第18話
すーはーすーはー。私は彼の部屋の前の扉で10分ほど、深呼吸をしたり、人って書いて飲んだりを繰り返していた。いやいや、幼馴染とはいえ男子高生の寝ている部屋に行けって何を言っているのよ!! それって駄目じゃないかしら? 何があっても文句は言えないわよね? 私は文芸部の子が書いてくれたシナリオをみながら思う。
でも、これまでそれとなく誘惑していたがすべてが無駄に終わっていたのだ。これくらいをやらなければいけないのよね。念のため……本当に念のため今日は勝負下着を履いてきたし、万が一がおこっても大丈夫ですもの。
「一夜……起きてる?」
「うおおおおおおおおおお!!! 姫奈どうした?」
私がノックをするとすごい驚いた声が部屋から響く。まるでホラー映画のお化けに遭遇したような反応だ。ちょっとひどくないかしら? そんな反応をしなくてもいいじゃないの。
「こんな夜にごめんなさい……その、いつものぬいぐるみがないから寝れなくて……」
「ぬいぐるみ?」
「あれよ、あんたが小学校の時にとってくれたやつあったじゃない」
「ああ、あれか。ゲーセンでどうしても欲しいって言ってたやつだよね。まだもっていたのか」
「当たり前じゃないの……だって、たいせつなものだもの」
部屋に入った私があらかじめ考えていたセリフを言うと彼はうなづく。ぬいぐるみの事覚えていてくれたんだという事に胸が熱くなる。正直どのぬいぐるみでもよかったんだけど、一夜とはじめて遊園地に行った思い出が欲しかったのだ。我ながら恥ずかしいくらいに駄々をこねてしまった気がする。だけど、仕方ないなぁといってぬいぐるみをとってくれた彼の笑みは今だって脳裏にうつっているわ。『欲しいなら工場から直送しようか、いっそ工場ごと買い取るのもいいかもしれないね』とかほざいていた父は無視してよかった。
彼が覚えていてくれたことが嬉しかった私の目は余計冴えてしまった。彼がお手洗いに行っている最中に復習をする。これからデートに誘うのよ、姫奈。勇気を出さないとね。大好きな漫画の映画を一緒に観て、彼が好きなイチゴのパフェを一緒に食べるの。そこのカフェは実は父の系列の店なのでパフェを作らせてもらうことになっているのだ。幸いにも料理を練習していたので、それなりのものはできる自信がある。そして彼が食べ終わったら、彼に実は私が作ったとネタ晴らしをするのだ。私覚えているのよ。中学の時に彼女と一緒にバカでかいパフェを食べてみたい言ってたわよね。
それでね、彼が食べ終わったら私が作ったのって言うの。あなたのために私が作ったのよっていってそのときの話をするの。そうすれば、彼も気づくわよね。私の気持ちに気づいてくれるわよね。
「なんかこうしていると昔みたいね、一緒に遊んだで疲れて二人で寝ちゃったりしたわよね」
「ああ、屋敷でホラー映画を観た時の事だよね、トイレに一人で行けないって言って無理やりおこされたっけ。あの時風かなんかの変な音がして二人で怖くて適当な部屋に入ったよね」
「もう、そんなことは忘れないさいよ。でも、あの時一緒にいてくれて心強かったわ。私が不安になったり困ったりしたときはずっとそばにいてくれるわよね」
戻ってきた彼と昔の思い出話で盛り上がる。あの時はね、本当に怖かったけど、それ以上にあなたと一緒に入れて嬉しかったのよ。それに屋敷に泊まってくれるって聞いていたから前日ドキドキして寝れなかったんだから。あの時の部屋に入った時に震えている私を抱きしめて大丈夫だよって言ってくれた彼の優しい声と温もりを今でも覚えている。
「ねえ、一夜……明日暇だったらデートをしてくれないかしら? 私高校に入ってから部活くらいで家と学校の往復ばかりだったじゃない。だからデートをしてみたいのよ」
「別に構わないが、俺でいいのか?」
「当たり前でしょう、こんなことあんたじゃなきゃ頼まないんだからね」
ああ、ちょっとツンツンしてしまった。なんでもっと可愛く言えないのよ、私のバカ。自分を殴りたくなる私だったが、彼はそんな私みて優しく微笑んでくれた気がする。彼がうなづいてくれたのが嬉しくて……それと同時に彼を騙している罪悪感に襲われる。「こんなこともう最後かもしれないんだもの」私は自分に言い聞かせる。
彼は今どんな顔をしているだろうか? 私みたいにドキドキして寝れなかったりしているのかしら。そんなことを想っていると「姫奈……」という声と共にとなりの布団で寝ている彼の手が私の手にかすかに触れた。
「んんんんん!!」
とっさの事で私は頭がパニックになる。だけど、あれよね、彼が勇気を出してくれたのよ。だったら私は……
彼の手を握り返して震えて声で言う。
「その……キスくらいまでなら許してあげるわよ」
ああ、私のバカ、違うでしょ、もっと素直に甘えなさいよ!! 一夜からの反応はない。あれ? 今の生意気そうだったから嫌いになっちゃた? 違うの、嬉しいのよ。ただまだ、心の準備ができてなかっただけで……
「違うの……一夜……その……私は嬉しいのよ」
半泣きになりながら彼の顔を見ると「すーすー」という寝息を立てて眠っていた。
「……一夜のばかーーーーー!!」
そうして無駄にドキドキしたまま私は布団で悶えることになったわ。
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