044 標8話 許されざる命ですわ 4


「ぎゃあーー‼︎」「ひぃいいい‼︎」


 波の音がうるさい、開けた岩浜に悲鳴が響き渡ります。

 二人は尻もちを突きました。ルーンジュエリアはお尻を突いたまま後ろへとずさります。

 エリスセイラは横這いから四つん這いに変わって岩陰へ隠れようとします。

 ですが相手は陸へ上がる坂道を背にしています。

 岩場に居る少女たちの背後には海しかありません。

 逃げ場は無しです。

 

 一人置いてきぼりになっているリリーアンティークは自分の主人と老人を交互に見比べます。

 え?なに?なに?なに?

 今、何が起こっているのかが分かりません。

 主人たるエリスセイラは何かに怯えている様です。

 けれど、老人の背中を覘いても特に何かは見当たりません。

 彼女には何がなんだか、さっぱり見当が付きません。

 そんな時に、ようやく岩陰へと回り込み終えたエリスセイラが叫びます。


「リリー!逃げなさい!あなただけでも、お願い、逃げてー‼︎」


 そう言われてもリリーアンティークには何が起こっているのかが分かっていません。

 対処のしようがありません。

 だから目の前の老人に尋ねてみます。


「あのー。貴方は山の博士はかせですか?」

「ふぉっふぉっふぉー。そう言われてみれば儂こそが山の博士はかせかのう?」

「私の主人たちが何に怯えているのか、博士はかせはご存知ですか?」

「ふむ。判らんのう?」

「分からないですよねー?」

「そうじゃのう。儂もそう思う」


 それを聞いて慌てふためくのは二人の貴族令嬢です。

 逃げるだけなら自分たちはどうにでもなる。

 けれどもリリーアンティークは目の前の人物を全く分かっていません。

 二人はそれに気づいています。

 山の博士はかせの膨大な魔力量は白光聖女を遥かに上回っています。

 エリスセイラもお嬢様から具体的な数値を聞いていますのでそれは判断できます。

 ですが問題はそこではありません。


 人間種や鳥獣は体内に魔石を持っていません。

 だから体全体に魔力を帯び蓄えています。

 それに対して魔鳥獣や魔人種は体内に魔石があります。

 目の前の老人は胸の中央部、心臓付近に魔力が集中しています。

 そうです。魔獣や魔人の体内にある魔石の位置がそこです。

 エリスセイラにはそれが判ります。


 お嬢様はもう少し詳しく分かります。

 体を覆う魔力の形が良く見知った魔人の形を模っています。


「そうさな。本人に聞いた方が早いのではないかのう」

「それもそうですね。さすが、博士はかせです」

「ふぉっふぉっふぉー。儂もそう思う」


 リリーアンティークは振り返ってエリスセイラに訪ねます。

 ですが帰ってきた言葉は答えではありません。


「あのーセイラ様?どうなされました?」

「リリー、逃げなさい!そいつは!」「セイラ‼︎」


 お嬢様が叫びます。

 寝た子を起こす必要はありません。


「言っては駄目ですわ。オディールの二の舞はご免ですわ」

「オディール?」


 この言葉に反応したのは山の博士はかせです。


「もしやそれはグレアリムスの事かのう?」


 この魔人はグレアリムスの奇跡を知っていますわ。

 まずいですわ。まずいですわ。まずいですわ。

 白光聖女の仲間でしょうか?

 だとしたら最悪です。


「ふぉっふぉっふぉー。ブロッサムロードの件と言い、儂も見過ごす訳にはいかんかの?」


 そう思っていたら、それ以上の最悪があったようです。

 ジュエリアが白光聖女の仲間だと思われましたわ。

 魔人はリリーアンティークへ右の手の平を向けました。

 二人の貴族令嬢は跳ね起きて、友人の元へ駆け寄ります。


「「リリー!」アン‼︎」


 ルーンジュエリアはリリーアンティークに抱き着いて覆いかぶさります。

 エリスセイラはその前に立ち、二人の体をかばいます。


「キャー‼︎」

「ヤ‼︎」


 その三人の前、魔人との間には幅十メートル高さ三メートル程の隙間無い柵が現われます。

 使われているコロニーは太さ四センチメートルですが、転移魔法で地下深くまで埋まり込んでいます。

 エリスセイラのコロニーが隣同士を中で継いでいます。

 一枚の板と言っても過言ではありません。

 しかし猟師姿の魔人は一目でそれを見抜きました。


「ふぉっふぉっふぉー。これはすごい柵じゃ。材質はー、女の命かの?

 お嬢ちゃん方。ちょっとファイヤーストームを撃って見るでな。

 ふぉーーっ‼︎」


 お嬢様たちの壁は横から回り込まれたらそれで終わりです。

 これは魔法力を誇示する為のパフォーマンスです。

 それを理解しているからこそ、相手もパフォーマンスで応えて来ました。

 コロニーで出来た壁の裏で爆音が轟きました。

 遠くの岩礁ではその音の大きさに驚いたとどたちが次々と海の中へ飛び込みます。

 ですがここはお嬢様たちの勝ちです。

 ファイヤーストームを受けた壁には破損どころか緩んだ所すら見当たりません。


「ふぉっふぉっふぉー。愉快痛快じゃて。儂も怪物様と呼ばれる存在なのじゃが。

 はあー‼︎」


 壁の裏の魔人は気合と共に何かをしました。

 一閃。

 壁が横一直線に口を開けます。

 腰のおおなたを振るった魔人が壁の上半分を手で横に押しずらして顔を見せます。


「さて。ちょっと話でもしようかの?」


 爆音を轟かせてバターブロンド色の壁、上半分が四人の横へと倒れます。


 三人の少女たちに緊張が走ります。

 二人の貴族令嬢は隙を見せない為の緊張です。

 リリーアンティークは次に何が起きるのかを見逃さない為の緊張です。


「貴方は誰ですの?」

「ふぉっふぉっふぉー。そうじゃな。まずはそこからじゃ」


 魔人はおおなたを腰の鞘に納めます。


「儂の名はヘルパーじゃ。ヘルパー・バラクレス。お嬢ちゃん方が一度は聞いた事があるあの男じゃよ」

「あり得ません‼︎」


 エリスセイラが叫びました。

 大声で魔人の言葉を否定します。

 何故ならヘルパーとは創造神に仕える預言者の一人だからです。

 最後に現れた、それ故に最も尊いと言われている預言者です。


「あり得ません、あり得ませんとも。お前の様な化け物が彼のお方の御名みなを語るなど、「セイラ!」」


 彼女たちは人間種です。ヒューマです。

 だからこそ預言者たちは全てヒューマである。

 これがヒューマの常識です。

 その男爵令嬢の否定をお嬢様の言葉が止めてしまいました。


「話の続きはジュエリアが受け継ぎますわ」


 エリスセイラにも思う所はあります。

 ですがルーンジュエリアが話をすると言っています。

 これを拒む理由はありません。

 ですがわだかまりは残っています。


「ヘルパー様。お目通りをお受けできました事、心から喜びますわ。ジュエリアはウエルス王国サンストラック伯爵第二女ルーンジュエリア・オブ・ハッピーレイですわ。

 どうかジュエリアとお呼び下さい」「ルーンジュエリア様……」

「ふぉー。ではわしも再度自己紹介をしようかのう?儂の名はヘルパー・バラクレス=マホ。左右に付いとるアホ毛が自慢じゃ」

「ふみ?角にしか見えませんわ。ミノタウロス様」

「ふぉっふぉっふぉー。ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉー」


 年老いた魔人は高く笑います。

 人の姿をした牛の目は優しく見えます。

 それを見たエリスセイラは心の中の不安が溶けて行くのを感じます。

 けれどもお嬢様はそんな気の迷いに等囚われません。

 場の掌握を画策します。


「それが判るとは流石じゃのう、ジュエリアちゃん。ではお嬢ちゃんは儂の事をどう見るかの?」

「ジュエリアはウエルスの貴族ですわ。王都リーザベスの大イブン聖殿におもむいた事はありますし。聖遺物を参拝した事もありますわ。その時の聖遺物に残渣として残っていた魔力の片鱗へんりん

 偽物が化けたとしたらなかなかの者ですわ」

「ふぉっふぉっふぉー。では儂は偽者か?」

「ジュエリアは今、こう考えていますわ。

 ヒューマの寿命は持って百年。最後の預言者で在らせられるヘルパー様が歴史上に初めて登場したのは八百年前ですわ。ならば全ての預言者様は魔人か魔獣ですわ」

「ふぉっふぉっふぉー。ふぉっふぉっふぉっ、ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉー」


 魔人の預言者は笑い続けます。

 白光聖女の仲間だと言う誤解は鳴りを潜めたようですわ。

 お嬢様はそれを安堵します。


「それで良いのかの?」

「考えてみれば唯一であり絶対である創造神ヤハーが人間種と動物、魔獣、魔人に差を付ける方がおかしいですわ。ならば全ては神の思し召しですわ」

「そちらのお嬢ちゃんはどうかの?」

「ルーンジュエリア様は何も考えておられません。今のお言葉は心からのものでございましょう」

「――セイラ。その言い方は耳と心が辛いですわ」


 お嬢様は胸を右手で押さえます。

 けれど男爵令嬢はそれに目をくれてはくれません。


「されどもわたくしはルーンジュエリア様のお言葉をってして尚、疑心に囚われております。醜き心をお救い頂けますでございましょうか?」

「セイラ。神は試すべからずですわ。セイラが違うと思うなら信じずとも構いません。真実はいつもひとつ!ですわ」

「もったいないお言葉。心に染み入りてございます」

「良い良い。つまり儂が本物のヘルパーだと判れば良いのであろう。何かを儂に問うが良い。一人一つずつ答えよう。ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉー」


 預言者と言うか、がたいの良い老猟師は岩に腰掛けます。


「ふみ?なんでもいいんですの?」

「儂も神に仕える預言者の端くれじゃ。嘘は言わん」

「ではずリリアンですわ」

「え?私ですか?聞きたい事なんて何もないですよ?」


 これは事実です。

 聞きたい事などすぐに出て来る訳がありません。


「ふみ。リリアンは絶対に誰も答えられない質問を持っていますわ。それで試してみますわ」

「あのー、セイラ様?」

「ルーンジュエリア様にお任せしたら問題はございません」

「はい!ジュエリア様、何を聞いてみますか?」

「リリアンのお父さんは今どこでどうしていますの?」


 リリーアンティークは硬直してルーンジュエリアの顔を見つめました。

 お嬢様は静かに頷きます。

 次いでエリスセイラに顔を向けます。

 男爵令嬢は明るく微笑みかけます。

 言葉は要りません。

 心だけあれば良いのです。


「質問です!私の、」


 少女の声は上ずります。

 慌てて口を押さえます。


「――私のお父さんは今どこでどうしていますか!」

「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉー」


 老猟師は優しい声で笑います。

 そして真面目腐って答えます。

 その声は静かです。


「スカラゲック沖、魔の青い箱の底で目覚めぬ眠りについておる」


 少女は黙って一つ首を縦に振ります。


「おぬしの父親はナイチエリアへ交易の為に出かけた。それはおぬしも知っての通りだ」


 今度は何もしません。

 ただ黙ったままで語る相手を見つめます。

 語られる言葉に耳を澄まします。


「おぬしの父親の乗った船は嵐に会い、魔の青い箱の中へ迷い込んだ。そして流れる渦に巻き込まれ、水底みなそこから招く手を逃れる事は出来なかった」

「ヘルパー様。お父さんは事故に巻き込まれたんですね?青い箱の底……。今も眠っているんですね?」

「そうじゃ」

「――お父さん……お父さん、」


 目を閉じて、うつむいて、小さな声で呟きました。

 お嬢様は男爵令嬢の耳に口を寄せます。


「ふみ?魔の青い箱ってなんですの?」

「さあ?これはわたくしも初耳でございます」

「ジュエリア様。スカラゲックは竜魔王国の、南のはじにある町です。その沖に潮の流れが速くて危険な海域があるらしいんですけど、その辺りの事を入ったら二度と出て来られないから青い箱って呼んでいるとか聞いた事があります」


 その小さな言葉は少女の耳に届いていたようです。


「ジュエリア様、ありがとうございます。これで胸のつかえがとれました。ヘルパー様もありがとうございました」


 平民の礼は場面と相手を、腰を曲げる角度とその時間で使い分けています。

 少女はルーンジュエリアに向いて両手を重ねると深く長くお辞儀します。

 次にヘルパーに向き直ると両手を重ねて深く長くお辞儀しました。


「次はジュエリアの番ですわ」


 お嬢様は預言者に向かって指さします。

 その声は八歳の少女です。


「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」

「訊ねる内容は一つですわ。リリアンが息を引き取る日。その子、その孫が永遠とわの眠りにつく日。リリアンのお父様がほのぐらい水の底から引き上げる者、引き上がる事はありますの?」

「――ジュエリア様。ありがとう、ございます」


 少女は両手で口を押さえました。

 そして潤んだ瞳で声にします。


「お嬢ちゃん。その質問で良いのかの?地の底、海の底に眠る金銀財宝のありかを訊ねても良いのじゃぞ?」

「この問い掛けの答えこそが今のジュエリアにとっては金銀財宝ですわ。神の恵みは明日あすへの希望となってこそ価値がありますわ」


 笑顔のお嬢様は老猟師を指さしたまま見つめています。

 優しい目をした預言者はそれに答えました。


「十年後じゃ」

「ふみ?十年後ですの?」

「うむ、十年後じゃ。その時その者の父親の体は引き上げられる」


 リリーアンティークは泣きました。

 その両目から流れ落ちる涙は止まりません。

 もしかしたら会えるかも知れない。

 そんな期待が膨らみます。


「それでは最後。わたくしの番でございます」

「セイラ。質問は不要ですわ」

「はて、ルーンジュエリア様。それは如何なる事でございますか?」

「ヘルパー様はジュエリア達の事をご存じではありませんでしたわ。ですがジュエリア達の訊ねる全てを知っていますわ。セイラ、何故なぜですの?」

「ルーンジュエリア様はその事に意味があるとお考えでございますか?」

「ですわ。

 ヘルパー様は何もご存じないのですわ。神からお預かりした言葉をジュエリア達に授けているだけですわ。ですから、」


 ルーンジュエリアは預言者に向かい立ちます。

 そして言葉を続けます。


「セイラへの答えは既に持っていますわ。

 それでよろしいですか、ヘルパー様?」

「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉー」


 老猟師であり、預言者でもある魔人は天をあおいで笑います。

 とても楽しそうです。


「賢いお嬢ちゃんだ。では儂が預言者であると認めてくれたと言う事でいいかな?」

「神の思し召しは全てに優先しますわ」

「うむ、儂もそう思う。ではそちらのお嬢ちゃん達もそれでいいのかな?」

「ルーンジュエリア様のお心は全てに優先でございます」

「私は博士はかせを信じます」

「うむ。ある意味怖ろしいお嬢ちゃんだ。マックカーペントではなく、儂が来て良かったわい」

「それもヤハーの思し召しですわ」

「そうじゃ。儂もそう思う」


 マックカーペントはヘルパーより前に現れた預言者です。

 とても優しい方ですが、敵を敵視する事にちゅうちょがありません。

 その意味でヘルパーは自分の心を口にしました。


 語韻から言って、マックカーペント様は海竜ですの?と聞いてみます。

 これは世間話ですから数には入れません。

 違うが似たようなものじゃのう、と笑い声で答えが返ります。


「では最後の預言じゃ。リリーアンティークの父親の体は嬢ちゃん、おぬしが海の底から引き上げる」

「わたくしが?で、ございますか?」


 エリスセイラは驚きます。

 そして預言者に問い正します。


「うむ、そうじゃ。今から十年後。嬢ちゃんが従魔を使ってそれを為す。これが儂の神から預かりし言葉じゃ。ゆめゆめ疑う事勿れ」

「当然でございましょう。神の恵みは明日あすへの希望となってこそ価値がございます。それがルーンジュエリア様のお言葉でございます」

「うむ。儂もそう思う」


 神より預かりし言葉を授ける。これこそ預言者の証拠です。

 すでに三人はその事を誰一人として疑っていません。


「所でお嬢ちゃん達はこれからどうするのかな?」

「ジュエリア達はセントエリモの陽を見ますわ。そして明日あしたの朝に家へ帰りますわ」

「そうか。では儂も夕陽見物に同席していいかのう?」

「リリアンにまかせますわ」

「セイラ様、……」


 視線で問われた男爵令嬢は優しく微笑みます。

 心が決まった少女は山の博士はかせに答えます。


「はい!喜んで!」


 あと二、三時間で夕暮れです。

 夕食でも食べながらその時を待つ事にします。


 食事の話題にルーンジュエリアは、ヘルパーが言った地名について訊ねてみました。

 お嬢様の知る海を渡った隣の大陸はナイチェリアです。

 預言者様のお言葉とは発音が少し違います。

 種を明かせばスクリーン地方の訛りだそうです。

 地名や人名等名詞の小さなや、ゆ、よ、えを大きな文字で発音する事があるそうです。

 聞く方は話す方の癖や言い間違いだと思うらしく会話には不自由無いと話します。

 ではジュエリアは言いづらくありませんの?と訊ねると素直に言いづらいと言います。

 だがズエリアたんでもいいのかのうと聞いてきました。

 ご迷惑おかけしますとお嬢様は頭を下げます。


 食事の礼だと空間収納の魔法術を教えてもらったルーンジュエリアはとどを四頭仕留めます。

 収納庫内は時間軸から外れているようで、冷蔵庫や保温庫代わりに使える様です。

 サンストラックとジェントライトに良い土産ができました。

 これで怒られる事をうやむやにできるだろうとか甘い考えを持ちます。


「ほう!やるのう」

「凄いです!さすが、ジュエリア様です!」

「ジュエリアは必殺仕留め人ですわ!」

「何故首に切れ目を入れられるのでございますか?」

「ん?セイラ様は血抜きをご存じないです?」

「ああ、鹿を沢に転がすやつでございますね?岩に並べて置くのでございますか?」

「血の味は濃いから血抜きは欠かせません。潮の干満が分からないから明るい間だけ並べておきますわ」


 仕留めた動物の体で一番最初に雑菌がはびこるのは血液です。

 そして体内細菌が繁殖している内臓も足が速いことで有名です。

 その腐敗を遅らせるために温血動物は水に当てて獲物の体を冷やします。

 ルーンジュエリアは猟師たちの苦労を想像します。



「夕陽が沈みますわ。あのソラの方向にスカラゲックがありますの?」

「いいや違う。今の時期、ソラは真西よりもかなり北側に沈む。そしてスカラゲックは真西よりもかなり南側じゃ」


 ヘルパーは指差します。

 その方向は夕陽の左側です。


「お嬢ちゃんの父親が眠っておるのはあっちだの」

「向こうなんですね?」


 リリーアンティークも同じ様に指さします。

 その方角は忘れません。

 そんな決意を込めています。


「あっちの方向がお父さんのいる、」


 海の上、何もない赤い水平線の一点を指さします。


「スカラゲック海峡青函……」


 父親が引き上げられる時には、自分は二十二歳になっています。

 何人の家族をお父さんに紹介できるかな?

 リリーアンティークの心は膨らみます。

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