第961話 【六駆と南雲のワクワク異空間飛行】「そろそろ飛びますかね?」「飛ばないよ。カウントダウンがまだ10分残ってるもん」 ~じゃあ飛びません。でもみんな乗り込みました~

 バルリテロリ本国特攻メンバーが孫六ランドに乗り込み完了した。

 そんな独立国家・呉では。


「……あ゛あ゛!! 聞いて、莉子!!」

「なになに? わたしに関係あること!?」


「今……なんだか、僕にお金が流れ込んで来る……そんな気配を感じたんだけど!!」

「ほえー? けど、気配ってなんだか曖昧だね? 六駆くんっていつもお金は完璧に察知するでしょ? 雰囲気とか気配とか、そーゆう霞を掴むような感覚って聞いた事ないかもだよー?」


 元気とヘルスィーを取り戻した莉子ちゃんが六駆くんのお金センシズに対して所見を述べていた。

 おわかりいただけただろうか。


 この瞬間、日本本部で雨宮順平上級監察官が「逆神くぅぅーん!!」と大長編ドラえもんだったら空に視点が移って聴き慣れたイントロから「こんなこといいな♪」とドラえもんのうたが始まる感じの心の叫びを繰り出していた。

 わさびドラになってもこの流れが踏襲されていると知った時には先代へのリスペクトを感じて正直震えた。


 なお、ドラえもんの声変わりは2005年。

 未だに「わさびドラにはちょっと違和感が」と言ってたりすると、その発言に違和感を持たれる時代が令和。


 おっさんだってドラえもんにコミットしなければならん時はとっくに来ている、どころか過ぎ去った後なのだ。



 でも、過去を振り返っちゃいかんとは言ってない。

 未だに「ドラえもんのモノマネしまーす!」と言ったらのぶ代ドラなのである。



 話がノスタルジーしてしまったが、雨宮さんの「六駆えもーん」は届かず。

 だが、雰囲気は届いていた。


 なにゆえこのようなミラクルが起きたのかと言えば、ボクッ子が暗躍していたからに他ならない。


「逆神先輩! それはきっと、これからバルリテロリに殴り込むからではないでしょうか! 逆神先輩の中に脈を打つお金への渇望がきっと! こっちだよ! 早くおいでよ! そんな感じでナニしているからではないでしょうか!!」

「……そうかな? なんか、ノアに言われるとそんな気もしてきた!!」


「そうですとも、そうですとも!! 逆神先輩! バルリテロリ本国にはお金がたくさん埋まってます!! きっとです、確実にメイビー! ふんすっすー!!」

「そうなんだ!! そうだよ!! 南雲さん! まだ飛ばないんですか、これ!!」


 ノアちゃんは穴通信を常に発現している。

 本部でクライマックスを喰うクライマックスが起きる可能性も排除できないため、ずっと穴をオペレーター室に放置したままなのである。


 そうしたらば、何やら雨宮さんが危なそうという前代未聞のクライマックスが起きているではないか。

 「これはバルリテロリ本国に行くよりもボクの取れ高があるのでは!?」とノアちゃんが察知した次の瞬間には、オペレーターの頂点を極めた男から逆穴通信が入っていた。


 逆穴とかもういっそ、なんだかいやらしいを超えてセクシーでもある。

 実に端的で要点のみを掻い摘んだ通信だった。

 相手に「ふんすっ!!」としか言わせない、そんな圧力を感じさせるものだった。


『こちら、日本本部。福田です。雨宮さんの良くないハッスルはお聞きおよびという前提で一方的な通信を行います。逆神特務探索員および、小坂Aランク。この両名にお金の気配を悟らせないでいただきたい。完璧には無理であろう事は過去のデータから推測できますが、ノアちゃんDランクの実力をもってすれば、あるいはと考えました。もちろん、こちらからは貴女の望むものをご用意します。Bランクまでは無条件で昇進査定を通す事が私、福田弘道の名をもって可能です。さらに、月刊探索員の特別号の創刊。こちらを許可いたします。以上、ご不満がなければ早急に動いてください。相互通信を取ると気取られる可能性がありますので、これにて』


 福田さんの声が消えた瞬間、ノアちゃんは「ふんすっ!!」と鳴いた。

 本気を出すと六駆くんのお金センシズすら逸らす事ができる、ノアちゃんトリックスター。


 今日も燦然と輝きを放つ。


「逆神くん。お願いだからその辺のスイッチを適当に押すのヤメてくれないかな? 私でも半分くらい意味不明なんだよ。だってそれ、煌気オーラ構築物なんでしょ?」

「そうですね! 間違いなく煌気オーラ構築物です!! ふぅぅぅぅぅぅぅん!!」


「うん。このサイズのものを造れるって脅威だけどさ、ここまで複雑なものを造れるのも理解を超えているんだよ。ねぇ? なんで私のお願い無視して、いつも強めのスキル放つときの気合入れながらスイッチを乱れ打ちしてるの?」

「大丈夫ですって! 僕がちょっと強めに殴っても壊れないのはもう確認済みなので!」


「じゃあ! なんで殴るの!! 私の不安だけが加速していくんだよ!?」


 六駆くんは笑顔で答えた。



「急いでる時! エレベーターのボタンって連打したくなるじゃないですか!!」

「ああ! それはちょっと分かる!! 自動販売機のお釣り返却用レバーもガチャガチャしたくなるよね! でもヤメて!? 壊れたら大惨事だから!!」



 孫六ランドの中ではリラックスムードが支配圏を広げつつあった。

 実家のような安心感。


 六駆くんが暴れて南雲さんがツッコミを入れるこの流れが、一種のアルファ波のような効果を発揮して他の乗組員たちの心を落ち着けていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うにゃー。瑠香にゃん、瑠香にゃん」

「はい。ぽこ。なんでしょうか」


「この浮島ってこれから敵さんの本国に強制転移されるんだにゃー?」

「ぽこ。そこを復唱して差し上げなければ話について行けなくなったのですか? 瑠香にゃんはスマホ依存症による知能低下という根拠のない理屈を是とする時が来たのかと覚悟をキメました。ステータス『なんかそんな気がする』を獲得。こちら、すぐに使われますか?」


「変なステータスをあたしから輩出してあたしに戻して来ないで欲しいぞなー」

「排出です。ぽこ。輩出の意味を辞書引いて調べてください。ステータス『こいつ厚かましいな』を獲得。これはあげません」


「くれんのかにゃー。直接転移って一瞬で移動するぞなー?」

「瑠香にゃんがどんどんステータスを獲得させられます。『知るか。そんなもん』を元ナンバー2様に付与。ご健在で何よりです」


 四郎じいちゃんが孫六ランドの制御室に椅子とかテーブルとかを構築スキルで設置したため、居心地が上昇している。

 椅子に座って南雲さんの淹れたコーヒーを楽しんでいたバニングさん。


「コーヒーは良い。現実から逃げるのにもってこいだ。なるほど、南雲殿が好むはず。もう色々と過去の事みたいな空気にできた。すごいものだ、コーヒーとは。01……いや、失敬。もはやお前は我らとは関係のない存在だったな。しかし、跡見瑠香とは。我ら負の遺産を押し付けたようでいささか申し訳がない」

「瑠香にゃんに瑠香にゃんを押し付けたのはぽこますたぁです。ナンバー2様はお気になさらず。そしてご説明頂けると助かります」


 バニングさんが顎に手を当てて少しだけ考えた。


「察するに、強制転移はされんだろう。プログラムの解除もされんと思うがな」

「にゃはー。意味が分からんぞなー」


「瑠香にゃんならば分かるだろう」

「ステータス『よく分からん』を獲得。ぽこ、瑠香にゃんのキャラ的にこのステータスは良くないのであげます」


 よく分からんそうです。


 バニングさんが「よし、分かった」と頷いた。

 続けて「元敵組織の幹部としての私見だが」と前置きをした上で持論を展開する。


「この拠点が帰って来る事は向こうも察知済みだろう。なにせ構築スキルの主が本国にいるであろうからな。自分の造ったものの推移は把握できる。私の『魔斧ベルテ』とて似たようなもの。投げれば飛ぶが、飛んだ先から戻すのも自在。規模こそ違えどシステムは同じと考えれば、こちらに鹵獲された事は把握しているはず」

「じゃあ爆発させれば良いんじゃないかにゃー?」


「そうはいかん理由があるのだろう。いくつか考えられるが……。1つは制御が困難な状況にある可能性。現世には似たような浮島型拠点があと2つあるとの事。3つ同時にコントロールするのは至難」


 ちょっと外れるバニングさん推理。

 3つとも喜三太陛下の制御からは離れており、孫六、五十鈴、十四男の管理下で運用されていた。


「次に……。これはあまり考えたくないが。拠点内にまだ、敵が潜んでいる。そしてバルリテロリ本国がそれを察知している。このパターンだと、敵が随分と人道的な者になってしまうからな。つまり、何らかの事情で脱出不能になった敵がこの拠点の鹵獲ついでに姿なき捕虜となっている場合だ」

「にゃるほどにゃー。バニングさんが2とか言ってヤンチャしてた頃ならどうするぞなー?」



「迷わず爆発させるが?」

「にゃはー! あたしでもそうするぞなー!!」


 2名ほど喜三太陛下よりも優しさが足りない者が発生。

 戦争的には至極正しい判断だが、味方サイドがやって欲しくない判断でもある。



「……ふっ。まあそれは冗談だが。……冗談だが! 冗談だぞ!!」


 手遅れです。バニングさん。


「何か理由があって拠点を放棄したのは間違いない。例えば……六駆たち戦力が傑出した者をおびき寄せたのち本土で討ち果たす計画がある、とかだな」

「にゃはー。それやって負けた人が言うと説得力ないぞなー!!」


 バニングさんは黙ってコーヒーを啜った。

 とても深みがあり、どこか甘さを感じたという。


 視線の先にはコントロールパネルをバシバシ殴る六駆くん。


「……まあ。あの男に楯突いた時点で負けが決まっているようなものだ。私も、そしてこれから対峙するであろう彼らも。間違えたのだ」

「何をですかにゃー?」


 バニングさんがもう1度「ふっ」と笑ってから総括した。


「それが分かれば苦労はしない。むしろどこかで私に教えて欲しかった」


 かつて六駆くんを舐めてかかって自陣に招き入れひでぇ目に遭った男の言う事は重みがあった。

 あと10分で飛び立ちます。

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