第979話 【お姉ちゃん頑張りますわ・その1】旦那様は疲労しておられますし、わたくしの出番ですわね!! ~お姉ちゃんは元々ぼっちなので単騎でもイケる~

 本部の北側。

 1号館から最も遠く、食堂エリアからも離れているため主だった日本本部が建ってからもしばらく開発は放置されており、最終的には倉庫がわんさか造られて今は物置スペースとなっている。


「言っとくけど私! 女だからって手加減されんのチョベリバなんで!! そこんとこマジでやってくんないとぶちアゲるからそのつもりで!!」


 既に戦闘が始まろうとしていた。

 南野ジュリアナ。

 22歳の大学生。


 講義に出席してから家に帰ってボディコンに着替えたらディスコへ繰り出し、ワンナイトフィーバーをキメて朝になったら家に帰って、お味噌汁とお漬け物に目玉焼きとカリカリに焼いたウインナー、そしてバルリテロリの国旗にもなっているホカホカに焚き上げた白ご飯。

 これらをモリモリ食べたらば大学の講義が始まる。



 いつ寝ているのだろうか。

 寝てばっかりで講義のシーンがついに1度もないまま日常回を終えそうなどら猫をバブルに送り込みたくなる衝動に駆られる。


 うちのどら猫は初登場時から女子大生です。



 バイタリティが肉体と精神を凌駕して24時間戦う乙女、ジュリアナ。

 スキル使いとしての素質に恵まれているのは確実。


「おーおー。元気な女が出て来やがったぁ。くははっ。俺ぁ性格が悪ぃからよぉ? 相手が女だろうが年寄りだろうがぁ? 子供でも構わず平等パンチ喰らわせちまうが、それで良いって事だなぁ? あぁ?」

「えっ!? あっくんさん……!? 子供に手をあげるんですの!? わたくし、躾は厳しくしたいと思っていますけれど……!! その、教育の過程で物理的な躾をするのは……あの……。いえ、あっくんさんに文句を言う訳ではなく……その……。ええと……」


 あっくんが五十五くんとアイコンタクトをして「……ちっ」と舌打ちをした。

 もうこの男の舌打ちが「悪態をつく」意味で行われた数と「仕方がねぇなぁ」と気遣いの発着地点として行われた回数。

 どちらが多いか、考えるだけ無駄な差が開いて久しい。



「てめぇの心意気は勝手だがよぉ。俺ぁ付き合わねぇぜぇ? 勝手に吠えてろぃ。女子供と年寄りにゃ優しくすんのが久坂じい様の家の決まり事なんでなぁ!」


 「戦争に女子供も年寄りもねぇんだよなぁ!」とはもう言ってくれないあっくん。

 女と子供と年寄りばかりが戦っているこの世界でデカい十字架を背負う。



 小鳩さんが控えめではない胸をドドンと張った。

 これはドヤ顔ならぬ、ドヤおっぱい。


 莉子ちゃんに習ったらしい。

 確かに、彼女も良く使っていますね。


「お聞きになられまして? あっくんさんはお優しいのですわ! さあ、わたくしがお相手しますわよ! そもそも、なんですのそのお姿! ハレンチですわ! 殿方の前で!! ちょっと足を上げたら下着がチラリですわよ!! 弟の教育に悪いですわ!!」


 1つ前の戦局がレースクイーン佳純さんだったせいで、小鳩さんの至極真っ当な指摘が霞のように消えていく。


 彼女は和泉さんに対して緩衝を極限まで追求した結果、おブラを付けていない。

 ホットおパンツの中がどうなっているのかは分からないが、もう我々には祈る事しかできない。


 血で汚れたら換装を第一に設計されているので、下手すると危うい。


 そして小鳩さんは佳純さんに触発されて出撃前には鎧をパージ、下着の上にちょっとだけ鎧のパーツを付けて「それは防御力として意味があるのですか」と問いかけたくなるような女戦士スタイルで「小鳩、出ますわ!」と、危うく常識人乙女のステージから滑り落ちるところだった。


 助けてくれたのは魔王城のみみみみお客様センター、テレホンサービス。


「お師匠様に新調して頂いた槍のお披露目ですわ!!」


 小鳩さんが腰に格納されている筒を手に持つと、両端がニュッと伸びて槍の形状を成す。


 これまでは金色の槍を携えていたお姉ちゃん。

 盾役になる事も増えて来たので「両手は空けておきたいですわね」と久坂さんに相談して「ほいじゃったら四郎さんに貰うた槍を改良するかいのぉ」と年末に造っておいたものが、お正月に呑み過ぎたせいでどこに置いたか分からなくなり、本部に出頭する際の身支度で「……物干し竿の横に立て掛けちょったんじゃった」と発見された。


「ピンクの槍とか!! あんたキティちゃんのサンダル穿くタイプぅ?」

「いえ? 桃色ですわよ? 恋の色ですわ?」


 キティちゃん、いやさキティ様は古くから親しまれているキャラクターグッズ界の女帝。

 なお、どういう訳かヤンチャする乙女に好まれる傾向にあり、その起源はよく分からなかったがバブル後期から弾けた直後にはもうコンビニの前でお排泄物座りをしている乙女たちの足元にいらっしゃったという情報はある。


「恋? なるへそ! ラブホの色ね!」

「そうですわね! わたくしとあっくんさんのお城のお色ですわ!!」


「……あんた、えっ!? ラブホに住んでんの?」

「はい? ベッド回転しますわよ? ボタン押すといい匂いのガスが出ますわ。お風呂とお手洗いのドアは透けておりますけれど?」


 ジュリアナが息を吞んだ。

 続けて、素直に敵を賞賛する。



「舐めてたわ。あんた、名前は? 現世は軟弱って姐さんに聞かされてたけど。チョベリグじゃん。いや、ええ……? チョベリグって言うか、ストロングだわ」

「塚地小鳩と申しますわ! あ、あの! もうすぐ、阿久津小鳩になりますわ……」


 照れながら名乗る小鳩さんの後方では地面に膝をついたあっくんが「五十五ぉ……。そこのサーベイランス撃ち落とせぃ」と力なく呟いていた。



 和泉さんに続いてあっくんも公式記録を抹消したくなったご様子。

 戦いに対するモチベーションが上がるのならばそれはそれでオッケーである。


 ヤケクソになるのだけはいけない。


「兄上!! 辻堂甲陽がマッサージ器をたくさん持ち込んでいたが!! 次元を削って直接兄上のお部屋に!! 肩こりにもキクし、色々とキクと!!」

「あぁ……。あのおっさん、今どこにいるんだか知らねぇが。戦死しねぇかねぇ。もう1回よぉ。中身じじいの癖に性の知識まで復活してやがんだよなぁ……」


 ちょっとヤケクソになりつつあるあっくん。

 だが幸か不幸か、先のティラミス掃討戦で彼は極大スキルを発現しており、それを長時間維持するという荒業をやってのけているため、煌気オーラ総量が既に半分以下になっている。


 さらに何が悲しいかと言えば、その極大スキルは特に役に立つ事がなく後からやって来た順平国王による順平国王の私兵、バーバラ武闘団と呉のお嬢様部隊がティラミスを仕留めているので、結果論にはなるが「俺ぁスキル使う必要がまったくねぇ局面でクソほど消耗してんじゃねぇかよぉ……」と、バッドコンディションを背負わされている事実。


 ヤケクソするにも煌気オーラが足りない。


「参りますわ!! 桃色の槍!!」

「名前そのまんまじゃん!!」


「いえ、浄汰さんラブラブランサーという名前がありますわよ! ですけれど、あっくんさんが照れ屋さんですので内緒ですの! ……言っちゃいましたわ」


 小鳩さんは無自覚に匂わせツイートしちゃうタイプ。

 ツイートという呼称の霊圧が現世から消えたが、うちはツイートで通していく。


 おっさんには伝わらないのである。

 なんだ、ポストって。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 小鳩さんが一歩踏み出したのを合図に、ジュリアナは二歩で宙へ駆けあがる。

 手には小さい羽扇子。


「姐さん仕込みのバブルスキル!! 味合わいな!! 冥途の土産に聞かせてあげる! 逆神五十鈴姐さんはイケイケだけど男と寝たことねーからぁ!!」


 上空で羽扇子を一振りすると、鉄製のヌンチャクに換装。

 では羽扇子にしていた意味を知りたい。


「冥途のお土産が早すぎますわよ! それ、ピンチになってからくださいまし!! あとせめてご自分の恥ずかしい情報とかになさいませ!! 存じ上げませんけれど、五十鈴さんという方がお気の毒ですわ!!」


 至極真っ当なツッコミ。

 これが塚地小鳩の真骨頂。


 チーム莉子にどっぷり漬かり、何度か色が変わりそうになりながらも常識人乙女の枠を死守して来たツッコミ力。

 これは確実に強靭なメンタルで裏打ちされた実績と経験。


 彼女はどんどん強くなる。


「なんだい!? 私とサシでやろうってのかい!?」

「ええ! あっくんさんはお疲れですのよ! それにわたくし!! 元々ずっと独りでしたので!! 単騎で戦うのも慣れてますわ!!」



「……悲しい過去をいきなり出してくるとか。あんた、さては死ぬ気か?」

「なんでですの!? 死にませんわよ!? 普通に経歴を述べただけですけれど!?」


 「ずっとぼっちだった」という事実を戦闘が煮詰まって来て思い浮かべる哀しき回想シーン認定された小鳩さん。



 風評被害に負けず上空に向けて槍を構えた。


 なお、久坂家男子は下を向いている。


「……ちっ。クソほど短ぇスカートで空中戦選ぶとかよぉ。頭がおかしいんじゃねぇのかぁ? バルリテロリの女ってのは」

「確かにそうかもしれん!! エチケットによって我々の視界が極めて制限された!! かなりの使い手かもしれん!! ……兄上!!」


 五十五くんがあっくんに向かって叫ぶ。

 返事の代わりに2人で後方に下がった。


「もうやってたのかい。ジュリアナ! このDCさんも手ぇ貸すよ!!」


 南野DCが戦場へ。


「……ざっけんなよなぁ。なんでこいつら、全員揃って露出しかしてねぇんだぁ? おい、本部の女どもが全員清楚に見えてくんぞ、こりゃあよぉ……」

「確かにそうかもしれん!! 姉上が相対的にどんどんご令嬢になっていく!! そして兄上!!」



「あぁ。……こっちのド派手な方まで空飛ばれたらよぉ。俺らにゃ防御しか選択肢がなくなるぜぇ」

「姉上のジェラシーは可愛らしい!! あれを発動されると我々の戦意に響くかもしれん!!」


 この子たち、また変なものと戦い始めるんだから。



 なお、煌気オーラを消した南野家の若頭もこちらへ向かってきている。

 割とピンチな久坂一家。


 バブリーな時代に見せパンやインナーの概念は極めて希薄であった。

 とだけ、付言しておこう。


 本当かどうかは分かりません。

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