第983話 【雨宮さんのもうどうにでもなーれ】「今なら言える! 逆神くぅぅぅぅん!! お金あげるよぉぉぉ!! たーすけてー!!」 ~ヒーローに声は届くのか~

 五十鈴ランドで逆神五十鈴と出会う。

 五十鈴さんちに無断で入ったら家主の五十鈴さんがいた訳だから、道理である。


 ただ、五十鈴さんちも日本本部の領空に違法駐拠点している訳であるからして、この場合過失割合はイーブンか。


「あらららー」


 雨宮さんの気の抜けた声で一同が構える。

 気は抜けているものの、雨宮チームの人員は充実しまくっていた。


 まず、雨宮順平上級監察官(退役希望)およびピュグリバー国王および独立国家・呉名誉国民。

 もう肩書が強い。

 再生スキルの使い手であり、戦わせたらトップクラスの猛者。


 現在、戦うモチベーションが極めて後ろ向きなのが気がかり。


「確認しました。急襲部隊のリーダーと思しき、逆神五十鈴。敵から接収し、ノアちゃんDランクが持ち込んでくださったスカウティングスキャナーによる煌気オーラ計測も完了済み。雨宮さん。安心してください。52:48。拮抗しています」

「あららー。じゃあギリギリ勝てちゃうねー。って言いたいけど、私って割と人の言う事を鵜呑みにしないおじさんなのよー。それ、52はどっちかな?」


「五十鈴氏です」

「ほらぁー。もう、おじさんを焚きつけて戦わせようだなんてー。ぷんぷんがおーだゾ!!」


 恐らく全世界の探索員協会を並べてもトップに君臨するであろうオペレーター。

 福田弘道Sランク探索員。

 現場に出る事は滅多にないが、出てきたら普通に戦力の頼れる無表情。


「順平様! 私、何をしたらいいですか!?」

「あらぁー。エヴァちゃんがやる気に満ち溢れた顔でこっち見てるねー。可愛いねー。でもねー。お姫様に頑張られるとおじさん、ちょっと困るなー」


「それはつまり、師匠であり国王であり近未来の旦那様でもある順平様の指示を待っているようでは半人前という事ですね!!」


「違うのよー? エヴァちゃんが頑張るとおじさんの首が締まるのよー」

「分かりました! 不退転の覚悟で頑張ります!!」


 ピュグリバーからやって来た桃色ドレスのお姫様。

 エヴァンジェリン姫。

 まだまだスキル使いとしてはひよっこだが、煌気オーラ総量お化けの巣窟ピュグリバーの当代女王ポジション。


 旦那の首絞めるなら任せとけ。


「……ふっ。……あたしゃ、もう斬りかかってええかね?」

「あららららー。両手に花でおじさん困っちゃうなー」


「……ふっ。……生娘みたいにね。……そねぇなお世辞真に受けるようなあた……ふっ、妊娠しそうじゃあね」

「おじさん、もうダメかもしれないねー」


 独立国家・呉からやって来たシリアルキラー。

 主婦の戦場で生き抜いて、スキル使いとして覚醒してからはガチの戦場でイキイキと生き抜いている、現世に降臨せし殺戮の天使ばあちゃん。


 推しの首刎ねるなら任せとけ。



 早く五十鈴ランドを鹵獲してバルリテロリに攻め込めば良いのに。

 そんなメンバーが勢揃いしていた。



 対するは逆神五十鈴。

 現時点ではかなりオールラウンドなスキル使いで、どの属性でもトップクラスの実力を発揮できる事が判明している。

 全力の加賀美政宗監察官と屋払文哉Aランク探索員を相手にして逃げの一手を選ばせたバルリテロリのナウなヤング。


 先に五十鈴が動いた。


「あんたたちぃ! ウチのうちに勝手に入って来て? 自己紹介もなしぃ!?」


「雨宮でーす。41か42か43か、そのくらい歳でーす」

「福田です。これ以上の情報はお答えできかねます。降伏勧告に応じるのであればその先もご要望に沿いましょう」


 おじさんとオペレーターは話を合わせながら煌気オーラをチャージ。

 だが、人を疑わないお姫様はちゃんと答える。


「はい! 私はエヴァンジェリン・ピュグリバーと申します! 19歳です!!」

「は? ……19? そのわがままボディで?」


「いえ! エヴァンジェリンは聞き分けの良い子です!!」

「あー。イライラするぶりっ子来ちゃったわ。あんたからヤる!!」


 五十鈴が両手を素早く引いた。

 スキルの予備動作だろうか。

 そのまま背後に予備の羽扇子を投げ飛ばす。


 ガキンと音がして、死を呼ぶ鎌が弾かれた。


「……ちゃらんぽらんな格好しちょるのにやるねぇ。……あたしゃ、よし恵。……45歳じゃったと思うけど、人からはもっと若う見える言われるねぇ」


 こちらは殺る気満々だったよし恵さん。

 背後に回ってから『死狂いデスサイズ』で一閃は彼女の十八番。


 それを看破して羽扇子で鎌を飛ばした五十鈴がキレる。


「ばばあがサバ読むにしても限度ってもんがあんだろうが!! 60くらいにしとけ!! 現世の女ってみんな感じ悪くない!?」

「……ふっ。……あんたも5年すりゃばばあよ」



「5年経っても30代なんですが!?」

「……そねぇじゃったかね。……ケバケバしちょるから年齢不詳じゃあね」


 あのよし恵さんが、「口出す前に鎌出して、お喋りは生首とすりゃあええ」がモットーのよし恵さんが、饒舌である。



 ここは敵の拠点。

 まだ満足に索敵もしていない状態で、敵軍の総大将とばったり遭遇。


 果たして、偶然だろうか。


 自軍の拠点に敵がぞろぞろ入って来た事に気付かず、鉢合わせをするだろうか。

 よし恵さんの疑問は雨宮さんと福田さんの疑問でもあった。


「……まずいねー。福田くん、後はよろぴくー」

「順平様!? きゃあ!!」


 エヴァちゃんに向かって駆ける雨宮さん。

 彼女を抱きしめるのと同時に2人の体が透明な筒のようなもので覆われた。


「くっそ! お呼びじゃないおっさんまで釣れちゃったじゃない!! いいわ! このおっさんは溶かす!!」

「あららー。物騒だねー。『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』!!」


 五十鈴の狙いはエヴァちゃん。

 彼女に何らかの形で干渉しようとしたところ、雨宮さんまで望まぬゲットしてしまったのでとりあえず溶かすと言う。


 出方が分からないため防衛策としてベターな自己再生を試みた雨宮さん。

 珍しくこれが愚策。


「まずいねー。煌気オーラ吸われてるぅー。これ、バブリーちゃんを強化しちゃうねー」

「ばーか! ばーか!! もうチューチューしてるっちゅーの!! ……おっさん、どんどん煌気オーラ湧いてくるじゃん。なにそれ、再生スキル? すごいわねー。うちにもいるけど、再生スキル使い。だんちだわー」


 そいつはもう無数の蛇に貫かれてやられました。


「……ふっ! ……はっ!! ……硬いねぇ」

「よし恵さまの鎌が弾かれるところ、初めて見ました!!」


 筒を両断して推しのおじさんと実質孫娘を救出しようとするも、よし恵さんは基本的に「なにかを殺すスキル使い」のため、救出活動なんて専門外のさらに外。

 手加減ができない不器用なばあちゃんは1か100でしかスキルを発現できず、100で撃てば要救助者の首が飛びかねないため1で撃つ。


 あとエヴァちゃんがちょっと楽しそう。


「仕方がないねー。おじさん、とっておき使っちゃうぞー!! そぉいやっさ!! 『何だっけあの野菜歌の何だっけパプリカ・ブレインストーム』!!」


 説明しよう。

 1日に10万個死ぬと言われている脳の神経細胞。

 数が減る事で物忘れなどを引き起こすとされている。

 さらに1度死んだ脳細胞は2度と生き返らない


 だが、最近の研究で「実は脳細胞って再生する事もあるんやで」という事が明らかになった。

 その方法はまだ研究中だが、雨宮さんば自力で再生させられる。


 一時的に脳細胞が生き返って活性化した結果、スカスカになっているおじさん脳が工場出荷状態に立ち戻る。


 結果。超短時間だがおじさんがとても賢くなるのだ。


「ふむ。福田くん。これはもうアレをやるしかない。私の身や立場がどうなろうと構わないが、エヴァちゃんを危険にさらすのは許されない。そうだね? 彼女は一般人。私たちは彼女を1番に考える必要がある。そうだね?」

「2度念押しして来られたところにいやらしさを感じますが。承認しましょう。既に施設が半壊以上。復旧費を考えれば、追加予算は誤差の範囲です」


「うむ。では、私がやろう。福田くんは援護を頼む」

「かしこまりました。しかしその喋り方、何でしょう。私は感性に寄った感情を職務に持ち込む事を是としませんが。これが生理的に嫌悪するというものなのですね。端的に申し上げますとイライラします」


「はははっ。君らしくもない」

「もう結構です。そのイライラ知的モードはあとどれくらい維持できますか?」



「ふふっ。1分かな」

「ではお急ぎください。根本的な部分は愚かなままなのが貴方らしいですね」


 「あの曲なんだっけ。タイトル。サビの部分で歌ってるはずなんだけど。ちょっとイントロから歌ってみよ。あー!! はいはい! ピーマンだ!!」と気付いた瞬間にブレインストームは終わる。


 パプリカです。



「失礼します」

「あんた、うちのトラボルタに喋り方似ててちょっとタイプだわー!!」


「そうですか。恐縮です。『急すぎる人事異動トラブル・ワープホール』!!」

「な!? あ゛!! ……場所入れ替えて何がしたいのかワケわかめなんだけど!!」


 福田さんと五十鈴の場所が入れ替わった。

 簡易転移スキルである。


「貴女の頭上に用があったものでして。もう結構です。雨宮さん。どうぞ」


 五十鈴が元々立っていた場所の天井には見慣れた者しか判別できないほど微細な空間の歪みがあり、『ホール』が開いていた。

 出番があるなら絶対に逃さないボクっ子は常に見ているのである。


 その穴に向かって雨宮さんが叫ぶ。


「逆神くぅぅぅぅぅん!! あのねー!! ちょっとピンチなのよー!! 地上ではあっくんたちが危ないしー!! 浮島では私たちが危ないのー!! どっちか助けてくれたら5千万! どっちも助けてくれたらボーナス! 1億5千万!! たーすけてー!!」


 敵国に攻め入るために移動中の最強格を本部に呼ぶ。

 戦略的にはいかがなものか。


「大丈夫! 逆神くんならなんやかんやで戻れるでしょ!! たはー!!」


 賢さが消えた雨宮さん。てへぺろと舌を出した。


 だが、彼は自分の一族の不始末の決着をつける気満々なのである。

 今回ばかりはお金に惑わされたりなんてしないのである。


 次回。本当に今回ばかりは絶対に確定的に明らかなのである。

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