第16話 Take the devil 1



ドドーーン!

ドガガーン!!


「おい、こっちだ!」

「侵入者は人間一人だ!!」

「出合え! 者共、出合え!!」

「これ以上、城に侵入させるな!!」


ここは魔王・ヘルザイムが人間界へ侵略をするために築いた山の中に聳える『ゼンセン城』という名の城だ。

魔王・ヘルザイムが魔力で一夜にして築城したと言われている難攻不落の城。

そこに一人の男が攻め入ってきた。


「止めろよ!お前たち!

 俺は魔王に呼ばれてきたんだよ!!

 何度言えば分かるんだよ!!

 降参、降参!!」


グサッ!


2m近いオーガが巨大で鋭い槍で男を突き刺した。

男は血を吹き上げ、体には大きな穴が開きうつぶせに倒れた。


「やったぞ、死んだぞ!」


オーガは右手で槍を突き上げ、左手でガッツポーズをした。


・・・・が、男は何事も無かったようにムクっと立ち上がる。


「ウワーーー!」


オーガは死んだはずの男が何事も無かったように立ち上がり、恐怖のあまり後ずさる。


「だから、ヘルザイムに呼ばれたんだよ!!

 お前ら、さっさと取り次げよ!

 調子に乗っていると城ごと吹き飛ばすぞ!! メテオ、落とすぞ!!」


城の通路の奥からスケルトンの大群がドヤドヤと駆け足をしながら迫ってくる。


「ち、めんどくせーな!! 行け! 5m鉄球!!」


が左腕を前に素早く突き出すと、どこからとも無く5mほどの巨大なアダマンタイトで作られた球が現れ、ゴーーーー!と凄いスピードで地面を転がりスケルトンの大群を一匹残らず弾き飛ばした。


「スケルトンなら死んでも大丈夫だろ」


「貴様ら、どけ!! 俺が相手をする!!」

そこへ、どこからどうみてもペンギンにしか見えない魔物が部下の魔物を掻き分け・・・・・

侵入者と言われた男はもう一度見返してみたが、やはり大きいだけのペンギンだ。

が、そのペンギンは2mを雄に越え、先ほどのオーガよりも大きかった。

その巨大なペンギンが短い足をペタペタと音をたてながら巨大な斧を持ち怒鳴りながらやって来た。


「ペンゴ?」

desperadoならず者は200年ほど昔の事を思い出した。


「おい、貴様! 四天王のペンザ様が直々に相手になってやる! ありがたく思え!」


巨大な斧を両手で持ち構えた。


(ペンゴはもう、じいさんだったからな・・・・・)


「お前、ペンゴじゃないのか!?・・・・・・息子か?」


「貴様、なぜ親父を知っている!!」


「あぁ、200年ほど前、お前の親父をフルボッコにしてやったんだよ!」


「貴様! 英雄シロ・ブルーノか!」 


「あ~~そんな名前だったっけ!?

 一々、そんな通り名なんて覚えていないんだよ」


男はいつも適当な名前を名乗っていた。

名乗らないことも多く、その土地土地に住む者たちが適当につける場合も多かった。


「貴様のせいで親父は四天王を降りる事になったんだ!」


ペンザは巨大な斧を両手で強く握り締めにらみつけた。 


「そりゃ、お前の親父が弱いから負けたんだよ!

 魔族は力こそが正義なんだろ!」


「親父の仇を取らせてもうら!!」


そう言うとペンザは巨大な斧を男に目掛け振り下ろした。


ドッスーン!


男は軽々とバックステップでかわす。

石で作られた城の床に斧はめり込み、破片が辺りに撒き散らされる。


「おい、バカ息子! 俺は魔王・ヘルザイムに呼ばれて来たんだぞ!

 いわば客人だぞ!」


「ふざけるな人間なんぞを招くわけが無かろう!!」


「なんだよ、ヘルザイムの野郎! ちゃんと連絡くらいしておけよ!!

 『ほうれんそう』は社会人の基本だろ!」


男がブツクサ文句を言っている間にペンザは再度、斧を振り上げ襲い掛かってきた。

左の袖に手を突っ込み透き通った巨大な大剣を取り出し、ペンザの斧と打ち合った。


ガキン!

 ガキン!

  ガキン!!


城の回廊に硬いもの同士が打ち合う音が響く。


「オラオラオラ!!! どうした、ブルーノ!! 本気を出せ!」


ペンザが怒鳴る。

明らかにブルーノといわれる男は手を抜いている。

積極的に撃って出るというより、斬られないように受け流しているだけだった。

数度、打ち合いをしてペンザが気がつくと


「ブルーノ、貴様、俺を馬鹿にするのか!」


「だってお前、隙だらけじゃん! 親父はもう少し強かったぞ! 草葉の陰で泣いているぞ!」


「バカ野郎! 親父はまだ生きている! 魔界で隠居しているだけだ!」


「あ~そうか、悪りぃ悪りぃ! けっこうな年だから、もう、おっちんだと思っていたよ」


「貴様! どこまでも舐めくさりやがって!!」


ペンザは斧をブンブンと左右に猛スピードで振るがすべてを受け流す。


「チッ! 埒が明かねーな!! お前ら気をつけろ! 秘技を使う!」


そういった瞬間、周りにいた配下のモンスターたちが一斉に距離を開けた。


「ペンザ様! ここで秘技は危険です!」

「お止めください! ペンザ様!!」

「城が壊れてしまいます!!」


配下のモンスターの慌てようは尋常ではなかった。


「これは、あの技か?」


と思った、そのと、ペンザは斧を大きく振りかぶった!


「秘技! 大根斬り!!」


あっ!この技、親父のペンゴも使っていた技だ。

斧を地面に叩きつけ地割れが一直線に伸び城まで破壊できる大技だ。

割けた穴に何人もの兵士が飲み込まれた。

振り下ろすスピードは音速を超え衝撃波は周りの物まで破壊した。


(このバカ、城の中で使うか? まわりの子分達も無事じゃ済まないぞ!!)


が、男はこの技が地面に斧が激突さえしなければ発動されないのを知っていた。


ガキン!!


火花が散った。

一気に距離を縮め斧の一撃を紺色に透き通った巨大な大剣で受け止めた。


「ぐぬぬ! 貴様、この技を知っていたのか?」


「お前の親父に散々やられたからな」


200年前にペンゴの『大根斬り』で城や兵士たちが散っていくのを見ていた。


「面倒なヤツだな!!」


ペンザは斧を再度振り下ろそうとするが、男は難なく大剣で受けると蹴りをペンザの脇腹に入れた。


パン!!

渇いた音が回廊に響く。


「ウゴー」


ペンザは数十mほど蹴り飛ばされ回廊の柱に激突して止まった。


「うううう、痛てーーーー!

 ケリなど入れおって! 貴様には騎士道精神は無いのか?」


脇腹を押さえ叫びながら立ち上がろうとした瞬間、一瞬で距離を詰めペンザの目の前に立っていた。


「そんなもの、あるわけ無いだろ!!  かかと落とし!!」


グゴン!


「ウグ!!」


ペンザの無い首はいっそう無くなってしまった。


「アイアンクロー!!」


ガシ!!


「バカ息子! ヘルザイムのところまで行くぞ! この奥にいるんだろ」


男はペンザの頭部を徐に掴み引き摺りながら回廊を進んだ。


男の周りにペンザの部下、城を守備する魔物たちがやってくる。


「ペンザ様を放せ!!」

「ペンザ様を解放しろ!!」


魔物たちは槍を構えながら叫ぶ。


「ほらよ!」


男はペンザを部下達に投げつけ道を空けさせた。

投げられたペンザが立ち上がる前にペンザの元に寄り、またアイアンクローを噛まし引き摺る。


「貴様! 止めろ!! 手を離せ!!」


男はまた、部下の魔物たち目掛けペンザを投げつけた。


「放してやったぞ!」


と言うと、また立ち上がる前にペンザの元に寄り、アイアンクローを噛まし引き摺るのであった。


部下が解放を求めるたび、ペンザが解放を求めるたびに繰り返されていった。


回廊を進み、巨大な扉の前にやって来た。


「200年前と変わっていないな~」


男は髪の毛を面倒臭そうに掻きながら扉を蹴った。

中に入るとペンザを部屋の奥にいるであろう主の前辺りに向け投げ捨て怒気を含んだ声で怒鳴った。


「ヘルザイム! 来たぞ!! お前、俺が来る事を連絡してなかったのかよ!!

 何度も殺されただろうが! バカ野郎!!

 お前の部下は両手を上げているにも関わらず殺してきたぞ!!

 ちゃんと教育しておけ!!」


部屋の奥に座っていた一人の巨大な男はゆっくりと立ち上がった。

背の高さは5mは優に超えるだろう。

漆黒の鎧を身に纏い頭の両側には立派な角が生えていた。

口からは上下に牙が突き出ていた。


「英雄シロ・ブルーノ! 久しいな!

 200年振りか? 元気そうだな!」


魔王ヘルザイムは口元を緩め男に声を掛けた。

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