第1714話 【エピローグオブバレンタインの準備・その6】仁香さんとリャンちゃんの生チョコタルト作り!!

 バレンタインデー前日の乙女たちの様子をお送りしております。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは日本本部。

 仁香すわぁん監察官室こと青山監察官室。


「リャン? 本当にいいの? ザールさんそこにいるけど」

「了!! ザールさんのお許しは頂いています!!」

「仁香様。小官へのお気遣いは無用でございます」


 リャンちゃんが「そういえば大事な人にチョコレートを差し上げなければいけませんでした」と仁香さんに連絡してきたのは昨夜の事。

 そのお相手には仁香さんも義理クッキーとは別にちゃんとした手作りチョコレートをあげようと考えていたので「じゃあ一緒に作ろっか?」と提案したが、製作現場にリャンちゃんの旦那がいることを失念していた。


 それでもザールくんは柔和な笑顔を湛えて「お気になさらず」と言って憚らない。

 ザールくんが柔和じゃないところをよく考えたら見た記憶のない仁香さん、本当にいいのか未だ判断に迷っていた。


 そんな場の空気を察してもう一度付言するデキた副官。


「小官はアトミルカ育ちでしたので、バレンタインデーというイベントとは無縁。ゆえに嫉妬がない、と申し上げると今度はリャンさんに対して失礼になりますが……。少なくともリャンさんが差し上げたいお相手にチョコレートを渡して欲しいと本心で思っております」


 ザールくんは元アトミルカ。

 ミンスティラリアに移住してからだいたい1年半くらい。

 バレンタインデーの存在をちゃんと認識したのは昨年であり、妻のいる状態で迎えるのは今年が初。

 ついでに甘いものは苦手なので、明日のバレンタインデーはリャンちゃん特製の飲茶セットが振る舞われる事になっている。


 だから自分に気を遣わず、チョコレートを作ってくださいと言う。

 2個でも3個でもと。


「まあ、ザールさんとリャンが良いなら私がこれ以上横から口を挟むことでもないか」

「了!! 仁香先輩、チョコレート作りをご教授願いします!!」


「うん! 分かった! じゃあ生チョコタルトを作ろう!! 簡単だけど手抜きには見えないチョコ菓子だからきっと喜んでもらえるよ!」

「はい!! 頑張ります!!」


 仁香すわぁん考案『生チョコタルト』とは。

 ガナッシュをタルト型に乗せるだけのお手軽お菓子。

 材料は全て市販のものを用意すれば良い。

 日本本部では「バレンタインフェア」と銘打ってカフェテリアでチョコレート菓子用の材料を大量に販売してくれている。


 ガナッシュとは生クリームとチョコレートを合わせて作る、チョコレートの基本的なクリームの事を指す。

 丸めて冷やせばトリュフチョコになるし、ケーキに挟んだり、コーティングにも使える憎いヤツ。


「じゃあチョコレートを湯せんにかけて溶かすのはリャンにお願いしても良い?」

「了!! ザールさん、チョコレートを取ってください!!」


 仁香さんは「あ。ザールさんにも手伝ってもらうんだ」と思い、スプリングさんちのパワーバランスがもう均衡していない事を察する。

 夫婦関係が完全に均衡しているカップルを探す方が難しいので、それはそれでいいかと思い直した仁香すわぁんであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 タルトケースとは焼き上がった状態のクッキー生地のタルト型である。

 パイ生地になるとパイカップ、パイケースとも呼ばれる事があり、なんだかほっこりする。

 そのまま食べても美味しいが、プレゼントと称して中身空っぽのタルトをあげるのはいかがなものか。


 頭空っぽの方が夢を詰め込めるとも言うが、やっぱり最初から何か詰まっていた方が貰う側としては嬉しい。


「仁香先輩! チョコレート溶けました!!」

「うん。こっちも生クリームの用意はできてるから、じゃあこれをチョコレートのボウルに入れて泡立て器でよく混ぜてね」


「了!! 全力でいった方がいいでしょうか!?」

「あんまり一気にかき混ぜると固くなり過ぎちゃうから! 様子を見ながらね!」


「了!! 懐かしいですね! 仁香先輩と潜伏機動隊の任務で給仕班になった事を思い出します!!」

「ふふっ。あの頃はリャンも新人さんだったから放っておけなかったけど、今では立派な副隊長だもんね」


 思い出話に花を咲かせていたらガナッシュが良い感じの固さに仕上がる。

 あとは星形の口金をセットした絞り袋に入れて、タルトケースに絞り出すだけ。

 綺麗な渦を描けると高ポイント。


「どうでしょうか?」

「うん! いい感じ!! きっと喜んでもらえるよ!!」


「仁香先輩は作らなくてよろしいのでしょうか?」

「あ。私はもう作ってあるから。チョコレート。それと……」


 にっこりと微笑んでから仁香さんが言う。



「グミ!! 作るの大変だったけど、悪くない出来だと思うの!!」


 バレンタインデーにグミを贈る意味はちょっと前の佳純さんの解説を振り返ろう。

 ここで語るのは野暮というものである。



「1人3個くらいでいいでしょうか?」

「そうだね。そこまで日持ちしないし、軽食として食べてもらえる量がちょうど良いと思うよ!」


 この日、監察官室のある1号館7階は甘い匂いで満たされていたという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の楠木監察官室。


「楠木のおじき。次の任務の出動表、確認よろしくぅ」

「拝見しましょう。バランスの良い編成ですね。おや。次はリャンさんが隊長を務める訳ですか」


「了。あいつも経験積んでガンガン成長していくタイミングなんでぇ! とっととオレなんか抜き去ってよろしくしてもらえたらよろしくぅ!!」

「おやおや。屋払くんも次の目標に向けて意欲満々と言った感じですね」


「潜伏機動隊をリャンに任せられるようになったらオレは監察官目指すんでぇ! トメ子のためにも出世はガンガンキメてくんでよろしくぅ!!」

「屋払くんが同僚になってくれると私も心強いですね。ところで、今日はいつもテーブルに置いてあるお菓子がないですね? 小腹が空いたので摘まもうかと思ったのですが」


「あー。なんかリャンのヤツが明日までは間食禁止って言ってたんでぇ。よろしくぅ?」

「……なるほど。屋払くん。私たちは部下に、そして後輩に慕われているようです。これからもしっかりと職務に励みましょう」



「了! じゃあおじき! 禁酒期間を夏まで延長でよろしくぅ!!」

「えっ!?」



 おわかりいただけただろうか。

 後輩女子に慕われるという事は、実に得難い事なのである。

 野郎どもの日頃の行い、その善し悪しはバレンタインデーで分かる。


 なお、安易にウイスキーボンボンやブランデーケーキをチョイスしない辺りに、リャンちゃんも潜伏機動隊副隊長としての自覚の芽生えが見て取れる。

 このバレンタイン空間はきっと平和に終えるであろう。


 さあ、諸君。

 次の現場へ急ごう。

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