第6話

「この際、お金払うからとも言ってましたよ?」


 オリンは尚も食い下がる。


「要らんわぁ! 私は商売女じゃねぇって言ってんだろ!」


 サーシャは先程から怒鳴りっ放しだ。周り中は既にドン引きである。


「先っちょだけでもいいからとも」


 オリンも諦めない。


「しつこいわぁ~! ハァハァッ...」


 怒鳴り過ぎたサーシャは息も絶え絶えだ。


「いやこんな場所で悩ましげな吐息を吐かれても...」


 さすがにオリンも引いた。


「吐いてねぇし...」


 サーシャはそう言うので精一杯だった。


「ねぇあなた、さっきから気になっていたんだけど」


 そこにずっと沈黙していたアリンが口を挟む。


「お腹がポッコリしてない? ちょっと太った?」


「ギクッ! ななななんのことかしらぁ~?」


「いや自分でギクッって言っちゃってるし。あなたまさか...」


「ななななによ!?」


 サーシャの顔面から汗が滴り落ちる。


「何ヵ月なの?」


「だだだだからぁ、ななななんの話よぉ!」


 汗が滝のように流れ出した。


「さっきから動揺しまくりじゃないの...それで? 誰の子か分かってるの?」


「た、だから! 妊娠なんてしてないったら! このお腹はほらあれよ! メタボよ!」


「メタボって...あなた幾つよ...はぁ...まぁそれだけ乱れた性生活を送ってりゃそうなるわよね。自業自得だわ...さて、あなた達」


 そこでアリンは自分の周りに居るイリン達に向かって、


「この女を肉体的にも精神的にも追い詰めるのはここまでよ。こいつの犯した罪は許し難いけど、産まれて来る子供に罪は無いわ。いいわね?」


「「「「 Yes,Ma'am! 」」」」


 四人全員の声が見事にハモッた。まるで軍隊のように。


「ちょっとぉ! 人の話をちゃんと聞きなさいよぉ! なんで妊娠を前提に話を進めてるのよぉ! これはスイーツを食べ過ぎたんだってばぁ!」


 サーシャが涙ながらに(ちなみに嘘泣きではなくマジ泣きである)訴えるが、誰も聞いちゃいない。


「カイン殿下、そういうことなので、私達は失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「えっ!? あ、あぁ、そうだな...」


 もはやカインは放心状態だった。


「あぁ、そうでした。忘れる所でしたわ。あなた達、準備はいい?」


「「「「 Yes,Ma'am! 」」」」


 カイン含め、ここに集まっている全員がなんだろう? というような顔をしている中、アリン含めた五人が一斉に、


「「「「「 婚約者様、謹んで婚約破棄させて頂きますわ! 」」」」」


 そう言って軽やかな足取りで会場を後にした。


 残された人々はその姿を呆然と見送っていた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る