なぜか、能力取得
みんなのやつれた表情に安堵が滲んでいく。
上下左右、見渡す限り白が支配する空間内の空気が少しだけ軽くなった。
「なーんだ。みんなも殺せなかったのかよ」
胡坐をかいている
「ま、そうだよなぁ。異世界を救うったって、人殺しなんてできるわけないよなぁ」
「俺も直前までいったけど、急に怖くなって逆に殺されたわ」
利光に合わせて、奏平も自虐の言葉を口にした。
「ほんとそれ。私も体が動かなかったし、殺されるのってすっごい嫌な感じだね。当然だけどさ」
俯きながら言ったりんの横顔を、艶やかなロングの黒髪がはらりと覆い隠した。奏平たちが生まれ育った田舎町で異質な存在として捉えられるほど美しいりんは、怯えている様子も絵になっている。紺色のセーラー服に赤のリボンという簡素な制服も、りんが着ればパリコレに出展された洋服みたいに見える。パリコレ見たことないけど。
「俺もだ。殺そうとすると良心が痛んで苦しかった」
普段は正義感のこもった強い目をしている
「私も、本当に怖かった」
「でも本当によかったぁ」
と安心したように微笑んだ。
みんなが利光の言葉にすぐさま共感したのは、異世界での恐ろしい経験を共有して、ストレスを軽減させたかったからだろう。
人殺しという最低な行動を強要される。
それはかなりの苦痛だ。
しかも、五人全員がミッションを失敗しているということは、みな一様に、通常の人生で味わうことなどまずない、殺される体験をしてきたということでもある。
「そういや、怪我とかしてないか?」
寛治がみんなを順に見やっていく。
奏平は喉に穴が開いていないことを確認してから口を開いた。
「俺は大丈夫だよ」
寛治になにもないことを伝えてから、他の三人の様子をうかがう。利光、奈々、りん。誰の体にも傷はなかった。
「とりあえずは、一安心か」
寛治が表情を緩めたその瞬間、ストロボでも焚いたかのような強烈な光に包まれる。とっさに目を閉じて顔を両腕でかばった直後、ハープの音色みたいな優しい声が聞こえてきた。
「みなさん。お疲れさまでした」
恐るおそる目を開けると、女神様がいた。
「あなたがたのおかけで、五つの世界を救済することができました」
自らを時空の神と名乗る彼女に会うのはこれが二度目。彼女は、真っ白な六枚の翼と背丈よりも長い銀色の髪の毛を持ち、透明な朝日のように淡く輝くローブを身に纏っている。
「さて、あなたがたにはお礼をしないといけませんね。約束は果たします。あなたがたの本当の願いを叶えるために、適切な能力を授けましょう」
そういえば、神社と女神って関係性おかしいだろ。
なんてことを今更ながらに思いながら、奏平は彼女の言葉の続きを待つ。
……あれ?
能力を授ける?
奏平は女神様の言葉がおかしいことに気がついた。それはみんなも同じらしく、表情に驚きの色がうかがえる。
五人を代表して寛治が質問をぶつけた。
「俺たちは、全員ミッションを失敗していますけど」
その言葉を聞いた女神様が、にやりと白い歯を見せる。
「たしかに、あなた方のうち四人はミッションに失敗しています。しかし、ただ一人成功した方が、他の四人が行うはずだったミッションも代わりに実行してくれたのです」
「だから、それがおかしいんです。みんな失敗しています」
「誰かが嘘をついているんじゃないですか?」
「どうして嘘をつく必要があるんですか?」
「さぁ。私はその方ではないので分かりません。しかし、その方が秘密にしたいというのなら、私も明かさないことにしましょう。その方には恩義があります。自身のミッションをクリアしたその方に、私が無理を言ってお願いしたので。他のふがいない四人の代わりにミッションをクリアしてくれませんか? と」
「ふがい、ない……って」
寛治の拳が体の横でぷるぷると震えている。他のみんなも、嘘だろ? と言わんばかりに口をぽかんと開けて女神様を見つめていた。
この中に、五つものミッションを成功させてくれた人がいる。
その人は、なぜか本当のことを言わずに失敗したと嘘をついた。
「そう怒らないでくださいよ寛治さん。結果として、あなた方は願いを叶えるために、能力を手に入れたのですから」
奏平の首筋から流れ落ちた冷たい汗が、背骨に沿って流れ落ちていく。
「さて、それではみなさんが願いを叶えるために私が与える能力ですが、これについては一人ずつ説明するのが面倒な・の・で」
ぶりっこアイドルのように語尾にハートを弾けさせた女神様は、両手を前に突き出してなにやら呪文を唱え始めた――――瞬間、頭に激痛が走った。女神様の透き通るような声が頭の中で響き渡っていく。
あなたに与える能力は【
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