第1588話 【エピローグオブアメリカ旅行・その5】大爆発だ! クレメンス家!!

 楽しいクレメンス一家も揃ったところで、改めてシンディさんの修業が始まる。

 とはいえ、ここはアメリカの住宅街である。

 ピュグリバーでやっていたモンスター討伐や、仕合形式のドンパチなんかしようものならアベンジャーズの新作の撮影が始まったのかと勘違いされる。


 まずは目隠しから。

 六駆くんが気合を込めた。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『暗幕監獄ダークプリズン』!!」


 説明しよう。

 六駆くんがミンスティラリア魔王軍に教えていたのは『六駆監獄ロックプリズン』である。

 効果範囲内の煌気オーラを抑制、あるいは無力化する拘束スキル。

 こちらの『暗幕監獄ダークプリズン』はその亜種であり、効果範囲内の煌気オーラを抑制しつつ、煌気オーラを持たない者からは認識できなくする空間を創るスキル。


 つまりクレメンス家の建っている閑静な住宅地でもドンパチやって問題なし。

 気付くのは野生のスキル使いか、まだスキル使いとして目覚めていない修業前のシンディさんみたいな人だけ。

 煌気オーラの素養は遺伝する場合が多いので、クレメンス氏の娘であるエミリーさんは見えるかもしれない。


「ワーオ! 辺りが暗くなったわ!! これ知ってるわよ、私!! 呪術廻戦で見たわ!!」


 やはり見えておられた。

 これでエミリーさんが「私もスキル覚えるわ!!」とか言い出したら、クレメンス氏がまた痩せる事になるだろう。


 『暗幕監獄ダークプリズン』の効果範囲はクレメンス家のプールを中心に半径300メートル。

 オシャンティーな郵便受けのちょっと向こうまで。

 気を付けて修業すれば道路までは届かない。


「さて! 狭い場所ですからね! やり慣れた修業の反復練習が1番ですよ!! 煌気オーラ球でテニスやりましょうか! シンディさん、意外とこれ苦手にしてましたからね! 今回は段平も使ってもいいですよ!」

「言ったわね? 六駆メン!! 主婦の学習能力を舐めたらダメよ? 昨日できなかったお料理も次の日には美味しく作れるのが主婦!! アメリカのマザーよ!!」


 今回の修業種目も六駆くん考案『煌気オーラ球テニス』である。

 新しい修行をやり始めると説明で尺がアレするし、シンディさんは前回ピュグリバーで行った際にはドゴンドゴンと煌気球ボールを爆ぜさせていたので、まさに里帰り修業にうってつけ。


「莉子もやるよね!」

「うんっ! 食べた分は運動しなくちゃだもんっ!!」


 お聞きになられただろうか。

 これが覚醒ハイパーアルティメット莉子ちゃんである。


「アリナさんとバニンタイガーさんもどうですか?」

「妾にも趣向は理解できた。シンディには料理を振る舞ってもらったことであるし、参加しよう」


 アリナさんも参戦。

 使えるスキルは少ないけれども煌気オーラコントロールはそれなりの彼女。

 危険は少ない。苦手なのは手加減だけ。


「まだ六駆も私のためにどうにか色々伏せてくれているようだし、私も数に加わるか。この手の修業は人が多すぎても少なすぎても非効率だからな」


 そしてバニングさんも加わって、健全な食後の運動と言う名の修業が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんが創り出した煌気球ボールをまずは軽くシンディさんに打ち出す。


「はい! いきますよ!」

「イェェース!! そぉれ!!」


 ゴォウと風を切る音を残して、煌気球ボールがものすごい勢いで弾き返される。

 誰もいない方向へ。

 というか、クレメンス家を目指して。


「うわぁ!! 段平持つと威力が桁違いにアップしますね! でもノーコン!! これってまずいや!! うふふふふ!!」


 いわゆる中期ロットの莉子ちゃん状態である。

 煌気オーラの放出量だけ増えてコントロールの技量が追い付かないので、テニスで言えば相手コートにボールは飛ばずホームラン。

 テニスのルールをご存じない方のために簡単に説明すると、ホームランはテニスにおいて0点である。

 ボール探しに行く分の手間が加算されるくらい。


「いかん!! クレメンス殿の家が……!!」

「バニングさん! お願いします!! あ! タイガーさん!!」


「大丈夫だ! クレメンス殿の表情を見ろ! もうバニングだタイガーだと言っている場合ではない!!」


 クレメンス氏はDランク程度の実力ではあるもののしっかりスキル使いなので、今ものすごい勢いで飛んでいる煌気オーラ球が我が家に着弾したらどうなるのかくらいは分かる。

 分かるのに実力が違い過ぎて何もできない。

 氏は手を組んで跪いた。


「ああ!! 神様……!! 私の退役後の……終の棲家を奪わないでください……!! 神様!!」


 祈る事しかできない。


「ぬぅぅぅっ!! やむを得ん!! スキルを使うぞ!! 『一陣の拳ブラストナックル』!!」

「うわぁ! すごいや!! バニングさんの必殺拳とシンディさんのホームランがいい勝負してる!!」


 これまで数々の強敵と相対して、いずれの強敵とも渡り合って来た『一陣の拳ブラストナックル』が、加減したとはいえダンビラムーチョと拮抗していた。

 これはシンディさんを褒めるべきである。


 最初に肉体強化を覚えさせて、ほとんど特化スキルにまで仕上げた後に段平という得物を与え、むやみにスキルを覚えさせず基礎トレーニングを繰り返した。

 素質のあるスキル使いが最短で強くなるルートの1つとされる修業である。

 提案したのは六駆くん。

 指導したのは雨宮さん。


 素質があったら強くならないはずもない。


「何をやっておる! バニング!! シンディに向けて打ち返すなどと!! 彼女はまだ飛び方を覚えたばかりのひな鳥ぞ!! ここは妾が!! 『絶花エンデ』!!」


 抹消スキルの『絶花エンデ』がシンディさんに向かって飛ぶ煌気球ボールに着弾したように見えた。

 そして煌気球ボールはシンディさんの射程範囲に入った。


「オーケイ!! 今度はしっかりと打つわよ!! イェェェェェェス!!」

「……なにゆえ妾の『絶花エンデ』が消えた?」


 シンディさんの唯一覚えているスキルが打消し属性だったからである。

 抹消属性の『絶花エンデ』は煌気オーラそのものを消し去るスキル。

 シンディさんの打消し属性はスキルそのものを力任せに解除する。


 ほんの少しだけ段平の剣圧の方が『絶花エンデ』の着弾よりも早かったらしく、かつては六駆くんをもってして「すごいスキルだ!! 僕にもどうしようもないかも!!」と言わしめ、莉子ちゃんの『苺光閃いちごこうせん』と凄絶な撃ち合いを披露したアリナさんの白い花が散った。


「六駆!! もうお前しか対処できん!! 任せるぞ!!」

「分かりました!! あれ? そう言えば莉子は?」


 莉子ちゃんはセーターの胸元をハンカチで拭いていた。


「ふぃー。動いたら汗かいちゃった。今なら誰も見てないし、ちょっとはしたないけど……いいよね!!」


 六駆くんが見ていた。

 するとどうなるか。



「うおおおおおお! 莉子おおお!! 莉子おおお!! うおおおおおおおお!!」

「ロォォォォォォォォック!! お前ぇぇぇ!! 何をしているぅぅぅ!!」


 男子ってホントばか。



 ガンッと音がして、ボォンと火柱が上がった。

 クレメンスさんの家が激しい炎に包まれる。


「パパ。私、ジャーナリストとして記録映像を撮るわ」

「……ああ。神様、一体どうして!!」


「自動車免許を取る時に事故の映像を見せるでしょう? スキル使いもそうするべきなのよ。修業って事故と表裏一体なんだわ!! パパ、辛いだろうけど前を見て。空を飛べなくてもパイロットにはなれるけど、事件現場を見逃すようじゃジャーナリストにはなれないのよ!!」


 ハリウッド映画のクライマックスみたいになってしまったクレメンスさんの家。

 しかし、ここには逆神六駆がいる。


 次回。

 逆神はアメリカにも舞い降りる。


 創造の前には破壊が必要だってルルーシュも言ってた。

 じゃあもう次は創造の時間である。


 直すんですよ、家を。

 じゃないと今晩、どこで寝れば良いのか。

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