序幕

墓前報告①

 天国の親父おやじ、おふくろ、俺から大事な報告があるんだ。聞いてくれ。


 娘ができた。


「おめでとうおめでとう」「初孫だぞ母さんや」「この手で抱いてやれないのが悲しいわねぇ……」と天国から祝福の声が聞こえてくるようだ。

 水を差すようで申し訳ないが、誤解されたようなのでもう一点伝えなければいけないようだ。

 俺にはまだ嫁さんなどいない。

 どころか、彼女すらいない。

 どころか、できた事すらない。

 報告していて悲しくなってきた。

 甲斐性かいしょうのない息子で申し訳ない限りである。


 どうも言葉が足りなくて正確に伝わらなかったようなので、補足して報告し直すとするよ。


 娘ができた。

 ついでに嫁ができた。


「おめでとうおめでとう」「だい君みたいな甲斐性無しを受け入れてくれる寛大かんだいな娘がいるとはねぇ、現世げんせも捨てたもんじゃないわ」「ん? ついでってなんだ?」「あらやだ、お父ちゃんそりゃ今流行はやりのデキ婚じゃないのさ」「大地もなかなかやるようになったのぅ、ガッハッハ! だが嫁がついでとは失礼な事を言うもんじゃないぞ」と天国から祝福(?)の声が聞こえてくるようだ。

 水を差すようで申し訳ないが、以下略。


 客観きゃっかんてき事実の伝達のみでは齟齬そごが生まれるようだ。いやぁ、日本語って難しいね。

 わかった。あまり乗り気ではないけど、もっと主観的にありのまま起きた事を報告するよ。


 いきなり可愛い女の子が降って来て、「パパ、あたしと結婚して」って言われたんだよ!!!


わしらが早くってしまったから大地はこんな……」「今夜にでも精神科の沢渡さわたり先生の枕元に立ってお願いしてこなきゃ……」「沢渡はだめだ、あいつの性癖を考えれば、これ以上の取り返しのつかないことになる……」「母さん達にできることはもう何もないのね……おお、くちおしや、くちおしや……」と天国から祝福(えん)の声が聞こえてくるようだ。

 違うんだ! 俺はまともだ! もはや何をもってマトモかは全くわからないが!

 俺だって、そんな夢物語のようなことが現実に起きるとは思ってもいなかったさ!

 あぁ親父よ、そんな生温かい眼差しを向けないでおくれ!

 あぁお袋よ、悲痛なおもちで首をろうとしないでおくれ! あんたもう死んでるからね。


 俺はただ起きた事実を端的たんてきに報告したのだが……やはりこんな報告ではちっとも正確に伝わらないということか。

 このまま誤解されたままでは困るので……長くなってしまうけれど、起きたことをありのままに、正確に、ことこまやかに、誤解を恐れずに、語るとしようか。

 それではどうか、のんびりと聞いていただきたい。



   ◆◇◆



 これはある二人が救い救われ、互いに三度みたびの恋に落ちる物語


 これより語るは、最初と最後の恋


 つづいて語るは、  と  の恋


 この先に待つは、  と  の恋

 

 そうそれは、星の欠片が愛を勇気を希望を届ける螺旋らせんの旅路


 そうそれは、星の欠片を導き幸せを紡ぎ出す果てしなき旅路


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