第1672話 【エピローグオブ莉子ちゃんの花嫁修業・その10】苺色の冠婚葬祭マナー編 ~無事に故人となった水戸くん~

 人工島デルタウェア。

 警備部6番隊舎が水戸信介の葬儀場となっている。

 彼が生前どの宗派に属していたのかは当人の口から「えっ!? なんですかそれ? 多分ですけどキリスト教じゃなかったです!!」と曖昧極まる言葉があったため、一般的なお葬式の中でもありふれた形式で執り行われることになった。


「にゃはー!! とんでもない茶番の気配がするにゃー! あたしワクワクして来たぞなー!!」


 早速どら猫からよくない発言が飛び出した。

 ブラックフォーマルどころか日須美大学の青いジャージでやって来たクララパイセン。

 「まあ見ておくにゃー!!」と先陣を務める。


 喪主役の仁香さんが受付で莉子ちゃん一行とご対面。


「本日はお忙しいところ遠方から……恐れ入ります」

「儚くも散った水戸さんのために忙しかったけどやって来ましたにゃ!! 返す返すも残念な人だったぞな!! 死因はなんですかにゃ?」


 お悔やみの言葉では避けるべき「忌み言葉」というものがある。

 散るとか去るとか消えるとか、再びとか忙しいとか、生きるとか死ぬとか。

 また「重ね言葉」も避けるべきとされており、だんだんとか重ね重ねとか返す返すとか『DANDAN心魅かれてく』とか、これらの単語は口に出さないようにしよう。


 パイセンが悪い見本を見せてくれたところで、莉子ちゃんの番。


「えと……。お悔やみ申し上げます。この度は残念でなりません」

「ぽーん。プリンセスマスター、今のところ100点です」


 あと、お葬式での瑠香にゃんジャッジも避けた方が良いとされる。

 どうしても現場でジャッジしてもらいたい場合は喪主の許可を取ろう。


「故人も喜んでいると思います」

「それで死因は何ですかにゃ!!」



「童貞をこじらせまして……」

「にゃんてことだにゃ……。さぞかし無念だったと思いますにゃー」


 無念なのは間違いないかと思われた。



 受付を済ませると席へ案内される場合と自分で選ぶ場合がある。

 祭壇に近い席が上座なので、たいして親しくなかったのに前列の方へ行くのはギルティ。

 左右に席がわかれている場合は右側が親族となっているのが一般的。

 うっかりしたり顔で座らないよう気を付けよう。


「あの、クララ先輩? ガラガラですけど。こういう時はどうすれば……?」

「最前列に行ってオーディエンスとして最期を盛り上げてあげるのが吉だにゃー!!」


 お葬式がガラガラの場合のマナーは判然としないが、確かにパイセンの言う通り前の方に行ってあげるのも1つの優しさかもしれない。

 素人のバンドがライブハウス貸し切ってお客が全然いない時みたいな虚無感はお葬式に相応しくない。


「それじゃあ、莉子ちゃん! なんかお坊さんのソロライブはやらないみたいだからにゃー! お焼香キメちゃうぞな!!」

「はい! 頑張ります!!」



 お焼香は頑張るものではない。



 ちなみにお坊さんは「呼びましょう!! もしかしたら水戸さん、成仏するかも!! それは無理でも煩悩がなくなるかも! 読経してもらいましょう!!」と仁香さんがノリノリだったが南雲さんの「不謹慎過ぎるよ!? ヤメなさい!!」というお叱りで泣く泣く不在となった。


「あたしがお手本見せるからにゃー! 莉子ちゃんはよーく見とるぞな!!」


 祭壇に進むクララパイセン。

 武捨の仁香さんに一礼。

 手を合わせて合掌。


 抹香をグッと鷲掴みして、祭壇で眠る水戸くんにバァン。



「ぼぇっへ! ぼっへ!! げほげほげほ!!」

「安らかにお眠りくださいにゃー」


 これが織田信長式のお焼香である。

 令和のご時世にやらかしたら、良くて訴訟、悪くても訴訟。絶縁は確定なので気を付けよう。



 莉子ちゃんも合掌までは同じ動きをしてから、昨日のうちにYouTubeで覚えた「右手親指、人差し指、中指の3本指で抹香を摘まみ、手を額の高さまで掲げてから香炉にくべる」動きを淀みなくこなす。

 「ぽーん。プリンセスマスター、今のところ100点です」と瑠香にゃんジャッジの声が会場にこだまする。

 「わたくしと瑠香にゃんさんはパスを使いますわ」と小鳩さん。


「あれ? もうやってるの!? ごめんごめん! 川端さんのところに寄ってきたから遅れちゃった!! 私もお焼香した方がいいかな?」


 このように、自分の順番が来ているはずにもかかわらず知らねぇおっさんが横入りしてくる事もある。

 そんな時はスッとスライド移動して一礼。


「あ、ごめんね? 小坂くんがやってたのか! なんか私、マナーがなってないサイドの役やらされてない!? 大丈夫!? 水戸くん、とりあえずお疲れ様!!」


 南雲さんも合流して慌ただしいお焼香をキメる。

 ちなみに現時点の参列者数は脅威の5人。


 家族葬なのかもしれない。


 仁香さんが祭壇の前に立った。

 眠っているはずの水戸くんがガサゴソ動き始める。

 おわかりいただけただろうか。


 仁香すわぁんはミニスカート。

 これ以上の言及は無粋である。


「本日は故人のためにこんなところまできてくださり、本当にありがとうございます。生前、水戸さんは言っておられました。最期の瞬間は逆神流の秘奥義『苺光閃いちごこうせん』で逝きたいと。小坂莉子さん、お願いできますでしょうか」

「ふぇっ!? あれ!? これってどうしたら……!? 小鳩さん!?」


 小鳩さんが目じりを拭ってから微笑んだ。

 そして言う。


「仁香さんがそうおっしゃられるのですから、きっとそうなのですわ」


 南雲さんも応じる。


「うん。この式場、キサンタさんに構築スキルで創ってもらったヤツだから壊さないといけないんだよね。小坂くんの『苺光閃いちごこうせん』なら話が早くて助かるなぁ」

「あ。じゃあ、やります!!」


 祭壇で眠っているはずの水戸くんが「ちょっとぉ!? 聞いてないんですが!? そんなの喰らったら死んじゃいますよ!?」と叫ぶ。

 これはいけない。

 童貞をこじらせ過ぎて、怨霊になりかけているのだ。


 速やかに成仏させてあげなければ。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「瑠香にゃんくん!! シールド展開してくれる!?」

「ぽーん。南雲上級監察官のオーダーを実行します。瑠香にゃんシールドを展開。仁香マスターもこちらへどうぞ」


 仁香さんが小走りで駆けて来た。



「いきますっ!! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!」

「い゛え゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 とても縁起の悪い断末魔がデルタウェア全島に響いたという。



 出棺も火葬も葬儀場で全部済ませる。

 これが令和のスマートお葬式である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから20分後。

 ネオ国協本部の食堂では。


「えー! それではですにゃー!! 水戸さんを偲んで!! 献杯!!」

「あ、はい! 献杯!!」


 精進落とし、つまりお葬式の後の会食に献杯をしないで手を付けるのはギルティ。

 ちゃんと故人の会社だったり友人だったり、その辺りの代表者が音頭を取ってくれる。


「それでは瑠香にゃんさん! 審査をお願いしますわ!!」

「瑠香にゃんちゃん!! 今回は私からも強く推薦するよ!! 莉子ちゃんの作法は完璧だったと思う!!」


「ぽーん。瑠香にゃんジャッジを開始します。終了しました。おめでとうございます。プリンセスマスター。花嫁修業検定2級に昇級です」

「やったぁ!! ……って、喜んで良いんですか!? 水戸さん、ちゃんと生きてますよね!?」


「さあ! ご飯食べてお酒飲むぞなー!!」

「ここの支払いは私が出しますので!! みんな好きなもの食べてね!! 莉子ちゃんもチートデイって事にしていいよ!!」


「モグモグモグモグモグモグモグモグ。いただきまふ! モグモグモグモグ」


 お葬式のマナーなんて知らないに越したことはないのである。

 いざという時に困るかもしれない。


 だが、いざという時は来ないに限るから、良いのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る