過ち
小学六年生の冬休み。
奏平と奏平のお父さんは、家のリビングで向かい合ってカレーを食べていた。
「父さん、再婚することにしたんだ」
あまりに突然の報告に、奏平は握っていたスプーンを落とした。それを見て、「おいそんなに驚くことか?」と父は笑った。
母親が出て行く形で両親が離婚してから六年。息子のことを置いて行った母親を恨んだ時もあったが、今は仕方がなかったと思っている。父からの暴力と息子への愛情の狭間に閉じ込められて、思い悩んで、最後には心が弾け飛んでしまったのだろう。
「そりゃ驚くよ。だって父さん、そんな感じ微塵も」
「ちなみにな、妹もできるんだぞ」
「まじ? できちゃった婚?」
「違う違う。あっちの子供。連れ子だ」
「へぇ、いいじゃん」
頷いてからカレーを一口食べる。家族が増える、という認識を甘口のカレーと一緒に飲み込んだが、ぜんぜん嬉しくなかった。
「父さん。今度はうまくやるよ。奏平も、母親がいた方がいいだろ?」
「別に」
「父さん。頑張るからな」
身を乗り出してきた父さんに、奏平はくしゃくしゃと頭を撫でられた。殴られるんじゃないかと、反射的に身構えてしまった身体からすっと力を抜いていく。どうせまた壊すんだろ? としか思えない。
夕食を終えると、奏平は風呂に入った。湯船に浸かりながら考えをまとめ、それが終わるとすぐに風呂から上がって、リビングで皿洗いをしている父さんの背中に向けて自分の思いをぶつけた。
「ねぇ父さん。殴るなら俺にしといてよ。新しい家族に迷惑かけたくないし、俺なら大丈夫だから」
父さんの手がぴたりと止まる。
返事も聞こえてこない。
蛇口から水が出てくる音が、ひどく耳障りだった。
「ねぇ、父さん?」
もう一度、父さんのことを呼ぶ。「あ、ああ」と力なく呟きながら振り返った父さんは、困ったように笑っていた。
「ありがとう。でも父さん、頑張るから」
声にも顔にも覇気はなかった。
「本当に、頑張るからな」
奏平は、息子から浴びせられたその言葉で、父さんの覚悟に風穴があいてしまったのではないかと思っている。
息子に「どうせ無理でしょ?」と同じ意味のことを言われ、父さんの今度こそ変わろうという覚悟は折れてしまったのだと、そう考えずにはいられないのだ。
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