第1618話 【エピローグオブ南雲と山根のクリスマス・その1】山根くんの「南雲さんちでパーティーしましょ。日が高いうちからアレすると自分がナニするんで」

 こちらはクリスマスイヴの南雲上級監察官室。


「山根くん」

「なんすか」


「もうお昼過ぎだし、帰っていいよ?」

「そっすねー。ただ春香さん、今日は別に早く帰れって言ってなかったんすよね」


「そうなの?」

「まあ式を挙げてもらったのはこの間なんすけど、自分たち別に新婚夫婦って訳でもないっすから」


「でも帰ってあげなさいよ。春香くんはお休みなんだからさ」

「……まだ昼の2時過ぎっすよ?」


「今日は日本本部の上級職、ほとんど休暇取ってるんだよ。なんで君は休まなかったのか私ね、すごく不思議だったの」

「……体がもたないじゃないっすか」


「えっ?」


 山根くんが大きめの声で察しの悪い上官に意見した。



「今帰ったら、3時には始まるじゃないっすか!! いくら青山さんのところでトレーニングして体鍛えてても! もたないんすよ! 夜まで!! 自分が!!」

「えっ!? ああっ!! そういうこと!? 君たち全ての相性いいのに。夜の体力ゲージだけは全然違うね!!」


 大きな声でこんな話してるならどっちも帰ればいいのに。



 観測者の声が届いたのか、南雲さんが書類を纏め始めた。

 山根くんが「えっ!? 帰るつもりっすか!?」と抗議する。


「帰らないよ。とりあえずネオ国協関連の仕事がひと区切りってだけで、私ね、上級監察官だよ? クリスマスだからってお昼から帰れないでしょ。有事の際に責任者として残っておかないと。だから君は帰りなさい。もう仕事ないし」

「いや! 仕事がなければ見つけて仕事する! これが社会人の基本っすよ!!」


「君ぃ。情事の事情で急に勤勉になるのヤメなさいよ」


 それから山根くんの無理やりサービス残業が2時間ほど続いた。

 そして南雲上級監察官室の扉がノックされた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時刻は午後4時過ぎ。

 出頭したのはこちらの2名。


「失礼します。加賀美政宗監察官、弱卒の身ではありますが、南雲上級監察官の職務を一部代行しに参りました!!」

「同じく青山仁香監察官。私はさらに弱卒なんですけど、加賀美さんに同じです。楠木さんと話し合って、3人で南雲さんのお留守を預かります」


「えっ!? いいのかい!?」

「えっ!? 良くないっすよ、そういうの!!」


「なんでだよ、やぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇ!! じゃあ私は帰らせてもらうから、君はさっきからやってる窓枠の埃掃除を続けてなさいよ!!」

「上官として副官の職務を見守らないっていうんすか!?」



「こんなにつまんない見守り作業もそうそうないよ!? 私が学生の頃にやったパン工場のアルバイトで流れて来るパンの袋に穴空いてないか確認する作業に匹敵する暇さだよ!!」

「自分の悪口はいいっすけど、パン工場の悪口はヤメてください!!」


 南雲さんは「パン工場のアルバイトは時給良かったんだけど、時間が過ぎるのがさ。ものすごく遅くてね……。辛かったなぁ」と呟いた。



「加賀美さんはいいんすか!? お子さん3人もいるのに!!」

「はい。自分は今日の夜から明後日の朝まで休暇申請をしていますので。お気遣いなく。サンタクロースとしての職責は子供たちが寝てからが本番ですので」


「青山さんは……くっ!! 令和のご時世、女性にクリスマスの予定を聞くのはハラスメントになるっすよね……!! なんでもないっす!!」

「あはは……」


 宿六とのクリスマスパーティーはミニスカサンタ服で済ませて来ましたとは言えない仁香さんである。


「じゃあもうこうしよう! 山根くん、うちにおいで!! うちでクリスマスパーティーでもしようじゃない! それなら良いでしょうよ!!」

「それいいっすね! なんでさっさと提案してくれないんすか! すぐにケンタッキーとお寿司のデリバリーを手配するっす。大丈夫っす、安心してください。イヴ当日でも余裕でゲットしてみせるっすよ。オペレーター部主任を舐めないで欲しいっす!!」


 南雲さんが加賀美さんと仁香さんに「山根くんのところ、なかなか授からないものだからさ。夜のお勤めを昼にするのが嫌なんだって」と言いつけている間に、南雲家でのパーティーの手配が整った。

 山根くんがカタカタターンで全部済ませた。


「じゃ、南雲さん。春香さんを誘ってください。自分が言うとアレがナニするんで!」

「そう言うと思ったよ。……もしもし? あ、私です。南雲です。春香くんが良ければなんだけど、これから我が家でささやかなパーティーでもどうかなってね。山根くんと話してたんだけど。うん。うん。大丈夫。夜には終わるから。あ、本当に? そっちで料理の用意とかしてたら遠慮せずに……あ、そう? 旦那を料理する用意に夢中ですっかり忘れてた? はははっ。だったらちょうど良かった。じゃあ車でそっちに向かうから、その後でうちに。はーい」


 電話を終えた南雲さん。

 さあ、パーティーの時間だ。


 白いインプレッサに乗り込んで走り始めて5分。

 山根くんが助手席でか細い声を上げた。


「えっ。旦那を料理する用意ってなんなんすか?」

「そりゃあ君ぃ。うちだったらエクスカリバーとセイバーの衣装的なヤツじゃないの?」


「今日は朝まで飲みましょうね! 南雲さん!!」

「いや、私は疲れてるから夜になったら寝るよ。子供たちと。君も日が変わるまでには帰ってね。居座られると迷惑だから」


 既婚者でも子供がいるといないではクリスマスイヴの過ごし方は違うとされる。

 大丈夫。

 山根くんも今宵の選択肢をミスらなければ無事に授かるはずである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 山根家で春香さんを回収したインプレッサが南雲家のマンションに帰って来た。

 玄関で妻に出迎えられる南雲さん。


「帰ったか、修一。先ほどな、ちょうど子供たちが目を覚ましたのでダブルおっぱいをキメさせていたところだ。なんだ? お前もおっぱい飲むか?」

「京華さん。私の後ろに2人がいるの見えてますよね? そういう事は言わないでもらえますか?」


「ふふっ。すまんすまん。さあ、春香! 上がってくれ!! お前の旦那が手配した料理も届いているぞ!」

「お邪魔します! 京華さん!! わー! 瑠奈ちゃん、こんにちはー!! 京一郎くんはお腹いっぱいになって眠くなっちゃったのかな? いつ見ても可愛いですね!!」


 お忘れの方のための京華さんと春香さん。

 京華さんの副官であり、彼女の取った数少ない弟子でもあるのが春香さん。

 関係は極めて良好、一緒に勝負下着を買いに行く仲。


「じゃあ南雲さん! さっそくテキーラでも飲みましょうか!!」

「君、独りでやってくれる? 私は軽くワイン飲むくらいでいいから」


「えっ!? テキーラのボトル空けないと殺す!? そんなこと言われたら飲むしかないっすね!!」

「令和のご時世じゃなくてもハラスメントだよ。そんなこと言って堪るか。まあ楽しもうじゃないの。うちの子たちが産まれてから君と仕事の後に飲む機会ってあんまりなかったしね」



「今、死ねって言いました!?」

「君ぃ!! 重症だなぁ!! 聞いてるんだけど、私!! 春香くんと君、夜の致し方改革したんでしょう!? 分かり合えたって!! ここに来てそれなかった事にするのヤメてもらえる!? 面倒くさいなぁ!!」



 その頃の妻たち。


「京華さん! 新鮮なウナギと牡蠣と自然薯を持って来たんですけど!!」

「ほう。それはうちのにも食べさせたいな。よし、全部フライにするか。修一!! ウナギを捌くから瑠奈を抱いてくれ!!」


「あ。はい」

「……あー。……だー」


 瑠奈ちゃんがじっとりとした目でパパを見つめていた。

 多分、彼女は思っている。


 「あ。今晩、おっぱい欲しくて泣いてもママの反応が薄い日だ」と。

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