第76話 情報屋から情報を買う

 ソル達は寂れた酒場に来ていた。昼間という事もあり人気は殆どない。


 そこに一人の男がいた。帽子を深く被った浮浪者のような男。男は昼間であるにも関わらず、ウィスキーをロックで飲んでいる。典型的なアルコール依存者のようであった。


 普段であるならば関わりたくない雰囲気を持つ彼ではあったが、現状はそうとも言っていられない。


「彼が情報屋のジェームズさんよ」


 クレアはそう説明した。


「何でも知っている情報屋なのよ」


「おいおい……俺を持ち上げすぎるなよ……あんたはそうだな。フレースヴェルグの王女様。クレア姫だろう?」


 情報屋であるジェームズはそう言い当てた。


「ほら、何でも知ってるでしょ」


 クレアは胸を張っていう。


「いや……割と誰でも知っている事だろ」


 王女なんて存在。割と誰でも知っている事だ。クレアは有名人なのだから、知っていても不思議ではない。


「ともかく、彼は情報通で何でも知っているのよ。きっと私達の欲している情報も知っているはずよ」


「……知っているかどうかはわからねぇが……聞いてみない事には俺だってわからねぇな。一体、何を知りたいんだ?」


「魔族の事を知りたいんです」


 ソルは語る。


「魔族?」


「ええ……フレースヴェルグで行われた剣神武闘会に魔族が紛れ込んでいました。魔族は天界にいる天使を攻め滅ぼした後、人間界に攻め込んでくる魂胆みたいです。だけど、天使はそんなに脆弱な存在ではありません」


 ソルは裏ダンジョンで天使ルシファーと闘った経験がある。故に天使の手強さを知っていた。いくら魔族と言えども、決して侮る事はできない存在なのは確かだ。


「そこにいた魔族の発言を聞く限り、魔族が天使を滅ぼしうる確信のようなものを持っているように感じました。その魔族の目的と魂胆を知りたいんです」


「へぇ……そいつはまた大層な事を知りたいんだな」


「ジェームズさんは知っているんですか? その情報を」


「そうだな……金紙幣50枚で手を打ってやるぜ。ちょうどお前さんがあの剣神武闘会で優勝した金の半分だ」


「なっ! なんだとっ! 貴様! あまりにボリすぎだろうが!」


 バハムートがジェームズに食って掛かる。


「落ち着け……バハムート。やっぱりジェームズさん、あなたは何でも知っているんですね」


「別に……大きな大会だったからな。そこの優勝者が誰で、賞金がいくらだったかなんて割と誰でも知っている事だろう」


「これが落ち着いてられるかっ! 金紙幣50枚だぞっ! 50枚っ! それだけの金額があればどれほど腹一杯食べられると思っているのかっ! こいつ、物知りだからってこちらの足元を見ているのだっ!」


 バハムートは憤っていた。流石のバハムートも今までの生活の中で、お金がないと食料が得られない事くらい理解できるようになっていた。金の喪失は食料の喪失と等しい。彼女にとってお腹いっぱい食べられなくなるという事はそれだけ辛い事なのだ。


「落ち着いて、バハムートさん。確かにお金は必要なんだけど、情報も必要なの。魔族の目的や動向を知らないと、動こうにも動けないのよ。情報は時にお金よりも優先されるのよ」


 クレアもバハムートを宥める。


「ぐっ、ぐうっ……くっ」

 

 渋々、バハムートは憤りを堪えた。


「それでどうなんだ? 俺はその魔族に対する情報を知っていると仮定しよう。そしてその情報を開示するのに金紙幣50枚必要だ。どうする? 買うか? この情報を」


「買いますよ……」


 ソルは金紙幣50枚を手渡す。


「……まいど。どうして買おうと思ったんだ? 俺は適当に真実ではない嘘を並べるかもしれないんだぜ」


「俺達は魔族に対する情報を何も知らないんです。賭けるしかないんですよ、その情報に。知らない事には前に進めないんです」


「へへっ……そうか。そいつは殊勝な心掛けだ」


「全く、大した事ない情報だったら貴様など即刻我の胃袋に納めてやるからなっ!」


 バハムートはぷんぷんとしていた。


「それじゃあ、教えてやる。魔族の目的と今の動向を」


 ジェームズは語り始める。


「魔族は今、魔道砲って言う巨大な砲台を建造中なんだ」


「魔道砲?」


「ああ……山みたいに巨大な砲台なんだ。それでその砲台で天使達がいる天界を撃ち落とすつもりなんだよ」


「……そうか。それが魔族にとっての切り札ってわけなのか」


「そうだな。そうなるな。だが、この魔道砲は強力な砲台ではあるが、一つだけ重大な欠点がある。それ相応のエネルギー源が必要なんだ。その為には魔晶石(クリスタル)が必要で、その中でも神の魔晶石(ゴッドクリスタル)と呼ばれる貴重な鉱石を奴らは求めている。だが、この鉱石はエルフの国近くからしか取れなくてな、それでエルフの国と抗争が起きようとしているんだ」


 ジェームズは語る。


「エルフの連中としても余計な戦争には加担したくないからな。おいそれと神の魔晶石(ゴッドクリスタル)を渡すわけにもいかない。だから抗争は必至だ。今すぐにでも魔族とエルフの間で戦争が起きるぜ」


「……本当だろうな! 貴様の言っている事はっ! 嘘だったら必ず我の胃袋に入れてやるからなっ!」


 バハムートは今すぐにでもジェームズに食らいつきそうであった。


「信じるか、信じないかはお前さん達次第だ。俺が嘘を言っているかもしれないぜ」


「……ありがとうございます。だったら俺達の次の目的地は」


 エルフの国という事になる。魔族の目的が神の魔晶石(ゴッドクリスタル)にあるのだとすれば決して渡すわけにはいかなかった。


「おいおい。いいのか? 俺が嘘をついている可能性を考慮しないのか? ただの骨折り損になるかもしれないんだぜ?」


「信じますよ」


「どうして信じられる?」


「何となくです。何となく、あなたが嘘をついている人の目をしていないと思っただけです」


「……くっくっく。そうか。あんたが正しかったのか、騙されてたのかはまあ、その時がくればわかるだろ」


 ジェームズは笑った。


 こうして情報屋から情報を仕入れたソル達の次の目的地が決まった。


 次の目的地は『エルフの国』であった。






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