第1257話 【本当に最後のはずの日常回・その10】土門佳純さんのふっかつのじゅもん ~出番がまだあるみたいですよ! 和泉さん! 一緒に生き返りましょう!!~

 和泉監察官室では。

 不致いたさずの誓いをキメた土門佳純Aランク探索員が和泉さんの介護に精を出していた。


 もう戦わなくて良いんだ。

 そんな空気の中、主にヤんのかヤんねぇのかでここ数回の日常を過ごして来た佳純さんと和泉さん。


 そんな彼らに最後の戦いの気配が近づいていた。


「ごっふ、げふ……。ありがとうございます、佳純さん。小生、ようやく普段の不健康を取り戻すまでに至りました。全治2ヶ月とか、1ヶ月とか、小生が日常回に引っ張り出される度に重傷度合いが変わっておりましたゆえ、次の日常回ではもう死んでおるのではないかとごふごふっ、げふっておりましたが。これも貴女のおかげでごふっ」


 佳純さんはナースモード。

 医療班から服を借りている。


 レーシング装備はお洗濯済み。

 着脱に優れた装備だが、やはり汚れると着も脱もなく、1度清潔な状態に戻さなければならない。


 汚れていては胸部装甲で和泉さんの頭をレシーブする事もできないし、ホットパンツで和泉さんの頭をキャッチする事もできない。

 どっちも同じやんけなどと軽口を叩こうものならば硬化されたツインテールが双頭の蛇となって襲い掛かるであろうこと疑いなく、諸君に置かれましてはご注意願いたい。


「それにしても、医療班の装備ってちょっとタイトと言うか。窮屈ですね。動きにくいです」

「ああ。それはですねごふっ。清潔の保持が第一に考えられておりますので、基本的に使い捨てを想定されて造られているのがその白衣でして。げふっ。サイズ展開が少ないのです。代わりに伸縮性があるので、ごふげふ……という訳です」


「私みたいに中途半端な大きい胸や鍛えちゃってる太ももとは相性が悪い訳ですか。勉強になります。、脱いだ方が良いですよね?」

「……?」



「和泉さんに視覚的な興奮を絶えず与えておくと、いざ致す時にスムーズな興奮を得てもらえるかと! もう白衣の私は見飽きましたよね!」

「小生、佳純さんと御母堂様の家で暮らし始めると数日で天に召しそうですげふ。ああ、御丈母ごじょうぼ様とお呼びすべきですか。げふっ」



 御母堂は他人の母ちゃんを指し、御丈母は嫁さんの母ちゃんを指す。

 御岳母ごがくぼは旦那の母ちゃんを指すのでげふと和泉さんのよく分かる難しい日本語講座が入ったところで、監察官室に来客が。


 丁寧な所作のノックから一転、ぶっきらぼうな声が聞こえた。


「よぉ。和泉さん、生きてっかぁ? ちっとよぉ。残念な報せ持って来たんだよなぁ」

「和泉正春監察官!! 我々はもう1度戦わなければならないかもしれん!!」


 久坂さんちの義兄弟が、よくない情報と共にやって来た。


「和泉さん!! もうお元気になられたんでしたね!! 私のツインテール、掴めますか!? レーシング装備は……ちょっと湿ってますけど! どうせ私の汗とか、あとは和泉さんの体液とかですぐに濡れますし! 平気ですね!! ちょっと急いで着替えますけど……お目汚しですが、この監察官室ってカーテンすらないですし!! 脱ぎますね!!」

「げふぅぅぅぅ! ごふぁぁぁぁっ」


 扉の前の久坂家義兄弟が顔を見合わせた。



「ちっ。奴さん、もうお楽しみじゃもねぇかよぉ。五十五ぉ。和泉さんたちの分まで、俺らが戦うしかねぇよなぁ」

「確かにそうかもしれん!!」



 このままだと和泉さんが日常回で何度目かの死を迎えるので、せめて入室してあげて欲しい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日常回に蔓延る、情報漏洩。

 本来の日常回とは「戦いに明け暮れる乙女たちが羽を伸ばすオフシーンをみんなで見つめてうふふふふふふふふふふふふ」な趣旨だったはずである。

 それなのに、この最後の日常回は戦いの予感がセットになっている。


 こんなハッピーじゃないバリューセットもなかなかない。


 あっくんは小鳩さんとラブラブテレフォンを2度行っており、婚約者から「あ! これは内緒ですのよ! けれど、あっくんさんにだけは言っちゃいますわ!!」と女子の口に戸を建てらない現象が発生。

 「告白してフラれたら次の日にはクラス全員どころか、学校の7割くらいが知っている」ヤツであり、「皆には内緒だよ!!」が「1人につき3人までやぞ。情報漏洩は」と曲解されてしばしば起きる事は広く知られている。ネズミ算は怖い。


 なお、男子もやるので女子だけやり玉にあげるのは良くない。

 これは噂好きなのが女子という旧時代的な発想が悪さをしていると考えられ、最終的に帰結するのは「人の口に戸は立てられぬ」という諺。

 昔の人って本当にすごい。


「つーわけでよぉ。あんたは体弱ぇからなぁ。先に教えといてやんねぇとショックで死んじまうんじゃねぇかと思って来たんだけどよぉ」

「あ、えっ? あれ!? この装備、お洗濯すると縮むんですか!? ちょっと全体的に苦しいんですけど……」


「あっくんさん……。貴方を小生、心の友だと考えておりますげふが……。それは、小生を慮って、もう伝えずに、戦いが終わってから教えられて役に立てなかった小生が悔やみ、傷ついた者の治療に殉ずるという形ではいけませんでしたか? げふっ、ごふっ」

「……気合入れたら、どうにか。伸縮性はあるはずだし。……はぁ!! よし! 胸は収まりましたね! んー。クララちゃんとか小鳩ちゃんは装備の発注、すごく気を遣ってるんですね。帰って来たらお話聞かなくちゃですね」


「くははっ。あんたはよぉ。雨宮のおっさんがいなくなっちまった日本本部で他人を治療できるほとんど唯一のスキル使いだぜぇ? んな稀有な男を穏やかに死なせとくほど、本部は復旧してねぇんだよなぁ。一体、どんだけのひよっこがいると思ってやがるんだぁ?」

「ふ、太ももが……かなり……! えっ。こんなに縮みます? あ……。そっか。デニム生地にしたせいで!? さらに乾燥機を使ったからですか……!? ふぐぐぐぐ……。あれ、困りましたね、これは……」


 会話が嚙み合っていないけれど、ちゃんと混線している。

 混線こそがこの世界の日常。


 佳純さんが着替えを譲らなかったため、五十五くんの薔薇色ドームが三度、日常回に登場。

 小型サイズでもスキル発現できる、努力に才能を兼ね備えた久坂五十五Aランク探索員。



「土門佳純!! 私の父上が開発した薔薇のワッペンを使って欲しい!! まず、デニムのホットパンツに意図的に切れ込みを入れる! 続けてこのワッペンでそれを補強すれば! 動きやすさと丈夫さの2種類を同時に向上させる事が可能かもしれん!!」

「あっくんさん……。弟さんには退出願えませんかごふっ……」


 ズッ友と今後の話をしている間に、嫁さんをよりセクシーに改造するズッ友の弟。

 ちょっと帰って欲しいと和泉さんは思ってしまった。



 薔薇の花びらが舞い散る。

 これは『薔薇色の試着室ローゼン・フィッティングルーム』が解除された時に出て来る演出用の煌気オーラ花弁である。


 久坂流はスキルに無駄がないので、五十五くんが「父上! 効果演出として薔薇を散らせても良いだろうか!!」と提案したところ「ワシの息子はまっこと天才じゃのぉ。全部の構成術式を書き換えるか!!」と応じ、全世界の探索員協会に出回っている久坂さんの教本が今後刷新されるかと思われた。


「見てください!! 和泉さん!! 五十五さんがやってくださいました!!」

「ごっふぅぅぅ……。何という事をやってくださっているのですか……。五十五さんげふぅ」


 佳純さんのホットパンツにスリットが入り、全体的に縮んでピチピチになった。

 ツインテールにも薔薇の花弁がデコレートされており、よく見ると棘も混じっているので握る場所を間違えると和泉さんの手が最初にズタズタになりそう。


「やはり女性は可憐であるべきかと考えた次第! 姉上も銀色の華を舞い散らせ、実に可憐!! 土門佳純は姉上と仲が良い!! だったら全力で推すかもしれん!!」

「小鳩ちゃんには今度アボカドサラダをたくさん持って行きますね!!」


「……ヤメろぃ」


 小鳩さんはアボカドが苦手です。

 胃が悪くなって顔色も悪くなります。


「今はよぉ。福田さんもいねぇんだよなぁ。つー事はよぉ。最上位の階級は加賀美さんとあんただけなんだよなぁ。しっかり俺らを導いてくれよなぁ。くはははっ」

「あっくんさんはいい人ですね!! 私、家族ぐるみのお付き合いを希望です! 色々と済んだら、佐賀に小鳩ちゃんと遊びに来てくださいね! 母がモーテルを用意してくれるそうですので!!」



「和泉さんよぉ。あんた……。ラブホテルを観光旅館か何かと勘違いしてんのかぁ? ちょっと引くぜぇ」

「ごふごふごふごふっ! げふっ、げふっ!!」


 必死の弁解を試みた結果、和泉さんが吐血して佳純さんニューバージョンに抱きしめられて薔薇まみれになった。



 探索員にとって、戦いは日常と隣り合わせなのかもしれん。

 お隣さんたたかいが突撃して来る事だってあるかもしれん。


 和泉さんはエピローグが佐賀編になるかもしれん。


 だから、生きてください。和泉正春監察官。

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