15-4 決意
「よし。ここかな」
私達はノアさん達の近くで、採掘を初めた。地中に眠る微かな魔力を感じて、私の魔法でそれを地層ごとくり貫く。
「よっ」
20メートルくらい縦にくり貫いた。ズボッと地層の円柱が出てくる。うーん。反則だね。私の魔法。
その真ん中辺りに、キラキラ光る箇所があった。これだ。
「クロウっ」
「うん」
クロウが、それをガシッと手に取った。真珠みたいな、白くて虹色の輝き。ちょっとだけマナプールに似てるかも。
「良いね。この辺はまだ結構埋まってそうだ」
「ふぅ。ちょっと休憩」
もう、おひさまは昇り切っていた。結構集まったと思う。イザベラさんにリアカー借りてきたんだけど、もう山盛りだ。
ゴールドラッシュ、凄い。
「これでどれくらいかなあ」
岩場の影でひと休み。山盛りの中から選別してるクロウに訊いてみた。
「裏世界一般家庭の1日の消費電力は平均して約30kWh。今の魔力変換効率だと、その電力と等価の魔力は約60前後。……ま、平均21の『無垢の魂』ひとりじゃ賄えない訳だね」
「そうなんだ。1日60……」
今の私基準だと、1日の睡眠で快復するどころか常に使っていてもお釣りが出るくらい回復する量だ。機器が壊れない限りは困ることは無いね。自給自足ができてる。
当然だけど、こんな家庭は魔女の居る家だけだ。裏世界人口5億人の内、『死者の魂』が1000。その中でも魔女に成るのは100人未満。市場に魔力を供給するのは魔女だけじゃないけど、安定した魔力の確保手段が無いとこの先やっていけないのが今の裏世界だ。
今の所、このゴールドラッシュによって、裏世界中に魔力が行き届くことになってる。加えて、既存で流通してたマナプールと、魔女他、理性のある怪物や巫女が売る純魔力。いつ終わるか分からないんだよね。魔力バブルって感じかな。魔力供給を安定させるには、私達による魔女育成が急務な訳だね。ユインの談では、目処は付いてるみたいだけど。
「今集めた量だと……取り出せるのは200くらいかな。魔力家電自体はまだまだ効率上げられるって話だけど」
「へえ、凄いじゃん。200なら相当だよ」
「君の仕事効率が凄いだけだよ」
「えっへん」
「…………」
このさ。
ちょっと冗談言ってクロウにジト目されるの好きなんだけど、私変態なのかな。
✡✡✡
「?」
向こうの方で、ざわざわと声がし始めた。悲鳴も聴こえる。あの丘の向こうだ。
「なんだろ」
「……怪物だ」
「えっ」
クロウが黒い瞳で見据える。こういう時、察知能力的にはまだ私の方が高い筈なんだけど、その判断力はクロウが上手だよね。
「あっ。見えた。おっきい……蛇?」
「いや、ワームだ」
「ワーム?」
「モンゴリアン……いや。インディアン・デス・ワームかな」
真っ赤な身体。ミミズみたいな見た目。電車のような大きさ。
丘の上で、暴れてる。
「こっちに来るな」
「えっ」
皆が、逃げ惑っている。地響きと一緒に、砂嵐を起こしながらワームがこっちを向いた。
「……『銀の魔力』は奴らにとってご馳走だ」
「なにそれっ?」
来る。ギザギザの口が見えた。あれですり潰されたらどうなるんだろ。
物凄い勢いで。私に向かって。
「ギンナっ!」
「あ……」
「下がってろ!」
クロウと、ノアさんが。
私の前に出てくれて。
✡✡✡
「あのねえあんた」
「!」
ワームが。もう、すぐそこまで這いずって来た所で。
ズズン、と。地響きと一緒に、砂煙が起きて。
音と振動が、収まった。
「フ……っ」
その、声。
魂。
背中までを覆う長い銀髪。大きく鋭い銀の瞳。身長も165くらいあって、胸も大きくなってる。
「
「フランっ!」
変身魔法を完璧に使いこなしているフランが、ワームの死骸の上で仁王立ちしていた。白いTシャツにデニムパンツという、凄いラフな格好で。
「お……っ。フラン・ヴァルキリーじゃねえか。『
ノアさんがフランを見上げてそう言った。
「ヴァルキリー?」
「そう。周りが付けた二つ名みたいなものだけど。名乗ることにしたの。あんたが『
私が首を傾げてる間に、フランはワームからジャンプして、スタンと着地した。パンパンと土埃を払い、クロウを睨んだ。
「あんた『まだ』、なのね」
「……そうだ。だけど今回で、何か掴むつもりだよ。いつまでも、『君達』に迷惑は掛けられない」
「迷惑なんて思ってないわよ馬鹿。……口が悪いのは謝るわ。ごめんなさい。……ずっと裏アメリカに居るから、その影響よ」
クロウは『まだ』無垢のまま。私達は皆、彼を心配してる。フランだってそうだ。私達全員で、私と、彼を救ったんだから。
でも。
「久し振り、フラン。なんだか変わったね。大人っぽくなった」
「…………あんたはあんまり変わってないわね。ギンナ」
「えっ。そうかな。ちょっと背とか、伸ばしたんだけど」
私も変身魔法使ってるんだけどな。背とか、髪とか、胸とかさ。
……まあ、フランの方が大胆に胸を盛ってるけど。
「……で。あんたは『
「おっ。俺のこと知ってくれてんのかい」
「3ヶ月前のリンダム解放戦で『100人斬り』やってたじゃない。有名よ」
「……まあよ。危ねえことはすんなって、チビ達に泣き付かれてな。俺ひとりなら続けてたが、俺はアメリカカヴンのボスだ」
「それで、最強の傭兵から採掘家に転職って訳」
「まあよ」
フランが殺したワームの死骸に、採掘してた人達が集まってきた。アメリカカヴンの子達も、ノアさんの近くにやってきた。
そのひとりを、ノアさんが撫でる。
最強の傭兵……だったんだ。
「お前さんはいつまで続けるんだ?」
「…………」
傭兵。フランはアメリカで、それをやってるんだ。具体的なことは、お互い共有してない。私が知ってるのはユインのことくらいで、フランのことも、シルクのことも詳しく何をやってるかは知らない。フランはエトワールさんの手伝いだと思ってたけど、それは表世界のことだもんね。裏だと、傭兵やってたんだ。
確かにそれが、フランの一番稼げることだとは思うけど。裏アメリカ大陸って、まだまだ戦争が続いてるんだよね。いくつも国があって。
「……うるさいわね。ちゃんと考えてるわよ。今はとにかくお金が必要なの。あんたみたいに、ゴールドラッシュにも使えるような魔法も無いし。私はこれで良いの。好きに生きてるわ」
「そうか。なら俺から何も言うまいよ」
なんというか。
このノアさんとのやり取りを見て。
やっぱり、フランは変わったなあと思った。
「で。ギンナもゴールドラッシュ?」
「うん。ウチのカヴンも、魔力石は確保しておきたいって、ユングフラウさんからの依頼」
「そう。どれだけ滞在するの?」
「うーん。ユングフラウさんには『現場見てから判断して』って言われてるんだよね。まあ、あんまり採り過ぎるのも良くないし。そこそこで帰るよ」
「そう」
「……?」
フランは、私の方をじっと見て。毅然とした目付きで。ツンツンした様子で。
少しずつ、近付いてきて。
「おっ」
「あっ」
ノアさんとクロウが、声を上げて。
気付いたら、フランは私に抱きついていた。
「フラン……?」
「うるさい。良いから。じっとしてなさい」
「…………うん」
ああ、なんだか懐かしい。そうそう。こんな感じだった。
フランの匂いと感触と。温度。背は同じくらいだ。1年前と一緒。むぎゅってなったお互いの胸が、なんだか『1年』の変化を感じられて。
1分くらい。そうしてた。
✡✡✡
それから。
ワームは何度かやってきたけど、全部フランが殺して回った。私達採掘者達を守ってくれた。途中、ノアさんも参戦して。気持ち良さそうに銃をぶっ放して? FOOOO!! って叫んでた。
「どうやらここだけじゃなく、各地でワーム発生が頻繁に起こってるみたいだ。元々は地中に棲んで、裏世界でも人の生活圏から離れた所で活動してたみたいだけど、このゴールドラッシュで『起こされた』みたいに暴れてる。今まで人が踏み入ったことのない場所まで、魔力石が掘れるからね」
クロウの情報収集能力は流石だった。まだ、インターネットのようなものは裏世界に無いのに。まるで即座にケータイで調べたみたいに。……クロウが魔女に成った時の魔法は、そういう能力なのかな。
「危険だね」
「ああ。採掘地護衛や、採掘者専属護衛の需要が高まる。既に結果を出してるフランとノアは引っ張りだこになるかもな」
とか言ってる間にも。私達のリアカーに積まれた魔力石はパンパンになってきた。もう、今日はこのくらいで終わりかな。これでも充分採れたと思うんだけど。
「…………」
「……クロウ? どうかした?」
「ん。……いや。ちょっと考え事さ」
「? なんでも言ってね?」
クロウが、積まれた魔力石をぼうっと眺めていた。
「…………ああ」
「……?」
✡✡✡
それから、3日。魔力石の採掘をした。ノアさん達と仲良くなったし、フランも手伝ってくれた。魔力石は結構な量を採れた。クロウが計算してくれたけど、平均の100倍くらい採れたって。もう、あの場所の魔力石は殆ど採ったかもしれない。
「じゃあ、そろそろ撤退しようかな。ねえ」
ブラックアークに積んだ大量の魔力石を確認してから振り向くと。
「クロウ?」
クロウはブラックアークに乗り込んでなくて。
見送りに来てくれたらノアさん達やフランの、隣に立っていた。
「ギンナ。僕はここに残ろうと思う」
「え?」
そう、言った。
「どういうこと? 残るって……」
「僕はそろそろ、『無垢』を卒業したい。いつまでも君達を頼ってはいられない」
「え、いや……。魔力は? 私が居ないと、魔力切れでクロウは死んじゃう……」
「ここには。魔力石がある。採掘できる限りは、僕は死なない」
「!」
突然の宣言だった。
「……学校。ソーサリウムは?」
「君からユイン先生に伝えてくれ。きっと、それで理解してくれる」
「…………え」
私は。この事態に。
「………………えっと」
言葉を出せなかった。彼と、離れたくなかったのだろうか。それもあるけど。
何か問題があるなら、一緒に。解決したかったんだ。
「次に会う時は、僕は無垢じゃない。きっと、君に見合う『男』になる」
「!」
言葉が出ない間に。
どんどん進んでいく。
クロウは一歩前へ出て、私のぶらついた手を握った。
暖かい。
「その時。僕は君にもう一度、思いを伝えるよ」
「……!」
黒い瞳が。
決意を表していた。有無を言わさず。
私達は別れた。
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