25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
プロローグ
木々が深く覆い茂った山の中を、二人の女性が歩いている。その内の一人は平均的な日本人の顔立ちをしており、黒髪黒目で体つきもスレンダーな体型だ。
彼女の名は重御寺姫(じゅうおんじひめ)といい、大学を卒業しとある会社に入社して三年目の25歳のOLである。
「でさ、彼ってば朝まで寝かせてくれなくて、大変だったんだから」
「あーはいはい、そうですかそうですか、そりゃよござんしたねー」
「ちょっと、姫ってば絶対わたしの話聞いてないでしょー、もう」
姫は顔には出さず、内心で苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべる。誰が悲しくて他人の惚気話を真面目に聞かねばならないのかと思っていたからだ。
姫に対して今も顔を緩ませながら恋人の自慢話をしているのは、姫の同僚の女性だ。
彼女も姫と同じ年に入社した同期なのだが、同じ趣味を持つ者同士だったため意気投合し、今では仕事以外でも良く行動を共にする同志であり親友だ。
二人の趣味というのは、漫画やアニメなどといった所謂オタクで、その内容のほとんどがそういった人たちが好むようなものが多く、世間一般的には【オタク女子】と呼ばれている人間だ。
そんな特殊な趣味を持っているが故、オタク女子たち特有の悩みもあり、その内の一つが“恋人ができない”である。
そういった良縁になかなか出会う機会の少ないオタク女子なのだが、姫の親友は幸運にもそういった悩みから遠ざかることに成功した数少ない例だったりする。それ故に……。
(おのれー、あたしよりも先に男をゲットしやがって。十回くらい爆発しろ、このヤロー!)
いくら仲の良い親友とはいえ、自分よりも先に恋人ができたことに対する嫉妬と焦りから、内心で悪態を付かざるを得ない。
そんな二人が今歩いている場所は、とある山中の観光名所だったりする。
なぜそのような場所に彼女たちがいるのかというと、社員旅行の一環で国内の様々な観光スポットに視察に行くという名目で、毎年各都道府県の観光名所を訪れているのだ。
毎年国内の観光スポットにタダで行けるとあって、近年では珍しくこの会社の社員旅行の出席率は意外と高い。
そして、今年は縁結びに関する観光スポットということで、二人のモチベーションも高かった訳だが、一人が先に縁を結んでしまったため、どことなく置いていかれたという思いを姫は感じていた。
「あ、休憩所が見えてきた。姫、わたしちょっと漏れそうだから先にお花摘みに行ってくるね」
「ああ、そうですかい。じゃあ行ってらっしゃいませませー」
姫の言葉を受け彼女にしては珍しく、かなりの急ぎ足で休憩所へと走って行った。その姿を見て“どんだけ我慢してたんだよ”と苦笑いを浮かべながらも、自分のペースで休憩所へと向かって歩いていた。
そんな中、ふと茂みに目を向けると何かが光り輝いているのを発見する。本来の道筋とは違ったが、その光の正体が気になったためその場所に行ってみることにする。
「な、なにかしら。もしかしてUFO? それとも、オバケ?」
どちらの選択肢も科学的根拠の乏しい存在であるということに彼女が気が付くこともなく、謎の光に向かって突き進んでいく。歩を進めるにつれて、光の輝きがどんどん大きく強くなっていく。
「う、眩しいわね。ホントになんなのよ」
正体不明の謎の光に自分の体が包まれていくのを感じながらも、先へ先へと進んで行く。すると徐々に光が収まっていき、再び視界を取り戻した時、目にしたのは見慣れぬ森だった。
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