第2話 世界の成り立ちと宗教国家
ワモンの話す、この世界の神話を聞き終えた頃、ドアが開けられ、呼ばれていたらしき女性がきた。
年は20代半ばくらいだろうか、グレーのひっつめ髪で給仕服を着ていたが、見たことがあるような給仕服なのは召喚者に持ち込まれたものなのだろうか。
「はい、お呼びでしょうか」
と、胸の前で拳を回した。
なんとなく真似をして胸の前で右手を回してみた。
エリーはぎょっと目を見開いたあと何事もなかったように無表情に戻った。
「見ての通り異世界からの召喚者でオオヌキカオルです。あなたには身の回りの世話をお願いします。」
「かしこまりました。」
そう言ってエリーはお辞儀をし、私にこちらへ、と促した。
エリーの後へついて部屋から出る。
「・・・オル様、オオヌキカオル様」
エリーは何か話をしていたようだが何か話をしていたのか話を聞いていなかった。
「すみません、聞いてませんでした。」
「本日の所は召喚されたばかりでお疲れもあるでしょうからこれから過ごす学生寮のお部屋へと案内いたします。」
「明日からは訓練などが始まりますので朝お迎えに行ったあと練兵場へ案内いたします。」
改めて説明してもらった後、エリーは言いづらそうにして口を開いた。
「オオヌキカオル様の世界の挨拶と異なりこちらの挨拶は左手で拳を作り、顎の下から心臓の上を通り円を描きます。
1度目は神への祈り、2度目は相手への敬意です。」
と言った。
真似をしたつもりだったが変だったらしい。
「右手で途中から何度も回すのはあまり良くない意味になりますのでご注意くださいね。」
そういってエリーはお辞儀をした。
知ったかぶりで失敗をしたようだ。
「すみません、ありがとうございます。」
そう言ってお辞儀をした。
「お辞儀は上手でらっしゃいますね」
そう言ってエリーは軽く笑った。
兵舎と神殿は王宮を中心に渡り廊下でつながっており、召喚の部屋は王宮にあるらしい。
今日はこのまま兵舎へと向かい、明日は兵舎から王宮の裏側にある練兵場へ行く、というスケジュールになる。
神殿にはあまり出入りすることはないだろうということだった。
案内してもらいながら歩いているが、同じ敷地内だというのに思ったより遠く、この体の体力と足では何度も行ったり来たりするのは大変そうだ、と暗い気分になった。
見た感じ健康的ではあるが筋肉がなさすぎる。
太っているわけではないのが救いか。
特に話すこともないため黙って歩いていると、話しかけられることもなく迷わず兵舎の自分の割り当ての部屋についた。
エリーの足元しか見ていなかったのでここから動いたら戻ってこれる自信がない。
エリーは鍵を取り出し促すと部屋の説明を始めた。
「召喚者には士官候補生の個室が与えられます。
トイレやシャワー室はありますが、シャワーの温水は本来の士官候補生であれば、連れてきた使用人かご本人が魔力を入れる必要があります。」
「魔力・・・」
もちろんそんなものはない。
幸い今の季節の水は凍えるほどは寒くない、水シャワーを覚悟した。
「オオヌキカオル様のお世話を仰せつかっておりますので、2、3日に一度魔力を入れに参ります。」
聖女のような微笑みでエリーがそう言ってお辞儀をした。
微笑んでいたか聖女だったかは見ていないがきっとそうだったに違いない。
「急に世話をしろなんて言いつけられたのにそんなことまでしてもらって申し訳ありません。」
と言うと
「召喚者様のお世話ができるのは光栄でございますからお気になさらずに。」
と答えた。
その後、お湯の出し方やトイレの使い方を聞き、晩御飯は夜にお持ちします。
「なにか食べられないものなどありますか?」
と聞くので
「辛いもの以外なら大体大丈夫です」
と答えてエリーは退出していった。
その時、
「御用があればこのベルを御鳴らし下さい、魔法のベルでわたくしにだけ聞こえるのでご用件を承りに参ります」
と、言ってと小さなベルを置いて行った。
部屋に一人になり夕飯まで特にやることがないが、今の時刻がわからない。
今の季節が向こうと同じ5月から6月くらいを想定して窓から外を見ると15時から17時頃じゃないかと思う。
学生寮の中を探検したい気持ちもあるが方向音痴の私はおそらく戻ってこれないだろう。
しょうがないのでシャワーでも浴びることにしてなるべく見ないようにして服を脱いてシャワー室に入る。
目線を正面からちょっと上に固定してシャワー室に入ると鏡があった。
金属を磨いた鏡ではなく、ガラス製の想像したよりゆがみのないガラスの鏡だった。
そこに写るのはやはり知らない女の子で、漫画やアニメの中でならすごく楽しめるのに、と自分の不運を呪った。
「あ、あ、あー」
と声を出してみると耳に響く声に違和感を覚え、叫んで、暴れまわりたい衝動に駆られたが、他人の体だということを意識したのか自分でもわからないが、奥歯をぐっと噛んで耐え、ストレスばかりが溜まっていく。
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