②第二新大陸から来た男の娘?

 クケ子たち一行が到着した温泉村に、カランコロンと木製の履き物の音が響く。

 村の土産物通りには、温泉観光を楽しんでいる、和装姿のレザリムス住人たちの姿があった。

 クケ子がレミファに訊ねる。

「これから、どうするの?」

 フェイスガードを装着したレミファは、峠の茶屋で無料配布されていた温泉村の案内パンフレットを見ながら言った。

「まずは、今夜の宿を確保するぜら……温泉に入って、ゆっくりしたいぜら」

 レミファが、道にある村の案内地図看板を見ているのとは別に、ヲワカはある店を見つけた。

 それは、向かい側の広場に設置された武具イベントのテントブースで、弓矢を扱っている『魔矢屋』だった。

 ヲワカの目が輝く。

「有名な魔矢ブランドの出張テントでありんす……なんという奇遇。クケ子どの、ちょっと立ち寄って魔矢の補充をしたいでありんす」

「まぁ、別にいいけれど。あたしも一緒に魔矢を見たいから……レミファとヤザはどうする?」

「あたしは、この案内看板の前で待っているぜら」

「拙者もここで待っているでござる」


 クケ子とヲワカの二人は『魔矢屋』のテントに向かった。

 店の中には、さまざまな魔矢と弓が売られていた。

 ヲワカは、まるで花火問屋の花火でも単品購入するかように、次々と魔矢を選んでいく。

「やっぱり、定番の【排泄魔矢】の補充は魔矢使いとしては、外せないでありんす」


【排泄魔矢】──射たれた人間は、便意をもよおして戦意を喪失する。ヲワカがメインで使っている魔矢。

 ヲワカの目が、ある魔矢の前で輝く。

「こ、これは!? 【バブゥ魔矢】では? 限定生産で、買いそびれたレア魔矢? まさか、こんな所で遭遇するとは驚きでありんす」

 興奮気味のヲワカは、いつもより多めの魔矢を購入する。


【繁殖魔矢】──オスとメスの二本の魔矢を一緒にしておけば、イチャイチャして勝手に矢が増える魔矢。


【配達魔矢】──放って落ちた魔矢を手にした者が、何千キロであろうとも、矢の所有者のところに持ってきてくれる魔矢。


【証拠隠滅魔矢】──相手に命中した数時間後に溶けて消える、推理が好きな人のためにに作られた魔矢。


【戻り魔矢】──放っても口笛で呼べば、持ち主のところにもどってくる魔矢。

 などをヲワカは購入して、クケ子とヲワカがレミファのところにもどると、レミファとヤザは見知らね人物と親しげに会話をしていた。


 その人物は、アチの世界の高校生くらいの年齢をした、女子生徒で学校の制服を着ていた。

 レザリムスには、アチの世界から迷い混んでしまう者も多々いる。

 首をかしげるクケ子。

(アチの世界の女子高校生かな? それにしても、あの格好は?)

 レミファたちと、楽しげに会話をしている女子高校生は、デイバックを背負っていて。

 ショートヘアーの前髪の一部が、紅くなっていた。

 そして、腰には伸びた笹の葉のような、鳥の細長い紅い尾羽が数本出ている。

 さらに女子高校生の目を引く一番の特徴は、デイバックに縛ってある。

古い戦闘機のプロペラのような十文字型の金属ブーメランだった。

 自作らしく、一メートルくらいの二枚のプロペラを縄で縛って、作ってある。

 クケ子は思った。

(乗り物に乗るのに、あのブーメランは邪魔そう)


 クケ子がレミファに訊ねる。

「その子、誰?」

「案内図を見ていたら。同じように案内図を覗き込んできて親しくなった【第二新大陸】から来た子ぜら……なんでも、この村に住む。ひいひいおばあちゃんの三百歳の誕生日を祝うために、海を渡って来たそうだぜら」


「第二新大陸? この前、デジーマ島で会った鬼の人たちがいる所とは違うの?」

「違うぜら、レザリムス大陸とは違う独自の進化をした大陸ぜら……恐竜から進化した『恐竜娘』や『有袋人類』がいるぜら」

「有袋人類?」

「女性のお腹にある、育児袋から。小汚ない未婚の中年親父が、顔を覗かせている人類ぜら」

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