランクチームの武勇伝なら聞かせてあげよう。」


 髪がボサボサになったシエルとリッツは偉そうに腕を組む。


「へー、デカイ事言うじゃん?いつの話になることやら。」


 そこにリケアも加わり、誰も見てないのにそれぞれ強者っぽいポーズをとる。


「……ま!まずはその第一歩だ。クエスト成功を祝して乾杯しよう!」


 シエルがニッと笑うと、リッツとリケアもそれに続き大きな声で笑う。そして三人は気を取り直し改めて乾杯をした。


「いやーそれにしても今日は色々あったなー。面白い日だった……」


 料理を食べながらシエルがそう言いかけたところでふと何かを思い出す。それと同じタイミングで、リッツとリケアも「あ。」という感じで食事の手を止める。


「そういえばさ、今日変わった女の子見かけたんだけど。」


「そういえば今日不思議な子に会った?のかな?」


「そういや今日ヘンな奴に会ったんだがよ。」


 三人が同時に声を出した。そして三人とも驚いた顔をする。


「あれ?もしかして、白銀色の長い髪の……?」


「空色の綺麗な目をしてて……?」


「愛想が全くねぇヤツ……?」


 店内では酔った客たちが歌を歌いはじめ、宴会のような騒ぎになる中、シエルたちの座る席だけが静まりかえる。


「……二人も見たの?俺は朝にギルドへ行く途中で見たんだ。」


「あー、お前がボーッとしてた時か。リケアは?」


「私はルヴェリア王女を見に行った帰りにちょっとぶつかっちゃって。話かけようとしたけどいつの間にかいなくなってて……。」


 話を聞いていたシエルとリッツが口に含んでいたドリンクを吹き出す。


「なに!?自分から話かけたのか!?超絶人見知りのお前が!?」


「こうして俺たちと普通に話せるのだって三ヶ月くらいかかったのにスゴいじゃん。」


「うん。なんか自然とね……。」


 リケアの人見知りは筋金入りで知られている。未だに他のクラスメートとはマトモに喋れないでいるほどだ。


「そ、それよりリッツはどこで見たの?」


「俺はクエストの時だな。森の奥行ったらあのデカネコがソイツにじゃれてやがった。」


「それどういう状況?」


「知らねぇよ。気がついたらそこにいたんだ。だがそっからデカネコがおとなしくなってよ。それで捕まえられたんだ。それに……」


「それに?」


「俺の頭痛がいつの間に治まってたんだよなぁ。」


 今度はシエルとリケアがドリンクを吹き出す。


「え!?リッツの体質って痛みだしたら丸一日は痛みが消えないって言ってたのに?」


「そうなんだよ。今だって痛くねぇし。」


「なんか不思議な感じだね。」


 リッツの魔法を使うと体のどこかが痛くなる体質は、医者に見せても理由は分かっていない。病気の類いではないらしいのだが、なぜそうなるのかは謎のままだ。


「シエルはどうなんだ?何か変わりあるか?」


「んー、特には無いかな。」


 最後はリッツとリケアがドリンクを吹き出す。


「何もねぇのかよ!」


「じゃあその子が絡んでるってワケでもなさそうなのかな?」


「コラてめーら!飲みもんで遊んでんじゃねー!」


 近くで料理を運んでいたアイナに怒られ、三人はしおしおと食事を続ける。


「……とりあえずあの女の話は置いとこうぜ。それより明日からクエスト探しやらねぇとだ。」


「そうだね。明日には依頼がいっぱい来るってニャムが言ってたし、いい依頼を紹介してもらおう。」


「二人とも別に小声で喋んなくてもいいのに。……あ、良かったら私のパン食べる?お腹いっぱいになっちゃって……。」


「いいよー。ありが……」


 シエルはリケアから受け取ろうとしたパンを見てもうひとつ何かを思い出した。


「……あ!パン屋おっちゃんにパン貰うの忘れてた!」


「…………?」


 今朝この店に来る前に約束をしていたのを思い出したシエルは叫びながら勢いよく立ち上がった。リッツとリケアは何の事か分からず顔を見合せて首をかしげる。


────────────────


「おーい!おっちゃーん!」


「よーシエル!待ってたぞー!」


 【竜の梯子酒】の大通りを挟んだ向かいあるパン屋に駆け込むシエルたち。恰幅の良い店主はちょうど店先に立っており、気前よく出迎えてくれた。


「ごめんごめん。帰りに寄るねって言ってたの忘れてて。」


「わはは!余程楽しい事があったんだな。なに、まだ店閉める前だし大丈夫だよ。ちょっと待ってな。」


 店主は店の奥へと入っていき、トレーに積まれたパンを抱えて戻ってきた。


「新作のパンと今日の残りだ。構わんから持ってってくれ。」


「え!いいの?ありがとう!」


 パンを均等に袋に入れてもらい、それぞれ人数分手渡してくれた。


「ほら、お嬢ちゃんにはオマケしといたよ。」


「あ、ありがとうございます。」


「……ありがとう。」 


「お、よかったなーお前ら。」


「城の皆にも分けてあげようっと。ありがとね、おっちゃん。」


「あぁ。また寄ってってくれ!」


 こうしてパン屋を後にした四人は大通りをガルトリー城の方向へと歩いていく。


「……そういやシエルん家に泊まるのっていつ以来だっけか?」


「半年前くらいかな?夏休みの時だよ。」


「あの時はシエルが遊び過ぎて課題全然やってないのがバレてむちゃくちゃ怒られてたよねー。」


「…………」


 他愛のない会話をしながら歩く三人の少し後ろを静かについていく少女がひとり。


「…………。リッツ、リケア。」


「……あぁ。」


「……うん。」


「…………」


 大通りの途中、街の中央にある広場に着いた時、三人はおもむろに円陣を組んだ。少女も立ち止まり、その様子を無言で見ている。


「……第58回チーム【カーバンクル】作戦会議を始めます。」


「なぁおい。こりゃ一体どういう状況だ?」


「心臓止まるかと思った……。あの子いつからいたの?あまりに自然すぎて全然気づかなかったよ。」


 三人はヒソヒソと話ながら少女をそーっと見る。少女は相変わらずの無表情で貰ったパンを食べはじめる。


「ていうかみんなが言ってた子だよね?明らかに私たちに用がありそうだけど……。」


「間違いねぇ。アイツだ。おいどーするよ?パン食いながらコッチ見てっぞ?」


「よし、俺に任せろ。」


 意を決してシエルが白銀色の長い髪の空色の綺麗な目をして全く愛想がない少女へと近づく。


「やあ。俺はシエルっていうんだ。君は?」


「……わたしは、ユグリシア。」


「そうか。いい名前だね。で、ユグリシアはここで何をしてるんだい?」


「……おなかがすいたから、パンを食べてるの。」


 二人の会話を聞いているリッツとリケアはハラハラしながら見守る。


「一応会話は成立してるみてぇだな。」


「うん。でもシエルって弱いくせに相変わらず度胸あるよね。」


 今のところ謎の少女ユグリシアは特に変わった様子はなく、パンを食べながらシエルと話している。      

 少し気になるのが、見た目は年齢はシエルと同じくらいに思えるがそれに対して喋り方がだいぶ子供っぽいところだろうか。


「そのパン美味しいよねー。良かったら全部食べていいからね。」


「……うん。ありがとう。」


「それで、俺たちはこれから家に帰るところなんだけど、ユグリシアは家に帰らないのかい?」


「…………。おうち……。」


 シエルの質問にユグリシアの手が止まる。何かを考えているようで辺りをキョロキョロと見回す。


「……じゃあ、わたしもおうちに帰る。」


「お、そうか。じゃあねユグリシア。気をつけ帰るんだよ。」


「……うん。またね。」


 シエルが手を振るとユグリシアもそれに応えて小さく手を振る。そして彼女は再びパンを食べながらゆっくりと来た道を戻っていった。


「……んー。」


「おいシエル。大丈夫か?」


「あの子帰っちゃったね。この街の子なのかな?」


 違和感ではないが、シエルは何か不思議な感情を抱くも、それが言葉で表現できないので、すぐに考えるのを諦めた。


「よく分かんないけど無事に帰ったことだし、とりあえず俺たちも帰ろうか。」


 一瞬後をつけようとも考えたが、気がつくとユグリシアの姿はもういなくなっていた。もし彼女がこの街の住人ならまた会えるだろう。そう思い三人は再び城へ向かい歩いていく。


────────────────


「……あ、シエル様。お帰りなさいませ。」


 城門付近まで来ると一人の女性がシエルたちを出迎えてくれた。


「あれ?ダレンじゃないか。俺たちを待っててくれたの?」


「はい。防衛任務を兼ねてますけどね。」


 ダレンはフフッと微笑する。長身でスタイル抜群な彼女は、よくモデルに間違われるが本職は騎士だ。アリアスの部隊に所属しており、彼と同じ白を基調とした騎士制服を華麗に着こなしている。肩まである長めの黒髪に白いネクタイがよく似合い、彼女の真面目さが顕著に現れている。


「それより今日はいかがでしたか?」


「うん。おかげでスゴく楽しかったよ。そっちは大丈夫だった?ダレンにも無理させてごめんな。」


「いえ、私どもはそれほどではありませんでしたよ。ヴァウラは文句を言ってましたけどね。まぁ詳しくは明日陛下からお話があるでしょう。」


 ダレンはやんわりと言うが、その苦笑いを見る限り、中々大変だったようだ。


「うん。ありがとう。あ、そうだ。パン貰ったんだけど良かったら皆で……」


 シエルは途中で言葉が詰まった。なぜならダレンの手に持っているパンがいっぱい入った袋に目がいったからだ。


「あれ?パンなら先ほどからいただきましたよ?」


 不思議そうな顔をするダレンの後ろからユグリシアがヒョイと顔を覗かせる。


(……!?!?い、いるぅうぅぅぅぅ!?)


 三人は驚きのあまり声が出なかった。あり得ない状況を整理するため、今度は光の速さで円陣を組んだ。


「だ、第59回チーム【カーバンクル】作戦会議を始めますっ!」


「なぁおいこりゃ一体どういう状況だ!?」


「心臓止まるかと思った!なんで私たちより先にいるのあの子!?」


 予想だにしない出来事に混乱気味の三人は各々叫びながらユグリシアを見る。こちらの事情など知るよしもないダレンは彼女がシエルたちの友達と疑いもせず普通に会話をしている。


「……シエル様。少しよろしいでしょうか?」


「……?」


 するとダレンがシエルを呼んだ。


「一体なんの話だ?」


「さぁ……?」


 少し離れた場所でリッツとリケアは声をひそめる。さすがのシエルも呼ばれた時は表情を強ばらせていた。


「……あー、なるほど。分かったよ。」


 しかしダレンと少し話をしてこちらに戻ってくるシエルの表情は、何だか申し訳なさそうな感じに見えなくもない。


「あー、リケア。ちょっといいかな?」


「……!?」


 そう話すシエルの声が震えているのを聞いたリケアはすぐに感づいた。よく見ればシエルは笑いをこらえている。そう、これはシエルとリッツが何か悪巧みをする仕草と同じだ。


「ダレンが言うには、ユグリシアはここに泊まりたいそうだ。んで、一人じゃ心細いからリケアと一緒の部屋がいいんだって。」


「…………は?」


「ぶふっ!マジかよ。そりゃいけねぇなぁ?まぁ女同士なんだし、リケアが面倒見てやんなきゃだぜ?」


 察しのいいリッツはニヤケ顔ですぐさま便乗する。


「ちょちょちょちょ!おかしいおかしい!?え、だってあの子家は!?家帰るって言ったよ!?なんで泊まる流れになった!?」


 今まで自分の家族以外に同じ部屋で寝泊まりなどしたことがない人見知りエルフは、早口でまくし立てるが、二人に肩をポンッと叩かれユグリシアを見るよう言われる。。


「…………」


 三人の視線に気づいたユグリシアはわざとらしく自分の白いロングスカートをキュッと握りしめ、ほんの少し不安そうな顔で潤んだ瞳をこちらに向ける。


「はぅっ……!」


 その可愛らしい姿にリケアのカワイイセンサーが即座に反応し、胸を締め付ける。


「な、なんて尊い……。こんなのズルいよ……。」


 結局ユグリシアの行動は謎を呼ぶばかりで、すぐに解決できる事案ではない。そこでシエルとリッツは『面白さ』優先に方向転換したのだ。こうなってしまってはリケア一人ではどうすることもできない。

 それにしても、シエルとリッツのアドリブに瞬時に合わせるユグリシアも中々の腕だ。


「さぁリケア。」


「どうする?」


 ニヤつく二人に迫られたリケアの選択肢はもはや一つだけだった。


「うぅ……。よ、よろしくお願いします……。」


 押しに弱いリケアは必死の抵抗もむなしく情けない声をあげたが、


「……イー・トセーレ……!」


 二人に聞こえないくらい小さな声で言葉を呟いた。エルフ語で『あいつら後で絶対殴る。』という意味。

 恐怖の仕返しが悪ノリをした二人に降り注ぐのは、もう少し後の話になる……。

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