第966話 【南極海、血に染めて・その4】吾輩の名はダズモンガー。逆神六駆殿の一番弟子。スキル使いでありまする。 ~猛るトラさん、900話以上ぶりのサブタイトル奪取~

 ミノタウロス♀の花束による殴打を喰らった十四男・銃。

 銃と付いているからには遠距離攻撃に特化している、してもらわないと困る都合上、近接戦に対する備えは多く搭載されていない。


 逆神十四男オリジナルが1つの分身にのみ特化すれば、剣も拳も銃も極めた若々しい十四男が爆誕する事も可能だった。

 しかしそれをやると敵の相手をできる猛者の数が減ってしまう。

 敵国に攻め込んでいる戦略上、手勢を減らすのは愚策と考えた十四男オリジナル。


 最強の分身体を出して一気呵成に事を運ぶのもまた正答であるが、これはもう個人の好みの問題。

 軍を指揮する者の好みが反映されるのもまた戦争である。

 好判断だったと賞賛されるか、悪手だったと断罪されるか、それは次世代の者たちが論じる事であり、その瞬間に立ち会った者とは感性にズレが生じるのも致し方なし。



 ミノタウロス♀がいきなり具現化される現場に立ち会った感性を受け取れる者が後世に誕生できるかどうかは分からない。



「がぁっ……。いかん……。思いのほかダメージが大きすぎる……。これではオリジナルに影響が……。ならば消滅するか。いや、ならん! 敵戦力はまだ健在! ここで我が退いてはオリジナルが座る十四男ランドの脅威が増えるのみ……!!」


 『あの頃輝いていた自分トリプル・アバタリオン』で生み出された分身はオリジナルから完全に独立した煌気構築物スタンドみたいなもんとして活動するのはお伝えした通りだが、消耗した分身を回復させるためにはオリジナルが煌気オーラを放出させる必要があり、十四男オリジナルは最初の発現時点で大量の煌気オーラを使用しているためエネルギー源は有限。

 逆神十四男にSDGsは適用されない。


 じいさんに持続的な活動が可能ならばそれはもう不老不死。


 それができるのは皇帝の逆神喜三太のみ。

 あと陛下は望んで不死になった訳ではないという哀しみも付きまとうが、今はその哀しみに触れていると話が混線して面倒なので、哀しみは向こう側へとお帰り頂く。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 十四男ランドの玉座では。


「あ゛っ!! 入れ歯が外れたァ!! これは……!! 分身に何かあったァ!! 歯茎がちょっと痩せとるしィ!! あ゛あ゛っ!! 喋られなくなるゥ!!」


 意外とダメージは少なかった十四男オリジナル。

 しかし、お年寄りにとって入れ歯が合わないのは死活問題。


 ストレスになるし、そのストレスが認知症の原因になり得るという研究結果もある。

 自分の歯が何本残っているかで認知症の発症リスクが大きく変わるというちゃんとした論文も発表されており、歯が無くなった後のケアは極めて重要。



 なお、この世界に出てくる論文は全てちゃんとしています。



「ガンコ、いきまぁす!! 十四男様! 新しい入れ歯です!!」


 ただ、十四男ランドには入れ歯がたくさん生えている。

 チューリップの花の部分が入れ歯になったみたいな、ちょっと背中が冷えるフォルムの植物がそこら中から生えているためこの程度のダメージは造作もない。


 十四男オリジナルが指示を飛ばした。


「あああ! 背中がいったぁぁい!! 銃のワシよ!! 煌気オーラを送るぞォ!! 皇帝陛下の御身のためにィ!! 我らの心血注ぎ込みィ!! 敵を駆逐するのであるゥ!! ……なにやら、銃のワシのメンタルが揺らいでおる?」

「それはつまり……。どういうことでございますか?」


 ガンコは介護長なので、戦局に関しては基本的によく分かりません。

 お母さんが子供にソシャゲの話をされて「うん。うん。そうなのね。うん。へぇー」と親身になって頷き、最後に告げる。



「それで!? つまり、どういうことですか!?」


 話は聞いているし耳にも入っているが、脳が理解してくれない。

 お母さん世代の悲しき性にて、こればかりは致し方なし。



「うむゥ! つまりィ! 銃のワシがとても怖い思いをしたと言う事でありィ! それはとても怖かったと言う事であるゥ!! つまりィ!! 怖いのに頑張っているあの頃のワシはとても頑張っておるゥ!!」

「まあまあ! それは大変に素晴らしいことですね!!」


 おじいちゃんがする話を親身になって頷いているが内容はよく分からない。

 その結果産み出される、中身があるようで空っぽのトークセッション。


 会話のミステイク。

 それはとても切ないものだが、喋ってる当人たちは「よっしゃ、むっちゃ伝わった!!」と満足しているため、一人称視点と三人称視点を混同させて意見を押し付けるのはエゴである。


 十四男オリジナルは割と元気であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「女子を巻き込むいくさなど戦いにあらず……!! なればこの十四男の名を持ちし我!! 自らが銃弾となり敵陣駆けた末に果てるが良かろう!! なぁぁぁ!! 『我自身が銃弾になる事だサイゴ・ノ・トシオテンショウ』!!!」


 遠距離タイプが追い詰められると基本的に超弩級砲をぶっ放すのが礼儀作法として一般的に広く認知されている。

 あるいはグミ撃ち。

 だが、それをやると水着の女子まで巻き込んでしまう。


 それはとても良くない事だと十四男・銃は考えた。


 よって、自分が弾丸になって特攻ぶっこむ形を採択。

 遠距離タイプにはできないが、分身の親はオールラウンダーを極めた男。

 だったら……できらぁ!


 十四男・銃が十四男・弾丸へと最終変身をキメている頃。

 ストウェアではライラさんが草生やしてとにかく防御態勢を確立しようとしていた。


「でもね! あたし知ってんだ!! 草属性って弱いもん!! これまでの流れで分かるわ! あたしにだって!! 不意を突くか、敵との相性がものっすごく良いかのどっちかじゃないと草なんてさ! wwwwwとか馬鹿にされるのが関の山なんだよ!! ああもう! こんな時にさ! あなたには立派なおっぱいがあるじゃないか、ライラさん!! とか全肯定してくれる川端いないしさぁ!!」


 川端一真おっぱい大将軍、実は意外と慕われていた。

 おっぱいおっぱい連呼されて嫌がる乙女もたくさんいるが、喜ぶ乙女がいないかと言えばまた話は変わって来る。



 勘違いしてはいけないのは「じゃあワンチャン、おっぱいって言いながら四つ身で組み合ってみよ!!」とかやるのは極めてギルティ。

 おっぱい連呼して良いのは対象のおっぱいと十分に仲良くなってから。

 相手を選ぶのである。おっぱいの嫌がる事をしてはならぬ。


 川端さんとの約束だ。


 聞いてんのか、水戸くん。



 草が生い茂る甲板に楠木さん(意識不明・酩酊)とダズモンガーくん(毛が濡れてボリュームダウン)を抱えた久坂さんが帰還。


「南極海っちゅうのはこがいに澄んじょるもんなんじゃのぉー。ものっすごい綺麗じゃったわ。要救助者おらんかったら30分くらい潜っちょったで、ワシ」


 久坂さんは普通に煌気オーラを全身に纏わせているので、服も濡れていない。

 ペンギンさんが泳いでいるところを見て結構楽しい救助活動だったと後の報告書には記載されている。


「わー。結構ピンチかもですねー。バンバンくんは正統派の攻撃向きじゃないですしー。ワチエくん倒れちゃってますしー? ライラさんはー」

「あたしはどうせ役立たずだよ!!」



「隣にいてくれるだけで安心するしー」

「……ナディア? えっ。やだ。あたし……。ばばあだよ? 中身、ばばあ」


 トゥンク事案なのかキマシタワー事案なのか。

 心ときめく乙女が2人。



 ナディアさんが「むー。わたしがどうにかしますかー」とため息をつくのとほぼ同じタイミングで仁義を切るトラさんがいた。


「待たれよ、お嬢様!! 吾輩、生国はミンスティラリア、名をダズモンガー! 逆神六駆殿を師に持つ、多くの逆神流門弟の中で苟も一番弟子の身分を預かる獣人!! ここで退けば師の名を穢しまする!!」

「おお……。気概は認めるが、トラの。お主、耐久性に極振りしちょるタイプじゃろ? いけん、いけん。その手合いはこの世界じゃと前に出ちゃあいけんのじゃ」


「御仁のお気遣い、まっことありがたき……!! ですが、吾輩!! ここで花を咲かさずしてどこで咲かせましょうや! ぬおおおおおおおおお!!」


 ダズモンガーくんの煌気オーラが高まっていく。

 上空で弾丸キメた最終形態十四男・銃は大きくて当てやすい的から狙う、スナイパーのセオリーを順守するべく雄々しく猛るトラさんに狙いを定める。


 この瞬間、ダズモンガーくんの輝くたった1つのルートが完成する。

 彼には六駆くんに伝授されたワンオフの必殺技があった。


 過去形なのは、後発の『ダイナマイト』や『ボンバー』がジェネリックどころか上位互換なせいでミンスティラリア解放戦以降1度も使用する機会がなかったため。


 過去系を現在進行形に変える時は、今。


 『瞬動しゅんどう』で推進力を得て、元から強靭な肉体に煌気オーラを纏わせ突進するダズモンガーくんの必殺技。

 その名は『猛虎奮迅ダズクラッシュ』という。


 この世界の記憶だと46くらいで出てきているので、観測者の皆様はご確認されたし。


 準備が整う前に敵が来る。

 クソったれな世界はどこもだいたいそう。


 ダズモンガーくんはこの世界でとても長い時を生きている。

 生き方ならとっくに心得ていた。


「名も知らぬモフモフした……男か女か、♂か♀!! 恨みもなければ縁もなき、不運は戦場で見えた事よ!! 貫け!! 『輝いていた頃の星の銃弾トゥインクルスター・ワシ』!!」

「ふんぬぅぅぅぅぅぅ!! 吾輩は輝いている時が今! 今なのだ!! 『猛虎奮迅ダズクラッシュ』!!!」


 遠距離タイプの十四男・銃を追い詰めたストウェアチーム。

 彼らの善戦がなければ生まれなかったシチュエーション。


 ダズモンガーくんはどうしてここにいるのか、それすらも分からない。

 分からないが、己がやるべき事はとうに分かっている。


 トラはそうして生きて来た。

 トラはこうして生きて往く。



「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」



 悲鳴が静謐な南極海にこだまする。

 この澄み渡る海を染めるのは、誰の血か。

 トラの運命は神が遊ぶ双六だとしても、上がりまでは一天地六の賽の目次第。


 次回。装甲騎兵ボトムズ。失礼、うっかりボトムズが出てしまいました。

 ダズモンガー死す。


 遥かな時に、全てを賭けて。


 やったか。

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