最終話 コンティニュー赤ちゃんは勇者の膝で眠る
ダンッ
いきなり馬車のドアが開いた。そこには青白い顔をして目が血走ってよだれを垂らして興奮状態の騎士団長が居た。
「フーッフーッ、さっきまでの頭が割れそうなくらい苦しかったのがウソのように今は絶好調だぜ、おかげで腹が減ったぜ!!!」
まさかここでよだれかけフラグの回収?なーんて冗談言っている場合じゃないわね。
これは
騎士団長の首筋を見るとしっかりと歯形が付いていた…吸血鬼みたいにかじられたのかぁ。
騎士団長は剣をかかげ私に向かってきた。
盗賊達もそうだったけどゾンビなのに普通に動けるのね。
そういえばさっきセバスさんとネネさんがゾンビについて話していたような…。
ゾンビには2種類居て、死んだ後にゾンビになった人と、生きながらゾンビになった人が居るって。
前者はほぼ思考能力もなく動きも遅く、血肉を求めてさまようただの生きた屍だが、後者は思考能力も生前の記憶あり、戦闘に関してはリミッターが外れ凶暴化していて生前より強くなっていると。
見た目も人間とあまり変わらないが、一度ゾンビになった人はもう2度と人間に戻ることは無いらしいと…。
やばい余計な事考えてたら…でも私は素早さをあげてたから回避できるかも…10だけど…
スパッ
「あぅあ」(痛った)
無理でした、回避しきれずに右腕を少し斬られ、しかも座っていた馬車の椅子から床に転げ落ちてしまった。
ドスッ
「ああぅ」(あ痛っ)
斬られた右腕から血が出てきた。痛っもうっ、あれ?斬られた右腕が上がらない…。
じゃあ左手で【ウインドカッター】を…、私はうつ伏せになった状態で左手を上げ魔法を唱えようとした。
「ヒャッハーーーー」
むっ、ヒャッハーな人になってる。
「魔法は使わせないぜ!!」
騎士団長に向かってかざしていた左手の甲を踏み付けられた。
グチィっと嫌な音がした。
「あ、ぅぅ」(い、痛ぃ)
ひどい、赤ちゃんになんてことを…どうしようこれじゃ【ウインドカッター】が撃てない…。
騎士団長がいやらしい笑みをみせて剣を私に振り下ろしてきた。
騎士団長ごめんなさい。後パパもごめんね。
「ああぅああうあうあったーーー」(ワイドウインドカッター)
ビュヒュヒュン
私は両腕とも上げる事が出来ないので、うつ伏せになったその体制のまま両手を馬車の床に向け呪文を唱えた。
【ウインドカッター】よりも数倍大きなかまいたちが私たちの乗っていた馬車の床を真っ二つにした。
「うわっ」
その衝撃でバランスを崩し、私の左手を踏んづけていた騎士団長の足が外れた。
「あぅあ!!」(今だ!!)
私は横にクルリと半回転し仰向けになり、寝ながら万歳した様な状態から騎士団長のケツ顎に向けて再度呪文を唱えた。
「あぅあぁあ!ああぅああうあうあったーーー」(これで終わりよ!ワイドウインドカッター)
ビュヒュヒュン
「うおっ」
騎士団長は【ワイドウインドカッター】を仰け反る様に避けた。
うそっ?この距離で避けれるの?
【ワイドウインドカッター】の巨大なかまいたちはそのまま馬車の天井を切り裂いた。
そして馬車はまるで桃太郎のモモが割れるようにパカリッと真っ二つに割れてしまった。
グラッ ガタンッ
「おわっ」
その反動で騎士団長は外に放り出されたが、持っていた剣がクルクルと回転しながら私に向かって飛んできた。
避けなきゃ…あれ?動けない?【豪華だけの趣味が悪いよだれかけ】が崩れた馬車の下にはさまって私は動く事が出来ない。
うそっ…ここでまたよだれかけフラグですか…やっぱり勇者様にこっちを渡しとくべきだった。
グサッ
「あぐっ」(あぐっ)
飛んできた剣が私の胸に突き刺さってる…あっやばい…これ死んじゃうやつよね………。
「―――あうあうあーー!」(―――3番目ーー!)
私の胸に刺さってた剣がガシャリと地面に落ちる。胸の傷も両腕の怪我も治っていく。
そして私の右手には何かの白い動物の毛で編んだと思われる私の手のひらより小さな猫のぬいぐるみが光輝きながら消えて行った…。
そしてやっとさっきまで五月蠅かった声が聞こえなくなった。
なんのことって?実は私最後のコンティニューした時の特典まだ選んでいなかったのよ。
そして今【身代わり人形】を選んだのよ。
【身代わり人形】一度だけ所有者の死の身代わりをし、健全な状態で復活させる。
だからずっと【次の項目から1つ選んでください】【次の項目から1つ選んでください】って頭の中で五月蠅かったわぁ。
まあおかげで昼寝できずにいたから騎士団長の襲撃に対応できたんだけどね。
でもまだ騎士団長は倒せていないのよね。他の騎士たちも騒ぎに気付いて駆けつけて来てくれてるけど…。
貴方たちじゃ倒せないかも。やば!倒れてる騎士団長と目が合った。こわっ、こっち見ないでよーーー。
「あうあうあったーーー」(ウインドカッター) 「あうあうあったーーー」(ウインドカッター)
ヒュン、ヒュン
うっまた避けられた…。ゾンビ化して能力が上がってるのかしら?
倒れてた騎士団長はころがりながら避け、素早く起き上がった。
「もうその技は何度も見ましたよ、お前が手をかざす方向に気を付けていればいいだけ」
何赤ちゃんに本気になっているのよう!…でももう完全に【ウインドカッター】は攻略済みってわけね。
どうしよう【召喚魔法】で誰か呼ぶ?私の肉盾として…【身代わり人形】の効果でMPも回復してるし何人か呼べるかも?
もしくは近づいてきたところを何かの武器で…何か武器になる物はないかしら?
そうだわ!首に巻いているこの【豪華だけの趣味が悪いよだれかけ】に、落ちている石を包んで振り回すってどうかしら?
よし!…あっ短っ…ダメだわ自分の首の後ろに手が届かない…これじゃ【豪華だけの趣味が悪いよだれかけ】を外せないわ。
まずい!騎士団長がこっちに来るわ…。
「糞赤ん坊め、ぶっ殺して食っ」
シュパッ
「って、げふっ…」
えっ???
見ると騎士団長が勇者様の剣によって首を切断されていた。
顔が無くなった首からプシューと血が噴水の様に噴き出る。
うわぁグロい・・・赤ちゃんに見せる光景じゃないわね。
ゴロンッ
地面に転がってる騎士団長とまた目が合う。
もっもう動かないわよね?
「王女様!大丈夫でしたか?」
「あうあ」(念話)
(はい、助かりました、奥の手も使ってしまったので結構やばかったですわ)
パパ達もやっと駆けつけて来てくれた。
「勇者殿!娘を助けていただき感謝しますぞ、まさか騎士団長がゾンビ化しておるとは…」
「いえ、騎士団長さんに興味が無かったので騎士団長さんが噛まれてた事に気づかなかった僕の責任でもありますし、間に合ってよかったです」
「にゃにゃー!!ルーララ様!!お怪我はないかにゃ!?」
ネネさんは私を抱き上げ肉球でほっぺたをぶにゅぶにゅしてきた。
「だぁーだぶだぁ、だうぅ」(大丈夫よ、うふふ)
「勇者殿、それで魔人族は?」
「はい倒しました。すごく弱かったです、ただ持っていたスキルが厄介でしたね」
「スキル?ちなみにどのような?」
「【死者の従属】と言うスキルで自分の血を浴びた相手をゾンビ化させ従わせるっていう能力みたいですが、魔人族を守るように周りをチョロチョロ動き回っていたゾンビ化した野ウサギやリス、モモンガ、後…モグラに野ネズミにバンビも居たかな?などの愛くるしい小動物共々、遠距離からの【聖魔法】攻撃で一網打尽でした」
「…」(…)
「おっおお!!!流石、勇者殿!」
「あっそうだ!王女様、これお返ししますね、全く使わなかったので」
勇者様は私に【結界の指輪】を差し出し、私の左手の薬指にはめてくれた。
「だぁ?」(えっ?)
「まぁ」
私のママも嬉しそうに驚いてる。
「ん?どうかしましたか王女様」
あれ?もしかして分かってない?それとも天然?
「にゃあぁ!ライバル登場にゃぁ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パカラッ パカラッ
私たちは今、勇者様が【アイテムボックス】に入れていた勇者専用の馬車に乗り旅を続けていた。
そもそも私たちの旅の目的がどこかと言うと、魔王を倒しその褒美で勇者様が貰った領地に行く事が目的だったのだ。
なぜならその領地で勇者様がこちらの世界では珍しいと言う【温泉】を掘り当てたから、そしてなぜか私たち王族がお忍びで行くと言う流れになったらしい。
「危険だからお辞めください!」という大臣も何人か居たみたいだけど勇者様が護衛に付くという条件で渋々承諾したみたい。
きっとパパとママが行きたいって駄々をこねたのね、でも私も温泉が好きなので楽しみ。
パカラッ パカラッ
え?今何してるのかって?もちろん馬車の中で勇者様の膝の上でお昼寝していますよ。だってラブラブなんだから。
チラリッと薄目を開けて勇者様を見ると、いつものようになぜか眩しそうな顔をして私を見ているの。可愛いわね。
そう、これは私と私の未来の旦那様である勇者様が初めて出会った時のお話。ウフフッ。
あっそういえば色々疑問が残ってるのよね。
例えば私の【コンティニュー】スキルの回数。明日になれば回復するのかとか、私が成長すれば増えるのかだとか今はまだ分からないし。
あとは【コンティニュー】した時の選べる特典項目がなんで5つなのか?
別に
スキルのシステム上のルールだって言われたらそれまでなんだけど、
なんだろ…う~ん、誕生日も違うし、あっ!!1つ心当たりがあるかも…。
それは
ダメよ女性に年齢の事聞いちゃ。ウフフッ。
そうそう、ここまでスルーしといて、聞くの忘れる所だったわ!最後に一番の疑問………………【百式仕様】って何?
おしまい
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