第53話 特定地域における人間の風習

「おお、グノーム、居たのか」

「いつも近くにいる。だが土の中にいるか、姿を消しているか、だが」


 俺も会うのが久しぶりだ。数年ぶりだろう。

 サラマンディルやオンディーヌと違って、グノームとシルヴェストルはいつも姿を消しているのだ。

 以前聞いたところによると、シルヴェストルは風になり、グノームは土になって過ごしていることが多いらしい。


「じゅっじゅ!」


 ジュジュもグノームをみて大喜びだ。

 グノームは泥人間の状態で湯船を上がると、普通の人型になる。

 大柄の鍛え上げられた人間のようだ。だが、体毛が一本もなく肌の色は灰色だ。


「精霊の上王ジュジュさま。お初にお目にかかります」

「じゅ?」

「土の精霊王。グノームにございます」

「じゅ~」

「はは。ありがたき幸せ」


 ジュジュによろしくと言ってもらえて、グノームは嬉しそうだ。


「この泥風呂は、我が魔力を込めた清浄なる土とオンディーヌの水、それにサラマンディルの熱、シルヴェストルの流れによって作られているゆえ、存分に浸かって癒やされていっていただきたい」

「じゅっ!」

「ジュジュさまの回復にも寄与することでありましょう」


 精霊王の力を結集したお風呂らしい。

 贅沢が過ぎる。


「こっちは私が管理している綺麗な水だけのお風呂。泥を洗い落とすのに使うといい」

「泥まみれの状態で入って良いのか?」

「いい」


 オンディーヌが管理しているお風呂というのにも興味はある。

 泥落としだけじゃなく、お風呂自体を楽しみたいところだ。


 その後、俺とジュジュは改めてグノームたち精霊王にお礼を言った。

 グノームは満足げに微笑んで、土の中へと戻っていく。


「じゅ~~」


 グノームが消えると、ジュジュは早くお風呂に入りたいとアピールしてきた。


「そうだな。入ろっか」

「じゅ~」

「シェイドはどうする?」

「我もジュジュさまと一緒に入るのである!」


 そういって、シェイドは洗い場の方に入っていった。

 そして、俺はヴィリと一緒に服を脱ぎ始める。

 その様子をじっとオンディーヌが見つめていた。


「オンディーヌ?」

「ん。大丈夫。安心して。私も入る」


 オンディーヌは服を脱ぎ始める。


「ちょっと待て」

「ん?」

「人の風習というか、この辺りの人の風習としては男女で一緒に風呂には入らないんだ」

「知ってる。でも、私は精霊」

「そうだね。でも、今回は俺たちに合わせてくれないか」

「むむ。グレンは我が儘」

「すまない」

「わかった」


 オンディーヌは不服そうながら出て行った。


「じゅぅ?」


 ジュジュは、オンディーヌが一緒にお風呂に入ってくれないことが疑問らしい。


「人は、いやこの辺りの人の場合は、大人の男女は一緒に入浴しないものなんだよ」


 人同士でも価値観は違う。裸を恥ずかしいと思うかは時代と地域によって違う。

 当然、精霊と人ではもっと違うのだ。


「じゅ?」

「確かにオンディーヌは人間じゃ無いけど、外見はほぼ人間だし」

「じゅっじゅ~」


 服を脱いだ俺は納得した様子のジュジュを抱っこして、洗い場へと向かう。


「ジュジュさま、グレンさま! いいお湯なのである!」

「じゅっじゅ!」


 シェイドは泥風呂でバシャバシャ泳いでいた。

 それを見たジュジュも自分も泳ぎたいと鳴いている。


「ジュジュ。先に体を洗わないといけないんだよ」


 俺は初日にジュジュに人間のトイレを教えなかった。

 そのせいもあって、大変なことになったのだ。

 やはり、きちんと最初に人間のマナーを教えておくべきだろう。


「じゅ?」

 ジュジュは「シェイドは体を洗ってないがいいのか?」と疑問に思っているようだ。


「まあ、シェイドはうっかりしがちだからね」

「そ、そうだったのだ。つい我としたことが……」


 そう言いながら、シェイドは泥だらけのままこちらに来る。

 俺の意図を察してくれたようだ。

 シェイドはとても気の利く精霊である。


「じゃあ、ジュジュには人間のお風呂に入る作法を教えよう。まず体を洗って……」

「じゅ!」


 俺はジュジュの体を洗っていく。

 トイレした後などに洗っているから、ジュジュはそんなに汚れてはいない。

 だが、一応、羽の付け根や、尻尾の先、手足の指や間まで綺麗に洗っていく。


 それをみて、シェイドも自分で自分のことを洗う。

 シェイドは竜なので手を使って自分で洗えるのだ。

 だが、背中の羽の付け根には手が届かない。


「よし。ジュジュ。綺麗になったよ。俺も体を洗うから少し待っていてくれ」

「じゅっじゅ!」


 ジュジュを床に置くと、ちょこちょこ歩いてシェイドの後ろに移動した。

 そして、シェイドの背中を手でこしこしとこすり始めた。


「じゅぅ~」

「おお、ジュジュさま! なんと! 背中を流してくださるのか!」

「じゅ」


 俺に洗ってもらったのと、同じことをシェイドにしてあげているのだろう。


「シェイドは背中に手が届かないことによく気づいたなあ」

「ジュジュは頭が良いね。僕が赤ちゃんだった頃よりも賢いかも」

「まるで、赤ちゃんだった頃を覚えているかのような口ぶりだな」

「なんとなくだけど、覚えているよ?」


 本当か嘘かわからないことを言って、ヴィリは笑っていた。

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