第19話
「千草、なんかいつもあのお客さんいるよね」
「そうか?」
「うん、いつも千草のことみてるよ」
「ええ!? なんかやったのかな私?」
俺はそのお客のことを観察した。
年は30代半ばと言ったところだろうか。
ポロシャツにGパン。とくに特徴は無い感じだ。
「あ、こっち来た」
「これ、君と僕の写真」
俺の前に置かれた写真は、明らかに合成と分かる物だった。
男に寄り添って俺が立っている。この服から考えるとこの前のカラオケ大会の写真だろう。
「うわ。なんですか? この写真」
俺はぞっとした。
「この前のカラオケ、凄く良かった」
「……ありがとうございます」
俺は一応、礼を言ったが気持ち悪さが勝ってしまった。
「あの、今度ご飯一緒に行かない?」
「嫌です」
「そんな事言って、本当は行きたいんでしょう?」
「警察呼びますよ?」
男は警察と言われて、引き下がった。
「ここ、連絡先」
「入りません」
俺は男に渡されたメモを、男の目の前で捨てた。
「大人しくしてれば図に乗りやがって!」
男は目をギラつかせた。
「もしもし、警察ですか? 変な人が来て店員に絡んでるんです」
菜央の電話に男は逃げ出した。
「菜央、警察なんて大げさじゃない?」
「振りだけだよ」
菜央は心配そうに俺のことを見つめた。
「千草、帰り道とか気をつけてね。なるべく一人にならないように」
「分かった」
バイトを終え、夜になり俺は家に向かって歩いていた。
「千草ちゃーん」
気持ちの悪い男の声がした。
「!?」
昼間の男だった。
「今日は邪魔が入っちゃったけど、二人きりなら素直になってくれるよね」
「いい加減にしろ!!」
俺は抱きつこうとしてきた男を一本背負いで投げ飛ばした。
「おまわりさん! 変質者です! 場所は……」
俺は男を取り押さえて警察に電話をした。
「大丈夫ですか?」
「はい、この人抱きつこうとしてきました。昼からずっとつけられてたんです」
「そうですか。それでは、こちらへ来て下さい」
男は警察に連れて行かれた。
「標的が菜央じゃなくて、俺で良かった」
俺は一人ため息をついて帰路についた。
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