第7話 初めての戦闘

 準備は整った。『強化』のスキルを使用した事で初めてまともな武器を手に入れた。


――装備確認。ソルは装備欄を確認する。表示されるのは武器の詳細情報だ。


『木剣』


 リーチ中程度。攻撃力UP5。付与効果及びスキルなし。


 これがこの武器の特徴だ。何の変哲もない木の剣以上に言う事などない。だが、ソルは初めて武器らしい武器を入手できたのだ。この存在は頼もしいものであった。


「よし……」


 やるしかないのだ。ソルにはもはや退路などない。闘わなければいずれは飢えて死ぬ。闘って勝つ以外に活路は見いだせない。


 だが、チャンスは見計らわなければならない。最初の時のように。ソルは物陰に備えて、その機会を待った。辛抱強く。まるで釣りのようだ。やっている事はそうなのだろう。なかなかに忍耐を必要とする作業だ。


 ――そして何時間かかけて、その機会が訪れる。


 一匹のイルミラージュが目の前に現れる。ピョンピョンと、歩いてきた。群れの気配はない。


 それは最初の時と同じような状況だった。


(チャンスだ……)


 ソルはそっと歩み寄る。そして木剣を構えた。背後から忍び寄り、不意打ちをするつもりだった。


(やるしかない……)


 決意を固め、ソルは木剣を振り下ろす。


 しかし、最初の不意打ちは幸運だったようだ。イルミラージュは咄嗟に気配を察し、その一振りを避けた。


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 威嚇するような叫び声とともに、イルミラージュは毛を逆立たせた。牙を覗かせる。その牙は兎のような愛らしい見た目とは裏腹、獰猛な肉食獣のようであった。


『強化』のスキルで武器を得たとはいえ、レベル0のソルにとっては侮れる相手ではない。


 これはソルが初めて行う、まともな戦闘行為だった。


 イルミラージュが鋭い攻撃を仕掛けてくる。その獰猛な牙でソルに襲い掛かってきた。


「うわっ!」

 

 キィン!


 ソルは何とか木剣でその攻撃を受け止める。強化のスキルを施し、鋼鉄並みに硬化しているから弾いたのだろう。


 でなければ木の棒程度、イルミラージュは食いちぎっていたとしても不思議ではなかった。


「はああああああああああああああああああああっ!」


 ソルはイルミラージュに攻撃をする。なんて事のないがむしゃらな一撃。


 俊敏なイルミラージュには避けられる。


 キシャアアアアアアアアアア!


 そしてイルミラージュは反撃をしてきた。


「うわっ!」


 獰猛な牙で腹部を貫かれる。一瞬体を反らした為、傷は浅かった。だが、腹を斬り裂かれ、多少なり血液が流れ出た。


(だめだ……こんな攻撃じゃ……)


 無駄の大きい攻撃ではイルミラージュには避けられてしまう。もっと無駄のない、スムーズな攻撃でなければイルミラージュは倒せない。


 ソルは心頭を滅却した。


 命をかけた過酷な状況であるが故にソルは今まで以上に集中して物事に当たらなければならなかった。


 雑念の入った状態では殺(や)られかねない。


 ソルは木剣を構え、イルミラージュを冷静に見据える。


 キシャアアアアアアア!


 我慢しきれなくなったイルミラージュはソルに襲い掛かってくる。


 前と同じ速度であるにも関わらず、ソルにとってその動きはまるでスローモーションのように見えた。


「今だっ!」


 ソルは飛び掛かってきたイルミラージュを木剣で撃ち落とす。


 キュイイイイイイイイイイイン!


 イルミラージュは断末魔を上げて果てた。


「はぁ……はぁ……はぁ。な、なんとかなったか」


 肩で息をし、ほっと胸を撫で下ろす。足元には朽ち果てたイルミラージュの姿があった。間違いなく、死んでいるであろう。


 ソルはまともにイルミラージュと闘って勝利をしたのだ。


 まともにイルミラージュと闘って勝利を納めたのだ。


 これはソルにとって初めての、そして大きな一歩となりえた。


だが、いつまでもその身を晒しているわけにもいかない。個には勝てるかもしれないが、群が相手では未だ敗北必至であろう。


 ソルは死骸を抱え、また瓦礫の隙間にその身を潜めるのであった。





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