第20話
「あのね……あんたが出て行った日にね、お父様がお客さんをつれてきたのよ、私の婚約者だって……」
「婚約者だって……」
「ええ、お父さんとの競合会社の社長の息子さんらしいわ。パーティーで私にひとめぼれをしたんですって……まるで漫画家おとぎ話みたいよね」
「……姫奈はそいつの事が好きなのか……?」
「わからないわよ、だってろくに話してもいないもの……大体私が乗りきだったら家出何てすると思う?」
「そうだよな……」
私の言葉に彼は眉をひそめる。そして、しばらくの間沈黙が支配をする。彼はどういう反応を返してくれるだろうか? そんなやつほうっておけっていってくれるかしら? それとも、お父様に抗議をしてくれる? それとも……笑顔で言って来いって言うのかしら? 私は自分の心臓がすごい速さで鼓動しているのを感じる。皆は両想いっていってたけど、実際のところはわからないものね……でもね、私はあんたが一緒になってくれるって言ったら実家を捨ててでもついていくつもりなのよ。家事だって習ったしお金だって私名義の株があるから食べるのには困らないの。だから、お願い。私と一緒にいたいって言って。
「ねえ、一夜……もしも、私が助けてって言ったらあの映画みたいに助けてくれるかしら……?」
「それって……」
私は最後の願いを込めて彼につげる。だけど彼は何かを悩んでいるかのように喋れない。ああ、これはだめだ……もしも、困っているだけだったらあきらめようと思っていた。ううん、きっとあきらめられないけど身を引こうと思ってた。だけど何でそんな辛そうな顔をしているのよ。何を考えているの? あなたは私と一緒にいたいっていってくれるだけでいいのよ?
「ごめんなさい……変な事を言ったわね。ちょっと席を外すわね」
煮え切らない彼に対して私は最終手段に出ることにした。私は席を立って、裏口へと向かう。そこには金髪のウィッグで変装をした誠ちゃんと七海さんが待機してくれていた。
「どうだったんだい、姫奈ちゃん」
「ヘタレ一夜!!」
「これは……計画スタートですな」
私の一言で誠ちゃんと七海さんが察してくれたようで即座に行動を開始する。外に出て車の前に待機した私は一夜あてにメッセージを送る。少し待って、カフェの入り口をみていた誠ちゃんが言った。
「あ、一夜くんが来たよ。じゃあ、始めるね」
そういうと誠ちゃんは、端正な顔を歪めてクソムカつく上にNTRでもしそうな笑みを浮かべて、一夜の方をみつめた。殴りたいこの笑顔!! 演技だと知っている私ですら、不信感を湧くくらいなのだ。一夜は相当イラついただろう。私は彼の表情が気になるが決して振り向かないまま車に乗る。
車がトロトロと法定最低速度で走り始める。一夜は追ってきてくれるかしら? 今頃七海から事情を聞いているはずである。これでもしも、彼が私をあきらめるようだったら……最悪の想像をしてしまったけれど、それは杞憂に終わってくれたみたい。
「お、七海さんの車が追ってくるよ、じゃあ、始めようか」
「でも、流石に盗聴はやりすぎじゃないかしら……」
どうやら彼は追ってきてくれているようだ。それを聞いてホッとすると同時に罪悪感が襲ってくる。実は七海の車には盗聴器が置いてあり、私達に聞こえるようになっているのである。
「でもさ、姫奈ちゃんも確信が欲しいでしょ」
『私としてはお嬢様には幸せになってほしい。だが証拠がない以上雇われの身に過ぎない私はうかつに動けないんだ。旦那様にも迷惑をかけてしまうからね……』
『俺がやります。俺が彼女を助けます。彼女には言いたい気持ちがあったんです。俺は逃げてきた、薄々感じてはいたけど気づかないようにしてきたけど……もう、逃げるのはやめようと思います。だって俺は彼女が姫奈が大好きだから』
「あーーー、一夜しゅきぃぃぃぃ」
「うわぁ……」
私の顔がよっぽどやばかったのか、誠ちゃんが引いた声を出す。でも仕方ないと思わないかしら? 私はずっと好きだったのよ。盗聴器越しの告白でも嬉しいのよ。今の顏は誰にも見せられないだろう。
「ちゃんと録音しているからね、お店にいくよ」
「はいー、永久保存しなきゃ」
私は一夜の甘いセリフに顔がにやけて腰が抜けそうになったが頑張ってお店へと行くのであった。今回のは今後目覚ましボイスにしよう。ちなみにこのお店の店員はみんな私の友人である。今日一日だけだが貸し切ったのだ。誠ちゃんから一夜が入ったという連絡を聞いてそれで……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます