第3話 一夜と姫奈 2
食事を終えた俺は彼女との出会いを思い出していた。それは俺が小学校三年生の時に父と一緒に本家に呼ばれたのがきっかけだった。本家は姫奈の父である王牙おじさんが取り仕切っておりうちの父は子会社の社長をやっているのだ。父の会社の経営が危なかった時に助けてもらったらしい。その時は難しい事はわからなかったので好物のハンバーグをごちそうしてもらえると聞いてワクワクしていったものだった。
「一夜……頼むから失礼のないようにしてくれよ……お前の言動で我が家の家計がどうなるか左右されるかもしれないんだ……」
普段は厳しい父が情けない顔をしていたのがとても印象的だったのを覚えている。俺にとっては遠い親戚にあたる王牙おじさんは海外から時々返ってきてはお土産をくれる気前のいいおじさんというイメージだったのでなんでそんな風な顔をしているのか当時の俺にはわからなかったものだ。
本家の客間に通された俺達を待っていたのは王牙おじさんとその一人娘である姫奈だった。この時からフランス人形みたいで綺麗だなと思ったのを俺は今でも忘れない。人見知りなのだろうおじさんの影に隠れていた彼女だったが、おじさんに「姫奈、挨拶をしなさい」と言われ、少し緊張しながらも「ごきげんよう」といった彼女の可憐な声に俺はやられてしまった。そう、これが俺の初恋で一目惚れだったのだ。
そして、父は叔父さんと一緒に大人の話があるからとどこかに行ったので、彼女と一日中一緒に遊び一緒にご飯を食べた。その時のハンバーグはいつもよりも美味しく一生忘れないだろうと思う。そして、上品に彼女がフォークやナイフで食べている可憐な姿も……彼女のフランスの話はとても楽しく、俺は夢中になったものだ。
姫奈と一緒にハンバーグごちそうになった帰り道に父から聞かされた話によると、彼女はフランスにいたがこちらに引っ越すことになり、こちらの学校に転校するのだが、引っ込み思案で友達ができないかもしれないので同い年の俺に彼女のサポートをしてほしいということだった。俺がよければ彼女とおなじ小学校に転校をすることになるらしい。彼女に一目惚れをした俺はもちろん即答でオッケーだった。友達と離れるのは寂しいけれど、彼女といっしょにいれる嬉しさの方が勝っていたし、何よりも彼女の騎士みたいでかっこいいななどと思っていたからである。
父が「すまない……でも、ありがとう。本当に嫌だったら断っても大丈夫だからな」といってくれたけれど、顔が真っ青だったので本当は大丈夫ではなかったのだろう。
そして、小学校を共に過ごし、彼女の人見知りも良くなってきたころ、中学になると王牙おじさんに呼ばれてこう言われたのだ。
「君のおかげで姫奈は良く笑うようになったんだ。あの子はね……一夜君と一緒だとすごいリラックスをした顔をするんだよ。よかったら、うちに住み込みで執事兼彼女のサポートをしてくれないだろうか? もちろんお金は払う。お父さんと離れるのが寂しいって言うのならば彼も我が家に住んでもらっても構わない」
その事を話すと父はお前がいいなら住み込みで働くとよいだろうと言ってくれたのだ。まあ、実際は父は上司にあたる王牙おじさんといっしょに暮らしたくはなかっただけなんだろうが……まあ、その気持ちも今ならわかる。俺だって教師と一緒に暮らせと言われたら断るだろう。
そして、この関係は中学から始まり高校二年生になってもまだ続いている。おかげで同年代よりもおこずかいはもらえているし、不満もない。いや、嘘ついた。貞操帯は無茶苦茶不満だし、不便だ。だけど彼女の魅力に負けて、変な気持ちになってしまうのを抑えてくれているのだ。少しは感謝している。
俺がなんとなく、ベットに寝転ぶとさきほどまで彼女がいたせいか、甘い匂いは鼻孔をくすぐり興奮してしまう。まずいと思った時は遅かった。
「いってぇぇ!!」
高校に入って彼女により異性を感じるようになってからは毎日5回は貞操帯のおせわになっているためか、最近は貞操帯をつけていなくても彼女に興奮するたびに、痛みを感じるようになってきたのだ。まさにパプロフの犬状態である。冗談だろって感じだけど事実なのだから仕方ない。貞操帯をつけているときに興奮するといつか俺の愛馬がもげそうなくらい痛いんだよね。
ていうか、この枕なんかムチャクチャいい匂いがするんだが? 嗅いだらダメだよね……人として終わってしまう気がする。
でも、このままじゃあまずいんだよな。姫奈を異性としてみているとか、ちょっと抱き着かれたりすると興奮をするとかがばれたら彼女はどう思うだろうか? ドン引きされるだろうか、嬉しがってくれるだろうか? 恋愛経験のない俺にはいまいち判断がつかない。そして、それがどちらであれ、王牙おじさんはそれを許さないだろう。この貞操帯がその証拠である。
そろそろ潮時かもしれないね……先ほどの王牙おじさんの言葉を思い出す。だって、姫奈にはこれから婚約者ができるのだ。先ほどの姫奈の写真を思い出す。彼女にはもう友人だってたくさんいるのだ。あの引っ込み思案な彼女はもういない。友達が欲しいと言いながらも俺の後ろに隠れていた彼女はいないのだ。
そりゃあさ、俺は彼女を好きな気持ちでは誰にも負けないと思う。でもさ、幸せにできるかは別だ。俺と彼女では身分が違いすぎるのだから……だったら俺の片思いであるうちに引いてしまった方がいいだろう。それに、彼女に婚約者ができた時に耐えられる気がしなかったのだ。
俺は王牙おじさんにラインをして、話したいことがあると伝えるのであった。
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