第1706話 【エピローグオブ節分・その4】一気! 一気!! 一気!!! ~現実世界での一気コールはヤメよう!!~

 前回のあらすじ。


 みんなで恵方巻を作った。

 喜三太陛下は調子にお乗りあそばされてとても長い恵方巻を作った。

 六駆くんに見つかって「おい、それ食ってみろよ」とかヤンキーに絡まれた時の常套句を言われた陛下。


 今、喜三太陛下の孤独な戦いが始まる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 喜三太陛下、みんなに先駆けて恵方巻の実食へ。


 恵方巻を食う時は一息でキメなければならぬ。

 恵方巻を食う時は無言でキメなければならぬ。


 陛下が御作りあそばされた恵方巻はおおよそ50センチ、いやさ70センチはあろうかという大物。

 構築スキルの達人であらせられるメンタルがそうさせたのか、大は小を兼ねるという諺に習ったのか、それはもう当人の口から聞けないので分からない。


「………………………………」


 既に陛下は恵方巻をお食べになられているのだから。


「そーれ! 一気! 一気!! 一気!! ちょっとひいじいちゃんさ、ペース遅くない?」


 六駆くんが厄介なでぇ学生みたいになっている。

 逆神家奇数代にはとことん冷たい男。逆神六駆。

 「ひいじいちゃんの! ちょっといいとこ見てみたい!!」とコールをヤメない。


 エピローグ時空になっても時おり思い出したように悪魔の顔が現れる六駆くん。

 アシュラマンだろうか。


「ダメだよ、六駆くん!! ひいおじいちゃんお年寄りなんだから無理させちゃダメ!!」

「………………………………!!」


 悪魔フェイスの六駆くんにも物申せる乙女。

 莉子ちゃんが旦那に苦言を呈した。


 高齢者の誤嚥事故は年々増えている。

 高齢者の数が年々増えているのだから当然である。

 まずは最も身近な家族がそういった危険を孕む食べ方をさせない事が肝要。

 恵方巻の一気食いなんてもってのほか。


 もう長生きしてるから高齢者なのである。

 普通に輪切りにして、一口サイズにカットして食べればよろしい。


「………………………………!!!」


 恐らく陛下は「ええぞ! ロリ子! もっと言ってくれ!! さすが逆神家! 本家の嫁は違うでな!!」と心の中でエールを送られているに違いない。

 六駆くんは莉子ちゃんの頭をポンポンとやってから言った。


 彼女の頭ポンポンはよほどの親密度でなければ百年の恋も冷める所業。

 莉子ちゃんは「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」とはにかんだ。


「大丈夫! 莉子、よく見て? ひいじいちゃん、中身はじじいだけど外側って今17歳だから! 僕より若いんだよ!! イケる、イケる!!」

「そっかぁ!! そうだよね!! ひいおじいちゃん、頑張ってー!!」


 味方だと思った者が次の瞬間には敵になっている。

 この世界ではよくある事である。


「キサンタさー」

「………………………………!!」


 「六宇ちゃんキタコレ」と思われた陛下。

 やっぱり一番可愛いひ孫は六宇ちゃんだと信じて疑わぬ、その心が大事だったのだ。

 ダメになりそうな時、それが1番大事。


 そろそろ息苦しくて本格的にダメになりそうなので。

 負けない事も投げ出さない事も逃げ出さない事も全部放棄したい。



 高価な墓石をおっ建てるよりも安くたって生きてる方が素晴らしいのだ。



「なんか先っぽの方が元気なくなってきてない? ねー。早く食べないと中身がこぼれちゃうよ? もっと早く食べなよー」


 六宇ちゃんの指摘は正しく的を射ていた。

 喜三太陛下の恵方巻を食べ進めるスピードはナメクジが這うのと同じくらいにまで低下しており、70センチもある恵方巻であればお米と具材がしなった状態を継続されると反対側に「こっちにも行けるでな!!」と特に椎茸とか海老とか辺りが滑り落ち始める。


 食べ物を粗末にするのはどこの世界でも最も下劣な行為とされる。

 それはいけません。喜三太陛下。


「ふん。『ピンポイント・サービス・タイム』!! これで良いだろう」

「………………………………!?」


 窮地を救うサービスさん。

 喜三太陛下謹製恵方巻がアーチ状になりつつあったところを時間停止させた。

 これにより落下を阻止するファインプレーとなる。


 もうダメだ、おしまいだ。


 そんな時、ダズモンガーくんが皆に声をかけた。


「鯛のあら汁ができましたぞ!! 皆さまもお食事にいたしましょう!! ファニコラ様がお腹空いたと仰せでございまする!!」

「ひいじじ殿ばかり食べるのはズルいのじゃ!! 妾、見ているだけは嫌なのじゃ!!」


 このトラさんと120歳のロリっ子の言葉がきっかけとなった。


「確かにそうだね! ひいじいちゃんが恵方巻しゃぶってるところ見ててもたいして面白くなかったよ!! 食べよう、食べよう!! ノア! 莉子が丸かぶりするところ写真に撮ったらあとでちょうだいね!!」

「ふんす!! お任せふんすですっ!! 動画も撮ります!!」


「ちょっとぉ! 女の子がご飯食べるところ写真に撮るのはダメー!!」

「えー? じゃあ僕の目に焼き付けておくことにするよ!!」



「もぉぉぉ!! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」


 70センチの恵方巻を陛下が食べ終わるまで見届けるのは時間の無駄という結論が出た瞬間であった。



 カップルでイチャイチャしながら恵方巻をモグモグした方がずっと楽しい。

 莉子ちゃんの恵方巻モグモグを見ている方がずっと嬉しい。


「ひいじいちゃん! あとは頑張ってね!!」

「………………………………」


 喜三太陛下は無言で頷かれた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから30分後。


「食べきったで!! これでワシ、長寿キメる予約が済んだって事でええよな!?」

「まだやってたんだ。いいんじゃない?」


 陛下はロングロング恵方巻をついに一言も発さず、弱音も酢飯も吐かず、見事に丸かぶりあそばされた。

 誰に見られなくとも構わない。

 長生きしたいんや。その気持ちだけでやり切った。


「はい、キサンター。お水もらって来てあげたよー」

「六宇ちゃん!! やっぱり六宇ちゃんだけや! ワシの事を考えてくれる可愛いひ孫は!!」


「や。あたしがお水もらったタイミングでこっち来たからだし。ついでじゃん?」


 六宇ちゃんはちょっとおバカだけどいい子なのである。


 それからバルリテロリに帰って行った喜三太陛下と六宇ちゃん。

 その御身を賭してミンスティラリアに節分の文化を根付かせる礎となられた姿はきっと数年先くらいまで当地で語り続けられるであろう。


 皇宮に帰ってから喜三太陛下が六宇ちゃんにお小遣いを30000円ほどあげた理由については言及を要さないかと思われた。

 「損得勘定抜きの善行は普段の5倍キク」とは、バルリテロリ憲法に新しく記載された一文である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る