◆2

「あれ」


 声は直ぐには届かなかった。

 

 発してから意識へ届くささやかな数秒間に、耳には別の音が響いているのを感じていた。六月の湿った曇天から滑り落ちる水の音。細やかな雨の音を感じた。

 

 どうやら知らぬ間に眠っていたらしい。読みかけの本は空調の風にヒラヒラ揺蕩って、微睡に包まれたまま、永遠にその終焉を迎えられずいるように見えた。ひとつ、大きく伸びをして、曇った窓の外を眺める。


 どのくらい眠っていただろう?気づけば同じテーブルで向かい合わせになっていた人たちは居なくなっていた。読みかけの本を閉じて一つ下の階にある休憩スペースへ向かう。


 

 図書館の空調に冷やされた身体でも、外に出ればやっぱり蒸し暑い。梅雨入りして間もない濁った空を眺めながら、外廊下を通り、駐輪場の脇をぬけて、隣りの建物へ。

――喉が渇いて仕方がない。

 そう言えば朝から何も口にしていなかったな。暑さで鈍っている思考を巡らせていると、その花が目に入った。




(……?)


 



 赤い花壇。


 

 紫の雨の花に混じって花壇に植わったその花は、不自然なくらいに真っ赤だった。

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