第七話:過去を見て、前を向く
先程の部屋の先は、またも一本道。
しかもお
俺は一人、何も言わずに先を歩き、後ろから無言の三人が続く。
正直空気が重い。だけど、どう声掛けりゃいいんだって……。
重い足取りのまま暫くして。
新たなる下り階段を降りた先に、またも豪勢な扉が見えた。
扉越しに感じるヤバさ。
殺意じゃない。威圧じゃない。
だが、強大な何かが待っている感覚。
三人にも早馬車で伝えていたけど、正直、最古龍ディア相手に策なんて浮かばなかった。
策があったのはダークドラゴン相手だけ。
だがそこを突破しなきゃ、ディアにすら辿り付けない。だからこそ、そこだけは何とか策を講じて乗り切ったけど。
今この状況でまともにディアと戦えるか? って言われたら、正直かなり微妙だ。
あいつらを困惑させて、戦いどころじゃないかもしれない。
だけど……だからって、どうすりゃいいんだよ。
パーティー組んだって、あいつらが俺を受け入れるとは限らない。
それこそ余計な罪悪感とか持たれて、今以上に戸惑うかもしれない。
しかも絆の加護を与えようとすれば、前衛はほぼミコラ頼り。相手が同格なら兎も角、魔王ほどの力を持つ敵にそれは流石に悪手だ。
そんな中で戦えって言ったって……。
……まあ、考えても仕方ない。
兎に角こいつらを守り切って、最古龍ディアに勝って、ロミナを助ける事だけ考えろ。
もし命を落とす必要があるなら、それは俺だけで充分だ。
それが、俺が目指す希望なんだからな。
……さて。
ご対面と行くか。
扉の前に着くと、俺は一度だけ深呼吸した後、扉に手を掛けようと動く。
だが。
「カズト。待つんじゃ」
ルッテが、そんな俺の行動を制した。
「お主は言っておったな。母上への策はないと」
「……そうだな」
「ならば、我等とパーティーを組め」
ルッテの言葉に、俺はゆっくりと振り返る。
「お主と共にあれば、我等は強くなり、お主も我等の新たに身につけし力を得る事ができるんじゃろう?」
「……止めとこうぜ。確かにお前らを強くできる。だけど、その間は俺がまともに前衛として機能しなくなって、お前達が懸念してた前衛不足に陥るんだ。何より仲間になったら過去の記憶も思い出す。そんなのお前らの古傷を
俺は強く警告した。
だってそうだろ。あいつらは俺を善意でパーティーから外した。だけどその理由も、それまでの事も知る事になる。
お前らがそれで傷つくのは目に見えてるって。
……そう思ってたのに。
「構わないわ。私はそれでもロミナを救いたいもの」
「俺も。やれる事やらずに後悔なんてしたくねーからな」
「お主はずっと苦しんだんじゃろ? その戒めのようなものじゃ。それにお主との過去を思い出せるのは、少々楽しみじゃしの」
「あ、確かに! お前が俺達のパーティーにいた時、どんな事してたか知れるのは面白そうだよな?」
「確かにそれは興味あるわね。ほら。早く思い出させなさい」
……何でそんなに楽しそうに言うんだよ。
ったく。俺が悩んだ甲斐がないだろって。
頭を掻き、ため息を漏らす。
……何が起きても。どう思われても。
ロミナの為だ。覚悟はしないとな。
「……ひとつだけ。今回だけは、俺をパーティーリーダーとさせてくれ。ランクも過去も関係ない。この旅の間だけは譲れない。それでもいいか?」
「ふん。今更じゃな」
「そうだぜ。じゃなきゃお前の指示になんて従わねーよ!」
「それだけなら受けてあげるわ。そのかわり、戻ったら私達とパーティー続けなさい。勿論、ロミナやキュリアも一緒にね」
屈託なく笑う三人に、俺も笑う。
未来の話は置いておく。俺がリーダーでありたいのは、今の為だからな。
「じゃあ、決まりだ。今からお前達は俺のパーティーメンバー。いいな?」
その言葉に頷いた三人は、瞬間。
強く目を見開き、唖然とした。
……ふっ。
きっと俺なんかと旅した、要らない記憶が蘇って驚いてるんだろ。
足ばっかり引っ張った、足手まといを連れた旅をな。
俺は、皆がそのまま落胆と悔しさを見せる。
そう思ってたのに。
……こいつらおかしいんだぜ。
しばらくしたら、三人とも涙目になって、嬉しそうに笑いやがったんだから。
「……どうりで、お主と会った事があると思う訳じゃな」
ん?
「そうね。よーく分かったわ。昔の貴方が」
へ?
「まずは約束果たしてもらおっかなー。ほら? ほら?」
いやミコラ。
お前俺に擦り寄ってにんまりしやがって。
何を期待してるんだよ!
「な、なんだよ!?」
「俺達、魔王を倒して帰って来たんだぞ。褒めてくれるんだろ?」
「へ? あ……」
瞬間。
俺の顔は真っ赤になった。
記憶が戻るって……別れ間際のあの未練がましい台詞まで、ばっちり思い出してるって事か!?
「最高で美少女揃いのパーティーなんて、ずいぶん褒めちぎってくれちゃって。で? 貴方もやっぱりハーレムとか期待しちゃってたのかしら?」
「ば、馬鹿! そんな期待なんかするか!」
「おーおー。この恥ずかしがる感じ、堪らんのう。お主はすぐこうやって照れておったのう。生意気で、いちいち台詞が臭かったがの」
「う、うるせー!!」
面倒な二人の弄りに、俺は必死になって叫ぶ。
これ、完全に俺の黒歴史掘り返しただけじゃねーか。
やっぱりパーティーなんて組まない方がマシだった……。
「それよりカズト。俺達帰ってきたぞ! お前に逢いたいって気持ちは忘れてたけど……だけど、ちゃんと生きて帰って来たぞ。……カズト。本当に、あの時まで一緒に旅してくれてたんだよな? 仲間だったんだよな?」
「……ったく。当たり前だろ。……よく、頑張ったな」
お前らとの旅は色々苦労したけどな。
って、ミコラ。頭撫でただけでそんな嬉しそうににっこりするんじゃねーって。
「ふふっ。私達が貴方を置いて行った理由、嘘じゃなかったのよ。だから今、昔の貴方の記憶を取り戻して、改めて再会できて。本当に嬉しいし、幸せよ」
「フィリーネ……」
何だよ。お前らしくないな。
目尻の涙を拭いながら、本気で幸せそうに笑うなって。
「お主は叶わぬと知り、忘れられると知りながら、我等に発破を掛けたのじゃな。我等の決意を知って」
「違うって。そんなの買い被り過ぎだ」
まったく。ルッテも忘れておけよ。
お前のそういう態度。本気でむず痒くて仕方ない。
「じゃがそのお陰で、ロミナは最後まで戦い続けてくれたんじゃ。お主がいた事が、きっと支えじゃったはずじゃ」
「キュリアだってそうだぜ。お前は知らないだろうけどさ。あいつ、カズトをパーティーから外すってロミナに言われた時、泣きながら必死に抵抗したんだからな」
「は? キュリアが!?」
まじかよ!?
その姿はさっぱり想像できない。
なんとなく淡々とただ否定するイメージしかなかったし……。
何とも困った顔をした俺を見て、皆が笑い合う。
「まーでも、これですっきりしたぜ。……なあ、カズト」
「ん?」
「行こうぜ。ロミナを助けに」
「そうね。ルッテも覚悟はいい?」
「うむ。母上相手であっても、ロミナを助けたい想いは変わらんからの」
三人の真剣な視線。
改めて感じる、昔よく向けてくれた、覚悟ある眼差し。
「前衛は任せとけ! その代わり、とびっきりの力を寄越せよな」
「ミコラ。お前いきなり現金過ぎるだろ」
「あら。私も期待しているわよ。リーダー」
「おいおい、フィリーネ。お前まで何言って──」
「聖勇女パーティーは一癖ある。お主が言ったんじゃ。覚悟せい」
「……はぁ」
まったく。
本当に、癖が強くて、可愛くて、最高の奴らだよ。
……俺は、絶対にこいつらは死なせない。
そして、絶対にロミナを呪いから解放してやる。
そんな奮い立つ気持ちを隠すように、呆れ笑いを見せた後。俺は表情に真剣さを宿す。
「さて。そろそろ無駄話は終いだ。行くぞ」
「ええ」
「いつでもいーぜ!」
「よかろう」
皆も同じ顔をしたのを見て頷いた俺は。
こうして、最後かもしれない戦いへの扉を開いたんだ。
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