①魔獣復活
【異界大陸国レザリムス】東方地域の、牧歌的な雰囲気の山村地帯──山と山の間に掛かる吊り橋。
山頂や山腹に少しだけある、なだらかな傾斜地には、しがみつくように建物が建てられ。
谷を挟んで村人同士が会話をしている……そんな牧歌な場所。
牧草の峰丘で一人の少女が、四本角の巨牛と対峙していた。
たくましい体つきで、拳を握り構えた美少女が、野生化したレザリムス牛の猛牛『マスタツ』と村で呼ばれて恐れられているメス牛に向かって言った。
「ふんっ、どうした? かかってこい! マスタツ!」
鼻息も荒く、前足で地面を掻いたマスタツが、少女に向かって突進する。
少女が片腕に力を込めると、肩から腕の服が破れ飛んで筋肉隆々の腕が現れる。
少女は、マスタツの眉間に拳の一撃を与える。
「ふんっ! どすこい!」
横倒して意識を失う猛牛マスタツ……少女は、すかさずマスタツから搾乳する。
たくましい腕で、日課の乳搾りを終えた少女は、額の汗を腕で拭う。
「今日もいい天気、早く搾ったミルクを持っていかなきゃ」
数十分後──マツタツから搾った、ミルクが入った金属製の生乳缶を数本乗せた、木製の荷台車を担いで村の生乳場に運んできた。たくましい美少女が言った。
「搾りたての、マスタツのミルクを、持ってきました」
建物の中にいた、男性たちが荷台から、生乳缶を降ろす。
少女にレザリムス金貨を渡した男性が言った。
「いやぁ、いつもスゴいね……あのマスタツから乳を搾れるのは、あんただけだ……どこまで、体を鍛えるつもりだい?」
「筋肉鍛練に終りはありません……あの方のお役に立つ為に、この体を鍛えています」
少女は建物の隅にある木製の箱の上に座って、
酒を飲んでいたメキシカンヒゲの男が、挨拶で片手を挙げたのを見た。
少女『アクヤク・レイジョー』は、科学召喚請け負い業の男に軽く頭を下げる。
(あぁ……ついに、あのお方がレザリムス東方地域にもどってくる……鍛え続けた、この肉体がお役に立てる日が)
『カキ・クケ子』こと彩夏がいる、アチの世界──コンビニでアルバイトをしている、赤いガイコツで店の制服を着て、通路にしゃがんで、商品管理と陳列をしていたクケ子は、入店してきたお客に接客の言葉を発した。
「いらっしゃいませ」
クケ子の姿を見た途端に、悲鳴をあげて店外に逃げていくお客。
(また、お客が逃げた)
入ってきたお客が逃げた一部始終をカウンターの中で見ていた、クケ子より年齢が下のバイト先輩がクケ子に言った。
「商品管理と陳列は、あたしの方でやっておくから。あなたは、店裏のプレハブの中に溜まったゴミを持っていって」
「はい……」
ゴミ出しをして戻ってきたクケ子は、休憩室のドアを開けようとして、中から聞こえてきたバイト先輩同士の話し声にドアノブをつかんだ手を離した。
「あの赤いガイコツ……気持ち悪いよね、店長はなんで。あんな赤いガイコツ雇ったのか? 不思議」
「いくら人手不足って言っても……ガイコツじゃあねぇ」
バイト先輩の女の子たちが帰り、店にポツンと一人残ったクケ子は、フライヤーで揚げ物を揚げていた。
クケ子は道具を使わずに素手で、揚げ物を油の中から取り出しながらバイトの先輩たちの会話を思い出す。
(赤いガイコツだから、気持ち悪い……か)
フライヤーのフタを閉めた時に、店長がシフトでやって来て。
クケ子を見て言った。
「どうした、熱でもあるのか。顔が真っ赤だぞ」
「もとから赤いです」
制服に着替えた店長の姿が百目の化け物に変わる。
クケ子がバイトをさせてもらっている、コンビニの店長は、コチの世界こと異界大陸レザリムスから来た異種族だった。
全身に目がある、肉の塊のような姿になった『毒森店長』がクケ子に言った。
「レザリムスのコチの世界で必要とされる時には、遠慮なく休みを取って行っていいからな……シフトは気にするな、なんたって赤いガイコツ傭兵の『カキ・クケ子』は東方地域では有名人だから」
クケ子の異世界での役割に、理解がある店長だった。
自宅の自分の部屋にバイトから帰ってきたクケ子は、脱衣してパンツ一丁の姿になると。疲れたようにベットに仰向けになる。
最後に残っていたパンツを脱いでラフな骨体になろうとしたクケ子は、パンツから手を離す。
(別に脱いでも、赤い白骨がベットに転がっているだけで恥ずかしくはないけれど……弟の拓実に、だらしがないって怒られるから)
片手でスマホをいじくりながら、もう一方の手で、カルシュウム入りのポテチをつまんで口に運ぶ。
ガイコツが飲食をすると、食べたモノはどうなるのか? 不思議に思ったクケ子が以前観察したところ……上手に食べると、飲み食いしたモノは胃袋辺りにある渦巻く空間に消えていくコトがわかった。
(いくら食べても、カルシュウム以外は栄養にならないで。アチの世界にいる誰かの栄養になるって、レミファが言っていたな)
クケ子がそんなコトを考えていると、部屋の中にレザリムスとクケ子の世界だけを結ぶ、ルート魔法円が現れる。
魔法円の中から、膝を抱えて丸くなった邪魔魔女『レミファ』が、転がり飛び出してきた。
「クケ子どの、また魔勇者の娘の『甲骨』が動き出しましたぜら」
「待ってました♪」
パンツ一丁の赤いガイコツで、ベットから跳ね起きるクケ子。
物音を聞いた物置を挟んだ、自分の部屋にいたスウェット姿の弟の拓実が、クケ子の部屋のドアを開けて眠そうな顔を覗かせる。
「あっ、レミファさん久しぶり……お姉ちゃん、また異世界に行くの?」
「あたしの力を、必要とされているからね」
「ふ~ん、気をつけて行ってらっしゃい」
そう言い残して、
拓実の顔を見ていたレミファが、ポツリと言った。
「今回は、科学召喚請け負い業のおっちゃんから、ちょっと試してみたいからと……頼まれたコトがあるぜら」
数十分後──拓実の部屋の中から、拓実の小さな呻き声が聞こえた。
「んっ……うぅ」
直後に、ドアを開けて出てきたレミファが呟いた。
「ふふ……いっぱい、採れたぜら」
早朝──家族がまだ寝ている時刻、傭兵の身支度を整えたクケ子は。
「いざ、異世界に」
そう言って、赤いガイコツ傭兵『カキ・クケ子』と邪魔魔女『レミファ』は、レザリムスとアチの世界を結ぶ専用のルート魔法円に入った。
魔法円の向こう側には、牧歌的な風景の中で。魔矢使いの
石の上に腰かけていた
ヲワカが、飛び降りてきて言った。
「元気だったでありんすか? 少し骨太になったでありんすか?」
「カルシュウムを摂取していたからね」
ヤザが、クケ子の前に膝まずいて言った。
「拙者たちの不甲斐なさ故に、また魔勇者の娘の勢いが増してしまい。クケ子どのにご足労を願い……まっこと申し訳ない所存。
こうなったら拙者が腹を、かっさばいて臓物をぶちまけてお詫びを……」
「そんな、物騒で汚れるお詫びしないでいいから」
その時……レミファは銀色をした、アルミのペンケースのようなモノを取り出して仲間に見せた。
「なんでありんすか? それは?」
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