第64話 エドワードとの闘い
「行くぜ! 兄貴!」
エドが斬りかかってくる。その動きは洗練された動きであった。踏み込みも速い。
授かった当たりスキル『久遠の剣聖』の影響も多いにあるであろう。半年間、エドがどれほどの訓練を行ってきたか。その努力が手に取るようにわかってきた。
――だが。
「なっ!?」
キィン!
甲高い音が響く。ソルは剣でエドの剣を受け止めた。いかにエドが自らの剣を磨き上げてきたとしても、ダンジョン『ゲヘナ』で自身を鍛え上げてきたソルが見えない程ではない。今のソルがエドの剣を受け止める事は造作もない。
だが、ソルを『レベル0』の無能として完全に見下していたエドにとって、その『ソルに自分の剣を受け止められた』という事実はえらく自尊心が傷つくには十分すぎるものであった。
いくら今までの闘いでソルの事を見直したとはいえ、根本的にどこかでソルの事を見下しているのだ。
エドにとっては大変不満な事が目の前に起きている。落ちこぼれの無能だと思った、義兄と互角の闘いを演じるなどという事、エドにとってはあってはならない事であった。
「くそっ! 兄貴の野郎『レベル0』の無能のくせに、この俺様の剣を受け止めやがって!」
「……エド、いい加減、授かったスキルで人を見下すのはやめたらどうなんだ」
「うるせぇ! あり得るはずがねぇ! 兄貴が俺の剣についてこれるわけがねぇんだ!」
キィン! キィン! キィン!
エドは感情的になった。だが、感情的になっているにも関わらず、授かったスキル『久遠の剣聖』から来るものなのか、あるいは今までの鍛錬の結果なのか。エドの剣は洗練されていて無駄がなかった。決して大振りになってはいなかったのである。
だが、エドの連撃をソルは簡単に受け止めていく。
「くっ……何なんだよ! これはっ! こんな事あって良いわけねぇだろ! 『レベル0』の無能野郎がなんで俺の剣を受け止めてやがるんだ!」
エドは焦っていた。どれほど剣を繰り出しても、悉くソルに防がれてしまうからである。
『おおっと! エド選手の物凄い連続攻撃だ! だが、ソル選手はその攻撃を悉く防いでいる! 膠着状態が続いています!』
実況(アナウンス)が響く。
「ば、馬鹿な! これがソルなのか……本当に、我が息子であるソルなのか! ソルよ……貴様、本当にあのダンジョン『ゲヘナ』から生還したのか!」
応援席で父――カイは絶句していた。
「ふっ……左様である」
バハムートはカイを鼻で笑う。
「なんだ……この小娘は」
カイは隣にいるバハムートを疑問に思った。
「ソルは生還したのだ。ダンジョン『ゲヘナ』から……そしてソルは『レベル0』といスキルを持ちながら我を打倒しうる程の力を手に入れた。今では奴は普通の人間では倒すのは不可能な化け物になっている。多少、剣が達者なだけの人間になど敵うわけがない」
「……だ、誰なんだ? 貴様は」
「我の名は竜王バハムートである。そして今は貴様達が『レベル0』と罵っているソルの使い魔だ」
「竜王バハムートだと……馬鹿な。こんな小娘のような見た目をしているわけが……いや、高位のドラゴンは見た目を人間のように模す事ができると聞いた事があるな。だったらまさか本当に。だとしたのなら、ソルは本当にあの『ゲヘナ』から生還したのか……目の前にいるソルは、本当にわしが捨てたソルなのか」
「だからさっきっから本当だと言っているだろうが」
「なんという事だ! わ、わしが間違っていたというのか! わしが間違っているはずがない! エドワード! 証明せよ! わしの判断が決して間違っていなかったという事を! その剣を以て!」
「わかってますよ……証明しますよ。全く、この技は決勝戦まで取っておくつもりだったんだけどな」
エドは剣を構える。雰囲気が変わった。
「へっ……もう様子見は終わりだ。兄貴。不本意だが、俺様の本気を見せてやる」
場の空気が静まり返る。
『おおっと! エド選手、距離を取りました。ソル選手も追撃をする様子はないようです。お互い様子見のような様子! 何か大技を狙っているのか!』
そう、アナウンスが響く。緊迫した空気が場を支配する。そして悪戯に時が流れた。
「な、なんなんだ……この空気は」
「わからねぇ……エドワードの奴が何かを仕掛けるみてぇだ」
エドは大技を放つ為の準備を始めた。スキルを発動するつもりだ。補助系のスキルだ。
「スキル『肉体強化』『速度強化』『知覚領域強化』」
エドは無数のスキルを使用していく。単体強化(バフ)効果のスキルだ。エドは自身の能力を底上げしていっているのだ。恐らく放たれる剣技に肉体が耐えうる為に。
「へっ……悪いな兄貴。死んじまっても恨むなよ」
準備を終えたエドはついに剣技を放つ。それは人間の領域を遥かに超えた、頂にある剣技であった。エドは技スキルを発動する。
「六剣(シックスブレイド)!」
一瞬の攻撃である。放たれたのは六つの剣だ。だが、その刃は完全に同時としか思えない速度で放たれた。一瞬で六つもの斬撃が放たれたのである。防ぐ手段など普通はあり得ない。魔法的な防御を放つか。盾で防ぐか。
面のような防御手段であれば、防ぐ事はできるかもしれない。剣のような点の防御手段で防ぐ事は本来できる事ではない。——だが、唯一それを点の防御手段で防ぐ方法があった。それは光のようなエドの攻撃速度を上回る事である。
だが、エドはそんなことが起こるとは思わない。
決まった。
そう思っていた。自身が放てる最大にして最強の攻撃を放ったのだ。いかにソルと言えども防ぎ切れるはずがない。自身の勝利は揺るがない。確実に勝利は自分のものだと信じて疑わなかった。
――だが、エドの目の前で目を疑うような事態が訪れる。
キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン!
「なっ! 馬鹿なっ!」
ソルはその攻撃を全て防ぎ切ったのである。ソルの剣速がエドが全力を以て放った剣速を上回っていたからに他ならない。そしてそれはもはやエドにはソルに勝つ手段がない事を意味していた。最大にして最速の攻撃を以てしてでも、ソルに傷ひとつつける事ができなかったからである。
『おおっと! エド選手は目にも止まらないような連続攻撃を放ちましたが、ソル選手はそれを上回る剣技でその攻撃を防いだようです!』
「な、なにがあったんだ……みえなかったぜ、今の攻撃」
「でも、ソルは傷ひとつ負ってねぇな……エドの奴も化け物だったけど、それを防いだソルも化け物だな」
観客達は騒然としていた。
「……もうやめろ、エド。これ以上は」
「う、うるせぇ! 俺が兄貴になんて負けるわけがねぇ!」
しかし、それでもエドは敗北を認められなかった。我武者羅に剣を振り続ける。今までは洗練された剣ではあったが、感情の高ぶりと焦りと共に、大振りになっていった。
――そして、決着の時は訪れる。
キィン! エドの剣が弾かれ、天高く舞った。グサッ、そしてステージに突き刺さったのだ。エドは素手の状態になった。
「終わりだ……エド。これ以上はもう無駄だ。負けを認めろ」
「う、うるせぇ! 俺が兄貴に負けるわけがねぇ! こんなのは間違いだ! 俺は負けてねぇ!」
ソルは諭すが、エドは断固として自身の敗北を認めようとはしなかった。
――しかし、この後ソルが思ってもいなかったような出来事が起こる事になる。
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