⑦魔王城のバーベキュー会場──最終決戦?夕日に染まる赤いガイコツ〔3〕完結

 肉が焼ける美味しそうな匂いが漂う庭にいた者たちの動きが、いきなり壁に開いた扉から出てきた赤いガイコツ一行の姿に……止まる。

 術師軍団の魔法使いが呟く。

「なんで、壁から赤いガイコツが……迷路を抜けて中庭の迷路出口から、赤いガイコツが出てくるのは、もっと後じゃなかったのか?」

 リーダー軍団の甲冑騎士が叫ぶ。

「敵襲だあぁぁぁぁ!」

 いきなりはじまる、クケ子たちと五大軍団との戦闘。

 リーダー軍団に襲いかかる、ヤザの小さな分身の群れ。


 術師軍団の魔法使いは手品でハトを出して。

 死霊使いは呼び出した一つ目の老夫婦霊にボコられ。

 魔獸召喚師は、召喚した毛玉に噛みつかれ。

 呪術師は、膝抱え座りでいじけている。


 遊び人軍団は、誰が勝つか賭けを楽しんでいて。 

 踊り子は踊っている。


 甲骨は、落ち着いて立食をしている。

 出番の無いシドレは、甲骨のところで、肉を焼いている。


「あひゃはははははっ!」

 黒白目の狂剣士に変わったワオ・ンが味方の区別なく、各軍団のザコ軍団員を蹴散らしている。 


 ナニ・ヌネ野は、中庭から離れた地下のお仕置き部屋で、モフモフ生物でお仕置きされている。


 回復系軍団は、体力が無くなって傷ついたリーダー軍団の体力を強制的に微回復させて「もう、休ませてくれ!」の声を無視して、戦場に送り出し。


 援護軍団は、投石機や 破城槌で城の壁を意味不明に壊す。


 迷路から出てきた盗賊軍団の連中は、見学している。


 黄色い法衣を着て横一列に並んだ男たちが、放った法力弾の集中砲火を、レミファの反射魔法が受け止める。

「もっと撃ってこい、倍にして返してやるぜら」


 トラップ発動を待っているレミファを狙ってきた一人のザコに向かって、クケ子が犬のフサフサ尻尾が生えた盾を投げつけ。

 ザコの頭に命中してザコを気絶させた盾は、跳び跳ねてクケ子のところにもどってきた。


 クケ子を取り囲むトサカ頭のザコたちが叫ぶ。

「相手はガイコツ一匹だ! 全員でかかれば怖くねぇ! オレたち、つぇぇぇ!」

 日本刀を引き抜いたクケ子が呟く。

「……肉盛り」

 血肉をクケ子に奪われて白骨化して、倒れるザコたち。

 生身のクケ子が「トリガラ」で元のガイコツ傭兵にもどると、トサカ頭のザコたちは悲鳴をあげて逃げ出した。


 女怪盗が抱いているドロボウネコが、小さなクシャミをした。

 ニヤッと笑うレミファ。

「トラップ発動! ドロボウネコがクシャミした! 全部返すぞ! 倍倍倍返しだ!」

 反射魔法で、返された法力弾の衝撃に、坊主たちの体が空中を舞う。


 踊り子は踊っている。


 串に刺した肉を食べながら、ヲワカが放った『バブゥ魔矢』が刺さった呪術軍団の口調が変わる。

「なんでバブゥ、矢が刺さっているのに全然痛くないバブゥ」

「おまえ、語尾が変だバブゥ……走るとピコピコ音がするバブゥ」

「そう言うおまえも語尾が変だバブゥ、力が出ないバブゥ……術が弱くなっているバブゥ」

 魔法使いが振ったステックの先端から、小さな花が一本だけ咲く。


 クケ子の仲間になった魔獸・アリャパンゴラァもゴリラの腕力やアリの蟻酸で、軍団のザコたちを蹴散らしたり、殴り飛ばしている。


 踊り子は踊っている。


 もう一度、法力弾を放つために整列した法力坊主たちが、今度はヤザを狙って構えた時──ヲワカが、空に向かってマーキング用の『標的魔矢』を放つ。

 空中で増えた魔矢は、坊主たちの頭に落下して赤い二重丸の的になって消える。

 ヲワカが魔矢を弓につがえて言った。

「この一矢で、トイレに行くでありんす」

 空に向かって放った『排泄魔矢』は、法力坊主たちの頭の的に次々と「当たりぃぃ」と命中して太鼓の音が鳴り響き。

 坊主たちの腹から、雷鳴の轟きが聞こえてきた。

「うっ、急に腹が?」

 頭に矢を刺した坊主たちは、腹部を押さえると我先にと、トイレに足早で駆け込んだ。


 数十分後──城の中庭には、クケ子たちにボッコボッコにされた連中が唸り倒れていた。


 踊り子は踊っている。


 金串に刺して焼いた肉を食べながら、成人女性姿になった魔勇者の娘が、モグモグしながらクケ子たちと対峙する。

 甲骨が言った。

「やってくれたね、あたしの五大軍団に、やってくれたね。赤いガイコツの化け物……許さない」

 甲骨の姿が幼い女に変わる。甲骨は父、亀甲との思い出を漏らす。


「お父さんは、いつもあたしを縄で縛って遊んでくれたんだ! 変わった縛り方だったけれど……その優しかったお父さんを、おまえは倒した許さない!」

「いや、その縛り遊びじゃないから」

 甲骨は両腕を頭上に上げて、空に向かって手の平を広げて言った。

「受けてみろ! お父さん直伝! 勇者玉!」


【勇者玉】──魔勇者、亀甲が自分に向けられた嫌悪の感情を、負のエネルギー球にして放つ技。嫌われるほど威力を増す。


 甲骨の広げた手の間に、アメ玉くらいの勇者玉が現れ、すぐに弾けて消えた。

 手の平を眺めて呟く魔勇者の娘。

「なんで?」

 シドレが言った。

「勇者玉は嫌悪のエネルギーで生まれるドスドス、甲骨さまは多くの者から慕われているドスドス」

「あたしが、慕われている?」

 各軍団の中から甲骨を慕う……「甲骨さま」「甲骨さま」と連呼する声が聞こえてきた。

 仲間の優しい声に、しゃがみ込んで涙が溢れる魔勇者の娘。

「みんな、ありがとう……あたし、異世界の田舎でスローライフする。普通の田舎娘になる」

 突然の田舎生活宣言。


 その時──甲骨の体が二重にブレて、分離したもう一人の甲骨が現れた。

「???? なんぜら?」

 分離した方の甲骨が立ち上がって言った。

「お父さんを倒した、赤いガイコツ! 絶対に許さないから!」

 地面から門のようなモノが出現する。

 中央地域の漆黒の城【ゴルゴンゾーラ城】に繋がる、魔法的な通路だった。

 しゃがんでいる、甲骨をチラッと見た。分離甲骨は、そのまま中央地域に繋がる門に飛び込む。 


 レミファが言った。

「『分岐ぶんき生物』ぜら、魔勇者の娘は。魔勇者が作り出した魔法生物だったぜら」

「どうするの、レミファ?」

「もちろん、追うぜら! 中央地域のゴルゴンゾーラ城へ! このまま放ってはおけないぜら」

 クケ子たちが門に飛び込むと、門は地面に沈んで消えた。



 数時間後──デジーマ島の夕焼けに染まった浜辺に、並び立って夕日を眺めるクケ子たちの姿があった。

 ガイコツ傭兵『カキ・クケ子』

 邪魔魔女『レミファ』

 魔矢使いのエルフ狩人『ヌル・ヲワカ』

 魔法戦士『YAZAヤザ

 そして、腕組みをして夕日を眺めている。魔獸『アリャパンゴラァ』


 夕日を浴びてさらに赤く染まった、クケ子が言った。

「まさか、あんな結末が待っていたなんて……また、魔勇者の娘が魔王城で動き出したらどうするの? レミファ」

 答える魔女っ子。

「その時は、またこのメンバーで漫遊旅をするぜら……あたしたちが旅をした場所が名所となって、東方地域は潤い栄えるぜら……少なくとも、東方地域には東の厄災は必要ぜら」

「もしも、魔勇者の親戚が現れたら? 従兄弟とか」

「その時も、同じように、みんなで旅をするぜら」

「そっか」

 クケ子は水平線に沈みつつある、異世界大陸国レザリムスの夕日をいつまでも眺め続けた。


  ~おわり~

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