第1652話 【エピローグオブ六駆くんの結婚資金集め・その10】逆神六駆VSタコ助 ~北風と太陽と白ビキニ~

 六駆くん、煌気オーラチャージ開始。

 タコ足がそれに反応して襲い掛かって来た。


「うわぁ!! 気持ち悪い!!」

「わたくしが対応しますわ!! 『銀華ぎんか』!!」


 素早くにょろにょろ伸びて来るタコ足を切り刻む小鳩さん。

 切った後のタコ足はしばらくうねうねした後で動きを止める。


「あれ!? 小鳩さん、それが正解かもしれません!! 普通に斬ればいいのかも!!」


 そうはさせるかと周囲にある水たまりから6本ほどタコ足が1度に出現した。

 どうやらどこかにタコの親玉もいるらしく、足どうしの連携は完璧、乱れることがない。


「ああ!! 気持ち悪い!!」

「六駆さん!! 早くしてくださいまし!! わたくしは自分でどうにかできますけれど!!」



「瑠香にゃんちゃん!! ごめんね、私、重いかな!? 重いよね!? 瑠香にゃんちゃんの動き、遅い気がする!!」

「ステータス『単純に狭いから動きが制限されている件』を獲得しました。仁香マスターに差し上げます」


 仁香すわぁんが瑠香にゃんの瑠香にゃんウイングで無数のタコ足から逃走中。

 捕まったら薄い本みたいな事をされると彼女は確信している。



「六駆さん!! お急ぎになってくださいまし!!」

「分かりました! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ』!!」


 初期ロットの六駆くんが好んで使用していた『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ』がさく裂した。

 異世界の凍土を吹きすさぶ豪雪。

 それを召喚して放出する、凍結属性の極大スキルである。


「クォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


 足がよほど冷たかったのか、ダンジョンの床、タコ的には天井だが、それを貫いて足の主が出現した。


「うわぁ! 何のひねりもなく本当にただ大きいタコだ!! 山根さん! これちゃんと新種ですか!?」


 サーベイランスが少しの間を置いて応答する。


『やっぱりデータに該当モンスターいないっすね。新種で間違いないっすよ。リングヒルダンジョンは人にとって居心地悪いっすから。長いこと放置されてた間に小さかったタコ型モンスターが巨大化したのかもしれないっすね』

「小鳩さん! 足の銀色の塊、それって採取できそうですか!?」


「槍で突いたら意外と簡単に採れましたわ!!」

「じゃあ採取の方をお願いします!! 仁香さん! 瑠香にゃん!! 僕たちでタコ助を!!」


 しかし、仁香さんの様子がおかしかった。


「……ぁ。ごめんなさい。ちょっと寒くて」


 お忘れの方の本日の仁香すわぁん。

 白ビキニは探索員装備だが、とある穢れた魂の趣味趣向が反映されており防御力こそあるものの防寒着としての機能は皆無。

 だってビキニだもの。

 その上に着ている長袖のジャージはただの私服。


 つまり、六駆くんの『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ』で一気に気温の下がったダンジョンにおいて、今の仁香さんはとても寒い。

 寒くて戦闘どころではないのである。


「帰ったら水戸さんをしばき回そう!!」


 六駆くんは穢れた魂の名を呼んだ。

 そうだとも。

 水戸くんが白ビキニを探索員装備登録していなければ、こんな事には。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 白ビキニ、白ビキニとここまで散々存在をほのめかしておいて、北風と太陽が発動。

 有名なイソップ寓話である。


 旅人の上着を脱がせる勝負を北風と太陽がキメる物語。

 北風がビュンビュン吹いても旅人は「うわっ。さむっ」と上着をしっかり押さえるだけ。

 ここで必要だったのは熱属性のスキル。


 しかしタコ助に熱属性は効果があり過ぎていけない。

 詰んでいたのだ。最初から。



 仁香すわぁんの白ビキニは出て来る余地がなかった。



 オーストラリア近海から血の涙の滴り落ちる音が聞こえるようである。

 とはいえ、このままでは仁香さんが風邪を引いてしまう。


「瑠香にゃん!!」

「ぽーん。瑠香にゃんヒーターを発動します。仁香マスター。瑠香にゃんで暖を取ってください」


 瑠香にゃんヒーターとは。

 瑠香にゃんの動力炉の稼働率を少しだけ上げる事によって、瑠香にゃん自身が抱き枕ならぬ抱き湯たんぽになるという、キマシタワーな兵装。


「くぅぅぅぅー。あったかい……!!」

「グランドマスター。瑠香にゃんは仁香マスターの湯たんぽになったので戦力外です」


 瑠香にゃんウイングと瑠香にゃんヒーターを同時に発動しているので、瑠香にゃんは忙しい。

 こうなったら六駆くんの出番。

 相手はダンジョンのボスだろうと、たかがタコ助。


「よし!! 氷の拳でぶん殴ろう!!」


 こうなる。


「クォオォォォォォォ!! クォォォ!! クォォ!!」


 四方からタコ足が六駆くんに迫る。


「ふぅぅぅぅん!! 『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ』をちょっとだけ出して……『氷拳ひょうけん』!! ふぅぅぅぅぅぅぅん! ふんふんふんふん!!」


 タコ足にターゲットを絞って、正面から時計回りに順序良く。

 1発殴ればタコ足はビクンビクンしながら動きが鈍くなり地面に倒れる。

 倒れた後は小鳩さんが槍で突き刺してトドメ。


「なんだか今日のわたくし、本当に海女さんみたいですわね……。えいっ」


 銀色の塊も大量採取中。


「クォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!! オォォォォォォ!!」


 一方、タコ助は死期を感じ取っていた。

 最初は2メートルサイズだったタコ助。

 探索員がまったく来ないものだから、弱いモンスターを捕食しつつちょっとずつ大きくなった。

 そのサイズ、今では10メートル超え。


 こんなに大きくなったのに。

 たかだか170センチちょっとしかない小さな生き物に殺されてたまるか。


 タコ助は目に煌気オーラを集約させて放った。

 それは集中していなければ目で負えない速度の煌気オーラ弾。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」



「クォ……オォ……?」


 多分タコ助は「なん……だと……」と言った。



 タコ助にも勝ち筋はあったのだ。

 タコ足8本総動員で六駆くんの周りをにょろにょろする。

 これで逆神六駆は完封できていた。


 小鳩さんが油断していたとはいえ初撃の足のスピードについて行けなかった事を考えれば、これでジャイアントキリングはあり得たのだ。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『氷斬拳アイスラッシュ』!!」

「クォオォォォォォォォオォォォォォォォォオオォオォ————ォォ————ォ」


 最期の瞬間、タコ助は気付けただろうか。

 逃した一瞬の好機、その大きさに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんがバルリテロリ戦争で覚えたスキル『太陽がいっぱいアランドロン』をプチ発現。

 人工太陽で仁香さんが改めて暖を取る。


「私のために出してもらっておいてアレなんですけど、今度は少し暑いかもです。お目汚しで申し訳ないです。ちょっとジャージ脱ぎますね」



 そして仁香すわぁんが白ビキニ姿になってくれた。

 完全勝利である。



 サーベイランスが飛んできて「しばらく音声オンリーにしときましょっか?」という気遣いを見せるが「あ。私なら全然平気です。お気になさらず」と男前な仁香さん、ビキニがどうした減るもんでもなしと胸を張る。


『そんじゃ、タコのデータ採取済ませるっすねー』


 サーベイランスがタコ助の遺体を回収する。

 これにてリングヒルダンジョンの攻略は完了。


 あとは小鳩さんが頑張って拾った銀色の塊のお値段次第だが、果たして。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のネオ国協本部。


「川端さん!!」

「なんだ。水戸くんか。どうした、騒がしい。今は任務もないし、呼んでもいないが?」



「自分……ものすごくチャンスを逃した気がするんですけど!!」

「水戸くん。君がチャンスをものにするところを私は見たことがない」



 日本本部にいたら。

 ネオ国協警備部に出向していなければ。

 白ビキニ仁香すわぁんと一緒に任務に出られたかもしれない。


 しかし水戸くん。

 人生にたらればは禁物である。


 そんな夢想は詮無きだけ。あり得ないのだから。

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