第918話 【現世のおじさんたち・その4(ただ今ソロプレイ)】「逆神くん帰って来ないどころか音信不通じゃん。えー。もう浮島が全部出るの? 部隊編成しないとだよねー」 ~六駆くんはガチで帰って来ません~

 逆神六駆特務探索員から「至急帰還しようと思ったんですが、なんかちょっとアレがナニしたので少し遅れます。なるべく早く戻ります。本部も危ないと思うので、援護に行けたら行きます」と通信が入ったのは10分ほど前の事。


「逆神くん帰ってこないヤツでしょー。これー。おじさん知ってるんだぞー」

「そうですね。雨宮上級監察官がよくお使いになられるやり口です。こちらの記録によると、昨年だけで親戚が18人お亡くなりになっていますが?」



「水戸くんを副官にしよう。もうあの子、監察官としてはちょっと厳しいから。福田くんはほら。木原さんのお世話があるでしょ? 京香ちゃん産休だし。当分は私が1人でやんなきゃいけないんだよねー。総司令官。よし、水戸くんを呼び戻そう」


 福田さんに「上級監察官」とだけ冷たく呼ばれて「はーい」と返事をした雨宮さん。



 なんだかこっちも緊急時なのに随分とアットホームな指令室になった気がする、日本本部からお送りします。

 おじさんが2人揃って文殊の知恵だったのに、ソロプレイになりました。


 ただ、日本探索員協会のソロプレイには終わりが見え始めていた。

 ヨーロッパ探索員連合が本格的に後方支援を表明。

 アメリカ探索員協会に「おめぇら、ぜってぇ結託すんなよ? 怒るよ?」と圧力をかけられていたが、イタリアとフランスはどちらも日本本部に借りがあるためその要請をガン無視する事が協会で可決。


 動いたのはイタリアのズキッチョ・ズッケローニ理事とフランスのミリエメ・クレルドー上級監察官。

 味方も敵も偉いのはだいたいジジイとババアなのがこの世界。


「報告いいっすか」

「ダメです!」


「ええ……。すんません、妻に止められたっす」

「健斗さん。お薬の時間ですから。これは食前なので、もう飲んでおいてください。こっちは食後ですよ。早く元気になってもらわないと困るんです」


「春香さん……!!」

「私も産休に入りたいので!!」


「え゛っ!?」


 山根くんは全治4週間。

 春香さん的には「じゃあ2週間で治りますね! 探索員は体が資本ですから!!」との見立て。


 治った後は夜の探索任務が待っている。


 という事で苦い漢方薬を飲んでいる旦那に代わって妻が報告。


「フランス探索員協会から入電! 南極海に巨大な煌気オーラ構築物の反応があるとの事です! 照合したところ、本部上空に出ているものと同規模!! 転移速度が極めて速くなっています! 情報を共有させて頂いたので、モニターに同時出力します!! ……出ました!!」


 ついに十四男ランドの所在地も現世サイドが知るところに。

 「3つあるっぽい」と呉から報告は受けていたものの、よもや南極にあるとはライアンさんでも感知できず。


 というよりも、1度南極は久坂隊がすっ飛ばされた際に感知済みだったため優先順位が落ちていた。

 ライアンさんを責めるよりも逆神兵伍が強制転移させた事実を褒めるべき。



 しかし40過ぎてダンジョンでナニかしている男を褒めるのは相当に難しい。



「あららー。これ、困ったなー。南極海ってどこの管轄? うちじゃないよねー?」

「アメリカです」


「えー。1番近くにいる部隊は? アメリカさんだったら押し付けちゃおう!!」

「所属は関係ないという解釈でよろしいですか?」


「福田くんがそんな持って回った言い方するのはねー。嫌な予感がするー」

「ストウェアがあります」


「聞いた事ない国だねー」

「ストウェアがあります」


「何語なんだろうねー?」

「ストウェアがあります」



「あのねー。みんなー。実は川端さん生きてるのよー。ストウェアでね、潜入任務してたのー。こうなる事を予見してたんだって。すごいよねー。川端さんが日本のために、いやいや、世界のために頑張ってくれるってー」


 一瞬で川端さんが長き時を経て監察官に復職。

 そのまま十四男ランド迎撃任務の責任者にさせられる。



 雨宮さんはおっぱい仲間を売ったあとで「さてさて。編成考えないとだねー」と端末を操作して、現在出撃可能な人員に目を通す。

 すぐに「人いないねー」と依然続く人手不足を嘆いた。


「本部の上に先っぽだけ出てた天体はどうなってるー?」

「うっす。こっちも急速で転移してるっす。完全転移の予測は今から1時間17分後っす。ただ、これバルリテロリの誰かがスキルで送り込んでるっぽいので、速度はさらに上がるかもしれないっすね」


「山根くん、漢方薬を白湯でイケるのすごいねー。私ね、ポカリで飲んじゃうの。お医者さんに怒られるんだけどさー」

「あ! それいいっすね! 次からそうし……やっ。良くないっすよ。雨宮さん。用法は守んないとっす」


 隣に妻がいる職場の働きやすさはいかほどか。

 雨宮さんが纏める。


「ストウェアはもう充分戦力いるし、放っといてもどうにかしてくれるでしょ。問題は本部だよねー。とりあえず、監察官みんな集めよっかー」


 福田さんによって招集命令が通達された。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 加賀美監察官。

 佳純さんが抜け忍みたいにいきなりいなくなったので、今は臨時で山嵐くんが副官をしている。


 なんか急に堅牢さが足りなくなってしまった監察官室では。


「自分は出るよ。山嵐くん。申し訳ないが、君には低ランクの若手を率いて後方支援。特に避難誘導を任せたい」

「……お腹痛いです」


「君は次の昇進査定でAランクになるんだ。もう自信を持てとは言わないよ。自信を持たなくちゃいけない。君は君の努力を裏切るのかい?」

「加賀美さん……!! いえ!! おれ……私は、私にできる事を全力でやります!!」


 ニワトリ頭がヒヨコに戻って、ついに鶏へ。

 羽ばたけ山嵐くん。鶏だって羽はあるから多分頑張れば飛べる。


 「良い表情だね」と言って微笑んでから簡易的なプレート装備を身に纏い、イドクロア竹刀を二振りほど持って加賀美政宗監察官が出立。

 監察官室の全隊員が敬礼して見送った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ごふぁあっ……。げふっ……」

「あー。もう! どうして私を見て吐血するんですか!! ショックだなー」


 和泉正春監察官。ついに(仮)が取れてしまった。

 現在、副官の土門佳純Aランク探索員が出頭要請を受諾。

 装備に着替えたところ、和泉さんが血を吐いて床に転がったところである。


 床で紳士的に彼は言った。


「佳純さん……。小生はもう監察官になりたくないなどとは申しません。職責を果たす覚悟もあります。この命、いつ尽きるかなど分かりませんし、ならば本部のために散らすのも本望。ですが。その装備は?」


 佳純さんがくるりと1回転して装備の最終確認。

 白衣を南雲さんに取られていたせいで、「和泉さんに似合うのは絶対に白衣なのに!!」と憤慨した佳純さんだったが、彼女は切り替えが早い。


 「では、なるべく防御範囲の広いコートにしましょう。黒がいいですね! 血が目立たないので!!」とお揃いで黒いロングコートを発注。

 こちらは雨宮さんが4日の休暇で対応してサッと仕上げた。


 なにせほとんど無理やり監察官に昇進させたので、さすがの雨宮おじさんも「申し訳ないよねー」と反省しており、仁香さんとリャンちゃんのチャイナ服を作るのと同時進行で作ったのだが、問題は佳純さん。


 彼女も上着は黒いコートで上官とお揃い。

 中身がアレだった。


 「和泉さんが倒れた時になるべくクッション性のあるもので受け止めたいですね」から始まり、「あ。でも重ね着とかだと汚れた時、着替えるのに時間がかかるので軽装が理想です」と発展し、「んー。じゃあもう、極力布を省きましょう! コートの防御力がありますし!! クッションは胸で!!」とゴール。


 そして今、和泉さんがお披露目されてぶっ倒れた。


「またまたー! 和泉さんモテるんですから! 女子の薄着なんて見慣れてるくせに!! あ! 私のためにわざとオーバーリアクションですか!! さっすがー!!」

「違いごふっ! そのような格好では絶対にごふりっごふっ!!」


「えー? 普通ですよ? チューブトップのインナーとホットパンツです!」

「それはごふっ。水着ではないのですげふっ?」


「そうですねー! 血を弾くために撥水加工! すぐに洗浄できるように防水加工!! 確かに! 水着かもです!! けど、私的にはレースクイーンがモチーフでっす!!」


 ほとんど水着の上にロングコートを着る佳純さん。



 ストウェア乙女コンビのライラさんとナディアさんに発想が追い付く。

 しかも佳純さんは23歳で、ナディアさんよりもやや胸部装甲が小さい程度のダイナマイトタイプ。


 おわかりいただけただろうか。



「さー!! 出動しますよ!! 和泉さん! どうぞ!!」

「ぜめ゛で! 肩車はやめまじょ゛ゔ!! 小生、初めて男としての尊厳をごふっ」


 フィジカルタイプの佳純さんに和泉さんが勝てるはずもなく。

 ドッキング完了。


「出陣です!! 和泉監察官室の初任務!! 一級戦功目指しますよー!!」


 和泉正春氏。

 辞世の句の用意は完璧にしている、34歳。


 戦い関係なく死にそうな男が今、死地へ赴く。

 どこでも死地なので多分平常運転。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな訳で数少ない監察官がオペレーター室に。

 タイミングよく久坂家からやって来た、あっくん、小鳩さん、五十五くんも出頭する。


「……ちっ」

「あららー。阿久津くん、良くないなー。だめよーだめだめ」


「雨宮さんよぉ……。アタッカーはいるって言ったろ。加賀美さん以外は俺と五十五と小鳩じゃねぇか。話が違ぇぞ?」

「君たちがアタッカーだゾ!! いるんだゾ!!」


「兄上!! 雨宮上級監察官には私を認めてくださった大恩がある!!」

「……ちっ。しかも弟を先に懐柔してやがらぁ!」


「まあ! 佳純さん!!」

「わー! 小鳩ちゃん!!」


「ステキなお召し物ですわね!!」

「分かる!? って、どっちかな? 装備? それとも肩に乗せてる和泉さん?」



「どちらもですわ!!」

「もー! 小鳩ちゃんは女子力高くて困っちゃうなー!! お召しちゃった!!」



 なんか本部の空気が良くないので、できればストウェアから戦端を開いて欲しい。


 その前に空気清浄回を挟むべきか。

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