第1282話 【仁香さんの終闘・その1】最後の最後までこんなマッチアップ ~クソ野郎なら任せとけとは言ったことねぇ~

「おらおらおらおらおら!! 死ね死ね死ね死ね死ね!!」

「ぐへへへへへ!! 慣れて来たぜ! お前のピストルぅ!!」


 どっちがどっちなのか。

 正義の味方がいない戦いなのは分かる。


 念のために付言しておくと、最初が人殺助・参で、後の方が逆神大吾である。

 この階層まで探索済みのでぇベテラン探索員諸君には無粋だったか。


 意外と死んでない大吾。

 黒光りがチャームポイント、台所や風呂場などでエンカウントしがちなカサカサと高速移動を得意とする、100人いたら93人に唾棄されるあの虫が如く、大吾は死なない。


 叩いたと思っても動き出す、仕留めたと思ったら羽を出して飛んで来る。

 終わりの見えない戦いに苛立ち始めた人殺助・参。


 こいつ、実は性格的に外れだったが戦力的には当たりなのでは。

 誰も手出しせずに見守ってもいない戦局を見つめているのは、バルリテロリの大本営だけであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただいま戻りましたー」

「おかえり、逆神くん。……どうしたの? そのタルタルソース」


 バッツくん製作のタルタルソースです。

 照り焼きにかけて味変するためのアイテムです。


「よく分からないんですけど! 青山さんにですね、水着似合ってますね! 水戸さんの好みですか! って言ったら、ぶっかけられました」

「そうなんだ。……なんでだろうね?」


「このタルタルソース、美味しいですよ!!」

「君、そうやって顔に付いたものとか構わず食べるからよくお腹壊すんだよ。ヤメなさいよ」


 仁香さんの地雷を踏み抜いて帰還した六駆くん。

 女心とか知らないおじさんコンビ。


 だが、仁香さんは相当に仕上がっている様子がハッキリと分かる。

 六駆くんにタルタルソースぶっかけるなんて、もはや猛者りこちゃんと同格でなければできない芸当。


「ひ孫様。南雲総司令官」

「なぁ、テレホマン? なんか最近、ワシの事を呼んでくれんようになっとらんか?」


「ひ孫様。南雲総司令官。陛下」

「なんか、取ってつけた感が強いんだわ。なぁ、テレホマン?」


 最終決戦に入ってこっち、電脳ラボで1番どころかナンシーの家を含めてもトータルで見たら1番働いている電脳のテレホマンが報告した。

 その四角い瞳は惨劇を目撃していた。


「ちょっと口をスッキリさせたいですね!! 僕!!」

「テレホマンさんに無茶言うのヤメなさいって。ほら、私が淹れたコーヒーあるから」


 気付けば南雲さんが少しずつ黒化している。

 昔はもっとパッショナブルに六駆くんを止めていたのに、今はやる気のないプロレス感が拭えない。



「ひ孫様の御父君。死亡の由にございます」


 さっきまであんなに元気だった大吾が、死んだ。



 それからテレホマンが「敵、通称・3番目。それまでは煌気オーラ具現化武器のピストルで銃撃を繰り返しておりましたが、豹変いたしましてございます。弾丸のみを具現化して全方位から射撃ののち、ひ孫様の御父君、全身から血を噴いてお亡くなりになられました」と補足した。


「テレホマン? なんでワシの孫って言わんのや?」

「は? ……はっ。陛下のお孫様でございます」


 六駆くんが頷いた。


「まあ、良かったですよ。うちの恥をこれ以上晒さないで済んだので。なんか敵さんの手の内を引き出したっていうだけでもちょっと……。役に立ったなって感情よりも、うちのクソ親父に引き出されるなよって気持ちが強いですけど。やっぱり青山さんにお願いして正解ですね。狭い場所で全方位攻撃とか、よっぽど体術に長けてないと無理ですから」

「逆神くん? 家から出すって言う選択肢はないのかい?」



「えっ!? 広い外に出したら、今よりもっと厄介じゃないですか!! 全方位攻撃が距離を無視して繰り出されるんですよ!?」

「それもそうだね!! 塚地くんに『銀華ぎんか』で民間人の家を囲んでもらうように通達しよう!!」


 テレホマンが「は? ……はっ。御随意に」と応じた。



 この四角い男の一瞬の戸惑いこそが人の心。

 電脳のテレホマンはちゃんと人間であった。


 一方の南雲さん。

 戦略的勝利と戦術的勝利の両獲りのため、人の心を捨ててしまいそう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! また私のリビングに門が生えて来たわぁぁぁぁ!! これは誰を訴えれば良いのよぉぉぉ!! デザイナーのスティーブね!? リビングに門が出たり引っ込んだりするようにしたの!! 訴訟よ、訴訟!!」


 ナンシーが叫ぶと戦局が動く。

 分かりやすくてとても助かる。


 門から出て来たのは当然だが、この人たち。


「……はあ」


 先頭で現れた青山仁香Aランク探索員兼後方司令官代理兼放っておけないお姉さん兼最後もやっぱり巻き込まれお姉さん。

 背後から白ビキニの紐部分を狙った煌気オーラ弾丸を裏拳で叩き潰した。


「わぁぁぁ! 仁香さん! 来てくれたんですね!!」

「にゃはー!! セクスィーだぞなー!!」

「ちょっとクララさん! ゼクシィのお話は仁香さんの前でちょっとおセンシティブですわよ!!」


 最初に喋った3人娘を見てから仁香さんが言う。



「莉子ちゃん。帰ったら毎日20キロランニングするからね」

「ふぇ? ………………………………ふぁっ!?」


 まず莉子ちゃんのメンタルをぶち殺した。



 水着を茶化したパイセンはギリギリ許されて、小鳩さんは聞き間違いなので悪意はないと判断した結果、旦那の罪が連座した莉子ちゃん、アウト。


「みっ! 仁香さんです!! みみっ!!」


 そして敬礼するみみみと鳴く尊い生き物。


「はぁぁぁぁ……!! 癒される……!! 芽衣ちゃんも帰ったら一緒にランニングする!?」

「みみみっ! お供するです!! みっ!!」


 仁香さんにビタミンξが注入された。

 これで勝つる。


「ややっ! 小鳩先輩! テレホマン先輩からの通達です! この家を封鎖せよ! との事です!! 興奮しますね! クローズドサークルです!!」

「ええ……。よく分かりませんけれど、分かりましたわ。『銀華ぎんか』!! 『絶海の孤島ニゲラレナイゾ』!!」


 そしてこのタイミングで「地形の優位性を確保せよ」との指示が届く。

 割と最悪のタイミングであった。


「なんでですか!? ノアちゃん!? 私、外に出て戦いたいんですけど!? こちらの家主さんの許可って取ってます!? 取ってないでしょ、チーム莉子のやる事なんだから!!」

「あぁ……!! 2人目のエンジェルが来たわ……!! 内容は早口の日本語で分からないけど、私、分かる。予感がしたの。こんなの初めてよ。きっと、ステキな提案をしてくれたのね!!」


 仁香さん、ナンシーと視線が交差する。


「川端さん!! アメリカに来てまで何てことしてるんですか!!」

「違うぞ! 誤解だ! 青山さん!!」


 ナンシーは下着にバスローブ姿で、アメリカンビッグボインです。

 もはやこれだけで仁香さんには説明不要。


 ご自身も川端印の白ビキニを装備しているので、本当に説明不要。



 思えば仁香さん、色々な場面で酷い目に遭い過ぎた。



「げはははははははははは!! 若い女だぁぁぁぁ!! しかも何故か服を脱いでいるぅぅぅぅ!! 豚骨スープ野郎を殺した途端に運が向いて来たぞ!! 女!! 私の妻になれ!! 一緒に人殺助の魂の中で暮らそう!! いつも涼しいし、近くにコンビニもあるぞ!!」


 本当に酷い目に遭い過ぎている。

 そして、酷いことは重なるのだから始末が悪い。


「どうしたんですか!? 仁香せんぱわっぷ!? ザールさん?」

「少しお待ちを。リャンさん」


 輝く門で立ち止まり、そのままハマったのはザールくん。

 彼はずっと違和感を抱いていた。


 4つあったトマトが急に1つ減った事。

 何やら胸騒ぎと呼ぶには下賤過ぎる、嫌な予感、悪寒、悪心、二日酔いの朝にも似た爽やかさの対局に位置するような感覚。


 その正体に気付いた時には、少しばかり遅かった。

 ザールくんにも守るべき者ができたのだ。


「しまった……!! 申し訳ございません! 仁香様!! このザール・スプリングの首をもって、どうかお許しください!! リャンさん、一旦ストップ願います!!」

「なんですか!? なんで通せんぼするんですか!? ザールさん! えいっ! えいっ!! もー!! ザールさんってば!!」


 門にハマったまま前面では神妙な後悔を、後面では婚約者とイチャイチャしているザールくんの見つめる先には、掃除機の吸い込んだものを収納する部分が浮遊していた。

 アレの名前は『クリーナーパック』だったり『紙パック』だったり『ダストカップ』だったりと各メーカーによって名称があるものの、それらの名前は適さない。


 今この場では、ごみ溜めと呼ぶのが最適解。


 中から出て来たのは。


「ふふふっ。仁香すわぁん!! 危ないところでしたね!! 自分、どうにか戻って来られましたよ!! ここは自分に任せてください!! この悪漢の退治は自分が!! 貴様! 自分の仁香すわぁんに向かって、なんと卑しい目を!! 仁香すわぁんのおっぱいを見つめて良いのは、この水戸信介監察官だけべっしゅっぅぅん」


 久方ぶりに現世に戻って来た穢れた魂が仁香さんの裏拳ですっ飛んで行った。


「はぁぁぁ……。ほんっとうに、どうしようもない人なんですよ……。アレ、なんだと思います? 私の上官なんです……。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 仁香さんがため息から続けて、一瞬で煌気オーラ爆発バースト


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「なんだこの女ぁぁぁぁぁぁぁ!? 怖いじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ナンシーと人殺助・参の絶叫がシンクロした。


 敵は誰で、どうやって倒せば良いのか。

 答えはシンプル。



 敵は仁香さんが不快に思うもの全て。

 存在ごと消す。


 この世界を浄化するために。



 さあ、お膳立ては整った。

 莉子ちゃんが小刻みにプルプルしながら「仁香しゃん……。怖い……」と呟く。


 きっと開戦の合図に違いない。

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