拓実くん大ピンチ!【超獣町】の蛇角お嬢さま

①この甲羅の下の町で

「【超獣町】その昔……空から死んだ大亀が、この荒れ地に落ちてきた。やがて肉は腐り甲羅だけが残った──長き歳月が経過して、甲羅の上部と下部を繋いでいた軟骨が崩れ落ちると。肉の養分で肥沃の地となった大地から甲羅の背中側を持ち上げるように植物が生えて繁り──やがて、この地に移住してきた民によって、背中甲羅を支える柱が建てられ、甲羅を屋根とした【超獣町】が誕生した、さらに子亀、孫亀の甲羅が三段タワーのように重なった……以上がこの町の成り立ちぜら」


 超獣町の図書館ロビーで、クケ子たちに町の説明文を読んだレミファは、図書館の窓から見える町並みに目を向ける。

 天井となっている甲羅の、数ヵ所に穴が空いていて日射しが差し込んでいた。

 甲羅の中央は、落下時に少し凹み、湖になっていて。

 湖の底にある亀裂から水が滝となって落下して、町の中を流れる川に変わっている。


 クケ子がレミファに訊ねる。

「この町にも魔獣の伝承はあるの?」

「超獣町には、なにも伝承は無いぜら……観光ついでに、宿を探すぜら」


 クケ子たち一行は、町に出て観光を楽しむ。

 モニュメントのように地面から突き出た、大亀の腹側の骨は、多くの者に触られた部分が黒光りしていた。

「これは、恋人が欲しい女性が触ると願いが叶うと言われている、名所の骨柱ぜら」

 レミファの説明を聞いた、レイジョー、ヲワカ、クケ子の三人となぜかヤザも一緒に先を争うように、黒光りする固く太い反った骨柱を撫で回した。


 クケ子たちが、骨柱を撫でている光景を、少し離れた場所に停まった。

 ドラゴンとカタツムリが合体したような、スネイル足の【ドラゴンカタツムリ】が引く馬車の中から見ていた者がいた。

 薄いレースのカーテンで仕切られた馬車の窓から出てきた、華奢きゃしゃな手の人物がクケ子の方を指差して言った。

「じぃ、アレ欲しいデスの」


 超獣町の観光を一日中楽しみ、宿にチェックインしたクケ子一行。

 自分の部屋のベットに寝っころがったクケ子は、今日一日の観光を思い返していた。

「今日は楽しかったなぁ」

 思い出していたクケ子は、何かに気づいたように上体をガバッと起こして呟いた。

「拓実……いつから、いなかった?」


 一夜明けて朝──妖精の羽を生やした拓実は、超獣町にある。

 とある屋敷の食卓で、皿に乗った分厚いステーキを眺めて驚いていた。

 拓実が、楽しそうに頬杖をして眺めている幼女に訊ねる。

「これ、本当に食べてもいいのか?」

「いいよ、タッくんの為に用意したんだから……好きなだけ食べても良いのデスの」

 額にヘビ角を生やした、拓実を袋に入れて拐ってきた。

 お金持ちの家の幼女は、にこやかに微笑む。

「ここにいれば、毎日でも食べれるデスの……だから、ずっとここにいて欲しいのデスの」

 希少種族のヘビ角種の少女は、拓実を一目見た時から気に入ってしまった。

「あたくし、友だちがいないのデスの……普通の子供みたいに学校に行きたくても、お父さまが行かせてくれないのデスの……寂しいのデスの」


 少女の話しを聞きながら、夢のような厚みの肉を食べる拓実。

 その時、壁を突き破って一本の魔矢が飛んできて、拓実がいる近くに突き刺さる。

 テーブルに刺さった魔矢から、彫像のようなヲワカの上半身が生えてきて、しゃべりはじめた。

「見つけたでありんす、ココにいるでありんす…… 見つけたでありんす、ココにいるでありんす」


 同じ言葉を繰り返す、探索の魔矢。直後にヲワカを先頭にクケ子たち一行がドアを蹴破って部屋に入ってきた。

 魔矢使いのヲワカが言った。

「やっと見つけたでありんす。フェアリーの羽の残り香と、探索魔矢の力で……拓実どのを返してもらうでありんす」

 ヘビ角の幼女は、拓実をつかんで鳥カゴに入れると。

 部屋から、別の扉を開けて中庭に向かって逃げ出す。

「いやなのデスの、タッくんは渡さないのデスの!」


 朝霧の濃霧が漂う中庭に出た、幼女は切り株の上に拓実が入った鳥カゴを置くと、近くにあった重そうな剣を持って構えた──剣から声が聞こえてきた。

「お嬢さま剣!」


 霧の中で足を震わせて、必死な顔の幼女に困り果てるクケ子たち。

「困ったでござる、子供に対して手荒なコトもできぬ」

 濃霧の中で、レミファがクケ子に言った。

「気象条件は揃っているぜら……クケ子どの、新しい力を試すぜら」

 レミファが、クケ子に耳打ちする。

「…………解除の呪文は『ダシはトリガラ』ぜら」

「わかった、新しい力を試してみる『ダシはハマグリ』!」

 クケ子の姿が霧の中に消えて、巨大な赤いガイコツが霧をスクリーンにして投影される。

 妖怪ガシャドクロのような、赤いガイコツに見下ろされたヘビ角の幼女は、剣を落とすとヘナヘナとその場に座り込んだ。


『ダシはハマグリ』──相手に巨大な赤いガイコツの姿を見せて、驚かす能力。ただし、濃霧などの特定の条件が揃わないと使えない。


 アリャパンゴラァが、鳥カゴごと拓実を回収する。

 それを見て、泣きじゃくるヘビ角の幼女。

「いやだぁ、いやだよぅ……独りぽっちは、もういやなのデスの。タッくんを持っていかないで欲しいのデスの」

 幼女に近づいたヲワカが、しゃがんで優しい口調で幼女に言った。

「あきちも、子供の頃……独りぽっちだったから、その気持ち痛いほどわかるでありんす。お姉さんに話してスッキリしてみるでありんす」

 ヲワカは幼女の話しを「うん、うん」と、うなづきながら聞く。


 幼女の両親は不仲のため今は別居中で、養育している父親は希少種族のヘビ角の娘が学校で。

 仲間外れにされないかと心配して溺愛するあまり、娘を学校へ行かせたくないと……ヲワカは知った。


 幼女の話しを最後まで聞き終わった、ヲワカが立ち上がる。

「ちょっと待っているでありんす……学校に行けるようにしてあげるでありんす」

 そう言って、屋敷の方にもどって数分後に、父親の悲鳴と矢が壁に刺さる音が聞こえ。

 ヲワカが幼女のところに、戻ってきて言った。

「話しがわかる、お父さんが学校に行くコトを許してくれたでありんす……学校でいっぱい友だちを作るでありんす」



 拓実を取り戻して超獣町から出発して、漫遊旅を続けるクケ子が。レイジョーの胸の谷間に入っている拓実に訊ねる。

「そんなに、あたしたちの対応に不満を持っていたの?」

「当たり前だよ、いつも食べ物の残り物をハエのように這いつくばった格好で食べさせて……たまには肉も食べたいよ」

「それは悪かったわね、今度から座って食べてもいいから、殺虫剤には気をつけてね」

「お姉ちゃん……ボク、虫じゃないから」

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