第898話 【チーム猫のやったるにゃー・その2】それ、よそでやって欲しいにゃー ~どら猫が魔法の言葉で出撃しました~

 ルベルバックの北西部。

 砂漠地帯にひっそりと設置されていた転移ポイントが爆発した。


 そこから現れたのは、氷の身体を持つ男。

 八鬼衆(最終オーディション落選)、氷鬼のガリガリクソである。


「むぅぅぅぅん。ここがルベルバックか。思ったより何もなあ゛あ゛! あっつい!! おい、これぇ!! 私、地形適正なさ過ぎる!! あ゛あ゛あ゛!! 溶ける、溶ける!!」



 出て来て25秒。

 ガリガリクソが溶け始めた。



 続いて出て来た男たちがスキルを発現する。


「何をしとるんだぎゃ、おめゃー。『剛力氷結コオリキー』!!」

「やから言うたやんけ。先に行ったら死ぬでって。『祝辞で滑った時の空気アイス・デス・タイム』!!!」


 名古屋風味なのが逆神誤字羅ごじら

 もう見飽きた関西弁は神逆玉誤たまご


 誤字羅は41歳、♂。独身。

 玉誤は36歳、♀。独身。婚活中。


 2人の氷結スキルでどうにか体調を取り戻したガリガリクソ。

 まずは謝意を告げた。


「いやいや、またもや助かった。あなた方は命の恩人だ」

「言うたはずだぎゃー。なんか装備貰ったから行こうやって」


「そんな余裕はなかった。テレホマンが出世キメていた。あいつ、技術屋なだけあって権力掌握したら一気にセキュリティ高まるし。まだ就任したてで引継とかごたついてる今しか好機はなかった」

「ウチはおんどれが意外と理性的で礼儀正しいのに不安があるんやけど。なんなん? おんどれ、人殺しやろ? 怖いわぁ」


「殺してはいない。視界に入った元八鬼衆から煌気オーラ核ぶっこ抜いただけだ」

「いや、えげつなっ! それ死ぬよりきついやんけ」


「代わりに私の氷の魂をぶち込んでおいたので、そのうち馴染むだろう」

「……おんどれがそれやったのって、もう15年くらい前やろ? そのうちっていつや? 地球が何回回った時や」


「はははははははは。玉誤様。バルリテロリは地球にないが!!」

「腹立つなー。……ん? 何してんねん。誤字羅」


 両手を広げて煌気オーラ充填完了させた誤字羅がちょっとだけこんもりした砂地に向けてスキルを放った。


「くっ!! 『弾力増々防壁プルプルバリヤー』が……!!」

「おみゃーかい。ゼラチン」


「ナタデココですが!! あなた方は皇族逆神家のお二人とお見受けした! だが、陛下よりご報告を賜っていない!! まずは陛下の御信任の証をお見せ頂けますかな!?」

「意外と忠臣だぁねぇ。そんなもんないわ」


 ガリガリクソが前に出た。


「久しいな。パンナコッタ」

「いや、久しくはない。貴官、選考会でむちゃくちゃやったガリガリクソではないか。昔馴染みみたいな顔して挨拶して来るな。罪人だろうが。あとパンナコッタは固有能力の方で、私はナタデココだ」


「悪い事をしたと思っている。だが、大義のためにやった事だ」

「嫌な予感しかしない。大義とか宣って殺意で解決しようとしてる時点で絶対にヤバい。だが、時間稼ぎに聞こう」


 「うぅぅぅぅぅむ。見上げたゼラチンよ」とガリガリクソは唸った。

 「ナタデココはゼラチンじゃない。ナタ菌で作る発酵食品だ」と反論したかったが、我慢して言葉を呑み込んだ不飲のナタデココ。


 不飲なのに呑み込めちゃった瞬間だが、これも部下を逃がすため。


「私は現皇帝の政治を正すべく、まずはその実働部隊である八鬼衆を壊滅させようと考えた」

「そら見たことか。世直し立案、初手クーデターとか頭おかしいじゃないか。異世界の君主独裁制国家でそれやって成功するはずないだろう」



「だから投獄された」

「反省しないのか、貴官は」



「機を待っていたのだ。志を同じくする者が現れるのを。そして機が熟した。皇族逆神家のお二人が私と共に立ち上がったのだ」

「……一応聞くが。貴官の求める政治とは?」


「なんか良い感じのヤツだ」

「聞くんじゃなかった」


 玉誤が言葉を引き取った。

 ろくでもない事しか言わない気配がすごい。


「ウチらは陛下の血筋やから? 皇帝の継承権もあるはずやろ? あの人死なへんからその辺がどうなっとるんか知らんけど。ウチはバルリテロリに議会制民主主義を導入しようと思うとるんや。日本の情報ガンガン入ってくるんやから、そう思うのも必然やろ?」


 意外とまともっぽい意見が飛び出し、怯むかと思われたナタデココ。

 だが、彼はそもそも八鬼衆ではなく普段はテレホマンと同じ技術職。

 ロジカルに考えた。


「日本のどの辺りをご覧になって思われた? 確かに君主独裁制はデメリットもあるが、陛下は臣民からの支持率も高くあらせられる。優れた不死の統治者がいる。それだけで国家の恒久的な安定は成されますが?」



「私の話は?」

「ガリガリクソはちょっと黙って。後で聞く」



 誤字羅が結論をナタデココに投げつけた。


「俺らが首相になって! 脇を似たような思考のヤツで固めて!! 陛下は神格化させたのちに傀儡にするんだぎゃー!! つまり、俺らが新しい神って訳だぎゃー!! おめゃーにも甘い汁ちょいとだけ吸わせてやるから、協力するだぁね?」


 ナタデココは狼狽えない。

 予想できた回答とさほどズレもなく、何ならダメな方にちょっとズレていた程度の誤差だったからである。


「バカだった!! それ、ダメなところを寄せ集めた煮凝りではありませんか!! このナタデココは忠臣である! 忠義は陛下のために!! お前たち! 本国に連絡だ!! あと転移ポイントを再構築!! それまでは私が時間を稼ぐ!!」


 ナタデココが死亡フラグをコンプリートしたので、しばらく砂漠地帯で熟成発酵させておきます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 服を着せられたどら猫が離宮で鳴いていた。


「仲間割れとしるぞなー」

「マスター。いくらなんでも判断が早いかと思います。あと勝手にショートパンツの丈を短くしないでください。ならブーツ履け。防御力を犠牲に快適さを得ようとするな」


「瑠香にゃん。キャンポムさんも。よーく見るぞなー。瑠香にゃんデータベースの『哀しい時に聴く歌』フォルダの隣にある『最近の敵』のフォルダだにゃー。完全にこの前のプルプルマンさんの煌気オーラと一致しとるにゃー。で、周囲に3つあるデカい煌気オーラ反応はルベルバックの人じゃないぞなー」

「ふむ。ご指摘の通り。しかし、例えば友軍の可能性はないかね? ミンスティラリア、スカレグラーナ、あるいは日本本部から来援したという可能性は? 傍受を避けるために我々にも連絡していないという事もあるだろう」



「そんな非常識なことを戦時下でやるような人は味方じゃないにゃー。仮に味方だとしても邪魔過ぎるから、やっちまった後に確認するぞなー」

「マスターの知能が上昇傾向。閣下。危険です。このままではどら猫に御国が乗っ取られます」


 クララパイセンに快適な環境を異世界で与えてしまった結果、怠惰な戦闘猫に進化していた。



 そしてパイセンの意見は偏っているものの、聞くべき価値はあるとキャンポム少佐が判断する。

 彼はすぐに現地への派兵を決断。


 既に1度離宮周りで戦闘が起きている事を踏まえると、再度一戦交えるにしても場所は少しでも政治中枢から離しておきたい。

 ならば、「仲間割れ」というどら猫推理を思考の軸に。そこに乗じて敵の制圧を試みるのが代理総督としてルベルバックの市民を守るための最適解。と結論付ける気はないが、取り得るべき選択の中では上策だと考えた。


「クララ殿」

「いってらっしゃいだにゃー!!」



「いや、現場の指揮をお任せしたい」

「にゃん……だと……。いや、あたしなんてダメダメだにゃー? ここは冷房効いてるし、ドリンクバーあるし? 戦場に出るよりずっと良い働き出来ると思うにゃー? に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! 瑠香にゃん!? 引っ張らんで欲しいぞなぁー!!」


 「指揮権がマスターにある以上、ワタシが戦場に赴くためにはマスターの同伴が必要です。ご所望の瑠香にゃんおっぱいを腕に押し付けますので、観念してください」とロボ猫に連行されるどら猫。



 有能ムーブキメ過ぎてしまった結果、快適な空間を失う。


 そのままリコタンクに叩き込まれて、指揮官機としてパイセンタンクが塗装を変更された。

 黄色は幸せを呼ぶ色とされており、パイセンタンクは真っ黄色に。


「ははは。真っ黄色って末期色と同じ響きだね。椎名くん!」

「……にゃー。雷門さん、そーゆうとこだにゃー。今回は敵倒すまでタンクに帰れまテンですにゃー」


「え゛っ!?」

「号泣マスター。出番を察知して無理に喋るからそうなるのですと瑠香にゃんは警告します。時すでに遅しを観測。ステータス、『バッドエンド』が見えます。号泣はお控えください。瑠香にゃんデータベースによると、号泣された場合尺を消費してより一層死期が近づいてくる傾向にあります」


「いっぐ、いっぐぶぅぅぅん……」

「泣きたいのはあたしだにゃー。木原さんは車酔いしてぐったりしてるし。こんなん絶対に負けるぞなー」


 パイセンタンクに通信が入った。

 代理総督閣下からである。


『こちらキャンポム。クララ殿』

「もうやだにゃー。これ以上あたしに何を求めるんだにゃー。全裸になって世界滅ぼすぞなー?」


『お、落ち着いていただけるか!? 南雲殿より預かっていた『いざって時に使ってください・椎名くん用』なる封を開けたところ、戦功を後期試験の単位に変換する用意がある、としたためられておりました。よく意味が分かりませんが、これは?』


 パイセンがブーツを履いた。

 タンクトップ型のプレートもちゃんと装着して、アームカバーまでキュッと締める。


「やったるにゃー!! この戦いはルベルバックの平和! 現世の未来!! そしてあたしの単位がかかった一戦だぞなー!! 負けは許されんぞなー!!」


 パイセンタンクが進軍していく。

 離宮では「大学を辞めれば良いのではないか?」とキャンポム少佐が呟いていた。


 閣下。


 その議論はとっくの昔に終わっております。

 辞めないのに行く気はない。


 これはパイセンのアイデンティティであり、この世界で覆し難い理の1つです。


 変えられない運命なのです。閣下。

 大学とは実に無常なものですな。

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