第15話

目を覚ますと一人だった。

俺は寝室を出て、音のするキッチンに向かった。


「おはよう」

「あ、おはよう」

百々花は先に起きていたらしい。

寝間着から普段着に着替えを済ませ、キッチンで一人、コーヒーを飲んでいた。


「今日は何する?」

百々花が目をキラキラさせて聞いてきた。

友達と一緒ということがよほど嬉しいらしい。

「うーん、散歩でもしようか」

俺の言葉に、いいね、と言って頷いた。


百々花の別荘を出ると、昨日魔法を見ていた隣の家の女の子が二階から手を振ってきた。

「お姉ちゃん達、おはよう」

「おはよう、リリイちゃん」

百々花は女の子に、声をかけた。

「今日はどこか行くの?」

リリイが聞いてきたので、俺は答えた。

「お散歩だよ」


「いいな、お姉ちゃん達」

「リリイは学校に行かないのか?」

小声で百々花に尋ねると、百々花は少し悲しそうな顔をして頷いた。

「リリイちゃんは、ぜんそく持ちで療養中なんだよ」

「そっか、可哀想だな」


「ねえ、帰ってきたらまたマジック見せて!」

リリイは無邪気に笑って言った。

「良いよ、ね、千草?」

「うん」

俺たちは、リリイと約束をしてから散歩に出た。


「自転車に乗ろうよ」

「分かった」

百々花の提案で、俺たちは自転車をレンタルした。

「石の教会とか、スワンレイクとか行こう!」

「私は分からないから、百々花にまかせるよ」

俺はそう言って、百々花の後に付いていった。


石の教会は思ったより人工的で、俺にとってはちょっと興ざめだった。

スワンレイクは遠くて、自転車でも苦労したが風は心地よかった。

「周り、綺麗な新緑だね」

「そうだね、風が気持ちいいね」


お昼が終わる頃、自転車を返し、百々花の家の傍のピザ屋で昼食を取った。

ピザは焼きたてで美味しかった。

百々花は半分しか食べられなかったので、結局俺がピザを一枚半食べることになった。


そして観光を終え、自転車を返し百々花の別荘に戻った。

「お姉ちゃん達、お帰りなさい」

「ただいま、リリイちゃん」

「マジック、見せて!」

リリイはずっと待っていたらしい。

小さな目がキラキラと輝いている。


「それじゃ、庭に行こう」

「いいよ」

俺は百々花の後について、昨日と同じ場所に立った。


「氷壁!」

俺が魔法を唱えると、氷の壁が出来た。

「うわ! すごい!」

リリイは喜んでいる。

「炎の舞!」

百々花も魔法を使い、炎が宙を舞った。


「おねえちゃんたち、本当は魔法使いなんじゃない?」

リリイは目を輝かせていった。

「そんなことないよ」

百々花と俺は口を揃えて答えた。


「ウチにおいでよ」

リリイが言った。

俺と百々花が戸惑っていると、隣のお母さんらしき人が出てきた。


「こんにちは、相沢さん。お久しぶりですね」

「お久しぶりです、花園さん」

「ずいぶん立派になられて。そちらはお友達?」

「小野千草と申します」

自己紹介すると、花園さんは頭を下げた。


「勝手なお願いで申し訳ないんですが、ちょっとリリイの相手をしてもらえないかしら」

「いいですよ」

百々花はすぐに答えた。

「何をすれば良いんですか?」

俺が尋ねると、花園さんは嬉しそうに微笑んで言った。

「話し相手をして頂ければそれでいいんです。リリイはお友達も少ないし、退屈してるので」


俺と百々花は花園さんの家に上がることにした。

リリイの部屋はピンク色の飾りが多く、いかにも女の子の部屋という感じだった。

「こんにちは、リリイちゃん」

「百々花ちゃん、こんにちは」

リリイは俺を見つめて、もじもじした。

「私は千草。よろしくね」

「千草ちゃん、よろしく」


リリイは、ぬいぐるみの紹介をしたり、お気に入りの絵本を俺たちに読んで聞かせたりした。

2時間程度一緒に遊んで、俺たちは百々花の別荘に帰ることにした。

夜になった。

夜ご飯は、相沢さんの家でお土産にもらった、ほうれん草のキッシュを食べた。


「ねえ、外、なんか音がしない?」

「うん」

百々花と俺は外に出ると息をのんだ。

そこには死に神のナナが立っていたからだ。


「お前たち、なぜここに居る?」

「こっちの台詞よ!」

百々花が言う。

「変身!」

俺と百々花は魔法少女に変身した。


「相沢リリイの魂を狩りにきたのだ。じゃまをするな!」

「そんなことさせない!!」

百々花と俺は魔法を使って、ナナを倒すことにした。


「氷の刃!」

「炎の舞!」

ナナにダメージを与えた。

ナナは立ち上がり、俺たちに殴りかかってきた。

「邪魔をするなと言っている!」

「リリイちゃんは私たちが守る!」


俺と百々花は力を合わせてナナを迎撃した。

「ちっ」

ナナは舌打ちをして、消えた。

俺と百々花は変身を解除して、普段着でリリイの家の様子を伺った。

「リリイちゃん!」

相沢さんの声がした。


百々花が玄関をノックする。

「リリイちゃん、大丈夫!?」

「お姉ちゃん達、大丈夫だよ」

すぐに玄関から、相沢さんとリリイが出てきた。

「一瞬、気を失ってたんです。今から病院に行きます」


「お大事に」

「大丈夫だよ、大げさだなあ」

リリイは力なく笑っている。

すんでの所でナナから、リリイの命は守れたらしい。

ほどなく救急車が来てリリイと相沢さんを運んでいった。


「ナナ、酷い」

百々花は目を潤ませている。

「リリイを助けられて良かったな」

俺が言うと、百々花は頷いた。

「魔法、見られちゃったけどね」

クロがいつの間にか足下にやって来ていた。

「今回は、見逃してあげる」


クロはそう言って、百々花の別荘の中に入っていった。

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