第1055話 【逆神みつ子・その4】逆神喜三太、死す

 死を覚悟する。

 死期を悟る。


 あかん、これ死んだわ。


 我々が日常生活を送る上でたまに稀に割とよく出会ってしまう感覚。

 出会いたくない感覚でもある。


 その種類は多岐にわたり、車の運転をしていてれば右折レーンを直進して来る対向車や、夜中に信号も横断歩道も街灯もない場所で歩行者とエンカウントなどが挙げられる。

 学生時代には試験中に訪れる腹痛。テスト前日に「徹夜すりゃ余裕よ、余裕!」と高を括り「全然余裕なんかなかった……」と朝日を浴びて消え去りそうになる瞬間。


 レポートの期限の失念。必修科目の試験で寝坊。

 好きな子と両片思いだと信じていたら普通に彼氏ができた。

 経理に出す領収書が根こそぎどっか行った。


 車に上司を乗せて高速道路を走り休憩に立ち寄ったサービスエリアで上司を置き忘れて発進。

 気付いたのは次のサービスエリア。


 一人暮らしの体調不良。

 イケると思って消費期限無視乳製品をキメた数時間後にやってくる脂汗。


 枚挙に暇がなさ過ぎる。

 お暇してほしい事この上ない感覚である。


 さて、逆神家の男たちは死期に関して実に敏感。

 これは実体験を軸に合理的な判断をした結果の末に悟る死期であるからして、信ぴょう性が高い。


 なにせ彼らは死んでいる。

 回数こそ違えど、周回者リピーターなる崇高な使命(笑)をこなすためには死ぬ必要があるので、必ず死を経験している。


 転生して戻って来ても死んだ記憶は残っているので、皆どこかしら病んでいる。


 今、逆神喜三太は明確に死期を悟っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 叩き斬られた手は再生できた。

 だが、それで何かが変わるのか。


 高次元のスキル使いの戦いでもトリッキーな作戦で下馬評を覆すジャイアントキリングは起こり得る。

 が、今わの際に立たされてから大逆転が起こるほど人生は甘くない。


 切り札を用意してなお、追い詰められてからカードを切るようでは遅きに失している。

 奥の手を出すならもう1個か2個くらい切り札用意しとけ。


 蔵馬が言ってた。


 なら切り札出し尽くした後はどうすりゃいいんだ。

 喜三太陛下は思った。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 眼前に迫るはフルアーマーやべぇばばあ。

 ただでさえやべぇばばあに苦戦気味の互角だった、それがフルアーマーをキメて来られるともはや切り札を出すタイミングはあるのだろうか。


 ドロー4出してもドロー4で返される確率が10割超えてる錯覚に陥っても無理はない。


 先ほどまではホームであるバルリテロリで迎撃戦をしていた地の利も、追い詰められると撤退不能という縛りに変化する。

 なにせ皇帝。


 皇帝が撤退する場所など皇国のどこにあるのか。

 これこそ本土決戦で最も避けなければならない事態であった。


 皇帝陛下万歳と玉砕覚悟を決めて特攻キメられるのは追い詰められた兵に許された行為であり、皇帝が皇国万歳と玉砕覚悟で特攻したらそこで戦争は終わりである。


「くっそ!! 見誤った!! ひ孫が思ったより小さかったから油断もあった!!」

「うちの孫が小さい? あんたァ!! あたしゃ自慢の孫をディスられると……何するか分からんよ!!」


「これ以上ナニすんだよ!! いや! 小さいって言い方が悪かったかな! 幼いやんけ!! 半ズボン穿いて! 昭和の虫取り少年やん!!」

「どこがかね!! うちの孫は18で立派な大人じゃろうがね!!」



「あれで!? ……合法ショタってヤツ?」

「遺言は終わったかね?」


 陛下。最期になるかもしれませんのでもう1度だけ申し上げておきます。

 それは莉子ちゃんです。



 喜三太陛下は最期のトークセッションを息子の嫁とキメて思い出作りをしておられる訳ではないが、内容には驚愕していた。

 「あれは児童やろ!?」とそこは譲らない構え。


 皇帝の矜持である。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 節子さん! 久恵さん! よし恵さん!! スキルを借りるよ!!」


 みつ子ばあちゃんの肩に装着した『赤い弾丸砲レッドバレット』に煌気オーラが充填され、鮮血色の光を放つ。

 右手には死狂いデスサイズ。左手は断頭台の手刀ギロチンカッター


「あ゛あ゛あ゛あ゛!! なんでこうなるんだよ!!」

「後悔するのがちぃと遅かったねぇ。……さぁ! 『鮮血全弾発射オールクレイジー呉餓狼砲ウルファング』!!!」


 みつ子ばあちゃんからババ友の極大スキルが3つ同時に発現され、そこに自前の『餓狼砲ウルファング』を加えた究極スキルが放たれた。


 喜三太陛下は言葉を発せず、鮮血色の光に呑み込まれる。


「……死んで反省しぃさんや!!」


 血の色の粉塵が晴れた時。

 そこには肉片ひとつ残らぬ破壊の痕跡が、バルリテロリ皇帝陛下崩御を現世チームに伝える。


 逆神喜三太、死す。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 四郎じいちゃんの保護に全力で当たっていた南雲さんがライアンさんと目配せをする。

 バニングさんはこれまた全力で防壁を担当しており、孫六ランドの死守に成功。


 全員、煌気オーラを回復していなければフレンドリーファイア、いやさ、ばばあの殲滅光ババンドリーカタストロフィによって命を落としていただろう。


「……確認できませんな。煌気オーラも生体反応も完全に消失しています。これでは死体検分どころか、皇帝の首級も手に入らないでしょう」


 かつて本能寺の変をキメた明智光秀は織田信長の首どころか死体の破片も見つけられず、内応していた諸将に「いや。それ生きとるかも知れへんやん。危なくて手なんか組めんわ。ハゲ」と言われ多くの後ろ盾を失った。

 謎の多い日本史の事件といえば筆頭格を務める織田信長暗殺事件だが、明智光秀がハゲていたという事実だけは様々な書物で確認できる。



 どうして人はいつの時代もハゲにだけ辛く当たるのか。



 バルリテロリ皇帝の死体がない。

 これは割と由々しき事態である。


 現世にもバルリテロリの侵攻は既に知れ渡っており、何かしらの成果を持って帰らないと日本本部は良いとして、他国の探索員協会には「おめー。さては狂言か?」などとあらぬ疑いをかけられぬとも言い切れない。


「いえ。まずは全員の無事を喜びましょう。特に四郎さん。ご無事で良かった」

「南雲さんにはご迷惑をかけてばかりですじゃわい。この老いぼれ、今回は命を賭けたつもりでしたがの。ご迷惑を重ねる事になろうとは。どう償えばよろしいか……」


「何を言うんです。生きていてくださっただけで充分です! 四郎さんもみつ子さんも民間人ですから! 四郎さんは厳密にいえば日本本部の嘱託職員なのでなんかややこしい感じになりますが。命を賭ける必要があるのは私なんですよ!1 この場では!! 本当に!! バニングさんもライアンさんも日本本部と関係ないですから!!」



「ふっ。面目ない」

「まったくもって。我ら、死んでも迷惑をかける存在でしたな」


 バニングさんやライアンさんの死体が発生すると、バニングさんは死んだ事にしているし、ライアンさんは重要容疑者であるからして、とりあえず南雲さんが連座で死ぬ。



 ひとまず現場保存のために動き出した本土決戦チーム。

 戦いは終わったのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルリテロリ宙域では。


「グランドマスター。お伝えした通りです。敵の反応が完全に消失しました」

「ふぇぇ。さすがおばあちゃんだよぉ……。わたしたちのお金稼ぎチャンスなくなっちゃったね。でも! みんな怪我してないんだ! ホントに良かったぁ!!」


「にゃはー。前半は聞かなかったことにして、後半は優等生莉子ちゃんの帰還だぞなー!! いい加減にあたしのおっぱい解放して欲しいぞなー!!」

「柔らかいものって揉んでるだけで心が穏やかになりますよね」


「あたしの心はまったく穏やかじゃないんだにゃー。ルベルバックで貰ったチアコス、じゃなかった、装備は胸の防御力薄すぎなんだぞなー。心が胸にあるなら常に危険に晒されとるぞなー」

「ふぇぇぇぇ……」


 宙域には瑠香にゃん特務探索員がいるため、バルリテロリ本土の状況も完全に把握できている。

 こうなればもう悠々と本土に降下して冷えたレモネードで乾杯するだけ。


「瑠香にゃん。ひいじいちゃんは死んだんだよね?」

「はい。グランドマスター。状況から死亡している確率は99%。残り1%を引くという事態を考慮するのは、ぽこが大学を卒業するくらい現実的ではありません」


「にゃはー!!」

「クララ先輩と同級生になれるのも楽しそうっ! わたし、一緒に水泳の授業に出たいですっ!!」


「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」


 日須美大学は体育が必修科目です。


 六駆くんの表情が硬い。

 お金ゲットチャンスを逃したので神妙な顔になりセルフ反省会をしているのか。


「まずいね。急いで城だっけ? そこに転移しようか」

「ほえ? あ! 分かった! 残党狩りってヤツだ!!」


「莉子ちゃんはあたしのおっぱい掴みながら物騒な事言うのヤメてにゃー。おっぱいもついでに刈り取られそうだぞなー」

「グランドマスター。懸念材料がおありですか?」


 六駆くんは「うん」といつになくハッキリと返事をしてから続けた。


「僕ら逆神家の人間って死んでも転生するから。ひいじいちゃんはなんでか知らないけど、バルリテロリで転生繰り返してるんだよ。つまり、周回者リピーターが終わってない。この異世界のどこかで転生してすぐに生き返るね。ついでに周回が増えるから強くなって。17歳まで若くなって。すっごく面倒! さっさと僕らも地上に降りて、ひいじいちゃんが生えて来るポイント見つけて!! 転生する瞬間に叩き殺すしかない!!」


 さすが我らが逆神六駆。

 ちゃんと実家の特性を理解して、現状も把握してくれていた。



 逆神喜三太は死んだ。

 つまり、転生する。



 単純に殺すのではなく、殺す方法を選ぶべきだったのだ。

 既に六駆くんはその方法もいくつか考えていた。


 それを仲間で共有するのをすっかり忘れて、宙域でイドクロア拾いに夢中になっていたところ思ったよりも早く喜三太陛下が死ぬ。

 ばあちゃんの本気を見誤っていた孫。


「1時間くらいは拮抗してるかと思ったんだよ!! やっちゃった!! うふふふふふ!!」


 割と最悪の展開が始まっていた。


 六駆くんは特務探索員。

 監督責任者は南雲さんです。

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