第53話 バーベキュー大会
夕方までかけて採取をして
地面に置きたくなかったので吊るしておいた木から降ろし、後ろ脚をもって引きずって帰る。
これも以前と同じように毛皮を凍らせて引っ張って帰る。
今度は枝を払う必要がないので楽だ。
全員分の薬草をイレーネと分け合って籠にいれ先導する。
あっというまに帰還し、練兵場に冷凍鹿を持ち込むと料理人と士官候補生、教官がそろって待っていた。
フェルミン・レニーがやってきて私に言った。
「新学期早々やらかした2年がいるときいて最初に貴様の顔が浮かんだわ」
反論しようとしたができずにぐぅと唸るしかなかった。
「で、これは何の集まりなんです?」と聞くと、
森林の主などの大型の獣を狩った場合は
解体を練兵場で行い、分配をする習慣になっているらしい。
たしかに合わせて300㎏を超えそうな大きさのジビエどう解体してもC班で消費しきれるものではなかった。
肉100㎏、ホルモン100㎏ 残りがそれ以外。
肉は分配して、ホルモンはこの場でみんなで食べて、残りは希望者にということなので急遽バーベキュー大会が始まるのだった。
1年間ここにいてほぼ初めて上級生を見た。
遠目から見たことはあったのだが、まじかでみるのは初めてだった。
人数が多いしやはりでかいな!
4年生は36人、3年生は44人、1年生は26人だということだった。
私らが一番少ない。
100㎏を130人ほどで分けることになりそうだ。
いそいそと上級生と1年生がどこからかバーベキューセットを運んできた。
我々はとってきた人なので解体の見学だけでよいらしい。
別にそのくらい働いてもいいんだけれども。
学食に努める二人のコックが狩猟した動物を解体する専用の台を二台運んでくる。
そうすると二人の教官がいそいそと鹿をつるしてコック場を任せた。
鮮やかな手つきで解体される鹿をみてどこの部位をもらおうかと妄想していると、
ルイス教官が小声でつぶやいた。
「お前ら、角は魔法薬の材料になる。一人10㎝くらい確保しろ」
大事なミッションが下された。
とはいえ、7人で10㎝ずつとっても半分以上残るので問題はないだろう。
私が雌のフィレ肉を狙っていることはイレーネにも知られてはいけない。
しかし、タンも捨てがたい。貴重なので一度食べてみたい。
くぅっ。
解体した肉を置くための台にコックのおっちゃんが部位名を言いながら肉を置いていく。
牝鹿が解体され終わったところでルイス教官に名前を呼ばれる。
「こっちはカオルがとどめ刺した方だな?」と問われ、そうです。と答える。
「好きな部位を一人分選べ」というのでタンかフィレかと思ったが
舌そのものを見てみるととてもじゃないが選べるフォルムをしていなかったので迷わずフィレをとった。
イレーネが叫んでいる。すまない、イレーネ、君との友情もここまでだった。
次はだれだと問われたロペスとイレーネはじゃんけんをして決めていた。
じゃんけんはロペスが勝利を収めたようでイレーネの悲鳴が響き渡っていたがロペスがモモ肉を選ぶといよっしゃーと叫んでいた。
そのイレーネはタンを選ぼうとしていたが見た目が無理といってロースをもらっていた。
その後、ペドロやラウルの功績順に肉をもっていき、教官、上級生、身分の順に一人分ずつ切り分けていき、ぎりぎり1年生のAB班まで配布され、C班は全員分には満たないということでバーベキューに回された。
一番悲しいのはこの場に呼ばれすらしない全学年のDE班だろう。
台形を逆さにして底面を抜いた形をしたバーベキュー台20台に火が灯され
学校のコックがさばいた鹿ホルモンがスライスされて配られた。
大皿に並べられたホルモンを小皿にとり適当なバーベキュー台に陣取り
舌鼓を打つ。
人気のバーベキュー台は上級生の身分の高い生徒と教官が占領し、
身分と学年順に自然と遠くに追いやられていく。
私たちは2年生のC班なのでもっとも外側からちょっと内側に入ったところで
A班とB班の隣だった。
すれ違う上級生たちがご馳走様とあいさつしてくるという居心地の悪さの中で
シェフがトリミングした鹿のタンやあとでこっそり食べるつもりだった肉を
シェフに頼んで切り分けてもらってその場で食べてしまう人が多い中、
私は
もそもそと鹿のホルモンを食べているとフェルミンが話しかけてきた。
「カオル、ガルシアのやつから聞いたがなかなか面白い武器を作ったみたいだな」
ガルシア?ガルシア、あぁ、ロペスか。
「たいしたことないですよ、ロペスの疾風の剣のほうがよっぽど面白いですよ」
と答えると
「あれはいかんな、使いこなすまでが面倒すぎる」イレーネのも言おうとすると、
「モンテーロのも同じだが危なすぎる、握るだけで
出るのは味方を後ろから撃つつもりかと思われても仕方がない」
「そこで興味があるのが貴様のだ、カオル」
はあ、と答えてヌリカベスティックを渡して使いかたを教えた。
練兵場の端の方に移動してもらって試し始めた。
しばらく壁を出したり穴をほったりしながら遊んでいたが、
突然よろよろと倒れ込んでしまった。
アイラン・バルノが慌てて駆け寄り、トミー・セビリャが私にどういうことだと詰め寄ってきた。
「ただの魔力切れでしょう」と答えると
「つい楽しくなってしまったわ」と言ってフェルミンが笑っていた。
「魔力量によって壁の高さが調整できるようになっているので、微調整して遊びたくなる仕様になっております」と答えた。
「じゃあ、面白いついでにペドロの
しぶしぶ
「こ、これは素晴らしい!」とフェルミンが感動していた。
「フェルミン様にふさわしい剣でありますな!」とアイラン・バルノが叫んだ。
「それは
「たしかに
だからこそ吾輩にふさわしい」と、フェルミンが答えた。
ペドロはわけのわからない顔をしていたが、
「吾輩は先頭には立たぬからな、
だからこそこの剣は吾輩にちょうどいい、どうだ、譲る気はないか?」
とペドロにいうとペドロは
「俺の作ったもので良ければ」と答え
あとで代金を届けさせる、と追加した。
バーベキュー大会は無事に終わり、
私はよく冷えたフィレを私の部屋の保存容器に大事にしまい込んで
イレーネと二人でこっそり消費した
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