第66話 精霊の赤ちゃんと呪い

 みんなで和やかにお菓子を食べる。

 日持ちのしない、果物や生クリームをふんだんに使ったお菓子を中心に食べていく。

 みんながお腹いっぱいになっても、まだお菓子は残っていた。


「あとはクッキーとかだし、明日食べても良いな」


 俺がお菓子を台所に持っていって戻ってくると、オンディーヌが仰向けになった猫のお腹をこちょこちょしていた。


「…………」

「にぃにぃ!」


 先ほどまで怖がっていた猫だが、今はもう大分落ち着いている。

 楽しそうにオンディーヌの手にじゃれついていた。

 とても良いことだと思う。


 俺が椅子に座ると、ジュジュが「じゅうじゅう」鳴いて甘えてきたので抱っこする。

 すると、たちまちうとうとし始めた。

 お腹がいっぱいになって、眠たくなったらしい。

 そんなジュジュの背中を優しく撫でる。


「グレン。ネコのこと、どうする?」

「どうするのがいいんだろうなぁ。子猫だし親元に戻すのがいいんじゃないか?」

「精霊は生物ではない。親はいない」

「そうなのか?」

「そう。自然発生する。世界が親と言ってもいい」


 それは知らなかった。

 だが、シェイドが、精霊王が死んだら、時間をおいて新たに精霊王が生まれると言っていた。

 精霊王も自然発生的に生まれると言いたかったのかもしれない。 


「猫はやっぱり立派な魔導師と契約した方が良いのかな?」

「魔導師が精霊と契約するのは力を得るため。基本的に弱い赤ちゃん精霊と契約したがる魔導師はいない」

「それはそうかもしれないが……」

「魔導師と契約精霊は相棒。激しい魔法の行使をともにしないといけない。当然戦闘も」

「赤ちゃんに戦闘させるのは良くない気がするな」


 猫を魔導師の契約精霊とするのは余り良くないのかもしれない。


「あ、ジュジュも赤ちゃんなのに契約してしまったが……」

「あのとき、契約しなければジュジュは死んでいた。やむを得ない」

「そうか。ジュジュは死にかけていたものな」

「そう。契約がなされたことで、ジュジュは呪いに一層強くなった。今はもうシェイドを踏み台にしてもジュジュに呪いをかけるのは無理」

「それならよかったよ」


 俺に抱っこされたジュジュは気持ちよさそうに寝息を立てている。

 本当にジュジュが助かって良かった。


「……あいつもどうせ支配するなら赤ん坊じゃなく、成長した精霊にすればいいのに」


 もちろん、成長した精霊なら呪いをかけていいというわけではない。

 だが、弱くて幼い精霊を敢えて選ぶ意味がわからない。

 悪趣味がすぎる。


「ただ呪いをかけるより、呪いで支配するのは難しい。成長した精霊は強いから、呪いを使っても支配するのは難しい」

「そういうことか。あいつの趣味で赤ちゃんを狙ったわけじゃないのか」


 そうなると、これからも精霊の赤ちゃんが呪いの被害に遭う可能性が高い。

 それは、とても良くない。 

 当然、成長した精霊ならば良いというわけではない。

 精霊に限らず赤ちゃんは体が弱く、魔力も少ない。

 呪いの悪影響が大きくなりやすいと考えるのが自然だ。

 弱いからこそ、悪い奴らに狙われてしまうのだろう。


「うーん。何もできないのはしんどいな」

「気持ちはわかる」


 オンディーヌは深く頷いた。

 オンディーヌに撫でられていた猫が、うとうとし始めた。

 その頃には、シェイドは、とっくにベッドの上で仰向けになり、気持ちよさそうに眠っている。

 一番早く眠ったのはシェイドだった。


「猫というか、精霊の赤ちゃんが契約精霊になることが勧められないことはわかったんだが」

「ん。呪いへの耐性?」


 口にする前に、オンディーヌは俺の疑問を理解してくれた。

 オンディーヌは本当に頭の回転が速い。


「そうそれ。精霊王であるシェイドは強いはずなのに、名前が無かったから呪われてしまっただろう?」


 赤ちゃんである猫が再び呪われた際、抵抗するのは難しい気がする。

 呪いを防ぐには名前を与えて、契約するのが一番ではないだろうか。


「確かに心配。でも、今のネコは精霊の上王ジュジュの保護下にある。だから大丈夫」

「そんな力がジュジュにあるのか?」

「ある」


 オンディーヌは力強く頷いた。

 話を聞いて、俺にはもしかしたらと思いついたことがあった。


「呪いを解く前、ジュジュと猫が共鳴するように鳴いたんだが、そのとき急に猫にかけられた呪いが見えるようになったんだ」

「ん。それがジュジュの力。呪いからネコを保護しようとして鳴いた。だけど解呪するにはいたらない。呪いとジュジュの力がせめぎ合った」

「そのせめぎ合いの結果、見えるようになったということか?」

「そう。せめぎ合えば呪い自体が大きく揺れて、変化する。だから感知しやすくなる」

「そういうものか」

「成長したジュジュならともかく、今のジュジュの力だけでは解呪は無理」


 シェイドが、ジュジュは呪いに非常に強いと言っていた。

 こういう能力も含めて強いということなのかもしれない。


「だからグレンの力が必要」

「そうか。俺が役立てるならなによりだよ」

「ん。解呪されたあとすぐに、ネコのことをジュジュが保護している。だから大丈夫」


 俺が気づかない間に、ジュジュは一生懸命猫のことを守っていたらしい。

 ジュジュは、自分も赤ちゃんだというのに、とても面倒見がよく、そして優しい。

 眠っているジュジュのことを優しく撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る