第1052話 【逆神みつ子・その1】逆神みつ子VS逆神喜三太 ~最強のばあちゃん、本気出す~

 逆神みつ子。

 息子の嫁である逆神アナスタシアと同居していたところ、彼女の異能によってなんか煌気オーラが活性化され、スキル使いに目覚めたばあちゃん。


 当時既に50代だったにもかかわらず、そこから成長期に無理やり突入してわずか数年で基本を習得。

 さらに近くのばあちゃんたちを集めて公民館でスキルを普及させ、近所にある実家にはアナスタシア母ちゃんが「あらあらー」と暮らしていたので公民館そのものが特異点として仕事を開始。


 気付けばスキル使いばあちゃんたちが次々と生まれ、生まれたらお互いに切磋琢磨を繰り返し、特異点ではアナスタシア母ちゃんが「あらあらー」と煌気オーラを常に垂れ流す。

 これほど恵まれた環境は各国探索員協会の養成施設をはじめとした現世はもちろん、どこの異世界を探しても類を見ない異質さであり、それに気付かないばあちゃんたちは健康のための趣味としてスキルを磨き続ける。


 気付いた時には最強の老人会が発足しており、そこはいつしか独立国家として治外法権が生まれ、建国からわずか10年と少しで現世における最強のスキル使いが集う都市として、ひっそりと息づいていた。


 そのスキル使い集団のリーダー。

 老人会会長の逆神みつ子。


 夫に逆神四郎。

 孫に逆神六駆。

 孫の嫁に小坂莉子。


 この3名がみつ子を「ばあちゃんが言うならそうなんだね!!」と全肯定する。

 この一文だけで彼女の強大さが伝わったのではなかろうか。


 今、息子うんこの話はしていません。


 普段から温厚で笑顔を絶やさず、激昂する事と言えば息子だいごが仕事もせずにワンカップ大関を嗜みパチンコで負けた話をタダ飯食らいながらする時くらい。

 いつも朗らかに殺戮するみつ子ばあちゃんの表情から、笑顔が消えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 孫六ランドの天井から飛び降りて一歩、二歩と戦場へ向かう。

 その様はまさに威風堂々。王者の風格。

 その場で膝を屈した現世チームは息を呑む。


「ライアンさん」

「はっ。みつ子閣下」


 みつ子ばあちゃんがピッと箱を投げる。

 その速度はライアンさんの分析によると200キロを超えていたとも言う。


 新幹線が頑張るとだいたい300キロ。

 大谷翔平選手が頑張ると165キロ。


 ノーモーションでぶん投げられた箱をキャッチできたライアンさんは称えられても良いと思う。


「これでみんなは回復しちょきぃさん。あんたらにはまだやる事があろういね」


 みつ子ばあちゃんが投げたのは【黄箱きばこ】であり、煌気オーラが充填されているものを予め四郎じいちゃんから預かっていたのだ。


「はっ。閣下。すぐに」

「ライアンさんはええ子じゃねぇ。これもあげよういね。さっき久恵さんから送られて来たんよ。ポッサムちゃんと遊びよる呉鮮血犬デスイーターじゃね」


「はっ。ありがたき幸せ。……チワワタイプとポメラニアンタイプがいるぅぅ。失礼しました。心がワンワンしてしまいました。閣下。自裁のお許しを」

「その気持ち、大切にしぃさん」


 ライアンさんが「はっ!!」と跪いてから、ササっと【黄箱きばこ】を開封した。


「南雲さん」

「え゛。あ、はい!! あ゛あ゛!?」


 南雲さんにだけ真空パックも飛んできた。

 腹部に直撃したが、まだ部分的に古龍化チャオっていたのでどうにか助かる。


「あの……。これは……?」

「あなご飯じゃあね」


「は、はい。存じておりますが」

「南雲さん。あんたぁ? スキル出し惜しみしたね? 六駆とお父さんがお世話になっちょらんかったら……。ねぇ? それ食べて気合入れぇさん」



「南雲殿。コーヒーは必要か?」

「お願いします。3分、いえ。2分で食べます!!」


 南雲さんは「指揮官で良かった!!」とチーム莉子と関わるようになって初めて、呪いの役職の立場に心の底から打ち震えたという。



 みつ子ばあちゃんは四郎じいちゃんの隣に立つ。


「お父さん。あたしゃねぇ。お父さんと結婚してから、1度も怒った事はなかったじゃろういね?」

「……ワシが1度だけ大吾に連れられてガールズバーに行った時」


「2度怒った事はなかったじゃろういね?」


 1度は怒っていた。


 みつ子ばあちゃんはフッと煌気オーラの放出を止めて、にこりと微笑んだ。

 続けて言った。


「あたしゃ、お父さんのお父さんに本気で怒るけど。……ええね?」

「もちろんですじゃわい!!」


 四郎じいちゃんの脇に転がっていた槍を拾い上げるとみつ子ばあちゃんはもう1度だけ柔らかく笑った。


「この顔を覚えちょってね。……あたしゃ、ちぃと不細工になるからね」


 空気が張り詰め、現世チームのおっさんたちは呼吸するのも憚られるほどの緊張感を抱き、「回復しろと言うのは、てめぇの身はてめぇで守れと言う事か」と危機意識を共有した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ばあさん。ヤメとけ。ワシだって息子の嫁を殺したくねぇわ」

「言いたい事ぁそれだけかね?」


「ワシはまだ本気出してねぇけど?」

「そねぇな事を!! うちの息子みたいな事を!! あんたァァ!! ようもまぁ、あたしの前で言うたねェェェェ!!!」



「ええ!? なんでキレられたん!?」


 陛下が悪い。



 みつ子ばあちゃんは未だ煌気オーラを解放せず。

 莉子ちゃんとアリナさんが煌気オーラ総量お化けとして現世に君臨する二大乙女だが、みつ子ばあちゃんはその辺から『万物流転の構え』によって足りなくなった煌気オーラを補給できるので、ある意味では煌気オーラ総量が無限。


「あんたァ。スキル使いで1番怖いのは何じゃと思うかいね?」

「死ぬ事じゃねぇか?」


「3点」

「すげぇ辛口採点!! ワシ、もうスキル使いやって70年超えてんだけど!! ああー!! 10点満点だ!!」


「1000点満点じゃけぇね」

「100点満点に換算したら、切り捨てで0点やんけ……」


 槍を地面に突き刺してから、みつ子ばあちゃんはデキの悪い生徒の補習授業を始めた。


煌気オーラ枯渇。これが何よりも怖い。どねぇに強いもんでも、煌気オーラが無けりゃスキルが使えからねぇ。あんた……。煌気オーラ枯渇になった事が無さそうじゃねぇ?」

「ぶーっははははは!! そりゃあそうよ!! ここはワシの国!! ワシの体はバルリテロリの煌気オーラに適応してんだわ!! それこそ手を伸ばしゃ煌気オーラなんていくらでも回収できるんだわ!! 何を言い出すのかと思えば! ばあさん、さてはボケてんな?」


 みつ子ばあちゃんが槍を引き抜き、喜三太陛下に向けて投げつけた。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

煌気オーラの話してたかと思えば物理攻撃!? マジでボケとるやんけ!! 気の毒!!」


 みつ子ばあちゃんの目が見開かれる。

 直前、旦那に言ったように不細工ではない。


 むしろ美しかった。


「過ぎた力の行使言うんは……不細工なものよ。さぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『狂餓狼ウルフィス老衰デス』!!」


 みつ子ばあちゃんの戦型は基本的に『万物流転の構え』から始まる。

 まず敵から煌気オーラを吸い取る引力。

 敵のスキルを弾く斥力。


 これらのコンビネーションによって、極大スキル級の一撃を放つタイミングを計る。


 だが、いつ、誰が言っただろうか。


 最初から引力、斥力、極大スキルの3つを同時に発現できないなどと。



「なんじゃい。ただの結界スキルやんけ。こんなもん、ワシの煌気オーラ爆発バーストで一瞬よ! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あら? おぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「その悲鳴をヤメぇさんやァァァァァ!!」


 ちょっとした隔世遺伝を察知して、みつ子ばあちゃんがキレた。



 喜三太陛下の周囲には煌気オーラ吸収の結界が構築されている。

 同時に吸収した煌気オーラを弾く斥力結界も発現中。


 つまり、喜三太陛下の煌気オーラを吸い出した直後、結界によって弾き返され体の中に煌気オーラが叩き込まれる。

 我々にも身近な血液で喩えよう。


 献血などで血を抜き過ぎると貧血が起きる。

 この際、血圧も変化している。


 あかんあかん抜き過ぎたと慌てて血を一気に戻すとどうなるか。



 近くにいるお医者さんにグーで殴られる。

 それほどに危険なプレイであり、もうそれ医療行為じゃなくて殺害方法の1やんけ案件となり得る、本当にやったら医療事故では済まない。



 命にかかわる、とだけご理解頂けると幸いである。


 では、煌気オーラでそれをやるとどうなるか。


「おぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああい!!」


 こうなる。


 煌気オーラ枯渇状態になるまで煌気オーラを根こそぎぶっこ抜き、抜いた煌気オーラは結界の内部に斥力スキルで滞留させておく。

 空っぽになった煌気オーラを今度は斥力スキル本来の使い方で弾いてあげると、体内に無理やりぶち込まれる。

 そこにみつ子ばあちゃんの煌気オーラも注ぎ込まれるとなれば、もう大変。


 煌気オーラ供給器官は煌気オーラを生成するためのものであり、外から持って来た煌気オーラが容積をオーバーすると、器官そのものが破裂する。


「ふっ。恐ろしいお方だ。みつ子殿……。あれはもう、死んだぞ」


 煌気オーラ供給器官を暴走させて死ぬ事に定評のあるバニングさんが額から大量の汗をかきながら凄惨な現場を見つめる。


「南雲監察官。どうされますか? 敵国の皇帝が死にそうですが」

「ふぁふぁふぃもふぃふぃほぉうふぇふ!!」



 あなご飯食ってる場合じゃありません。

 南雲監察官。



「あたしゃ、自分のスキルに飢えた狼言うてね。かっこつけよるけど。人は老いれば餓えるもんなんよ。あんたァ。年も取らんと転生にあぐらかいて……。なにが皇帝かいね。そねぇな方法で得た力が……あたしらに勝てると思うんかね?」


 孫はちゃんと戦い続ける転生を繰り返して最強になった。

 行きずりの女抱いて親戚増やしまくって、適当に死んで生き返る義父の存在をみつ子ばあちゃんは許さない。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

「……あらぁ。ちぃとは根性見せるねぇ? 息子とは違ったねぇ。安心したいね!! あれうんこが特別やったんじゃねぇ!! 本当に安心した!! 六駆に息子ができたらどねぇしようかと思いよったもんねぇ!!」


 喜三太陛下、今わの際で踏みとどまられる。

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